坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

モディリアー二を探して

2014年02月19日 | 展覧会
モディリアー二と言うと、第一次世界大戦後に花開いた異邦人芸術家たちのエコール・ド・パリの時代を代表する画家であり、彫刻家でありましたが、その悲壮感漂う、刹那的な生き方は、貧しさのなかで戦った芸術家の一人として映画にもなりました。
退廃的な生活のうちに短い生涯をとじたモディリアー二でしたが、その先見性に満ちた絵画、彫刻作品は堅固で力強いものでした。
アメデオ・モディリアー二(1884-1920)は、イタリア出身で、21歳のときにパリに来ました。その時期のパリはセザンヌに代表されるポスト印象派をはじめ、ファーヴィスムやキュビスムなどの前衛芸術や、アフリカやオセアニアのプリミティヴ・アートに目を向けるプリミティヴィスムなど、多様な芸術的動向が花を開かせていました。
そうした刺激を受けながら、モディリアー二は、自らの理想とする芸術の道を歩み始めます。
本展では、モディリアー二による油彩画、彫刻、素描をあわせて19点を軸に、ピカソやブランクーシらをはじめとする20世紀初頭の芸術を牽引した主要作家の作品とともに、65点が展覧されます。
私だけのモディリアー二をみつける機会ともなるでしょう。

◆モディリアー二を探してーアヴァンギャルドから古典主義へ
 4月12日~9月15日/ポーラ美術館(箱根仙石原)





ゴッホの原点 オランダ・ハーグ派展

2014年02月13日 | 展覧会
19世紀後半のオランダで、ポスト印象派のゴッホが「大物」と呼んだ画家たちがいました。活動の地点となった北海に面した街の名にちなんで、「ハーグ派」と呼ばれたグループです。
ハーグ派はバルビゾン派の影響を受けつつ、ライスダールやフェルメールといった17世紀オランダ黄金時代の絵画を根底に、自然観察にもとづく戸外制作を基盤として、風車や運河など、オランダ独特の風景、ほの暗い室内など日常の光景を透明感のある繊細な光の中に描きました。
本展では、オランダのハーグ市立美術館の所蔵を中心に、ハーグ派の作品だけでなく、クレラー=ミュラー美術館他からバルビゾン派の作品、ハーグ派の影響を受けたゴッホ、そして抽象画のモンドリアンの初期の作品も併せて展覧されます。

◆ゴッホの原点 オランダ・ハーグ展/4月19日~6月29日/損保ジャパン東郷青児美術館


バルテュス展

2014年02月10日 | 展覧会
バルテュスの作品には、繰り返し少女が登場します。ときにはセクシュアルなポーズをとる少女たちは、画家自身の言葉で言うならば、「この上なく完璧な美の象徴」であると言います。
バルテュス(1908-2001)は、めまぐるしく前衛運動が登場した20世紀美術のいずれの流派にも属さず、ヨーロッパの古典主義を継承しつつ、独自の世界を築きました。
どこかアンニュイで、抑えた色調のマットな感覚は現代につながる独特の空気を伝えます。
本展は世界各国から100点を超える油彩画、素描などが登場。展覧会場には、晩年を過ごしたスイスの邸宅「グラン・シャレ」に残るアトリエを初めて再現されます。

◆バルテュス展/4月19日~6月22日/東京都美術館

ボストン美術館 ミレー展

2014年02月09日 | 展覧会
日本の自然観と響きあうのが、バルビゾン派のミレーです。
いつ見ても心なごみます。
たくましく働く農民や自然の様子に優しい眼差しを向け、ありのままの姿を描いたジャン=フランソワ・ミレーは、19世紀フランスで活躍した最も世界的に愛されている画家の一人です。
ミレーは1814年にフランスのノルマンディ地方の農村に生まれました。
1849年にはパリ郊外のバルビゾン村に家族で移住し、村に集まった芸術家と交流を持ちながら。制作を続け、1875年に亡くなりました。
ボストン美術館は、世界有数のミレーのコレクションを所有しています。
本展には、「種をまく人」「刈入れ人たちの休息」、「羊飼いの娘」といったミレーの代表作を中心に、そのコレクションから厳選したバルビゾン派の数々が展覧されます。

◆ボストン美術館 ミレー展/開催中~4月6日・高知県立美術館
 4月19日~8月31日・三菱一号館美術館


台北 國立故宮博物院ー神品至宝

2014年02月08日 | 展覧会
リアルと言えば、東京国立博物館で、今年、日本初めての開催となる本展の見どころの一つに翡翠の「白菜」、九州国立博物館では、角煮の肉の工芸品があげられます。
石の特徴を生かした三次元の小さなリアルは、そのミクロ的な神業に感嘆させられます。
掲載の「翠玉白菜」は、清の時代、18~19世紀の作品で、緑と白のみずみずしい光沢や。しなやかに曲がった葉。白菜のどこを見ても、石の塊を彫って作ったとは思えないほど、新鮮な生気に満ちています。翡翠のなかでも選りすぐりの玉材と洗練された技巧が融合した「神品」となっています。

◆台北 國立故宮博物院/6月24日~9月15日・東京国立博物館
 10月7日~11月30日・九州国立博物館

驚くべきリアル展

2014年02月07日 | 展覧会
現代では、リアルをどのように求めているか、複雑な様相を秘めています。
ゲームやアニメなどの仮想空間にリアルを感じる人もいるでしょう。
本展は、日本スペイン交流400周年事業の一環として開催されます。
スペインのリアリズムは、ベラスケスやゴヤなど巨匠を生み出し、現代までスペインリアリズム絵画は息づいています。
一方で、現代社会では、絵画では括れない、新しいリアリズムの有りかを探る作品も多くなっています。
本展では、スペインのカスティーリャ・イ・レオン現代美術館(MUSAC)のコレクションから、独自のリアルを追求する27組の作家の作品が展覧されます。
不気味な違和感を放つ約100枚の家族のスナップ写真、切断されたリヴィングルームの風景、白馬が導く歴史の白昼夢など、映像やインスタレーション、絵画や彫刻など多様な表現で現代に切り込んでいきます。

◆驚くべきリアル スペイン、ラテンアメリカの現代アートーMUSACコレクション
2月15日~5月11日/東京都現代美術館

ラファエル前派展の魅力

2014年02月05日 | 展覧会
昨日、「ラファエル前派」展に行ってきました。会場は、雨にも寒さにも関係なく(夕方から雪でした)、女性たちの姿が目立つ賑わいがありました。
私は、とくにジョン・エヴァレット・ミレイの〈オフィーリア〉を期待して行ったのですが、本当に美しく、緑の色合いや細部にまで魅力的な作品でした。
今回、イギリスのテート美術館が所蔵するラファエル前派72点が展覧されたのですが、どれも見ごたえのある作品ばかりでした。
ラファエロ以前の初期ルネサンス芸術に霊感源を求めようとした彼らは、イギリスの近代美術に新しい道をひらきました。
女性の表情や空間構成など、現代性も感じさせました。

◆ラファエル前派展/開催中~4月6日/森アーツセンターギャラリー

ポンピドゥ・センター・コレクション

2014年02月03日 | 展覧会
ポンピドゥー・センターのコレクション展は、これまで何度も紹介されてきましたが、本展ほど現代美術に特化した例は少ないでしょう。
出品作家の多くはヴェネツィア・ビエンナーレなど国際舞台で活躍する注目作家ばかり、作品のほとんどは21世紀に入って制作されたものばかりです。
さらに注目する点は、、これらの作品が「国立近代美術館友の会」が立ち上げた「現代美術プロジェクト」によって収蔵されたものだということです。
会場では、掲載のエルネスト・ネトをはじめとする19人のさっかによる25点の作品を、ダニエル・ビュレンやゲルハルト・リヒターといった現代美術の巨匠たちの作品も並列され、見ごたえの展覧の内容となっています。

◆ポンピドゥー・センター・コレクション/開催中~3月23日/兵庫県立美術館

シャヴァンヌ展

2014年02月01日 | 展覧会
シャヴァンヌは優しい色合いのギリシャ的雰囲気に誘われる画家です。
19世紀フランスを代表する壁画家として知られるピュヴイス・ド・シャヴァンヌ(1824-98)の展覧会が現在開催されています。
公共建築の大壁画の大作が多く残されていますが、移動できないということで、これまで本格的な展覧会が少ない画家でした。
本展の中でも注目したいのが、掲載の「諸芸術とミューズたちの集う聖なる森」という作品で、壁画バージョンはリヨン美術館の階段室を飾っています。
ギリシャかどこかの森の中のひらけた場所で女神たちが静かな時を過ごす様子は、この画家が生涯をかけて追求した理想郷としてのイメージが集結していて、幅2メートル以上の大作です。

◆シャヴァンヌ展/開催中~3月9日/Bunkamuraザ・ミュージアム

ヴァロットンー冷たい炎の画家

2014年01月30日 | 展覧会
掲載の「ボール」1899年(オルセー美術館)にあるように、俯瞰した構図で画面の中央がぽっかりと開いた不思議な空間構成で、一度見たら忘れられない印象を受けます。
フェリックス・ヴァロットン(1865-1925)は、スイスで生まれ、19世紀末から20世紀初頭にパリで活動した画家です。
大胆な構図と洒落っ気があるモノクロの木版画は後世の画家たちに影響を与えました。
また、ボナールやヴィヤールらとナビ派の前衛運動に加わり、油彩画のほかに挿絵、美術批評など多彩に活躍しました。
流派でスタイルを区分できない画家であったため、なかなか実現しなかった本格的な展覧会が、日本で初めて実現します。
日常生活や人間関係の裏側に潜む嘘や裏切りが暗示された油彩画群約60点に加え、三菱一号館美術館で所蔵する貴重な木版画のコレクションが展覧されます。
展覧会名が示すような冷たい炎の画家が奥深い作品を示唆しています。

◆ヴァロットンー冷たい炎の画家 /6月14日~9月23日/三菱一号館美術館(丸の内)

今年のオルセー美術館展

2014年01月29日 | 展覧会
パリ・オルセー美術館展は人気があり、これまでも多様な切り口で日本で近代美術が紹介されています。
今年の夏から開催される当展は、印象派の殿堂である当美術館の中でも印象派の誕生をテーマに、油彩約80点が紹介されます。印象派の誕生、1874年の「第1回印象派展」開催から今年で140年。
近代美術の萌芽を代表する瑞々しい作品が並びます。
中でも、掲載の作品、マネの「笛を吹く少年」(1866年)は、本展の目玉であり、鼓笛隊に扮装した少年が、黒い輪郭線で画面に際立たせる描法で、ベラスケスや日本の浮世絵に影響を受けた作品と知られています。
そして、最愛の妻を描いた日本初公開の肖像など、マネの作品が11点公開されるのも本展の魅力の一つです。
マネに始まり、モネ、ルノワール、ドガ、セザンヌら印象派の立役者となった画家たちはもちろんのこと、同時代のコローやミレー、クールベのレアリスムから、カバネル、ブグローらのアカデミズム絵画まで幅広く紹介されます。
マネは実際は印象派展に出品することはありまでんでしたが、若い前衛画家たちの精神的な支柱となって、自らも近代美術の新しい視点の裸婦像「草上の昼食」などを発表し、パリジャンたちをあっと言わせました。
本展では、モネが印象派の技法に目覚めた北フランスの雪景色の「かささぎ」は、私も好きな1点です。雪に覆われた農家の一隅をとらえた作品は、日本的な詩情を感じさせます。
また、バジ―ルの「家族の集い」は、故郷をモンペリエに近い別荘に集ったバジ―ル一族の肖像で見ごたえがあります。若き天才と評されたバジ―ルは、兵役によって命を落とし、生きていれば、印象派の発展に寄与した画家であると惜しまれています。

◆オルセー美術館展 印象派の誕生/7月9日~10月20日/国立新美術館


ボストン美術館 華麗なるジャポニズム展

2014年01月13日 | 展覧会
印象派続きになりますが、こちらも見逃せない展覧会になりそうです。
世界屈指の印象派と日本美術のコレクションで知られるボストン美術館ならではの展覧会が開催されます。
テーマは「ジャポニズム」。いかに印象派たちは日本美術に惹かれたか。
モネ、ゴッホからホイッスラー、ムンク、マティスまで、さまざまな角度で、日本美術の影響をひも解いていきます。
中でも、モネの初期の代表作〈ラ・ジャポネーズ〉が修復されて世界初公開となります。赤い地に武者絵の豪華な刺繍をほどこした着物を着てポーズをとるカミーユ。
鮮やかな色合いの写実的画風は、モネの画風の幅広さを伺わせます。
工芸を含めて約150点が来日します。

◆ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展/6月28日~9月15日/世田谷美術館
 9月30日~11月30日・京都市美術館

ルノワール礼讃

2014年01月11日 | 展覧会
柔和な色彩で、バラ色の頬。少女像と言えば、ルノワールですね。
季節だと春のイメージです。ルノワールは初期には、印象派展に参加し、前衛的な画家の仲間入りをしました。
印象派では風景画家が多いのですが、ルノワールはルネサンスやアングルに影響を受けとくに女性像へと作品をシフトしていきます。
元々、陶磁器の絵付け職人から出発したルノワールは、画面の絹の光沢ような肌を描きだし、職人気質であったことが伺えます。
本展では、当館収蔵の作品を「花」「女性像」「裸婦」「南フランスと地中海」に分けて展覧、幅広い魅力を引きだします。
掲載作品は、〈レースの帽子の少女〉1891年です。

◆ルノワール礼讃/開催中~4月6日/ポーラ美術館(箱根 仙石原)

ヨコハマトリエンナーレ2014への期待

2014年01月09日 | 展覧会
今年は、ヨコハマトリエンナーレが開催される年です。
3回目の記者会見が、12月13日に開催されましたが、出席できなかったのですが、そのときの概要が届きましたのでお知らせします。
アーティスティック・ディレクターの森村泰昌氏が発信するテーマは、〈華氏451の芸術:世界の中心には忘却の海がある〉です。
どのような国際展になるのでしょうか。
現在、第1弾の出品作家、計7組が発表されました。
そんな中で、2月16日にシンポジウムのテーマが、国際展で考える「東アジア地域における文化交流の仕組み」ということで、開港都市ヨコハマで現在注目される香港、光州、シンガポールでの国際展の関係者を招聘し、成功のカギとして、東アジアという地域を基盤とした文化交流の仕組みづくりの可能性を探るという意図は、とても興味深いです。

◆ヨコハマトリエンナーレ2014/8月1日~11月3日
 /主な会場・横浜美術館、新港ピア

モネ、風景をみる眼

2014年01月08日 | 展覧会
モネに始まり、モネに夢を重ねて。モネは、日本人が最も愛する画家の一人で、国内で収蔵する作品も群を抜いて多い画家です。
印象派特有の筆触分割で、市民生活を明るい色彩で描きだしたモネ。「モネは眼にすぎない、だが何という眼なのだろう」と賛辞をおくったセザンヌのように、理論だけではなく、移りゆく風景の光と影を画面に定着させようとした革新の画家です。
私自身も初めて画集を買ったのがモネやルノワールの印象派画家でした。
松方コレクションで知られる国立西洋美術館は、松方が晩年のモネを訪ねて買い入れた作品を中心に、寄託2点を含む絵画・デッサン17点を収蔵しています。もう一方の箱根のポーラ美術館は、化粧品会社の「ポーラ」の創業家2代目の鈴木常司が戦後40年余りをかけて蒐集した作品の中でもモネは19点を数え、国内では最多のコレクションです。
両館が共同企画をした本展は、モネ作品が35点がそろい、見ごたえのある内容でした。
掲載の「舟遊び」1887年、国立西洋美術館蔵。水面を大きくとらえた構図で、すがすがしい風を呼び込む作品となっています。
半分、画面から切れたボート、流れる時間を感じさせます。
このような構図の発見は、写真やジャポニズムの関係と言われています。