ビジネススキル・イノベーション ― 「時間×思考×直感」67のパワフルな技術 価格:¥ 1,785(税込) 発売日:2012-08-30 |
評価 (4点/5点満点)
変化の激しい時代に求められているのは、本質をつかむ力です。本質をつかめば、状況に応じてアレンジが可能です。
この本は、本質をとらえる問題解決手法「ファンクショナル・アプローチ」を提唱した横田尚哉さんが、ビジネススキルのなかでも特に重要な「時間」「思考」「感性」の3つのスキルについて、これまでの常識を打破するイノベーションを起こす67の方法を紹介します。
・時間管理のスキルは、「量」から「質」への転換が必要。
・思考については、過去思考から未来思考への転換が求められる(「原因と結果」から「目的と手段」へと意識を変えることで、思考のイノベーションを生み出す)。
・過去から未来への意識改革は、「知性」から「感性」へのシフトと言い換えられる。
本書で紹介されている67の方法は、イノベーションを起こすきっかけ、入口に過ぎません。その向こう側にある本質的な物の考え方や価値観を捉えるようにしましょう。そうすれば、あらゆる課題に対処できるようになりますよ。
【my pick-up】
◎時間の質をコントロールする&マルチタスクでアイデアを熟成させる
私は知的熟成の時間を確保するため、3時間で終わる仕事は3日間、3日で終わる仕事は3週間、3週間で終わる仕事は3カ月の余裕を持ってスケジューリングします。
時間リスク対策だけなら1.4倍のバッファで十分ですが、知的熟成させることを考えると、それだけでは足りません。仕事の中身にもよりますが、企画力や表現力、あるいは全体の構成力が問われる仕事なら、5~10倍のスケジューリングをして、そのあいだに思考を寝かせる時間が欲しい。
そのためには、なるべく早い段階で仕事に手をつけることが大切です。
仮に3日間で終わる仕事に3週間の時間的余裕を持ってスケジューリングしても、2週間半は何もせず、最後の3日間で帳尻を合わせるようにしてバタバタと片づけるやり方では意味がありません。思考が熟成するための時間がないからです。
5~10倍の時間的余裕を持つ目的は、作業の中断時間をつくることにあります。中断時間を意図的につくるためには、とにかくいったん仕事に手をつけることが大事です。
企画書を書くなら、必要な資料だけでも読んでおく。報告書を作成するなら、最初の数ページだけでも書いておく。このように最初に仕事をひとかじりしておくことで、思考を寝かせる時間をつくりやすくなります。
ただ、3日間で終わる仕事に3週間かけていると、まわりから「仕事が遅い」、「中断して放置するな。最後までやれ」と言われかねません。そこでおすすめしたいのが、マルチタスクによるスケジューリングです。
仕事A、B、Cを同時並行で動かすと、仕事Aを中断して寝かせている間に、仕事Bに手をつけることができます。仕事Bを中断して熟成させる時間が必要なら、新たに仕事Cに取りかかったり、仕事Aに戻って仕上げをしてもいい。いずれにしても他の仕事にスイッチすることで、仕事を熟成させる時間を確保することが可能になります。
寝かせる時間を確保できるのに、全体の稼働率が落ちない点もマルチタスクのメリットです。
◎会議の機能を数値化して見直す
不毛な会議をなくすには、個別の会議で必要か不要かを判断するのではなく、組織で行われる会議全体をデザインする発想が求められます。
いま行われている会議には、それぞれ役割があります。会議は役割を果たすための手段に過ぎません。会議が乱立している組織は、ある役割に対して複数の手段が用いられて重複している状態にあります。そこで組織内で行われている会議を役割別に整理し、重複したモノを省いたり手薄なところを追加して、全体でデザインし直すのです。
◎1人1人の能力を引き出す
変化を恐れるタイプに、輝かしい未来を提示しても、魅力を感じてくれません。このタイプに動いてもらうためには、むしろネガティブな未来を見せると効果的です。
「このままいくと売上が前年割れしてボーナスが下がる」「プロジェクトが失敗すると、誰かのクビが飛ぶかもしれない」
このように現状より悪化するリスクを提示すると、防衛本能に火がついて能力を発揮してくれるのです。
◎プロセス管理の必然性を考える
期限ぎりぎりになって効率を上げて帳尻を合わせる後半爆発型のプロセスは、途中のアウトプットがほとんどありません。そのためアウトプットが半分あれば関係者が次の工程に取りかかれる場合でも、相手は作業を始められずに機会損失を生んでしまいます。
最終的に帳尻が合えばいいという考え方は短絡的です。途中のプロセスしだいで全体の利益が大きく変わることを意識して、進捗を管理する必要があります。
◎リソースは有限であることを意識する
危機から立ち直る最初の段階は、「応急」です。この段階では、当面の手段の維持が最重要課題。どういった手段が最適かを考えている余裕がないので、ひとまず従来と同じ手段の維持に努めます。
手段の維持に目途が立てば、「復旧」の段階に入ります。目的と手段の見直しは、この段階で行います。
過去の目的を見直さず、新しい手段でそれを実現するのは「復興」です。一方、過去にとらわれずに新しい目的を設定して、そこにリソースを投入するのは「再生」です。
いま必要なのは、いきなり再生を目指してリソースを投入することです。
◎コスト削減をイノベーションの契機にする
予算削減は、ガマンによって乗り越える対象ではなく、工夫をして新たな手段を生みだす契機です。
ガマンを強いられるのは、これまでの延長線上で仕事をしているからです。これまでと同じ方法を続けているかぎり、コストに比例して成果が落ちていくのは避けられません。そうではなく、与えられた予算で目標を達成できる方法をあらためてひねり出すことが大切です。費やせるコストが減っても従来の手段で目標達成を目指すのは、ガマンです。一方、コストが減ったら、それを所与としてベストな手段を探るのは、工夫です。
大幅に削られた予算で従来と同じ目標を達成しようと考えるのなら、これまでの手段を思い切って手放すことです。これまでの手段を手放したときに新しい発想が生まれ、それがイノベーティブな方法の発見へとつながります。その意味で、予算削減はイノベーションを生み出す絶好の機会なのです。
◎人脈のファンクションを考える
人脈はつくるものではなく、できるものです。自分がまわりに提供できるファンクションを持っていれば、自然に人は集まってきます。逆にいうと人脈ができないのは、自分が提供できるファンクションに魅力がないからです。自分から攻めの姿勢でアプローチするほど、人は打算的なものを感じて逃げていきます。
人脈づくりで大切なのは、受けの姿勢です。身を低くすればするほど、人脈が集まります。こちらからつくりにいかなくても、相手の求めるファンクションを満たしていけば、いつのまにか人やそれに付随するチャンスや情報が自分に流れ込んできます。
◎プロアクティブに長期計画を立てる
経営には長期計画が必要です。経営における長期計画とは10年、20年の計画です。経営者の仕事の半分は長期計画の策定にあるといってもいいでしょう。
経営において重要な位置を占めているのは、むしろ方針の決定です。管理は人に任せることができても、方針の決定は任せられません。経営方針は経営者が責任と覚悟を持って決定しなくてはならず、その重みは管理業務以上です。
「計画は経営企画室のメンバーに任せてある」という話を聞くこともありますが、それは経営者の職務放棄です。経営者が先頭に立って策定するからこそ、社員は経営者の覚悟を感じ、ベクトルを合わせる気持ちになるのです。
◎目標はゼロベース思考で設定する
トレンド思考とゼロベース思考の目標設定は、原点の置き方に違いがあるともいえます。トレンド思考の原点は過去にあり、現時点はつねにプラスの状態です。プラスは安心を生みますが、満ち足りているので工夫や努力が生まれにくい。一方、ゼロベース思考は原点が未来にあります。現時点はマイナスの状態なので、原点に近づくための工夫や努力が生まれます。どちらが目標達成に近いのか、考えるまでもないでしょう。