文芸春秋今月号の野口悠紀雄氏が書いた「ついに国債破綻が始まった」記事のコピーの一部を友人が送ってくれた。杜撰な記事である。国債破綻の兆候すら見えないのに何を血迷ったか言わざるを得ない。
日本経済の問題はデフレと円高であると言う人が多い。しかし本当に恐ろしいのはインフレと円安である。デフレと円高は消費者にとって困った事ではない。もし給与の名目額が変わらなければ物価が下がれば実質的な所得は増えるのだから望ましいことだーーーー
おかしな話だ現に労働者の平均給与は目に見えて下がっていることをご存じないと見える。さらにデフレは失業率が増大し、低所得層には大きな負担になると言うこともご存じないと見える。日本の問題はデフレスパイラルに入っていることでこれを防げば問題は解決する。インフレとか円安は架空の話である。全くインフレの兆候がないのにハイパーインフレの話に強引に持っていくという意味で馬鹿馬鹿しい記事と言える。
終戦直後に政府は傾斜生産方式とよばれる国策を実施した。復興金融公庫債を発行し日銀に引き受けさせた。これは通貨の増発と変わらないから猛烈なインフレが生じた。45年から49年の間で物価は60倍になった。
国債を増発するとこういうことが起こると言うのであるが戦後のインフレは米軍の爆撃で日本の工場が壊滅していて物が生産できなかったからである。通貨を増発したからではない。国債を増発して大幅な財政出動をすれば日本の産業は直ちに生産設備を増強し対応する。決してインフレは起きない。野口氏は物価が60倍になると言う。そんなことはあり得ない。例えば500万台の車が需要増で800万台になったとしよう。車の値段はあがるであろうか。自動車会社は直ちに需要増に対応して自動車の価格は据え置きのまま800万台を生産して対応するというのが一番あり得る話である。
ニューヨークタイムスは「増加する国債は日本銀行への脅威」で将来円安とインフレが起こる危険を指摘している。いまの円高は「円の最後の熱狂」だと言うのである。
外国の評価が当てにならないのはトリプルAの評価であったアイスランド国債やサブプライム関連の債券が紙くずになったことで明らかではないか。現在の円高が最後ではなく、デフレを止めなければ繰り返し円高は襲ってくると言うのが最もあり得る話である。
現在の日本のように膨大な額に膨れ上がってしまった国債残高はインフレによってしか解消できない可能性が強いーーーーーーーーーーーーー
インフレによって解消するにも現在が重度のデフレであるから先ずデフレを止めないといけない。その過程で膨大な額の日銀券の増刷をしなければならない。増刷した日銀券で国債を償還するのは誰でも思いつく方法である。
国債の日銀直接引き受けか政府紙幣でもいい政府の借金にならない形で財源を調達して必要なことを行えばいい。日本の場合は通貨を増刷することで15年間苦しめられてきたデフレを止められるし、国債発行の累積を止めることができる。デフレが終わるだけでなく多少インフレに振れてくれれば万々歳である。15年続くデフレから脱却できて高成長が始まるのである。野口氏もどこかで高成長が実現できればすべてうまく行くどこかで書いていたがデフレから一気にハイパーインフレに行ってしまわないで緩やかな成長の時代があるとは考えられないのであろうか。
国債の日銀引き受けや政府紙幣で通貨を増発して財源を調達すればハイパーインフレが起こるのではなく日本経済の二つの問題、デフレと財政赤字が解決され、日本経済が健全化する。野口氏は日本経済が健全化すれば経済学者が食いはぐれる、できるだけそういう事態は妨げたいと考えているかのような筋の通らない論文である。
日本の10年ものの国債の金利は1.3%程度である。ずば抜けた超低金利で世界一の座は揺るぎそうにない。第二位の国(米国、カナダ、ドイツ)の国債と同じ金利(3%台)になるま金利が上がることが国債暴落の第一歩である。その第一歩もまだ始まっていない。その兆候すらない。国債が暴落すると言う話はその第一歩が実現してしてからでも遅くない。
日本の経済と財政の破綻に対する海外の警戒観は急速に高まっている。ところが日本人だけが危機感をもっていない。現在の日本の状況は氷山に向かってタイタニック号の船上でダンスを踊り狂う人々そのものである。------
日本人は下がる給与のもと毎日安いものを探して奮闘しているのが実情で、どうして踊り狂っているという表現になるのか理解に苦しむ。皆デフレスパイラルが何処まですすむのか、いつ大規模なデフレ対策を打ってくれるのかと固唾を飲んで見つめている状況である。デフレがひどくなって大恐慌に発展しないかという危機感はあるが野口氏が言うハーパーインフレへの危機感とは正反対のものだ。とにかく野口氏の記事には支離滅裂という印象を受けた。