一流のシェフの料理がいつも美味と同じく、作りなれて力量のある監督にかかると間違いなく覚醒効果がある。というのも私は夕食後にパソコンでDVDの映画を観る。
アルコールのせいで少し眠いのがいつものこと。ダメな映画を観るとますます眠くなる。この映画はますます眼が冴えてきた。吸引力はすさまじい。
ブラジルのゴミ捨て場で金目のものを物色する貧困にあえぐ市民。その中に少年ラファエル(ヒクソン・テヴェス)がいた。ゴミを満載したダンプカーから転げ落ちてきたのは分厚い財布だった。
この財布の持ち主ジョゼ・アンジェロ(ワグネル・モウラ)が、警察に追われる途中ベランダから放り投げたものだった。逮捕されたジョゼ・アンジェロは、捜査官のフェデリコ(セルトン・メロ)の 拷問の末、殺されてしまう。
捜査に躍起になっているフェデリコは、ゴミ捨て場のラファエル、ラット、ガルドの三人の少年に目をつける。三人の少年たちは、警察の目を巧みにかわしながら、帳簿に書かれた謎を解き明かす。
動物的な感を持つフェデリコに捕らえられることになるが、ジョゼ・アンジェロの娘ピア・アンジェロの機転でフェデリコをノックアウト。秘密の帳簿と莫大な現金を手に入れる。
少年たちは、ゴミ捨て場で黒いゴミ袋から大量の現金を撒く。札束が雪のように風に舞う。住民たちへの別れの餞別だった。協力して助けてくれたジュリアード神父(マーティン・シーン)やボランティアのオリヴィア(ルーニー・マーラ)には、絵文字の置手紙と手に重い札束を残した。それでも彼らは、ちゃっかりと分け前は取っている。現実主義の少年たちはソツがない。
ジュリアード神父は、オリビアの助言を受け入れ彼ら少年を助ける手段として、彼らの真実の言質が録画されているのを、YouTubeにアップした。
テレビのキャスターは「YouTubeで話題騒然。ブラジルの3少年がリオ警察の暴力と政治家の腐敗を暴露してオリンピック開催市の市長サントスら大物政治家や警察幹部が続々と逮捕。3少年は行方不明、生存が気遣われます」
さらに「ビデオ・スキャンダルにより抗議運動が再燃、リオの街に数百万の市民が繰り出しています。怒りは特にサントス議員に渡ったワイロとリオ州に蔓延する腐敗に向けられ全州の政治的、社会的変革が叫ばれています」
世の中に怒りの火をつけた3少年は、行方不明どころか目の覚める青い海で漁師の獲ってきた魚を高々と上げ、駈けてくるピア・アンジェロを歓迎していた。
で、この映画の監督はイギリスの作家ヴァージニア・ウルフに扮してアカデミー主演女優賞を受賞したニコール・キッドマン出演の「めぐりあう時間たち」を作ったスティーヴン・ダルドリーだ。いうなれば一流のシェフだ。明るく楽観的ともいえるラストは印象的だった。
ちなみにTrashは、ごみ。さすがに邦題を「ごみ」には出来ないだろう。苦心の果てに「この街が輝く日まで」の副題を余儀なくされた。
監督
スティーヴン・ダルドリー1961年5月イギリス、イングランド生まれ。
キャスト
マーティン・シーン1940年8月オハイオ州デイトン生まれ。
ルーニー・マーラ1985年4月ニューヨーク州生まれ。
3人の少年ラファエル(ヒクソン・テヴェス)、ガルド(エドウィン・ルイス)、ラット(ガブリエル・ワインスタイン)。
ワグネル・モウラ1976年6月ブラジル生まれ。
セルトン・メロ1972年12月ブラジル生まれ。