リュート奏者ナカガワの「その手はくわなの・・・」

続「スイス音楽留学記バーゼルの風」

武満徹の話

2007年03月28日 10時44分10秒 | 音楽系
昨日テレビで武満徹の話をやっていました。(知るを楽しむ・私のこだわり人物伝(NHK))リアルタイムで見たのではなく、いつものようにハードディスクレコーダーに録画して見ました。最近ほとんどそういう見方をしてますね。

武満は私が中学生の頃から注目(なんてエラそうな言い方ですね)していて、結構彼の音楽の変遷をリアルタイムで見てきた方です。高校生の頃だったか、音楽芸術という結構専門的な雑誌があって、それの付録に、リュートの入った室内楽「サクリファイス」が載っているというので、知り合いから借りてコピーをしました。そのコピーは今も持っていますが、あのとき買っとけばよかったです。

彼はギターの作品はかなり何曲かいい作品を残していますが、70年より以前にリュートの入った室内楽を2曲書いています。そのうちのひとつがさっきのサクリファイス、そしてもう一曲がリングという曲です。残念ながらソロ曲はありません。両曲とも作曲されて間もなく録音されてますが、あまりいい演奏とはいえません。フィンランドのギタリストユッカ・サビオキが彼の仲間たちと録音しているCDがありますが、これは大変いい演奏です。リングのリュートは、BWV1025がバッハとヴァイスの合作だということを発見したあのエエーロ・バルヴィアイネンが演奏しています。

武満という作曲家はすごく文章が巧みで、自作曲の解説も上手だし、多くの著作も残しています。このあたりが音楽とはあまり縁のなさそうな(失礼)文士やら他の分野の著名人から評価されている所以でしょうか。武満の書いた文章からは彼の芸術観はわかっても音楽そのものは何もわからないと思うんですけど、ま、音楽は音楽を聴いてしかわからないじゃないかと思うんですね。エライ文士さんはことば巧みに武満の音楽を語るわけですけど、たぶんアレって実は武満の音楽はほとんどわかってなかったりして。(笑)武満の残した文章のおかげできれいな映像にもなりやすいし、ああいうのって実は武満のひとつの戦略だったのかもしれません。

その点で、武満とは全く対極にいるのが矢代秋雄という作曲家です。すでに亡くなった作曲家ですが、一般にはあまり知られてないかもしれません。彼の名前を言うと、演歌の八代亜紀と聞き間違える人が多いですから。(笑)彼はほとんど自分の曲のことや音楽観について文章を残していません。彼の作品はすごく完成度が高くて大好きなんですが、寡作で早逝したため作品数が少ないんですね。おまけに武満みたいに巧みに芸術を文章で語っていないので、世間的にはちょっと損をしているみたいです。彼の残した文章を読むと、彼の芸術観自体が音楽というのは文章で語るべきでない、みたいなものだったようです。ナクソスにいい録音があります(交響曲とピアノ協奏曲)ので、興味のある方は是非御一聴あれ。