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読書 アイラ・レヴィン「死の接吻」

2007-12-12 13:06:06 | 読書

              
 1929年8月にニューヨークで生まれ、今年の11月他界した著者が二十三歳のとき発表した作品。
 どうしてこの作品を読むことになったかといえば、ある新聞の記者が怖い作品として紹介していたからだ。図書館から借り出したのは昭和五十六年(1981年)12月発行の第四刷だった。何人もの手でページが繰られ何人もの人がスリルとサスペンスを楽しんだようで、表紙は擦り切れ本の中まで黄色く変色していた。
 図書館の係りの人が「くたびれていますが」と断りを言いながら手渡してくれた。

 貧しい家の出の青年バッド・コーリスが、母親に苦労しないで済むお金を与えようと、金持ちの子女を狙う。狙ったのはキングシップ製銅社長の末娘、同じ大学の同級生ドロシイだった。結婚にこぎつけて財産分与に預かろうという遠大な計画だった。
 この時代、第二次大戦が終わったあとで、若い連中はアプレゲールと呼ばれ戦前の価値観や権威を否定し道徳観も変容していた。そんな風潮の中で、若い二人はセックスを自重せずドロシイは妊娠してしまう。
 戦前の価値観や権威を引きずるドロシイの父親は、結婚もしないで妊娠した娘の結婚は認めるはずがないし、ドロシイはドロシイでモータハウスでもいいから二人で力を合わせようと言って聞かない。
 それではバッドの計画が破綻する。何が何でも父親に認めさせなくてはならない。堕胎しかない。胡散臭い薬を飲ませたがまったく効かない。このままではずるずると無為に時間が流れる。殺意を持ったバッドは、ドロシイに砒素を飲ませて自殺に見せかけようとするが、彼女が飲まなくて失敗する。
 考えあぐねた末、市政会館の屋上から突き落としてしまう。こうして第一の殺人が実行された。
 バッドに罪の意識は希薄だった。自殺に見せかけるため巧妙に誘導して書かせたドロシイの遺書とも言える手紙が姉のエレンに届いていた。警察はそれによって自殺と断定した。しかし、エレンは納得できず真相に迫る。危険を感じたバッドは、エレンも強盗に見せかけて拳銃で撃ち殺す。
 最後に残った長姉のマリオンに近づき、挙式目前にまでこぎつける。ここから意外な展開になりバッドの転落死で終焉する。
 
 かいつまんではこんなプロットだが、第一部がドロシイになっていて犯人の名前は出てこない。第二部のエレン編でバッドが現れる。プロットの構築には不自然さを極力排除しなければならない。そういう意味ではこの犯人の出現は、巧妙な伏線もあり納得できるものだ。そして、登場人物の繊細な描写も二十三歳という年齢を感じさせない。
 父親の娘たちに対する厳格な態度やそれに反発する娘たちという図式は、戦後の急速な意識の変革が見えてくる。
 この作品で1954年アメリカ探偵作家クラブ(MWA)の新人賞を受賞。また2003年には、MWA巨匠賞を受賞している。なお、‘67年「ローズマリーの赤ちゃん」’や‘72年「ステップフォードの妻たち」があり、これは二コール・キッドマン主演の「ステップフォード・ワイフ」として映画化されている。
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