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映画 ワイナリーを巡るロード・ムービー「サイドウェイ(04)」

2005-09-10 13:34:27 | 映画
 中年男マイルス(ポール・ジアマッティ)と結婚を控えた同じく中年男ジャック(トーマス・へイデン・チャーチ)の親友二人が、ジャックの独身生活最後の一週間をワイナリーめぐりで存分に楽しもうというわけ。

 マイルスの方はワインについて造詣が深く、旅の目的がいろんなワインにめぐり合うことだった。一方ジャックはワインもいいがもっぱら女を引っ掛けるのが目的。この相反する二人が遭遇するワインと女性とはどんな展開になるのだろうか。ワイン好きにはたまらない映画だろうと思う。

 何しろサンディエゴのマイルスのアパートから迎えに立ち寄ったロサンゼルスのジャックのフィアンセ宅を出てすぐ車の中で、もう生産していないバイロンの1992年白を二人で飲み始める。101号線をオックスナードに住むマイルスの母親の家に寄り、夕食に赤と白のテーブル・ワインを飲む。

 サンタバーバラ郡に入るとマイルスの薀蓄が始まる。“カリフォルニアの白は人工的すぎる。樽香が強く、二次発酵もやりすぎだ。この地域のピノが優れているのは太平洋からの寒気のせいだ。果実を冷やす、ピノ種は皮が薄く、高温多湿を嫌う、繊細なんだ”

 そしてワイナリーでのテイスティング“まず、グラスを持って日光にかざし色と透明度でワインを判断する。濃いか薄いか。サラサラかドロドロか。次に傾ける。グラスのふちの方が、色の濃さが分かりやすい。この方法で年齢が分かる。赤ワインは色が重要だ。よく嗅いでみろ!グラスにもっと鼻を突っ込め、グラスを置いて空気をまぜろ!酸素に触れてアロマが香る。大事なポイントだ”このテイスティングを真似て万博で試してみたら通に間違われたとallcinema onlineのユーザー・コメントの書き込みにあった。

 ソルヴァング(Solvang)からブエルトン(Buellton)へ。このブエルトンのレストラン「ヒッチング・ポスト」には顔見知りのマヤ(ヴァージニア・マドセン)がいる。ワイナリーのオーナー経営の「ヒッチング・ポスト(The Hitching Post)」は実在し、映画のロケが行われた。あとはロス・オリヴォス(Los Olivos)へ。ここはワイナリーと牧場が集まっているところ。ステファニー(サンドラ・オー)はマヤと友達であることが分かり、早速ダブル・デートとなる。ここでは、ずば抜けたワインで格別の味わいのビエン・ナシドを賞味する。ちなみに値段は、インターネット楽天で3,580円ほどだった。

 その後ステファニーの家で二次会と相成る。そこでマイルスとマヤのワインへの思い入れが語られる。まずマイルスがピノにこだわる理由は「ピノ・ノワールは育てるのが難しいブドウだ。皮が薄くて繊細、性格は気まぐれで早熟、カベルネ種のように強くない。カベルネは放っておいてもちゃんと成長する。だが、ピノはとても手がかかる。この品種を栽培できるのは世界でもほんの限られた土地だ。誰よりも忍耐強く心を込めて世話してやればピノは育つ。可能性を信じて時間をかける者だけが栽培できる品種だ。そんな人間にめぐり合えば最高のピノが開花する。魂をとろかすブリリアントなフレーバー、スリリングで繊細、地球の太古の味だ。カベルネも力強くて華やかだが、僕にはつまらない。つい比べてしまう」

 マイルスのなぜワインの世界に?との問いにマヤは、「最初のきっかけは前の夫かしら?これ見よがしの大きなワインセラーの持ち主よ。私は鋭い味覚を持っていると気づいたの。ワインを飲めば飲むほど考えるようになったわ」「何を?」とマイルス。「ワインの一生を考えるようになったの。ワインは生き物よ。私はブドウの成長に沿って1年を考えるわ。太陽は照ったか。雨はどうだったか。ブドウを摘んだ人のことを考える。古いワインならその人たちはもういない。いつもワインの成長を願うわ。今日あけたワインは、別の日にあけたものとは違う味がするはずよ。どのワインも生きているからよ。日ごとに熟成して複雑になっていく。ピークを迎える日まで、あなたの61年物のように。ピークを境にワインはゆっくり坂を下り始める。そんな味わいも捨てがたいわ」

 映画のこの場面は、夜のポーチで深々と椅子に腰掛け、二人が静かに語る。ヴァージニア・マドセンがことのほか美しい。そしてワインに対する思い入れも、すべての食べ物に当てはまり、子供のころよく言われたのは「お米はお百姓さんが汗水たらして丹精込めて作ったものだから、一粒残らず食べなさい」祖母はご飯を食べる前に必ず両手を合わせて感謝の気持ちを表していた。いま飽食の時代で食べ物の背景は全く顧みられなくなった。その忘れられた大事なものを呼び起こしてくれた。

 いずれにしても、風景を楽しみワインのうんちくに耳を傾け、大人にしか描けない味わい深い映画だった。今年のクリスマスは、ピノ・ノワールで乾杯しよう。

 監督アレクサンダー・ペイン1961年2月ネブラスカ州オマハ生まれ。「アバウト・シュミット」ほか
 キャストポール・ジアマッティ1967年6月ニューヨーク州生まれ。父はイェール大学学長、本人も同校卒。実力派俳優といわれる。
 トーマス・へイデン・チャーチ1961年6月テキサス州エルパソ生まれ。このご面相は西部劇風だな。
 ヴァージニア・マドセン1963年9月イリノイ州シカゴ生まれ。私から見るとどこかスーザン・サランドンを連想させる。
 サンドラ・オー1970年11月カナダ生まれ。中国系か?美人とはいえない。監督の妻だったが2005年3月に離婚。

 助演男優賞トーマス・へイデン・チャーチ助演女優賞ヴァージニア・マドセン監督賞アレクサンダー・ペインがアカデミー賞にノミネート。脚色賞を受賞。ほかに全米批評家協会賞、NY批評家協会賞、LA批評家協会賞、ゴールデングローブ賞なども受賞している。
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