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大変面白いミステリー、ペレケーノスの「曇りなき正義」

2004-12-30 13:27:15 | 読書
   人はどうあれ、私にとってハードボイルド・ミステリーを堪能した本だ。私が本を読む満足基準は、▼ユーモアやウィットがあり、気の利いた比ゆがあること。▼現実的、写実的であること。▼読んで得るところがあること。▼余情があること。▼エンタテイメント性があること。▼そして当然のことながらスリルとサスペンスも。

   この本は、これらのすべてを十分満たしていないが、満足するものだ。私立探偵デレク・ストレンジ。中高年に仲間入りして、黒革のハーフコートの下で幅広の肩の筋肉が躍動し、髪にはところどころ白髪が混じっていてあごひげは短く切りそろえてある。まだ独身の元黒人警官である。そのストレンジは、射殺された黒人警官クリス・ウィルソンの母親レオナから、息子の不名誉を払拭するため調査を依頼される。事件は、非番で私服のクリスが道の真ん中で立小便をしていた白人の若者を逮捕に向かい銃を向けているところを、パトカーで通りかかったテリー・クインとユージン・フランクリンが見咎め、三人が大声で怒鳴りあっているうちに、クリスの銃がテリーとユージンの方へ向けられ、その目に断固とした殺意のようなものを感じたテリーが、発砲しクリスを射殺する。内部調査は正当性を認め一件落着していた。ストレンジが調査を進めるに従いとんでもない方向に向かうことになる。黒人の麻薬の元締め、凶悪な白人の麻薬ブロカー親子、それにストレンジと今や相棒となったテリーの織り成す人間模様は、人種差別という骨太のテーマを中心にユーモアやバイオレンスのエンタテイメント豊かに余情を残して終幕する。

   音楽の記述が目につく。私立探偵ストレンジはジャズも好むが、西部劇の音楽が大好きで映画「ウエスタン」のテーマ曲は大好物。一方、テリーは、ルシンダ・ウイリアムズがテリーの恋人フアナともどもかっこいいという。音楽の好みで年代も表していて面白い。ちなみにルシンダ・ウイリアムズのCDを私は持っている。好きなCDというわけでもない。音楽についてストレンジが嘆く「近頃の音楽はラップばやりでメロディがなくなってしまったが・・・」と。そのとおりで私も寂しい気がしている。車について「90年代のはじめごろから、どの車も似たような形に見えてしまう。日本の自動車メーカーが角の取れたタイプを作り始めると、アメリカや韓国、ドイツのメーカーまでもがその流れに追随した。だから最新のヒュンダイ・モデルの後部は、ぱっと見にはレクサスやメルセデスのそれと区別がつかない。一万五千ドルのフォードが、五千ドルのインフィニティとまったく同じに見えてしまうのだ。それにトヨタ車はすべて―とくに80年代ホンダ・アコード90年代版である平凡なスタイリングのカムリ―郊外での生活や早死にと同じくらいつまらない」という。私はトヨタがメルセデスの真似をしているのではないかと思っていた。ペレケーノスの作品のほとんどを読んでいるが、期待を裏切られることは滅多にない。

 「曇りなき正義」は、ジョージ・P・ペレケーノス ハヤカワミステリ文庫2001.11刊である。
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