【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

象徴としての天皇

2018-12-20 07:27:56 | Weblog

 現在の日本国憲法では天皇は象徴とされています。では、戦前の日本では違ったのでしょうか? 歴史を見る限り、明治〜昭和初期の間、重大な決定では天皇の意志なんてものはほとんど無視されている、つまり、戦前の政治の世界でも天皇は象徴であって実権を持った存在ではなかったのではないか、と私には見えます。
 それとも実権を持っていた? それだと「自分の行為」に「責任」も生じますが、「戦前の天皇は単なる象徴ではなくて、実権を振るっていた」と主張する人は「昭和天皇には戦争の責任がある」と主張するのかな? やっぱり「象徴」扱いでしょう。だけど、憲法には「神に等しい絶対的支配者」としておいて、現実には象徴扱いって、天皇に対してとっても失礼では?

【ただいま読書中】『植民地遊郭 ──日本の軍隊と朝鮮半島』金富子・金栄 著、 吉川弘文館、2018年、3800円(税別)

 1876年朝日修好条規で日本は朝鮮を開国させ、釜山・元山・仁川の開港と開港場での日本人の治外法権を認めさせ、77年には釜山に日本人専管居留地が設定されました。それに伴い、日本の公娼制度も輸出されました。朝鮮では売春は禁止されていたのですが、居留地は「治外法権」だからOKです。娼妓の管理や梅毒検査は領事館が担当しました。日清戦争後、日本軍は朝鮮に駐留を続け、日本からの移民も急増します。その動きに応じたのでしょうか、それまで娼妓は「貸座敷」(江戸時代の遊女屋のこと)で営業していたのですが、釜山領事館は「貸座敷」(営業地域に制限あり)を「特別料理店」と改称して営業地移転を認めます。これが人気を博し、朝鮮各地に「特別料理店」が出現。さらに(日本人娼妓ではなくて)朝鮮人娼妓による日本式貸座敷も出現します。
 日本で公娼を管理したのは警察でした。朝鮮でも警察が管理をしましたが、憲兵隊もその管理に参加していたのが朝鮮での特徴です。遊郭の利用者の主力が日本軍人だったからでしょうが、本来は軍事警察である憲兵隊が普通警察の仕事もしているところに、著者は「朝鮮支配は軍事支配だった」とその本質を見ます。1916年、朝鮮軍の二個師団体制が始まると同時に、朝鮮では各地方で様々だった売春管理法が総督府から取締規則が出されて全朝鮮で統一されます。これもまた公娼制度が日本軍のためのものだったことを物語っています。
 日本人居留地が拡大するにつれ、朝鮮人娼妓も増えました。性病も蔓延。そこで「性病予防のためには、私娼の禁止」という声が大きくなりますが、それは結局「私娼取り締まり」「性病対策」「朝鮮人娼妓の公娼化」の動きとなります。かくして、朝鮮各地に日本式の公娼制度が広がりました。ただ、1920年の調査では、在朝日本人では346,496人に公娼は3,646人、朝鮮人は16,891,289人に公娼は2,655人で、公娼一人に対する住民数は95:6,362人と,“本家”の方が盛んな様子がわかります。日本に占領されるまでは朝鮮には公娼制度はなかった(公には性産業は禁止されていました)から、ここまで頑張った,とも言えますが。ちなみに1910年代後半のデータでは、公娼の性病罹患率は、日本人公娼が11.9%、朝鮮人公娼が15.9%でした(在朝日本軍は1.8%)。管理体制を確立することで「兵士を性病から守る」ことがある程度できるようになったからでしょうか、1920年代から憲兵隊は性病管理から手を引き一般警察に任せることにします。
 朝鮮ジャーナリズムは「日本からの悪習に対する反発」「抗日」の文脈で公娼制度を批判していましたが、30年代から「花柳病対策」を求める言説が登場します。朝鮮人男性も「買春をする」立場になっていたことが想像できます。日本と同様廃娼運動も起きましたが、植民地の悲しさ、日本ほどには盛り上がりませんでした。
 オーラルヒストリーも迫力があります。たとえば、母親が遊郭の女将をやっていたという女性(1928年生まれ)の証言は、遊郭の“内側”の描写が実に細かくてリアルです。しかし、軍人の客が増えすぎると、「軍人特別サービス」として、時間を短縮して値段を下げた、というのには私は痛みを感じます。「特別なサービス」ではあるのでしょうが、娼妓はより多くの客を取らされ、しかも手取りは増えないのですから。
 アメリカ軍が基地を作ると、ハンバーガーショップやゴルフ場がつきもの、というのは先日読んだ『米軍基地がやってきたこと』(デイヴィッド・ヴァイン)にありましたが、日本軍の場合、平和な地域だったら遊郭、戦闘地域だったら慰安所がつきものだった、ということなのでしょうか。基地の周囲で強姦し放題よりもまだマシ、と考えて“納得”するしかないのかな。




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