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読書「夜と少女La Jenne Fille et La Nuit」ギョーム・ミュッソ著集英社文庫2021年刊

2023-12-01 08:44:10 | 読書
 これは愛をめぐるサスペンスである。新刊が出るとみんなが競って買い求め、夏場の海辺のパラソルの下やそよ風の吹く自宅のパティオで読みふける作家トマ・ドゥガレが、久しぶりにニューヨークから自身の生まれ育った土地、南フランスのアンティーブの街に帰ってきた。

 それはトマが卒業した高校、在外駐在員の子女を修学させるために、フランス公立教育施設協会が1967年に創立したコートダジュールでは特異な国際高等学校なのだ。その創立50周年記念祭が行われるためでもあり、自身が犯した罪の発覚を怖れてでもある。

 トマの十代のころ強烈な恋心を抱いたのは、少女ヴィンカ・ロックウェル。2017年いつものカフェのいつもの席、風が松の枝を揺らすその下のテーブル、ヴィンカがいつも飲んでいたチェリーコークも注文する。音楽が流れていた。R・E・Mの「ルージング・マイ・レリジョン」。そして観た映画について熱っぽく語り合った。音楽が終わった。ヴィンガはレイバンのサングラスをかけてチェリーコークを一口飲むと、レンズ越しにウィンクを送ってきた。彼女のイメージが霞んで完全に消えてしまうと同時に、魔法のようなおしゃべりの時間も消え去った。トマはもはや、あの1992年の気楽な夏の暑さの中にいない。失われた青春時代の夢想を追って走り回り息を切らし、孤独で悲しかった。ヴィンカと会わなくなってから25年も経っていた。

 捜査当局は。哲学教師のアレクシス・クレマンとヴィンカが手に手を取って消えたと断定していた。否応なしに調査をするトマによって恐ろしい真実が明らかになっていく。トマの両親の秘密、トマに幼少の頃から思いを寄せる心臓外科医のファニー・ブラヒミの秘密、親友の政治家のマキシム・ビアンカルディーニの秘密、マキシムの父の秘密、そしてトマ自身の秘密。人間は家族のため、恋人のためそして嫉妬のために殺人を犯す。

 最終的に明らかになったのは、ヴィンカ・ロックウェルが生存していることだった。そういえばニューヨークの公園でちらりとヴィンカを見た記憶を蘇らせるトマだった。読者に今後の展開を(今後があるとすれば)委ねながら物語はこれで終わるが、その今後を考えるのも楽しいものだと思う。頭がよくて美人でスタイルのいいレズビアンのヴィンカ・ロックウェルの未来はバラ色に包まれている。作家のトマとの邂逅の末ハッピーエンドまたはヴィンカに薬物摂取の過去があるので身を持ち崩して悲惨な状況もあり得る。続きを書くとすれば、ハッピーエンドがいいかな。

 この小説を読みながらgoogleマップで南フランスのアンティーブの街を疑似体験をしてみると、道は狭いし国道も日本の二車線道路と同じ、ピザの店が多いし地中海料理を看板にする店のメニューを見ると、炒め物が多いし焼いた魚は丸ごとお皿に載っているし、日本料理のあの繊細さはない。ニースに近づくと海岸線も長い印象だが、私の住む千葉の60キロにも及ぶ九十九里海岸線が誇らしく思えてくる。

 R・E・Mは、1980年に結成されたアメリカのロックバンド。代表作は1991年の『アウト・オブ・タイム』でグラミー賞7部門にノミネートされた。収録曲「ルージング・マイ・レリジョン(Losing My Religion)」は全米4位を記録。Best Short Form Music VideoとBest Pop Performance by a Duo or Group with Vocalを受賞。(ウィキペディアより)2011年解散。
では、「ルージング・マイ・レリジョン(Losing My Religion)」を聴いてください。
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読書「ブルックリンの少女La fille de Brooklyn」ギョーム・ミュッソ著集英社文庫2018年刊

2023-11-23 08:57:39 | 読書
 エメラルドグリーンの瞳、ゆるめのシニョンの髪型、ミニスカートと黄色のTシャツその上に薄い皮のブルゾンを着た混血のアンナは小児科の研修医、結婚をまじかに控える私の恋人。私ラファエル・バルテレミは、そこそこ売れてる作家。婚前旅行と洒落こんでコートダジュールの別荘を借りた。 軽やかなそよ風が木々を揺らし頬をなでる地中海を見下ろすテラスで、メルローの赤ワインを重ねた。そのワインが濃密な時間をもたらす筈だったが、予期せぬ別離をもたらした。それはひとえに私ラファエルの至らなさに他ならない。

 ラファエルはずーと心の奥深くに、本当のアンナを知らないという強迫観念が巣食っていた。ワインの酔いが饒舌にもしていたし、気持ちも高揚していた。人生の秘密という切り口からお互いの意見が衝突した。口げんかに発展。アンナが見せたスマホの写真。三つの黒焦げの写真。動転したラファエルは、飛び出していった。20分ほど車を走らせて我に返ったラファエル、引き返したがもうそこにはアンナの姿はなかった。

 パリに住むアパートの隣人、元国家警察組織犯罪取締班の警部だったマリク・カラデックの助力を得ながら真相解明に突き進む。思いもしない意外な事実が明らかになっていく。

 著者の批判精神も旺盛で、フランスの教育環境に苦言を述べている。ラファエルの調査の段階で元捜査官の話を聞くために訪れたワシントン・スクエアにあるマンハッタン大学ロー・スクールに行ったとき、「恵まれたこの学習環境を目にし、私は自分が修士課程を過ごしたオンボロのキャンバスを思い出した。席のたりない大教室、退屈極まる講義、政治化した教授連中の無気力な態度、漆喰のはがれた70年代建築の醜悪さ、健全な競争意識の欠如、失業問題と展望なき将来という重苦しい社会情勢。確かに比較できるものではないし、このロー・スクールの在学中の学生は高額の学費を払っているのだろう。 が、少なくとも相応の勉学環境を与えられていた。フランスで一番腹が立つのはその問題だった。数十年も前から、あれだけ硬直し活力のない教育システム。うわべだけの言辞の裏、あれほどの不平等にどうしてフランス社会は我慢しているのだろう?」と。

 著者ギョーム・ミュッソは、1974年フランスのニースの港町アンティーブで生まれる。モンペリエ大学を終えたあと、高校教師となり執筆を始める。現在まで総売上3500万部を超え、フランスで最も売れている作家といわれる。

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読書「訴訟王エジソンの標的The last days of night」グレアム・ムーア著ハヤカワ文庫2019年刊

2023-11-13 10:23:51 | 読書
 南北戦争(1861~65)当時は子供だったポール・クラバスは、26歳でニューヨークの法律事務所のパートナーの地位にある。このポールが主人公の物語。

 1888年アメリカでは電柱に架けた電線で、街を照らし部屋を明るくし始めていた。その陰で特許戦争ともいうべき熾烈な戦いが展開されていた。それは電流の直流か交流かの戦いでもあった。そしてポールの周辺を彩る五人の実在した人たち。電燈を発明したと言われるトーマス・エジソン、電気製品を製造するジョージ・ウエスティングハウス、風変わりな発明家ニコラ・テスラ、オペラ歌手アグネス・ハンティントン、投資家J・P・モルガン。

 ポールとアグネスのロマンスをはさみながら、海千山千の男たちを相手に奮闘するポール。これらは実際に起きた法廷闘争だが、ウェスティングハウスの倒産の危機を救ったポールが身に沁みて感じたのが、油断すると寝首を搔かれるということだ。たとえ信頼しているジョージ・ウェスティンハウスでも。

 徹底した一人称の作品で、私生活はポール意外全くない。例えばアグネスはポールと結婚するまで、資産家の息子ハリー・ラ・バ・ジェインと婚約をしていたが、この二人が同時に登場する場面はない。

 ポールはJ・P・モルガンの協力を得て。密かにエジソン・ゼネラル・エレクトリック社内部にクーデターを仕掛け、エジソンを退陣させてチャールズ・コフィンという男を社長の座に据える。それからニコラ・テスラを説得し、ウェスティングハウスの交流電流システム特許使用料を放棄させる。エジソンは自分の作った会社から追い出される。これによって電流戦争にウェスティングハウスが勝利を収める。

 著者によると、この結末は実際に起こったことだという。しかも著者は、最後の場面にナイヤガラ瀑布にトーマス・エジソン、ジヨージ・ウェスティグハウス、ニコラ・テスラそれにポール・クラバスを集めて友好的な雰囲気を創造している。実際は会合はあったらしいが、エジソンは出席していないとか。これは時代を変えたエジソン、ウェスティングハウス、テスラという偉大な人物への敬意に他ならない。

 トーマス・エジソンが創立したエジソン・ゼネラル・エレクトリック社は、エジソンを取り除いたゼネラル・エレクトリック社としてアメリカ最大の総合電機メーカーでコングロマリット企業として現在も存続している。

 ウェスティングハウスは、ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニーという名前で、原子力関連企業として存続している。

 ニコラ・テスラは、イーロン・マスクの押しかけ創業者となったテスラモーターズがテスラを敬意をもって命名した。

  著者グレアム・ムーア|GRAHAM MOOREは、米シカゴ生まれ。2003年にコロンビア大学で宗教史を専攻し文学士号を取得。10年に、アーサー・コナン・ドイルの生涯を描いたミステリー小説『The Sherlockian』がニューヨークタイムズのベストセラーリスト入りを果たす。今後の待機作には、マイケル・マン監督やマーク・フォースター監督によるテレビ作品の他、レオナルド・ディカプリオ主演予定のベストセラー小説「The Devil In The White City」の映画化などがある。

 天才数学者アラン・チューニングを描いた映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でアカデミー賞脚色賞を受賞。授賞式の感動のスピーチが有名。
「アラン・チューリングは、このような舞台で皆さんの前に立つことができませんでした。 でも、わたしは立っています。これは不公平です。16歳の時、わたしは自殺未遂をしました。
自分は変わった人間だと、周りに馴染めないと感じたからです。でも、いまここに立っています。
この映画を、そういう子どもたちに捧げたい。自分は変わっている、どこにも馴染めないと思っている人たちへ。君には居場所があります。変わったままで良いのです。そして、いつか君がここに立つときが来ます。だからあなたがここに立ったときには、君が次の世代に、このメッセージを伝えてください。ありがとう」


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読書「秘密THE PRIVATE PATIENT」P・D・ジェイムズ著2010年ハヤカワ・ポケット・ミステリ刊

2023-11-03 17:07:51 | 読書
 フィリス・ドロシー・ジェイムズ(Phyllis Dorothy James)は、イギリスの女流推理作家だ。1920年に生まれ、2014年没であるが『ナイチンゲールの屍衣』『黒い塔』『死の味』で3度CWA賞(英国推理作家協会)シルバーダガー賞を受賞。1987年には作家としての功績を称える CWA賞 ダイヤモンド・ダガー賞を受賞した。さらに1999年にはアメリカのMWA賞(アメリカ探偵作家クラブ)でも巨匠賞を受賞したという作家なのだ。

 私はこの人の作品を読んだことがなく、今回が初読となる。多くのミステリーやハードボイルドでは、バンと事件を明示して一気に読者の関心を集めて犯人探しに時間を割くというのが多い。この人の作品は違った。無残な被害者ルポライターとして有名なジャーナリストのローダ・グラッドウィンについて、生い立ちや性格について詳細な記述があって、二段組の436頁のうち115頁目でようやくローダ・グラッドウィン扼殺事件が発生する。かなり遅い事件発生だ。

 読後にこのことについて考えてみた。生い立ちや性格なんて事件後、なんとでも説明できる。それを導入部に持ってきたのは、この作家の優しさではないかと思う。たとえ死にゆく人であっても、また作中の人物であっても、それなりの尊厳を与えたいと。それに加えこの作家の先進的な考えも文中からうかがえる。

 いくつかの事件が起こるのは、ドーセット州にある農地に囲まれたシェベレル荘園。イギリスでも風光明媚といわれロンドンから約3時間。ここでローダ・グラッドウィンは、左頬の傷の再生手術を受けることになる。この傷は、十代のころ父親のいわれなき逆鱗を伴ってウィスキー瓶で殴打されたものだった。ローダの憎悪は父親が死んでからも続いた。今47歳のローダが思い出したくない過去だった。

 この手術を担当するのは、形成外科の世界では名医と言われるジョージ・パンドラ・パウエル。離婚歴のある男で自身が経営するクリニックでの手術を終え、ドーセット州ヘ向かうメルセデス・ベンツの車中の人となる。高速道路を疾走するジョージは、移動する喜びと開放感に包まれオーディオから流れるバッハのバイオリン協奏曲二短調が心地よい。

 荘園には多くの人が働いている。ジョージの助手としてマーカス・ウェストホール、マーカスの姉キャンダス、婦長フラヴィア・ホランド、支配人ヘリナ・クレセットの他に数名。

 ロンドン警視庁特捜部から派遣されてきたのは、警視長アダム・ダルグリッシュ、警部ケイト・ミスキン、部長刑事フランシス・ベントン・スミスの三人。地道な捜査が続けられるが、マーカスの姉キャンダスの自殺とともに残された自白テープで一件落着となる。

 事件解決後は登場人物の愛と幸せに包まれたシーンとなる。警視長のアダム・ダルグリッシュは、恋人エマとケンブリッジ大学で結婚式を挙げた。従来のしきたりにとらわれない形だった。旧来のしきたりを否定するという表現は、この作家の先進性なのだろう。音楽が流れ説教を省いた短いものだった。

 クリーム色のウェディング・ドレスをまとい、つややかに輝く髪をアップに結い上げてバラの花の冠を飾ったエマは、祭壇に向かって通路を一人でゆっくり歩いた。しきたりは花嫁の父がエスコートするが、エマの父は最前列に座っていた。待っていたアダムは、エマに手を差し伸べた。流れる音楽は、バッハやヴィヴァルディ。

 薄茶色の髪の毛をショートカットにしてサマー・ドレスを着た、知的でチャーミングなケイトには、上司のアダムに対して密かに思う複雑な心境を抱えていたが、かつてサヨナラを宣告したピアーズからのメールに寛容な態度をとる。「家に帰ってきたらどうですか。ケイト」と。一連の事件は人間の本音や本質に迫るもので看過できなくなる。それが人を成長させると言ってもいいかもしれない。ケイトは日に日に成長し円熟が増すようだ。

 形成外科医のジョージは、支配人のヘリナ・クレセットと散歩に出た。二人は事件の後始末に追われていた。荘園の医療部門は廃止、ロンドンのクリニックに力を入れる。空いている厩舎を改装して3つ星レストランを目指す。そしてジョージは、ヘリナに求婚した。「結婚してもらえないだろうか。一緒に幸せになれると思うんだが」その言葉に愛という単語はなかった。聡明なヘリナはそのことを理解している。「愛という言葉を持ち出さなかったわね。正直な方だわ」とヘリナ。

 のちに親しい事務責任者のレティーに打ち明けた。「彼を愛していないでしょ」とレティー。それに対してヘリナは「たぶん今はね。まだ完全に愛しているとは言えない。でもいずれそうなる。結婚って愛情が生まれるか、あるいは失われる過程でしょ。心配しないで、この結婚は長続きするはずよ」

 人を愛するというのは、ありのままの相手を受け止め、成長を願うことだとすれば、この二人は理想的な夫婦になることだろう。

それではバッハのバイオリン協奏曲二短調を聴いていただきましょう。
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海外テレビドラマ「ウィルダネス~荒野の裏切りWILDERNESS」2023年制作アマゾン・オリジナル

2023-10-24 16:03:27 | 海外テレビ・ドラマ
 タイトルを見て西部劇かと思ったが違った。夫の度重なる浮気がもたらす妻の復讐劇なのだ。ニューヨークのアパートを新居にするぐらいの高収入の夫ウィル(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)と結婚生活を送るリヴ(ジェナ・ルイーズ・コールマン)は悩みを抱えていた。

 ウィルの女性関係がだらしなく、浮気が発覚するたびに「もう二度としない。君を愛しているよ」と心にもないことを言ってのける。とうとう心をを決めてリヴはその弁解を理解したフリをする。そして念願の中西部の旅へと向かう。リヴの心の奥底では、殺意がふつふつと湧き出してくるのだった。

 森に囲まれたホテルに投宿してハイキングに出た。駐車場でウィルの同僚の女性と出会った。ウィルは偶然を装っているが、リヴにはその女の記憶がある。ウィルは何気ないそぶりをするが不倫相手なのだ。そしてその雨の夜、その女性が殺されるという悲劇が起こる。

 ウィルがリヴに泣きついてくる。「午後11時半ごろに帰ったことにしてくれ」と。リヴは口元に笑みを浮かべながら承諾した。真相は夫と間違えてその女性を後ろから殴ったのがリヴというこを、知っているのはリヴ本人だけなのだ。

 女たちの本性を知らないウィルが悲しい。ラストシーンでリヴは次のように言う。「男に頼ってばかりで自らトラブルを招く。女をいつもそう、いつまでそうなのか。終わりにたどり着くまでよ。すべての終わり、我慢の限界まで。それでどうなる? 恐るべき存在になる。恐ろしいオオカミに……」とはいってもいつも女が悲劇のヒロインではない。

 1990年代クリントン大統領との不倫で有名になったモニカ・ルインスキーは、悲嘆にくれることになる。クリントンは否定を言い続け、弾劾裁判をも無罪で終える。噓つきのクリントンなんだが、モニカ・ルインスキーはオオカミになれなかった。不倫の代償は大きいと言える。

ジェナ・ルイーズ・コールマン1986年イギリス生まれ。2012年~17年の「ドクター・フー」で有名に。

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社会「ハーヴェイ・ワインスタイン事件とジャニーズ問題」

2023-10-05 13:02:48 | 社会
 ハーヴェイ・ワインスタイン事件というのは、過去の強制暴行や強姦、性的犯罪行為、性的虐待などの容疑でニューヨーク市警に逮捕され、2020年6月にニューヨークの裁判所から禁固23年の刑を言い渡され、ニューヨーク州バッファローの刑務所に収監されたとする事件。

 このハーヴェイ・ワインスタインという人物、大物プロデューサーで「ミラマックス」という映画プロダクションを成功させた人物なのだ。彼自身も1998年にプロデュースした「恋におちたシェイクスピア」でアカデミー賞作品賞を受賞している。プロデューサーとしては有能だったが、残念ながら異常な性癖の持ち主だった。

 2017年大手地方紙ニューヨーク・タイムズは、ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーという女性記者による調査報道記事を掲載した。これがきっかけで逮捕・収監となり#Metoo運動にも発展する。これの詳しい経緯は、2023年の映画「SHE SAID~その名を暴け」がいいと思う。アマゾン・プライムで観ることができる。

 一方ジャニーズ問題の張本人故ジャニー喜多川の性癖ボーイズ・ラヴが賑やかだ。1999年週刊文春が特集記事を掲載、それに対して名誉棄損としてジャニー側が訴えたが敗訴する。それから20年近くジャニー喜多川の性的虐待が続く。

 2023年3月、BBC(イギリス公共放送)が、ドキュメンタリー番組「Predator: The Secret Scandal of J-Pop(邦題: J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル)」が放送され、ジャニー喜多川が故人ということもあってか、メディアも取り上げるようになった。このメディアの姿勢には失望する。ニューヨーク・タイムズのようにワインスタインの脅しにもめげず、毅然として初志を貫徹した。報道機関の矜持を感じる。

 ひるがえって我が国、外国の報道機関の一矢(いっし)によって、我が国の報道機関がこぞって取り上げる様子は情けない気がする。特にNHKだ。公共放送なら早々にこの問題をジャニー喜多川の生前に放送すべきだった。勇気もプライドもないNHK。朝も夜もニュース番組に何人ものアナウンサーを並べているのは無駄というものだ。個性的なキャスターを育て、一人で放送してもらいたい。ひいては受信料の値下げに発展すれば言うこなし。

 しかし、この二人の異常性癖者が男であることが悲しいというか哀れだが、ある意味男の宿命か。ほとんどの男は理性で何とか乗り越えてはいるが……。主題からかなり外れてしまったが悪しからず。ちなみにBBCのドキュメンタリー番組に関心があれば、どうぞご覧ください。
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読書「ケイトが恐れるすべてHer every fear」ピーター・スワンソン著創元推理文庫2019年刊

2023-10-04 10:32:02 | 読書
 ロンドンに住む若き女性ケイト・プリディーは、幼少の頃に不安障害 空想傾向障害とセラピストに言われたことがある。成人した今でもその傾向は治らない。飛行機や船も怖いし人込みも苦手、彼女は常につぎの瞬間、悲劇の瞬間を生きている。

 何かにつけてマイナス思考をすという困った性癖ながら5年前、嫉妬深い恋人ジョージ・ダニエルズにクローゼットに閉じ込められた上、ジョージが自殺するという恐怖の体験もあったが、今ボストンの高級住宅街ビーコン・ヒルにあるヴェネチアの宮殿をモデルにした三階建ての華麗なアパートメントに到着した。やや自信を取り戻した気分にはなる。この豪華なアパートメントに来たのは、一度も会ったことがないまたいとこ(又従兄)のコービン・デルがロンドン転勤を機にケイトの部屋と交換した結果なのだ。広くて豪華な住居は、コービンが父親の遺産を受け継いだものだった。

 ケイトが到着した日、隣に住む女性オードリー・マーシャルを訪ねてきた女性が、オードリーと連絡がつかないと騒いでいた。 本を読んでいて寝込んでしまったケイトはドアのノックに起こされた。訪問者はロバータ・ジェイムスという女性刑事だった。その刑事から知らされたのが、オードリー・マーシャルが殺されたということだった。

 この事件が又従兄のコービンを巻き込んで、意外な展開を見せる。ダークな殺人者がケイトに迫る。私の好みの作品ではなかった。しかし、解説は最上級の賛辞を送っているようなのだ。例によってgoogleマップのストリートヴューで、ビーコン・ヒル周辺を散策した。中にいい雰囲気のバーがあった。そのバーは、1927年創業らしい。その中に若き私自身がいて、透き通るような肌とブルーの瞳を持つ女性とワインかマーティーニを楽しむのを想像した。
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読書「ダーク・アワーズTHE DARK HOURS」マイクル・コナリー著2022年講談社文庫刊

2023-09-30 08:43:46 | 読書
 「ロサンジェルスを知りたければ、サンセット大通りを始まりからビーチまで車で通ればいいと言われている。それは旅行者がLAのすべてを知ることになるルートだった………その文化や栄光だけでなく、その数多くの亀裂と欠点を。30年前に、組合運動と市民権運動の指導者を記念して、いくつかのブロックがセザール・E・チャベス・アヴェニューという名に改められたダウンタウンから始まり、ルートは旅行者たちを、チャイナ・タウン、エコパーク、シルヴァーレイク、ロス・フェリズへ運び、そこから西に曲がって、ハリウッドとビヴァリー・ヒルズ、ブレントウッド、パリセーズを横切り、最終的に太平洋にぶつかる。その過程で四車線道路は、貧困地区と富裕な地区を通り抜ける。ホームレスのキャンプがあり、大邸宅があり、エンターテイメントと教育、カルト・フード、カルト宗教のイコン的な施設を通過する。百の都市でありながらも一つの都市である通りだ」

 マイクル・コナリーは、作品の中で架空の都市や町、レストランや場所などを挿入する作家ではない。現存するそれらを描く作家なのだ。従ってロサンジェルス案内もその通りに辿ってみても悪くない気がする。しかし、ホームレスのキャンプとなると逡巡する。東京の日比谷通りの歩道にテントを張って居住するホームレスを想像すると。とてもじゃないが歩く気にならない。

 YouTubeでLAのテント村を見ることができるが、市庁舎の前にテントを張ったりしていてアメリカ有数の大都会の風格も品格も見ることはできない。そんな大都会のコロナ禍の中、ダーク・アワーズつまりロス市警ハリウッド分署夜間勤務専門の刑事レネイ・バラードを中心とした警察ミステリーと言える。

 レネイ・バラードは女性、趣味はサーフィン、人種は???? 同僚の刑事に「インディアンの血が?」という軽い問いかけに違うと言っている。でも風貌がそれに近いのかもしれない。警察内部の人種的、性的な目に見えないバリアに悩まされながら、強い性格がダークアワー勤務へと押し出した。それはロス市警の数多くの害悪の一つ、セクハラに抵抗したことへの処罰としてもたらされた。バラードは強盗殺人課でボスとの内部抗争に敗れ、ハリウッドの夜勤に追放されたのだ。

 この部署の難点は、例えば殺人事件なら初動捜査のポイントを殺人課刑事に引き継がなければならないという点。刑事の勤務評価が事件解決能力とすれば、事件そのものを持てないバラードには内勤巡査の評価基準しかない。それに満足するバラードではない。ならばどのように法と秩序の隙間を縫って成果を出すのか。ロス市警の伝説の刑事と言わていて引退したハリー・ボッシュの助力を得ながら、無謀とも思える身代わり戦術で犯人射殺というバイオレンスを演じた。

 気分は最高で最近手に入れた愛犬ピントとともにサーフィンに出かける前にワイアレス・イヤフォンでマーヴィン・ゲイの「What's going on」を聴きながら散歩に出かけた。

 マーヴィン・ゲイの活動期間は、1958年から1984年で、この曲は1971年に発表された。本人は、1984年4月1日両親の喧嘩を仲裁していたとき、父親の逆鱗に触れ射殺された。父親から撃たれた銃は、かつて息子ゲイから贈られたものだったという皮肉がはらんでいる。享年44歳。
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読書「過ちの雨が止むThe Shadows We Hide(隠れる影)」アレン・エスケンス著 創元推理文庫2022年刊

2023-09-19 08:49:28 | 読書
 黒い大型バイクを操るヴィキー・パイクの背中に抱きつくようにして、後部座席にしがみついていたジョー・タルバートの目から涙が流れ落ちた。ミネソタ州はヘルメット無用だから、ヴィッキーはポニーテールの髪と革ジャンといういで立ち。時速110キロで走るバイクに襲う向かい風は、サングラスの隙間に入り込んで涙を誘発する。

 ミネソタ大学を卒業して今はAP通信社の記者をしているジョー・タルバートは、州上院議員トッド・ドビンズのスキャンダルを暴く記事を書いた。ところがドビンズから捏造記事だとして名誉棄損で訴えられている。そんな中で編集長のアリソン・クレスから一枚のプレスリリースが渡される。それにはジョー・タルバートという男が殺されたとある。アリソンは同名のため関連性があると思ったのだろう。確かにあるのだ。母親から聞かされているのは、父親の同じ名前を付けたと。

 そして今、ミネソタ州バックリーという町の「スナイプス・ネスト」というバーのバーテンダー、ヴィッキーのバイクにしがみついて犯行現場へ向かっているわけだ。このヴィッキーの笑顔がすばらしく、何度も見たいとジョーは思う。

 父親のジョー・タルバートはこの町の嫌われ者No1という男だった。それがこの周辺で一番の資産家の娘ジーニーと結婚していて、そのジーニーが自殺したため600万ドル(約8億4千万円)相当の農地を相続している。その父親が殺されたとなれば、息子のジョー・タルバートにそれが相続される。一時は捕らぬ狸の皮算用さながらに浮き足だったが、事件が解決しないとどうにもならないと冷静になった。

 ジョーの恋人ライラはヘネピン郡検察局から、司法試験合格を条件に採用が決まっていて目下猛勉強中。したがってこのバックリーという町には、ジョーが単独で来訪している。保安官事務所のジェブ・ルイス保安官補、町の弁護士ボブ・マレン、父親の兄チャーリーたちと困惑したり、怒りを募らせたり、信頼の絆を構築したり。詮索したりとジョー持ち前の探求心が躍動する。

 一方ライラとの関係が、一時冷たい風が吹いたことがある。ヴィッキーのバーで酔った男に肋骨を折られるという事態になったジョー。歩くのもやっとという状態で、ヴィッキーに支えられながらモーテルに届けられた。ヴィッキーがベッドメーキングを終えて、さらりとジョーにキスしてきた。痛みに耐えていたジョーは拒否することもできない。柔らかくて暖かい唇は、一刻痛さを忘れもっと求めたくなったときドアにノックの音。ヴィッキーがドアを開けた向こうにライラが立っていた。

 馬鹿正直にキスを否定しなかったのでライラの逆鱗に触れた。青春時代というものは多くの過ちを犯すものだ。ただ一つ曲げてはいけないもの、ジョーのように誠実であるべきなのだ。本作は青春ロマンス・ミステリーとでも言っておこうか。ジョーと母親との相互理解が進むという涙の場面もあって、ティッシュかハンカチを用意しておいた方がよさそうだ。
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読書「償いの雪が降るThe life we bury(埋葬される命)」アラン・エスケンス著 創元推理文庫2018年刊

2023-09-10 17:26:53 | 読書
 母子家庭のジョー・タルバートのミネソタ大学生活は、バーの用心棒で支えられていた。これで大学近くのアパートの家賃が払えていた。ミネソタ州オースチンに住む仲の悪い母親キャシーと袂を分かち、ただ一つ心残りなのは二歳下の自閉症の弟ジェレミーを置いてきたことだ。とてもじゃないがアルバイトと大学通学に加えジェレミーの面倒は見られない。

 ミネソタ州オースチンってあまり馴染みがないが、日本のスーパーに行けば「スパム」という缶詰がある。おいしいと思って時々食べているが、スパム(英語: SPAM)はアメリカ合衆国のホーメル・フーズが販売するランチョンミート(香辛料などを加えた挽肉を型に入れて熱して固めたもの、ソーセージミート)の缶詰だという。したがってオースティンは、スパムタウンとも言われる。アメリカ軍の糧食に指定され、駐留軍とともに日本に入ってきたらしい。

 大学の授業で身近な人の伝記を書くという課題を与えられたジョーには、祖父は亡くなっており父については見たこともない、さらにもめぼしい親戚もいないので老人ホームを訪ねることにした。老人ホームのジャネット、院長のメアリー・ローングレンがカール・アイヴァソンを選んでくれた。

 このカール・アイヴァソンという男は、クリスタル・ハーゲンという若い女性をレイプし殺し物置に放り込んで火をつけた罪で終身刑で刑務所に収監されていた。末期のすい臓がんと分かり釈放されこのホームにいる。なんと殺人犯の伝記を書くはめになった。しかし本人の話やヴェトナム戦争時の戦友の話から、真犯人が別にいると思われるようになる。

 そして隣に住む同じ大学の美人の女子学生ライラ・ナッシュに近づき何とか友達関係を築き、30年前のこの事件を担当した弁護士から関連資料を受け取りライラとともに事件を追うことになる。一つ障害となっていたのが、数字を羅列した暗号文の日記だった。それも弟のジェレミーがキーボード入力授業で使うTHE QUICK BROWN FOX JUMPS OVER THE LAZY DOG(すばしこい茶色の狐が怠け者の犬を飛び越える)アルファベットの文字が全部入っている文章で、キーボード入力練習の時に使う。それを暗号の日記に順番に同じ文字はパスして番号を振って当てはめていくと、なんと真犯人が浮かび上がった。

 ジェレミーとライラの関係が佳境に入った。作家によってはまるでポルノ小説並みの表現しか出来ない人もいるが、このアラン・エスケンスは違う。私も気に入った表現だった。「その夜、ぼくたちは愛し合った。それは汗にまみれぎこちなく、僕にどんどんぶつかりながら交わすような、アルコールとホルモンから生まれる愛ではなく、日曜の朝のゆっくりとろけていくようなタイプの愛だった。

 彼女は僕の上でそよ風みたいに動いた。腕の中のその筋肉質のしなやかな体には、重さなどないようだった。僕たちは寄り添い、触れ合い、揺れ動き、やがて彼女が僕にまたがって、ゆっくりと身をくねらせはじめた。月光が細く一筋、カーテンの隙間から流れ込み、その体を照らし出した。彼女は背中を反り返らせ、僕の膝に両手をつき、目を閉じて天を振り仰いでいた。僕は畏れに目をみはり、彼女を取り込み、記憶が永久保存される頭の一区画にその光景をしまい込んだ」

 アラン・エスケンスは、詩的でロマンティックな文章を書く人だ。なお、原題の埋葬される命は、末期のガンで苦しむカール・アイヴァソンのことで、雪が降るというのはカール・アイヴァソンがひたすら雪の降るのを待っていたからだ。小説はハッピーエンドで終わる。

 著者のアレン・エスケンスは、アメリカ、ミズーリ州出身。ミネソタ大学でジャーナリズムの学位を、ハムライン大学で法学の学位を取り、その後、ミネソタ州立大学マンケート校などで、創作を学ぶ。25年間、刑事専門の弁護士として働いてきたが、現在は引退している。デビュー作である『償いの雪が降る』は、バリー賞ペーパーバック部門最優秀賞など三冠を獲得し、エドガー賞、アンソニー賞、国際スリラー作家協会賞の各デビュー作部門でも最終候補となった。
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