【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

希少価値

2014-02-15 06:47:59 | Weblog

 何かを普段からやっている人は、そのことを改めて強調しません。それが生活の「普段」「当たり前」ですから。
 普段やってない人の中には、せっかく珍しく自分がやっていることに注目して欲しいのか、あるいは自分にとって珍しいことは他人にとっても珍しいはずだと思うのか、自己宣伝に努める人がいます。「自己宣伝」って、やっている側には意味があるのでしょうが、やられている側にも別の意味が見えるものです。

【ただいま読書中】『鳥類学者無謀にも恐竜を語る』川上和人 著、 技術評論社、2013年、1880円(税別)

 化石からどこまで実際の姿が“復元”できるだろうか、ということでまずは練習問題が登場します。現存する鳥の骨格標本を見せて、実際にはどんな姿か外見を想像しろ、というわけ。これが笑っちゃいます。みごとに“意外な展開”です。だからこそ、恐竜の「足跡」や「羽毛の跡」の化石が発見されたときに大騒ぎになったんですけどね。
 本書の大前提は「鳥類は恐竜から進化した」です。それを信じることからすべてが始まります。
 1824年恐竜の化石が発見されます。もっともこの頃には「恐竜」ではなくて「巨大な爬虫類」でしたが。1842年に「恐竜」という概念が提唱されます。1859年にダーウィンが『種の起源』を出版、進化論の擁護者ハクスリーは恐竜と鳥類が近縁だと主張しましたが、あまり注目されませんでした。1964年に恐竜温血説が登場、「恐竜ルネッサンス」が始まります。1996年に中国で羽毛の生えたシノサウロプテリクスの化石が発見されます。以後、羽毛の「印象化石」が次々発見され、「恐竜は羽毛に包まれていた」が“新しい常識”になりつつあります。ただし「すべての恐竜が羽毛に包まれていた」わけではありません(今のところは)。その「羽毛」にしても、原始的なもやもやしたものから今の鳥のような立派なものまでいくつかの段階を経て進化したはずです。
 ところで「シソチョウ」は飛べたのでしょうか。翼はそれほど洗練されたものではありません。竜骨突起もありません(鳥は胸骨の真ん中に張り出した竜骨突起で筋肉で支えることで飛翔に必要な力を得ます。鳩が鳩胸なのはこの竜骨突起が発達しているから。ダチョウやエミューなどは飛ばないから竜骨突起が退化しています)。翼竜は滑空をして魚を食べたことはまず間違いないようですが。
 鳥には渡りをするものがいますが、では恐竜はどうでしょう。実は恐竜にも「渡り」をしたものがいます。草食性のカマラサウルスで、歯の酸素同位体分析で低地から高地に移動したことがわかっています。また、カマラサウルスの足跡化石で彼らが集団で行動したこともわかっています。長さ15m(ガンタンクくらい)の集団がぞろぞろと「渡る」姿、見てみたいなあ。
 鳥が首を振るのは、眼球運動が苦手なために体を移動しているときに視点を空間に固定するため、だそうです。さすが鳥類学者、わかりやすく教えてくれます。では恐竜は首振り運動をしていたのでしょうか? 鳥はホッピングをしますが、では恐竜は? 鳥の巣は(多くは)樹上ですが、恐竜の巣は? これは証明は難しいでしょうね。「樹上の巣」が化石として残ることは非常に難しそうですから。
 夜行性か昼行性か、これまた難しい問題提起です。恐竜化石で、目の大きさや脳の感覚野の大きさから夜行性かどうかを判定しようという研究があります。ところで鳥の場合、夜行性の鳥は目は大きい(フクロウやヨタカ)か小さい(キーウィのように嗅覚に頼る)かに別れます。さて、夜そのへんをふらふらしている恐竜は、どのくらいいたのでしょう?
 そして最後に「環境エンジニア」としての恐竜の登場です。恐竜が集団で移動したら当然そこには「恐竜道」ができるはず。それは他の動物の移動や植物の種子の散布にも大きな影響を与えたはずです。食べたり出したりも環境に大きな影響を与えます。恐竜は生態系の一部ですが、同時に生態系を変容させる能動的な要素でもあったのです。
 恐竜絶滅後、すぐにほ乳類の天下が来たわけではありません。まず「恐鳥」の時代がありました(暁新世)。それからやっとほ乳類の天下へ。あまり注目されていませんが「鳥」はけっこう重要な存在だったんですね。
 もしも恐竜から鳥が生まれたのだったら「鳥類学者」は「恐竜学者」と名乗ってもいいのではないか、という発想から生まれた本です。著者はふざけ口調でそう主張していますが、半分以上真面目だと私は思いました。で、私も半分は真面目にその主張に賛成します(残りの半分は……笑)。「生きて動いている恐竜」を見たことがない以上「恐竜の子孫」を観察することでいろいろ推察をすることは、まったく無駄ではないだろう、と。半分くらいは無駄かもしれませんけれどね。



コメントを投稿