音楽中心日記blog

Andy@音楽観察者が綴る音楽日記

Tangled up in Blue

2008年07月03日 | 歌詞・訳詞
ある朝早く 太陽は輝き 俺はベッドに横たわっていた
あいつはすっかり変わったろうか まだ髪は赤いだろうかと考えながら
あいつの家族は言った 俺たちの生活はきっとすぐにだめになるだろうと
やつらはおふくろの手作りのドレスを嫌っていたし
親父の貯金なんてたいしたことないと思っていた
そして俺は道の脇に突っ立つことになった 
雨で靴を濡らしながら 東海岸を目指して
俺がどれだけ苦しんだかなんて 誰もわかっちゃくれない
ブルーにこんがらかって

俺たちが出会ったころ あいつは結婚していた
すぐに離婚することになったけれど
俺はあいつを窮地から救ってやったんだと思う
でもちょっと乱暴すぎたんだろう
俺たちは最速でクルマをぶっとばして
西のはずれで乗り捨てたようなもの
暗く悲しげな夜に俺たちは別れた
二人ともそれが最良の道だと思ったんだ
俺が立ち去るとき あいつは振り返って俺を見た
声が肩越しに聞こえた
「どこかの大通りで いつかまた会いましょう」
ブルーにこんがらかって

俺はグレート・ノース・ウッズで仕事を見つけた
コックをしばらくやってた
でもその仕事がどうにも好きになれなくて
結局は首を切られた
それでニューオーリンズに流れていき
運良く仕事にありついた
少しの間 漁船で働いたんだ ドラクロワの沖あたりで
でも 俺がひとりでいた間ずっと
過去は背中にべったり張り付いていた
女はたくさん見たけれど
あいつが俺の心から消えることはなかった
どんどんブルーにこんがらかっていった

あいつはトップレスバーで働いていた
たまたま俺は ビールを飲むためにそこに立ち寄ったんだ
俺はただずっと スポットライトがくっきりと照らす 
あいつの横顔を見つめていた
あとでお客が少なくなったときに 俺は昔のようにふるまおうとした
あいつは俺のイスのうしろに立って言った
「あんたの名前、なんだったかしら」
俺は小声でぼそぼそと言葉を発し
あいつは顔のしわから俺が誰かを知ろうとしていた
ちょっと居心地が悪かったことは認めなきゃな
あいつはかがんで俺の靴ひもを結ぼうとしたが
そいつはブルーにこんがらかっていた

あいつはストーブに火をつけ 俺に一服すすめた
「あんたはあいさつもしない人ね」とあいつは言った
「無口なタイプのようね」
そしてあいつは詩の書いてある本を開いて 俺に手渡した
それは13世紀のイタリアの詩人が書いた本で
ひとつひとつの言葉が すべて真実のように思えた
まるで燃える石炭のように赤く輝いて
一ページ一ページからあふれだしてくるようだった
俺の魂に書きこまれて 相手に伝わっていくようだった
ブルーにこんがらかりながら

俺はモンタギューストリートで 皆と一緒に暮らしていた
階段を下りた地下室に
夜のカフェには音楽が流れ 革命の空気があった
やがてやつは奴隷商売を始め やつの心の何かが死んだ
あいつは持っているものすべてを売らなきゃならなくなり
心は凍りついてしまった
そしてついに底が抜けて 俺はすっかり孤立してしまった
俺にできることといえば 
鳥が飛ぶように 続けることを続けるだけ
ブルーにこんがらかりながら

俺はもう一度最初に戻って
あいつのところにたどりつかなきゃならない
俺たちがかつて知っていたやつらなど 
もう今は幻にしか思えなくなった
数学者もいたし 大工の女房もいた
どうしてそうなったのかわからない
やつらがどう暮らしているかなんて知らない
しかし俺はまだ旅の途上
どこか新しい場所に向かっている
俺とあいつは いつも同じ感じ方をしてたんだ
ただ違う角度から見ていただけで
ブルーにこんがらかりながら

- Bob Dylan「Tangled up in Blue」(1975)
    (Translated by Andy@音楽観察者)

 アルバム「血の轍(Blood on The Tracks)」収録曲。
 ディランの曲で好きなものをひとつだけ選べといわれたら、僕はたぶんこの曲を選ぶだろう。

 誰もがうまくいかないだろうとあやぶんだ相手と結婚し、そしてその危惧のとおり彼女と別れることになった男の物語。
 その後、彼は職を変えながら各地を転々とするが、どうしても彼女のことを忘れられない。そしてある日、トップレスバーで働いている彼女と再会する。
「あとでお客が少なくなったときに/俺は昔のようにふるまおうとした/あいつは俺のイスのうしろに立って言った/あんたの名前、なんだったかしら」

 そのどうしようもないやるせなさのあとに現出する、魔法のように光り輝くイメージ。
 そして最初から最後まですべてを貫く「ブルーにこんがらかって(Tangled up in blue)」というフレーズ。
 何度聞いても色褪せることがない。

 原詞はここを参照。





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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ディラン (タイコウチ)
2008-07-04 00:43:05
Andyさんの訳詞に引き込まれるように一気に読んで、YouTubeで初めてこの曲を聴きました。もともとディランは苦手で、いったい何を歌っているのかと当惑してしまうことが多いのですが、この歌はストーリー性もあって、イメージがくっきり浮かんできました。

13世紀のイタリアの詩人のくだりは、ほんとにいいですね。

ところで、息子のJakobの新譜がなかなかいいですよ。おやじに似てなくて(笑)。
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Dylan (Andy@音楽観察者)
2008-07-04 05:09:18
長い詩なので訳すのには気合いがいりましたが、タイコウチさんにそういっていただけると嬉しいです。

ディランの書く詞は確かに難解なものも多いです。でも中にはこういうストーリー性を持ったものもあるんですよね。
ちなみにこの曲を書いた時にディランは妻との離婚の問題を抱えていたらしいです。

この曲が収録された「血の轍」は、このほかにも印象的な歌詞とメロディが満載で、名盤の名に恥じないアルバムだと思います。機会があればぜひどうぞ。

息子ジェイコブの音楽(ウォールフラワーズでしたっけ)は聴いたことがないので、いちどYouTubeででも探してみます。
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ジェイコブ (タイコウチ)
2008-07-04 22:22:42
私が最近聴いてるのは、Jakob Dylanの初ソロで、実はThe Wallflowersは、聴いたことがないんですよ(笑)。

「血の轍」は、今度ぜひ聴いてみたいと思います。
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