【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

0.2リットル

2016-08-15 06:43:43 | Weblog

 お盆で墓参りに行くと、高速道路があちこちで自然渋滞をしていました。観察をすると、明らかに上り坂やトンネルが絡んだところで車の流れが悪くなっています。つまり、誰かがアクセルをきちんと踏まずに車の速度が遅くなった、というちょっとしたことがきっかけで、次々後ろの車に「減速」が拡大再生産され、最終的に誰かがストップしてしまう、という現象が起きているのでしょう。
 おかげでガソリン消費量が増えてしまい、計算より早く「給油してくれ」と車の表示盤が主張することに。あいにくちょうど次のガソリンスタンドまでなかなかたどり着けない区間だったものですから「どうかガソリンが切れませんように」と祈りながら運転をするはめになってしまいました。やっとサービスエリアにたどり着いて満タンにすると、なんとガソリンの残が計算上はわずか0.2リットル! 冷や汗をかきました。前日に「ガソリンを入れておこうかな、でもまだ半分あるからなあ」と思ったのが失敗でした。来年は気をつけます。

【ただいま読書中】『故宮物語 ──政治の縮図、文化の象徴を語る90話』野嶋剛 著、 勉誠出版、2016年、2700円(税別)

 「故宮博物院」は、大陸と台湾に存在します。その背景には、過去の歴史や現在の政治状況があり、大陸の人も台湾の人も「自分の立場」から離れて「故宮」を論じることはできません。しかし、日本人だったらその両者を同時に視野に入れて考えることが可能です。
 司馬遼太郎は「中華」とは「領土」ではなくて「文明的な版図」のことだ、と指摘したそうですが、たしかに中国の歴史で「国家の境界線」は曖昧な場合が非常に多いのが特徴です(万里の長城でさえ、国境としてきちんと機能していません)。人種とか出身地ではなくて、「中華の文化」を持っていたらそれが「中国人のアイデンティティー」になるわけです。
 ということで、著者は「故宮には中国文化が連続的に収められている」「故宮を理解することは中国文化を理解すること」「文化を理解することは中国そのものを理解すること」である、と主張しています。壮大な規模の本です。
 中国がわかるだけではありません。たとえば「琉球」は、過去に長い間朝貢を続けていて、今は琉球でも失われている古美術品が北京の故宮に保存されているのです。琉球からの外交文書は台湾の故宮に多く保存されています(国家の正当性を主張するために、外交文書は優先的に台湾に運び出されました。このへんからも「故宮の歴史」の一端が見えます)。
 「翠玉白菜」は「白菜」と言うから大きいのかと思っていたら、大人の掌サイズだそうです。写真は見たことがありますが(本書にもトップに写真が載せられています)実物を見たくなりました。面白いのは、著者が解説に「個人の体験」や「主観」を入れることです。たとえば「象牙褸彫套球(1本の象牙から削り出した21層(以上)の球体で各層が自由に回転する)」は「でたらめな凄さ」という評価です。実際に見た人の強みですね。
 こういった文物に関する解説だけではなくて、故宮そのものに関する記述も豊富です。著者はフットワーク軽く、台湾と北京に出かけるだけではなくて、四川省にまでも足を伸ばします。戦争中に収蔵品が避難していた「戦時故宮」が四川省・楽山にあったからです。また、収蔵品が避難する過程で一時集積されていた南京に遺留したままとなっている2000箱分の美術品もあります(北京は取り返そうとしているのですが、南京が手放しません)。
 関係者へのインタビューも豊富です。特に政治が絡むと、人が饒舌になることがよくわかります。中でも台湾内部に「故宮不要論」があるというのは、ちょっとした驚きでした。詳しい人に聞いてみないとわからないことがあるものです。
 そうそう「故宮は大陸と台湾と、どちらが優れているか」という議論があるそうですが、片方だけの主張を鵜呑みにしない方が良いことも本書を読めばよくわかります。



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