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読書 マーク・チャイルドレス「クレイジー・イン・アラバマ」

2006-05-01 13:42:45 | 読書
 四十年前の1965年の夏を回想するピーター・ジョセフ。両親を交通事故で亡くした12歳のピーターは、二つ年上の兄ウイリーともども祖母のミーモーのもとで暮らしている。

 そこへミーモーの娘ルシールが子供6人を引き連れハリウッドへオーディションを受けに行くから預かってくれといってやってくる。昔から女優になる夢を持ち続けていたルシールは、スイミングプールの水面のようにきらきら輝く青い瞳、色っぽい大きな口、ヴェロニカ・ドレイクのように顔の片側に垂れるブロンドの髪。目元のしわは、すぐ近くに寄って見なければ分からないほどきれいな人。

 その彼女が、レタスを丸ごと保存するタッパーウェアから夫の生首を引っ張り出したのには、みんな驚き子供たちは逃げまどう。ピーターに語ったところによると、ハリウッド行きを否定されたからという。そして、積年の恨みもあったと。彼女は夫の生首を入れたタッパーウェアを白いギャラクシーセダンに積み込み、排気ガスと土煙を残して走り去った。
 
 ハリウッドに向かう道すがら、数々のアバンチュールやスリルを味わう。高級ホテルのベル・ボーイと今までにないセックスを体験したり、ラスベガスのカジノのルーレットで、巨額の現金を手にしたり、そして気のいいリムジンの運転手に言い寄られながらビバリーヒルズに到着。
 テレビの「じゃじゃ馬億万長者」のオーディションにも無事合格、番組に出演する。ここまではよかったが、テレビ放送は全国に指名手配書をばら撒いたのと同じことで、もはや捕獲されるのは時間の問題となった。

 一方、ピーターと兄のウイリーは、ルシールの6人の子供たちにところてん式に押し出され、ルシールの兄で葬儀社を営むダヴおじさんに身を寄せるが、ここ深南部のアラバマは人種差別の激しいところだった。スイミングプールを巡って人種対立が激化、その渦中に放り込まれ、白人至上主義の保安官やその手下から嫌がらせをうけ、使用人が殺され葬儀場も焼かれるという悲劇までを自然なユーモアと巧みな表現で、ハードカバー546ページという長編を飽きさせずに読ませる。

 人物描写が卓越していて、夫殺しのルシールでさえ裁判で無罪になって欲しいと応援したくなる。著者は、アラバマ州モンローヴィル生れ。本書以外に四冊の著書がある。現在はコスタ・リカのジャングルに家を構え、自然に囲まれながらコンピューターを駆使しつつ執筆活動を行っているとのこと。
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