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ジェットコースタの事故

2007-05-06 13:04:17 | 技術
エキスポランド社など家宅捜索 コースター脱線事故(朝日新聞) - goo ニュース
ソネットの動画ニュースから抜粋した,同型コースタ車輪部である
折れた車軸は,上部の車輪で,そこからサイドローラと下部車輪へのブラケットが出ている
私が設計すると,たぶん上部の車輪軸からサイドローラと下部車輪のブラケットはとらない
なぜなら,力の伝達という面で複雑になり,手計算での設計が難しくなるからである.
この構造であると,折れた部分と思われる当該の車軸先端部には以下の力が加わる
1 下部車輪が支える時の自重+慣性力=専断力 とそれの偏芯によるモーメント荷重
2 下部車輪の側方力=軸力 とそれによるモーメント荷重
3 サイドローラにかかる側方力による軸力とモーメント荷重

さて,朝日新聞には 軸の材質は φ50 でSNC であるとの記事であった,SNCというのはニッケルクロム鋼材であり
その引っぱり強度により何種類かあるが,どれであるかは不明である
SNC415であると仮定してみる.すると,その引っぱり強度は 784N/mm2である
応力としての値が表されているのだが,例えば50mmの円形断面であるので
その面積は 50x50xぱい/4=1963.5mm2であるから
単純に引っ張ってみたとき,784x1963.5=1539380N 重力単位系で言うと157トン で引っ張って切れるという強度をもつ.
ところがである.この軸には単純に引っ張る力がかかるわけでない
少なくとも上記のモーメント荷重=曲げる力がかかる

一方,応力の設計上は許容応力として,引っぱり強度あるいは降伏点に対して安全率を設定する
ここで降伏点とは,材料が弾性変形 つまり力をかけても元の形に戻るときの限界である.材料は降伏点を超えても切れないことが多く(一般の機械構造物用のもの)引っぱり強さで破断する.降伏点(応力)<引っぱり強度 である.
であるから,設計上は 784という数字ではなく,200から300N/mm2が設計応力である.
また,疲労強度というのは,さらに下がる.繰り返し力を受ける材料は,設計で使う応力よりもさらに下がる場合が多い.また,金属材料の表面の状態により変化する.例えば,つるつるの表面よりきざぎざの表面というのは疲労強度が下がる.

さて,曲げを受ける材料の場合,その応力の最大は材料表面である.その材料表面での応力が疲労応力以下である必要がある.
SNC材の基本疲労強度は手元に資料がないので不明であるが
せいぜい 200程度であると思われる
そして,そこがねじであるとすると
150程度に下がる

150N/mm2が許容する疲労強度としてみよう.

コースタの軸の当該部分の許容できる荷重はどうなるであろうか

軸には 専断力と曲げモーメントがかかり,その合計が応力となる

専断力としては,逆さになったときの自重+慣性力と仮定してみる
(4名+車両自重)*1.3G(0.3Gくらいの加速度とする)=(4x85+300)*1.3=832kg
一輪あたり832/8*9.8=1019.2N
材料の面積=ねじとして ねじ最小断面と考え 1470(M48の場合)mm2
断面係数=45x45x45xぱい/32=8946mm3
ここで断面係数とは,曲げモーメントを断面係数で割ると,表面の応力が算出できる数値であります

専断=1019.2/1470=0.69N/mm2
専断力としては小さい応力となった
そして許容できる曲げモーメントは = 150x8946=1341900Nmm
= 137kg m
となる.すなわち,137kgの重さを1mのところにぶら下げた力である
サイロローラの側方力とその腕の長さが不明であるが
腕の長さを 300mmとして
サイドローラ1こあたりの許容できる側方力は = 137/0.3=456kgとなる
サイドローラのレール=パイプ材のあたりを見ると
写真でも減っていることがみられる.場所により当たり具合も変わるだろう
そうすると 許容できる 456kgというのは低い
つまり,1つのサイドローラで一車両すべての側方力を受ける可能性があるのではないだろうか
先に見積もった4名+300kg という自重にすらとどかない

また,このコースターは立ち乗りである.すると 重心位置が高い.その分,モーメント荷重も大きくなる.
全て仮定に基づく計算であるが
疲労設計上,危険である可能性もある.

事故の再発防止に向けて,設計検証も含め関係省庁は全力を上げていただきたい


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