「私の従軍記」 子供たちへ

平成元年父の誕生日に贈ってくれた本、応召されて帰還するまでの4年間の従軍記を今感謝を込めてブログに載せてみたいと思います

タケゴン 7 (食べ物 1)

2006-07-12 10:21:13 | Weblog
 その翌日、中隊長は訓辞をしてから次の予定地に出発して行った。土産だと言って、モンキーバナナを枝ごと一本くれた。まだ青く硬かったので、壁に釘を打って熟すまで下げておく事にした。
 そして一週間位して、黄色になってきたのを指で、少し軟らかいのを、順次、枝に付けたまま、見えない裏側から剥いで、中身だけ出して食った。それから数日すると、房は全部ついているが、中身は全部空になっていた。それで私は空を確認してからゴミ焼き場に捨てた。みんな、そうして食べていたのだろう。だれも俺が食ったとは言わなかった。
 モンキーバナナは小さいが甘味が強かった。また、バナナで直径5センチ、長さ30センチくらいで、さつま芋程度の硬さの物には、私達は《馬のバナナ》と言っていたが家畜の飼料にするのだそうで、、一本食えば、《もう沢山》と言う代物もあった。
 ある日、外出した2人が直径30センチ位、長さ50センチ位の表面にイボイボのいっぱいある黄褐色のものを棒で担いで帰って来た。聞くと、非常に美味しいものだそうだという。貰ってきたか、買ってきたか尋ねなかったが、如何にして食ってよいか分からぬ。今度は村の若者を連れて来て、料理をしてくれと頼んだ。
 「これの名前は」
 「ナンカ」この果物の名はナンカである。大きな楠木みたいな木の幹の横原のところに、丁度大きな冬瓜でも縛り付けたようにして、生っているのだ。
 男は包丁(パラン、現地人のナタみたいな刃物)で輪切りにして、又、これを切ってくれた。中心から放射線状に筋が走って、黄白色のネバネバした肉質があった。口に入れると美味しかった。肉質の中に栗の実大の白い硬い種子があった。その日は半分位しか食わなかった。
 翌日、その男がやってきて、
 「種子はどうしたか?」と聞くので
 「ここに捨ててある」と答えると
 「火を燃やせ」と言う。そうすると、その種子を焼いた。丁度、栗でも焼くようにしてから、
 「これを食ってみろ」と言う。厚いのを恐る恐る皮をむいて食うと、栗でも食うように美味しかった。この果物は皮以外は捨てるところは無かった。
 これには2回位しかお目にかかれなかった。