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読書 リチャード・ノース・パタースン「最後の審判」

2007-02-17 13:03:50 | 読書

              
 読み始めると周囲の音や気温もないかのような錯覚に囚われて、気がついたらすべてを読み終わっていた。そんな力がこの本にはある。

 大統領が指名する合衆国控訴裁判所の判事の候補者45歳の美人で緑の瞳を持つ凄腕弁護士キャロライン・クラーク・マスターズは、22年ぶりに故郷ニューハンプシャー州リザルヴのマスターズ・ヒルに戻ってきた。
 それは姪のブレットに対する殺人容疑の弁護のためだった。そして明らかにされていくのは、キャロリンと父、母、異母姉、その夫、州検察局殺人部主席検事ジャクソン・ワッツとの関係そして1972年のひと夏の恋がもたらすものが鮮やかに読み手の心に沁みこんでくる。とりわけ終盤キャロリンの心情を思うと涙を抑えることが出来なかった。
 法廷場面も検事が立証する証拠を、その穴を探り当てていくスリリングな展開にはわれを忘れる。それだけではない。プロットや人物描写の的確なことや雰囲気を盛り上げる筆力を堪能した。

 1972年のひと夏の恋の相手は、“衝撃にも似た驚きと共に、キャロラインはその二十代半ばの若い男を見た。長いまつげ、くっきり通った鼻筋、カットグラスを思わせる彫りの深い顔立ち。瞳の色は、はっとするほど深い藍色”だった。この男スコット・ジョンソンは、キャロラインの生涯忘れ難い人となるはず。

 著者は、1947年、カリフォルニア州バークレー生れ。オハイオ州法務局、ワシントンDCの証券取引委員会を経て、アラバマ州で法律事務所に勤める。そのかたわらアラバマ大学の創作コースで学び、‘79年に『ラスコの死角』でデビュー。アメリカ探偵作家クラブ最優秀処女長編賞を受賞する。

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