まんがパウチ (レビュー・ネタバレ)

漫画の絵とストーリーを、真空パウチするように書きとめました。
【ファイアパンチ】【カラダ探し】など

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四月は君の嘘 5話「暗い海」

2016年11月28日 | 四月は君の嘘
公生は椿が漕ぐ自転車の後ろに乗っている最中も、楽譜に集中していた。
これほど楽譜に集中したのは、何年ぶりだろう。
楽譜に集中すると、母さんの声が聞こえる気がした。
「繰り返し繰り返し楽譜を読み込んで、何度も何度も弾きこむのよ。そうやって完璧にするのる譜面の指示通り、作曲家の意図通り完璧に、正確に。全ては譜面に書いてあるのよ」

その母のピアノに対するストイックな指導法に、世間は好き勝手な事を言っていた。
誰に何を言われても、僕がただ一人、母さんの味方なんだと思って下を向いてやり過ごしていた。



そうこうしているうちに、汗だくの椿と渡の自転車は無事、時間前に会場に到着した。
「ありがとう、行ってくるよ」

世間はもう桜が散る4月も末だけど、公生を見送った椿は「もうすぐ春が来るよ」と言った。
きっと公生にとって、時間が動き出し、うまれかわる春となるはず。





いつも時間をかけて練習を積み上げて、完璧に仕上げることを徹底されていた公生にとって、この練習なしのぶっつけ本番、しかも・・・あんな・・・ムチャクチャなヴァイオリストに合わさなきゃならないなんて・・・。
辞退した方がいい・・・これじゃ恥をかくだけだと公生は焦っていた。



一心不乱に必死に譜面に向かう公生に、かをるはいきなり頭突きをかまし、それから、顔を極限まで公生の顔に近付けて言った。 「私を見て。」




「顔をあげて私を見て。下ばかり向いるから五線譜の檻に閉じこめられちゃうんだ。
大丈夫、君なら出来るよ。ずっと昼休み聴いてたでしょ、譜面はいつも目に入る所にあったでしょ。
私達なら出来る。モーツァルトが言ってるよ、「旅に出ろ」って。おもいっきり恥かこうよ、二人で」





14番の名前が呼ばれた時、公生はビクッと体を硬直させたが、その公生の手を、かをるが取って引っ張った。
「行こ」



厳格で譜面に忠実な母とは正反対の・・・天真爛漫、奇想天外、ジェットコースターみたいに僕は君に振り回されてばかり、この人自身が、行き先のわからない旅の様だと思った。



その背中に「君は自由そのものだ」とつぶやくと、君は振り向いてかろやかに言った。
「違うよ、音楽が自由なんだよ」
僕は・・・、厳格な音楽しか知らなかった僕は驚いた。



僕はまた舞台に立っている。



僕達の為の静寂、ここにいる全ての人が、僕らが音を鳴らすのを待っている・・・・。
公生の心臓は、ドクンドクンと大きな音で脈打ち、嫌な汗が流れてきた。

会場がざわめく。「有馬だよ、ピアノの有馬君、有馬公生だ」
かをりの演奏を期待していたあの審査員は、かをりの連れてきた伴奏者に驚いた。
(彼がなぜ伴奏者を?人工と天然、随分ミスマッチなカップルだ。どんな演奏をするつもりだ)と二人を見つめた。

かをりは、いつもそうしているように「エロイムエッサイム エロイムエッサイム我は求め訴えたり」と言って伴奏者を見て、クスッと笑った。伴奏者がガチガチに強張っていたから。

宮園かをりのコンクールが始まった。
公生は、出だしをうまく入り音もちゃんと聴こえ、この曲でよかったと少し安堵した。
会場では、椿が公生がまたピアノを弾く姿に感動して見守っていた。


コンクールらしい譜面に忠実な演奏が続いたと思った矢先、かをりが公生に目配せをした。



きた!!!



かをりの個性丸出しのオリジナルな演奏に、公生はくらいついていく!
審査員の男はそのピアノの技術に驚愕した。この無茶苦茶なヴァイオリンに事もなげに合わせ、かつ1音も漏らさずに正確に弾いてくるとは!!


だが、公生はふと観客席に母の視線を感じた。いる!母が会場にいて、演奏を聴いている!
それに気づいた瞬間、楽譜から音符がはがれて消えていき・・・音が聴こえなくなっていった。



焦れば焦る程に、ピアノの音は聴こえず、深くて暗い海の中に沈み込んだようになっていった。









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四月は君の嘘 4話「カラフル」

2016年11月28日 | 四月は君の嘘
あの日から、僕は常に追われていた。
学校にいても、音楽室も、教科書にも、自分ちにも、隣の椿ちにも、僕のめが届く全ての場所に「サン・サーンス」の楽譜が
貼られ、女の子二人から「バンソウやれー!!」と追いかけまわされた。




かをりから伴奏の話を聞いた椿が、加勢したのだ。
あの日から一週間ずっと、昼休みの校内放送は「サン・サーンス」の「序奏とロンド・カプリチョーザ」が延々とリピートし続けた。




そうやって公生に洗脳し続け、とうとう明日、平日だけどコンクール本番だ。
かをりと椿は、下校のバスの中で、公生のことを話し合っていた。
「・・・でも本当によかったのかな・・・、無理矢理伴奏なんて・・・」と弱気になるかをりに、椿は「いいの、いいの!公生にはこれぐらい強引にやらないと!」と励ました。

かをりは「椿ちゃんは有馬君が好きなんだね」と言ってほほ笑んだ。



椿は、公生の言葉を借りる形で「ちょっと違うな、ダメダメな弟って感じ」と答えてから、話しだした。
「正直言うとね、私は公生がピアノをやろうがやるまいとどーでもいいんだ。ただね、やめるなら納得して辞めて欲しい。見てて辛いの、今の公生は中途半端だもん。”あの日”から、公生はどこにも行けずにいる・・・。
時間って止まるのね。・・・だからピアノを弾いてほしい、きっと何かが変わるはずだから」




かをりはその話を黙って聞いていた。
かをりは椿と別れてから、それから、「都津原大学病院」でバスを降りた。




-------------
コンクール当日、コンクールが始まったというのに公生の姿はホールにはなかった。
かをりと椿と渡は手分けして、必死で校内を公生を探し回り、屋上にいた公生をかをりが発見する。



でも、誰が何と言おうとも僕は伴奏をする気にはなれなかった。
「伴奏なんてやらないってずっと言ってるだろ!ちゃんと勉強してる人がいるのに、それに今から行っても・・・僕はピアノが弾けないんだ」

言い訳する僕を、かをりは、怒りのこもった目でまっすぐに見て言うんだ。
「だから何だって言うの、君は弾けないんじゃない、弾かないんだ。ピアノの音が聴こえないを言い訳に逃げ込んでいるだけじゃない」


その目は僕を責める。僕は彼女から逃げられないことを悟り、白状した。
「僕は怖いんだ・・・。コンクールでは音が全て、そこで僕はピアノと二人きり、その全てがなくなった。あの日、僕は暗い海の底にいるように、何も聴こえない、誰もいない、暗い暗い海の底でまたひりぼっちになる・・・」



僕の中の黒猫が僕を責める。
「ほっとしただろ、音が聴こえなくなった時、君は理由が出来た、もう舞台に立たなくていい理由が。君はベートーヴェンじゃないものな」

僕の悲鳴が聞こえる。
誰か・・・助けて・・・誰か・・・お母さん・・・




記憶の中の真っ黒な海に溺れていきそうになった時、明るい声が聴こえた。
「私がいるじゃん!」


僕は、ハッとして顔をあげた。


「君が音が聴こえないのは知ってる、ピアノを弾いてないのも知ってる、でも君がいいの。
君の言う通り、満足のいく演奏はできないかもしれない、でも弾くの。
弾ける機会と、聴いてくれる人がいるなら、私は全力で弾く。聴いてくれた人が私を------
忘れないように、その人の心にずっと住めるように、それが私のあるべき理由。



私は演奏家だもの、君と同じ。
・・・だからお願いします。私の伴奏をしてください。私をちょっぴり支えてください。くじけそうになる私を-----
支えてください」
そう言って彼女は大粒の涙をポロポロと惜しみなく流して泣いて、頼んだ。









僕は驚いて、そして立ち上がった。
そうか、渡の言う通りだ。
(無理かどうかは女の子が教えてくれるさ)



「やるよ、君の伴奏。どーなっても知らないからな」



彼女は顔を涙でぐちゃぐちゃにして笑った。




それからは戦争のようだった。
学校からホールまでダッシュで20分!!!ダッシュなんかしたら僕は演奏できそうもない。
渡が「我に策あり!」と叫んで、自転車で街を滑走した。



僕の目に写った街は、世界は、カラフルに色づいている。

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四月は君の嘘 3話「黒猫」

2016年11月28日 | 四月は君の嘘
僕、有馬公生は雑念を払っていた。



払っても払っても、頭に浮かんでくるのは、先日見た「宮園かをり」のバァイオリン演奏の映像と音と観衆の喝采。
追い払うために奇声をあげたところを、友人の「渡」に見られて驚かせてしまった。

渡は、最近ぼーとしている僕を見て「さてはお前、好きなコの事を考えてたろ。タイムリーなかをりちゃんかぁ?わかるよ、かわいかったもんなあ」と一人で納得したので、僕は慌てて否定した。
「んなワケないだろ、だって・・・渡を好きなんだよ、僕を好きになるハズないよ」と。


でも渡は「そんなのカンケーないじゃん、心惹かれるコに好きな人がいるのは当然、恋をしているそのコは輝くんだもん。だから人は、理不尽に恋に落ちるんだ」と言う。



僕は感心して渡を見た。そのポジティブな考え方に、渡がモテる理由がわかった気がした。
でも、僕は渡のようにはなれない。 「でも、僕には無理だ。きっと」

渡は前を閉ざす僕に「無理かどうかは女の子が教えてくれるさ」と言うので、僕は「渡は良いことを言う」と感心した。渡の言う通りだと思った。





気がつけば、茜色の雲のスクリーンに・・・瞼の裏の暗幕にリフレインする。
何度も何度も何度も・・・その度に僕の心は・・・・
母さんが僕に残したものが散っていくような気分になって・・・
もう一度聴きたいけど聴きたくない。
もう一度会いたいけど会いたくない。

そんな自分でもコントロールできない裏表な感情にさいなまれていた時、校門の桜の木の下に立つ彼女を見た。


僕を見つけた彼女の頬が少し紅潮したことは、桜の薄桃に紛れてわからない。

こういう感情を何て呼んだかな
こういう気持ちを何て言ったかな


彼女は僕を見るなり「友人A」と僕を呼んだ。僕が友人Aで、主役は渡。


君は春の中にいる。


彼女が校門で待っていたのは渡で、でも渡は今日はケイコちゃんと一緒に帰宅したのをあたふたとごまかしていたら、僕は彼女に代役を任命された。渡と一緒に行きたかったカフェに、一緒に行く役の代役。エキストラの次は代役だった。


彼女は、僕の目の前で、美味しそうに楽しそうにワッフルを頬張っている。
あんなに凄い演奏家なのに、こうしていると普通の女の子にしか見えないや、そんな事を考えながら彼女を見ていると、店の片隅に置いてあるピアノから音色が聞こえてきた。



店に来ていた子供達が、習いたての「キラキラ星」を弾いて遊んでいた。
彼女は、店の片隅に置かれたピアノを「幸せなピアノ」と言ったけど、僕は可哀想なピアノだと思った。
ピアノに水や湿気は厳禁だと母さんに叩き込まれていた僕には、生花に囲まれたピアノは管理、保存状態が良くないと思った。


彼女は立ち上がって子供達に話しかけに行くと「あのお兄ちゃん超上手だから教えてもらおっか」と子供達に吹き込んでいた。

僕はもうピアノは弾かない・・・と断ったけど、子供達はキラキラした目で待っていて、断り切れなかった。
少しだけ・・・のはずが指が、手が、体がピアノを覚えていた。



店にいた人達がその音色に驚き、そして聞き惚れる素敵な「キラキラ星」が店内を流れる。
宮園かをりは(ほら、やっぱり、幸せなピアノじゃない)とその光景を見ていた。




でも、中盤で僕はハッとしてその手を止めた。
やっぱり僕はダメなんだ・・・・。





店を出ると黒猫がいて、僕は以前飼っていた黒猫を思い出して猫を眺めていたら、いつの間にか彼女が横に来ていた。
「ピアノはもう弾かないの?」と彼女がポツリと僕に聞いた。
「やっぱり・・・・君は僕を知ってるの?」と聞き返した。

森脇学生コンクールビアノ部門優勝、ウリエ国際コンクール2年連続入賞、彩木コンクール最年少優勝、などなど
その演奏は正確かつ厳格、”ヒューマンメトロノーム”
8歳でオーケストラと、モーツァルトの協奏曲を協演した神童
「君の事を知っているのは私達の常識。君は私達の憧れだもの」



「どうしてやめちゃったの」
その質問は鋭く僕に突き刺さり、目の前の黒猫の瞳が、僕を責めるあの目にダプる。



どうしてって・・・・「ピアノの音が聴こえないんだ。初めは聞こえるんだけど、途中から集中する程、その演奏にのめり込む程・・・奏でた音は春風に攫われた花のように、もつれながら遠ざかって、消えてしまう。
聴こえないのは、僕の演奏するピアノの音だけ、自分の音だけが聴こえない」





僕は思う。これはきっと罰なんだと。



でも、そんな話に宮園かをりが同情するはずもなく「甘ったれんな!!弾けなくても弾け!!手が動かないなら足で弾け!!悲しくてもボロボロでもドン底にいても、弾かなきゃダメなの。そうやって私達は生きてゆく人種なの」と前を向いていた。




”私達”・・・ちがう、僕は彼女とはちがう。
「うん、君はそうかもしれない」
君といると渡の言っていたことが、なんとなくわかる気がする。
(恋をしているからそのコは輝くんだ)
君は食べ物に恋をして、日常のささいなことに恋をして、ヴァイオリンに恋をして、音楽に恋をして、渡に・・・・。
だから君は輝いているのかな。

こういう気持ちを何て言ったかな、これはたぶん、こういう気持ちは”憧れ”って言うんだ、きっと。




そんな僕の気持ちにおかまいなしに、彼女はある決意をした。
「よし決めた。私の伴奏者に任命します!!」

彼女は僕の意見も返事も聞かず、聴衆推薦で残ったコンクールの二次予選の伴奏者だと決めた。

君は、春の中にいる。かけがえのない春の中にいる。





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四月は君の嘘 2話「ヴァイオリストの恋」

2016年11月28日 | 四月は君の嘘
引っ張られるままに藤和ホールに足を踏み入れると、たくさんの人達が行きかっていた。
今から出演する人、その関係者の緊張感がロビー全体に漂っていたが、宮園かをりは緊張感を感じさせることなく、飄々と会場へと吸い込まれていった。

僕達は観客席に。だけど、僕の足はホールの中に入ることを拒み、手が小さく震える。
母の声が聞こえた気がした。 「あなたの職場よ」


ホールの観客席へと足を踏み入れると、乾いた冷房、ほこりの匂い・・・この独特の空間のことを体が覚えていた。
僕を見つけた観客達がざわめき、口々に僕の名前を口にするのが聞こえた。



僕は、椿がわざと黙っていて、初めからここに連れてくる気だったことに気づいて気分を悪くした。
椿は少し真面目な顔で「だって知ってたら公生、来なかったでしょ。だから一生懸命黙ってた。やっぱりピアノはイヤな感じしかしない?」と聞くので、僕はそれ以上何も言えなかった。


藤和音楽コンクール、ヴァイオリンの課題曲は、ベートーヴェン、ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」
このコンクールは全国規模の大きいやつで、少し普通のコンクールとは違っていて、全てにピアノの伴奏が付く珍しいスタイルだ。

生の音楽を聴くのは久しぶりで、なんだかやけにソワソワした。
コンクールで失敗する伴奏者に、僕は心の中でエールを送る。(がんばって、がんばって)
いつの間にか曲に合わせて動く僕の指を見て、椿がニコリとした事に、僕は気付くことはなかった。




4番目の演奏者は宮園かをり、彼女の演奏だ。



かをりは「私の音楽届くかな・・・エロイムエッサイム我は求め訴えたり」と小さくつぶやくと演奏を始めた。




それは衝撃だった。
先ほどまでの課題曲と同じ曲とは到底思えない音に、観客席は静まり返り、息を飲んで彼女の音楽に呑み込まれいった。
これは確かに「クロイツェル」だけど、もうベートーヴェンのものではなく、まぎれもなく彼女のものになっていた。



暴力上等、性格最低、印象最悪・・・でも、彼女は美しい








演奏が終わった時、コンクールだというのに会場は総立ちで彼女を称え、彼女は堂々とそれに応えた。
僕は・・・彼女がなんであんなに楽しそうに演奏できるのがわからずにいた。




コンクールが終わった後、観衆達の話題は「宮園かをり」でもちきりだった。
だけどこれはコンクールで、楽譜に忠実に弾くことが重要視される中、テンポも強弱もデタラメな彼女は予選に残ることはないだろう。審査員達は彼女の無茶苦茶ぷりに怒る中、一人だけ、彼女の別格の才能に気づいた審査員がいた。
その審査員は、なぜこれほどまでの子が無名なのかに首をひねった。



その本人は入賞や順位に「興味がない」と言い放つと、審査結果を見もせずに帰ろうとした。
演奏を終えたヴァイオリニストが、人だかりをすり抜け、花を抱え、わき目もふらずに好きな人の元へ駆け寄る、それはまるで映画のワンシーンのようだった。



好きな人と一通り言葉を交わした後、彼女は僕に気づいて話しかけてきた。
「君はどーだった?すごかったでしょ?私。どう・・・だった?」笑ってみせる彼女の手が震えているのに気付いて、僕は言葉を選んだ。



「君の演奏を訊いてあわてて花を買って渡したあの子達にとって、今日の事は忘れられないよ。たぶんそういう演奏だった」



彼女は「どんなもんだい」と笑って、また好きな人の元へと駆けて行った。
まるで映画のワンシーンのようだ。僕は・・・僕は友人A役だったけど。



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四月は君の嘘 1話「モノトーン1」

2016年11月28日 | 四月は君の嘘





僕、有馬公生は、11歳の秋、ピアノが弾けなくなった。
それまでの最年少優勝の記録や、数々のピアノコンクールでの優勝はそこでついえた。




僕の母の夢は、母の成し得なかった”世界を飛び回るピアニスト”に僕を育てること。
音楽教室を営んでいた母のレッスンは、毎日毎日何時間も叩かれながら、怒鳴られながら、泣いても許してはくれなかった。


僕は、母さんが喜んでくれるなら、母さんの病気がよくなって元気になるならと頑張った。
そしていよいよ、ヨーロッパのコンクールを視野に入れた3年前・・・母が死んだ。
それからだ、僕がピアノが弾けなくなったのは。









あれから3年、14歳中学生になった僕は幼馴染の椿と、友人の渡と中学生として暮している。
椿はソフトボール部の主砲で、渡はサッカー部のキャプテンで、僕はピアノを辞めていた。











ただ、頼まれてカラオケ用に、新曲を耳コピして譜面におこすバイトをしていた。



椿には小さい頃から、死ぬかと思うような無茶苦茶な事をたくさんされたが、生まれた時からずっと一緒で、一人っ子の僕にとっては世話の焼ける姉がいるようなもので、すっかり慣れたものだった。

二人はいつも明るくて、生き生きとしていて、瞳が輝いている。
きっと椿の目には風景がカラフルに見えてるんだろう。
椿は、友人の美和の話を僕に聞かせた。
「彼と出会った瞬間、私の人生が変わったの。見るもの聞くもの感じるもの、私の風景全部がカラフルに色づき始めたの」と。

僕は違う。
僕には全てがモノトーンに見える。譜面の様に、鍵盤の様に。



椿は、僕が必死でピアノにしがみついているように見えると言った。
ピアノは嫌いだ。それでもしがみついているのは、きっと僕には何もないから。
ピアノを除けば僕はからっぽで、不細工な余韻しか残らない。


ある日、椿は渡に女の子を紹介するので、一緒について来るように、と言った。
待ち合わせ場所の公園に椿は来ておらず、僕はどこかで鳴るピアニカの音に誘われるように歩いていった。
そこで見たのは・・・・ピアニカを吹く一人の女の子で-------

彼女を見た瞬間、僕は、いつか椿に聞いた言葉を思い出していた
(彼と出会った瞬間、私の人生が変わったの。見るもの聞くもの感じるもの、私の風景全部がカラフルに色づき始めたの)


彼女は泣いていて、でも涙を拭うと、彼女は公園の子供達と楽しそうに音楽を奏でて笑っていて・・・・







僕が思わず撮ったシャメに、スカートを風に煽られた彼女が写ってしまった事で、僕たちの初めての会話はケンカだった。
彼女の名は「宮園かをり」で、意外と凶暴で、でも好きな男子、渡の前ではかわいい女の子に豹変した。
その彼女はヴァイオリニストで、公園の横の藤和ホールで今から演奏があるのだと言う。


藤和ホール・・・音楽・・・コンクール・・・
僕は行くのを拒んだ。
だけど彼女は僕の手をとって「行こ」と走り出してしまった。






14歳の春、僕は自分の足で走り始める。
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ミュージアム   (漫画紹介)

2016年11月17日 | 漫画紹介



作:巴亮介
連載:ヤングマガジン
グロイ画像ありの猟奇サスペンス


【ジャンル】
グロキモ系、殺人、サスペンス



【レビュー】
都内で起こった連続猟奇殺人事件は、とある裁判に関わった裁判官と裁判員達という共通点があった。その裁判員に中に、この事件を追う沢村刑事の妻の名があった。妻と子に忍び寄る鬼畜の殺人鬼から、沢村は妻子を守りきれず、二人は犯人から「お仕事見学の刑」という殺害予告の元に連れ去られてしまう。
犯人を追う沢村の目の前に、カエルの被り物を被った犯人が自ら姿を現し、沢村の目の前で部下を殺害され、同時に「スゥイートルーム」への招待を受ける。
猟奇的な犯人の殺人美学へとの拘りと、沢村刑事の手に汗握る戦いが始まる。

想像を超える殺害方法ですが、ドラマを見ているかのような緻密で卓越した画力に現実感を感じ、怖いながらもぐいぐいとミュージアムの深みへと引き込まれていきます。

3巻で犯人が1984年にNHkみんなのうたで使われた「メトロポリタン美術館」を口ずさむシーンがあります。この歌の世界観にヒントがある・・・ような気がするので、是非漫画と同時にユーチューブ視聴をお勧めます!
「メトロポリタン美術館のうた」



映画『羊達の沈黙』『ハンニバル』に似た狂気の連続猟奇殺人は、逃げられない絶望、恐怖のスリル感が圧巻で、3巻完結なので、まとめての一気読みをオススメします。



【あらすじ】
ある日4歳の幼女が忽然と姿を消し、一か月後に透明な樹脂に詰められて世間に晒されるという事件が発生、状況証拠で犯人とされた男「大橋茂」は2月の裁判員制度による裁判によって死刑となり、持病の精神病を悪化させた犯人は獄中自殺で死亡した。


その後、その裁判で「死刑」を指示した人達が次々と猟奇殺人に被害に遭うという『裁判員連続猟奇殺人事件』が発生する。
一人目は裁判員となった元愛犬家の女が、生きたまま飢えた猛犬に喰い殺されるという【ドッグフードの刑】。


二人目は、裁判員となった引きこもりの男が、自分の出生体重分の肉を削ぎ取られて殺されるという【母の痛みを知りましょうの刑】。


三人目は、不倫に溺れた裁判官の男の体が縦に両断され、遺体の一方が家族に、もう一方が愛人へと送り付けられた【均等の愛の刑】。


四人目は、美容整形の裁判官の女が、生きたまま冷凍されて殺された【いつまでも美しくの刑】。


五人目は、裁判員になった自称占い師の男が、口の中に針を千本突っ込まれて殺されていた【針千本のーますの刑】。



共通点は、裁判に関わった人であること、事件発生は雨であること、現場に雨ガッパ姿の男が目撃されていること。
この事件を追う警視庁捜査一課「沢村啓二」の妻子が拉致された。沢村の妻も裁判員として事件に関わっていのだ。妻子に与えられたのは【お仕事見学の刑】



ある雨の日、妻子の行方を追う沢村の前に、カエル男が現れた。
カエル男の連続殺人の「理由」は、戦慄の狂気に満ちていた。
そのカエル男に沢村は「君もいずれ僕の”ミュージアム”に閉じ込められる運命だ」と招待を受ける。
そしてカエル男は沢村の前で、ある事を実行する。


追い詰められた沢村は、全てを捨ててカエル男に挑む・・・!!





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亜人ちゃんは語りたい (漫画紹介)

2016年11月16日 | 漫画紹介
・作:ペトス
・ヤングマガジンサード
・ラインマンガアプリ




漫画「亜人」とは違って、軽いタッチで、もし学校に亜人が通っていたならこんな感じ?というのを淡々と綴られています。
キャラクター設定がキチンととられてあって、だんだん、あー学校に亜人っているよね、という気分になってきます。



「サキュバス(淫魔)」「バンパイア(吸血鬼)」「デュラハン(顔と体が分離)」「雪女」など、世の中には『亜人』と呼ばれる特別な性質を持つ人間がいることはご存知だろう。
神話やおとぎ話のモチーフとなっている『亜人』は、かつては迫害の歴史もあったが、近年では差別もなくなり、個性として認められるようになった。日常生活に不利な点を持つ『亜人』に対する生活保障制度も存在する。


生物教師「高橋鉄男」は、柴崎高校に赴任して4年目のなる。
学生時代は『亜人』の研究で論文を執筆しようとしたが、亜人を対象とした生理学的な実験は、世論や倫理的な問題で許可が出ずに諦めた。実際、絶対数の少ない『亜人』を各種呼ぶなど、現実的でなかった。

亜人に興味があった。
この世に亜人として生を受けた人が、どう生き、どう他人と接し、何を思うかに興味があった。

と思っていたら、新しく赴任してきた女性教師が、「サキュバス(淫魔)」の亜人だった。
そして、生徒の中に3人の『亜人』がいることがわかり、彼女達の悩みを聞いたりしていくようになった。



中でも1年B組の「小鳥遊ひかり(たかなし)」バンパイアの亜人を中心に話がすすみます。

ちなみに、「亜人」をあじんと読むのは古い。響きがカワイクないので女子高生の間では「デミ」と言う。
なのでこの漫画は「デミちゃんは語りたい」とよみます。



















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進撃の巨人 20巻 82話-1 「勇者---アルミンの作戦」

2016年11月15日 | 進撃の巨人



【シガンシナ区】

シガンシナ区では、僅かに残った104期のアルミン、ミカサ、ジャン、コニー、サシャ、そして巨人化して伸びているエレンの6人だけで『超大型巨人』と『鋼の巨人』の2体を相手にせねばならなかった。

先ほどまで威勢よく奮闘していたジャンも、さすがに気力が付きて、エレンを逃がすことに全てを賭ける他ないと思っていた。

敗走の準備に入る事をアルミンに伝えるが、アルミンはじっと『超大型巨人』を見つめたまま「痩せてる・・・」とつぶやいた。
振り返ったアルミンの目には、光が戻っていた。
「超大型巨人が少し細くなってる。ハンジさんの言った通りだ!!やっぱり『超大型巨人』は消耗戦に弱い。
エレンの実験を思い出して。続けて巨人化できるのは3回まで。全身を硬質化できるのは2回が限度。
限度を越えた後は、力が先細りするだけで、有効な力は発揮できなかった。
15メートル級でそれなら、60メートル級ではもっと効率が悪いはずだ。
熱風を出す攻撃は、多分骨格以外のすべての肉を消費する事で、熱を生み出していたんだ。
筋繊維を失った後は、もうそこから動けない、ただの巨大な骸骨だ。」


ジャンとミカサにはその説明がよくわからなかった。ただ、アルミンの頭脳が復活した事だけがわかった。
「つまり、なんだよ?」


「作戦がある。みんなでライナーを引き付けてくれ。ベルトルトは僕とエレンで倒す!僕達二人で勝ってみせるから」

ミカサは立ち上がって「わかった。ライナーは私達に任せて」と応えた。
ジャンは「遅ぇよバカ・・・本当にもうダメかと思ったぞ・・」と声をかけてから、アルミンと別れた。
たった二人で『超大型巨人』を倒せるなんて想像もつかない、だけど、ミカサとジャンはアルミンを信じた。



アルミンはまず、エレンの元に飛んで、失神しているエレンを起した。

この自分で考えた作戦が上手くいけば、僕は・・・もう・・海を見には行けないな。
そう思うと、刃を持つ手がガタガタと震えた。
だけど、エレンの声が聞こえる。
エレンはここに来る時言っていた。「オレは自由を取り返すためなら力が沸いてくるんだ」と。
アルミンはエレンの真似をして「僕はなぜか、外の世界の事を考えると勇気が沸いてくるんだ」と口に出すと、不思議に震えが止まった。

手の震えが止まった瞬間、アルミンは手にした刃をエレンの巨人の喉元に突き刺した。
アルミンにはエレンがどこに居るのかは、わかる。
「エレン!起きろ!海を見に行くよ!」
エレンは目を覚まし、アルミンはエレンに作戦を伝えた。
「あとは全て実行に移し、ベルトルトを騙すことが出来れば、この勝負、僕達の勝ちだ」



ミカサとジャンの方も、コニーとサシャにアルミンの作戦を伝えていた。
詳しいことはわからない。ただ、二人を信じて、二人がベルトルトを撃つために、自分達はライナーをベルトルトから遠ざけることに集中する。









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進撃の巨人 20巻 81話 「約束」

2016年11月15日 | 進撃の巨人
【内門側】
エルヴィン調査兵団団長を先頭に、馬に乗った兵士達が一斉に『獣の巨人』めがけて突撃を開始した。
死を覚悟した兵士達の怒涛の声が戦場に響き、『獣の巨人』の耳にも届いた。

『獣の巨人』は正直がっくりした。
このまま終わるとは思ってなかったが、最後の策が捨て身の特攻とは・・・。
ジーク戦士長の目に、その兵士達の姿は哀れだった。
「哀れだ・・、歴史の過ちを学んでいないとは・・・。
レイス王によって『世界の記憶』が奪われたのは悲劇だ。だから何度も過ちを繰り返す。しまいには壁の中の全員、年寄りから子どもまで特攻させるんだろうな・・・、どうせ誇り高き死がどうとか言い出すぞ。
発想が貧困でワンパターンなヤツラの事だ・・・・、ふざけやがって」



ジークは、怒りで、思わず手にしていた岩を粉々に砕いてしまい、それを見て我に返った。
「あ、ハハ・・・何やってんで俺。何マジになってんだよ?お前は父親とは違うだろう?
何事も楽しまなくちゃ、みんなを誇り高き肉片にしてあげようぜ」
と、再び岩を手に取ると、向かってくる誇り高き特攻戦士達めがけて投げつけた。


岩片は、先頭を走っていたエルヴィン団長の腹をえぐり、エルヴィンは地面に転がった。
団長の死に動揺する新兵達に「振り返るな!!進め!!!」と指示を出したのはマルロだった。

マルロは、自分に向かってくる石の塊を避ける術なく見つめていた。
いろんな想いが頭を駆け巡る。
ほんの数日前に、新兵達の集まる食堂で”自己犠牲の精神”なんてものを説いていた自分はなんだったのか。
なぜ自分は、安全な憲兵の地位を捨てて、調査兵団を志願したのだろう。
わからない・・・・何で・・・俺は・・・今頃・・・



それで全滅したかと思ったが、まだあと3人残っていた。
3人は悲壮な顔で、半泣きで、死にたくない顔をしてそれでも叫びながら信煙弾を撃ちながら突撃をやめなかった。
ジークは再び怒りを覚えて、力任せに3人の兵に対して岩を投げつけた。
「そんなに叫んで何の意味があるってんだよ!!!」


若い兵士は、泣きそうな顔で体をバラバラにして死んでいた。
「あーあ・・・かわいそうに」


信煙弾には意味があったし、彼らの叫びには意味があった。
それらに意味をつける者が他にいた、と言った方が正しいのか、自分達の命を、死の意味をある男に託す為に撃ち、叫んでいた。
信煙弾を撃つために、突撃した死んだと言っても過言ではない。
それがたとえ囮であったとしても、『獣の巨人』を討ち取ったのならば、そこに大きな意味を成すと信じて。


『獣の巨人』が信煙弾で視界を奪われながら、突撃兵達に気を取られている隙に、リヴァイが一人で『獣の巨人』に接近していた。円陣を組んで立つ巨人達の周りは、立体軌道装置が使えない更地であり、驚くリヴァイにエルヴィンが指示した。
「丁度いい高さの立体物が並んで突っ立っているだろう?巨人を伝って忍び寄り、『獣の巨人』を奇襲しろ」

この作戦は、この被害は、この命はリヴァイの奇襲の為のものであり、その成功だけガ"死んでいく意味" であった。
リヴァイは、巨人を斬り進みながら、岩に打ち砕かれて死んでいく者達を見ていた。
「すまない・・・・」それ以上の言葉は探し出せない。
あとは実行してみせるのみ。



『獣の巨人』の周辺の煙が収まってきた時、ふと気付くと、周囲に立たせていた巨人達がなぜか倒れていた。
その煙の中から、立体軌道装置のアンカーが飛び出したと同時に、一人の兵士が飛び出してきて、一瞬の間に『獣の巨人』の腕をズタズタに切り落とした。

そういえば、ライナーとベルトルトから、リヴァイ兵長という名の一人の兵士に気をつけろと言われていた・・・。
マズイ!!!咄嗟に『獣の巨人』は自分のうなじを残った片方の手でガードした。

次の瞬間には両目をやられ、両脚を切断され、一人の小さな兵になすすべもなく『獣の巨人』は地面に叩きつけられた。
そのあまりの速さにジークは対応を取るのが遅れ、体を硬質化でガードする前に、リヴァイの刃が『獣の巨人』を八つ裂きにして、そのうなじからジークを引きずり出していた。


「さっきは随分と楽しそうだったな、もっと楽しんでくれよ」
そう言って刃を奮うリヴァイは、かつてない程に鬼気迫っていた。

ジークがうなじから吐き出された瞬間には、その口の中にリヴァイの刃が突っ込まれていた。
「巨人化直後、体を激しく損傷し、回復に手一杯なうちは巨人化できない、そうだったよな?」


リヴァイはそのまま刃をジークの口から頬を貫通させたが、これでこいつらが死なないことはわかっている。
こいつはまだ殺せない。
誰か一人でもいい、瀕死でもいい、生きている奴がいたならそいつに『巨人化』の注射を打って巨人化させ、そいつにこの男を喰わせて『獣の巨人』の力を奪うまでは殺せない。
誰か・・・・生きていないのか、誰か一人だけ生き返らせることができたなら・・・・エルヴィン・・。



リヴァイは背後に殺気を感じて振り向くと、『四足歩行型巨人』が巨大な口を開いて迫ってきていた。
リヴァイがそいつを避けると、そいつは躊躇なく瀕死の男を口に咥えて走り去った。


リヴァイは、立ち上がってそいつを追いかけたが、間に合うはずもない。
このまま、エルヴィン達大勢が命を賭けてくれたこの作戦を無に返していいはずがない・・・!!

だが、ジークは逃げながら突っ立っている巨人達に指令を出した。
「お前ら!!あいつを殺せ!!」
それまでただ突っ立っているだけだった大型巨人が一斉にリヴァイめがけて走ってきた。

リヴァイは迫り来る大量の大型巨人に対してひるまなかった。
「待てよ・・・俺はあいつに誓ったんだ。必ずお前を殺すと・・・・俺は、誓った!!!」


死につくしたと思っていた調査兵団の死体の中、一人無傷で生きていた者がいた。








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進撃の巨人 20巻 80話-2 「名も無き兵士---内門の兵士達」

2016年11月15日 | 進撃の巨人
【内門】
かつてない窮地だが策がないのは、壁を隔てた向こう、内門付近にいるリヴァイ側も同じだった。
『獣の巨人』の石礫攻撃は、もうすぐ家屋を全て破壊して、内門の兵達を穴だらけにするだろう。


リヴァイは、エルヴィンに「反撃の手数が何も残されてねぇって言うんなら、敗走の準備をするぞ・・。
壁の上で伸びてるエレンを起して、エレンにお前と何人かを乗せて逃げろ。少しでも生存者を残す。」
と言った。
ここまで来て、成す術がないのだ。



後ろでは、新兵達がこの残酷な現実を実感して喚いていた。
「理屈じゃわかっていたさ、人類がただ壁の中にいるだけじゃ、いつか突然襲ってくる巨人に喰い滅ぼされる。誰かが危険を冒してでも行動しなくちゃいけない事・・・誰かを犠牲者にさせない為に、自分を犠牲に出来る奴が必要なんだってな・・・。勇敢な兵士は誰だ?と聞かれた時、それは俺だって・・・思っちまったんだ・・・。
でも・・まさか・・・そうやって死んでいくことが、こんな無意味なことだなんて思いもしなかったんだ・・・。
何で自分だけは違うって、思っちまったんだろう・・・」




エルヴィンとリヴァイにとって、その新兵の言い分は嫌と言うほど見聞きした事だった。
ずっとそうやって、人が無意味に死んでいくのをその目で見続けてきた。


リヴァイは、エルヴィンに敗走の決意を促し続けた。
自分が『獣の巨人』の相手をし、生き残った兵が巨人の囮になっている間に、エレンとエルヴィンを生きて帰らせることができれば、まだ望みがある。
いや本当のところは、この大敗北の中、もはや誰も生きて帰れないと考えた方が現実的である事はわかっていた。

エルヴィンは敗走の指示を出そうとはせず、「ああ・・・反撃の手立てが何もなければな」と淡々と答えたことに、リヴァイは少し驚いたように「あるのか?なぜそれをすぐに言わない?」とエルヴィンの顔をまじまじと見た。



そんな会話の最中も石礫は飛び続け、エルヴィン達の頭上をかすめるほどに迫ってきていた。
だがエルヴィンはそれには動じることなく、淡々と話し始めた。
「この作戦がうまくいけば、お前は獣を仕留めることが出来るかもしれない。ここにいる新兵と、私の命を捧げればな。
・・お前の言うとおり、我々は全滅する可能性が高い。ならば玉砕覚悟で勝機に賭ける戦法もやむなしなのだが・・・。
その為には若者達に死んでくれと、一流の詐欺師のように体のいい方便を並べ、私が先頭を走らねば誰も続かないだろう。
そして私は真っ先に死ぬ。
地下室に何があるのか、知ることもなく・・・な」







窮地を脱し、命を繋ぐ重要な作戦だと思って真剣に聞いていたリヴァイは、最後の言葉に「は?」と聞き返した。


エルヴィンは、「ハァ」とため息をつくと、今までの毅然とした団長とは思えない足取りでよろよろと近くにあった台に腰掛けて下を向き、あとはまるで独り言のように一人で喋っていた。
もう、本音を隠す必要もない。


「俺は・・・このまま・・・、地下室に行きたい・・・。
俺が今までやってこれたのも、いつか『答え合わせ』が出来ると思っていたからだ。
何度も・・・死んだ方が楽だと思った。それでも・・・父との夢が頭にチラつくんだ。
そして今、手を伸ばせば届く所に”答え”がある。すぐ・・・そこにあるんだ。



・・・だがリヴァイ、見えるか?俺達の仲間が・・・。仲間達は俺らを見ている。捧げた心臓がどうなったかを知りたいんだ、まだ戦いは終わっていないからな。
全ては俺の頭の中の・・・子どもじみた妄想に過ぎない・・・のか?」




それがエルヴィンという男だった。
父親のたてた、この世界の秘密を知りたい、その仮説の答えを知りたかった。その為ならどんなこともしてこれた。
それを知ったならば、死も構わなかった。
だが、ずっと死んだ同胞達の亡霊をその背に感じつつ、彼等の視線を感じて生きてきた。

リヴァイは黙って聞いていたが、下を向くエルヴィンの視界に入るようにしゃがみむと、険しい顔で口を開いた。
「お前はよく戦った。おかげで俺達はここまで辿り着くことができた・・・。俺は選ぶぞ」
そう言うと、リヴァイはエルヴィンの目を見た。見たというより、にらみつけた。
「夢を諦めて死んでくれ。新兵達を地獄へ導け。『獣の巨人』は俺が仕留める」


エルヴィンはその言葉に、力なく、だけど開放されたような穏やかな表情を見せた。



死を覚悟したエルヴィンは、力強く新兵達を召集して叫んだ。これが最後の団長の仕事だ。
「これより最終作戦を告げる!!総員整列!!!
総員による騎馬突撃を目標『獣の巨人』に仕掛ける!!
当然!!目標にとっては格好の的だ!!
我々は目標の投石のタイミングを見て、一斉に信煙弾を放ち!投石の命中率を少しでも下げる!!
我々が囮になる間に、リヴァイ兵長が『獣の巨人』を討ち取る!!以上が作戦だ!!!」


この片道通行の作戦を聞いて「では」と従う兵などいない。
ガタガタを体を奮わせるもの、吐き気をもよおす者・・・皆顔面蒼白で立ち尽くしていたし、彼らがこの反応を示すことはわかっていた。
エルヴィンは「ここにいても投石の犠牲になるだけだ!すぐに準備に取り掛かれ!!」準備とし指示を出した。準備とは自分が巨人に殺される準備のこと。

新兵の一人がエルヴィンに質問した。
「俺達は今から・・・死ぬんですか?」
「そうだ」
「どうせ死ぬなら、戦って死ねという事ですか?」
「そうだ」
「どうせ死ぬなら、どうやって死のうと、命令に背いて死のうと意味なんかないですよね?」
「まったくその通りだ」

その清清しいほどに絶望的な答えに、新兵は言葉を失った。

「まったくもって無意味だ。どんなに夢や希望を持っていても、幸福な人生を送ることが出来たとしても、岩で体を打ち砕かれても同じだ。人はいずれ死ぬ。
ならば人生には意味はないのか?そもそも生まれてきたことに意味はなかったのか?
死んだ仲間もそうなのか?あの兵士達も・・・無意味だったのか?」



エルヴィンの前には、これから死にゆく生きている兵達がいて、背後には死んだ兵達がいた。
生きる者と死んだ者・・・・そして自分に向けて、エルヴィンは最後の言葉を発した。
その時のエルヴィンは鬼気迫るものがあり、誰よりも生と死を見つめてきた彼の真意があった。
「いや違う!!!!あの兵士に意味を与えるのは我々だ!!!
あの勇敢な死者を!!哀れな死者を!!想うことが出来るのは!!生者である我々だ!!
我々はここに死に、次の生者に意味を託す!!
それこそ唯一!!この残酷な世界に抗う術なのだ!!兵士よ怒れ!!!兵士よ叫べ!!兵士よ戦え!!」






新兵達は、リヴァイ兵長が『獣の巨人』を撃つチャンスを作るために、その命を懸けて石礫の中に出撃した。
できるだけ長く生きること、それが今出来る、出来る限りその死に意味を持たせることであった。
大声を張り上げ、まさに決死の覚悟だ。






大勢の生き残った勇敢な兵士達の死が、無意味なのか、人類の未来の為に意味ある死になるのかは、リヴァイに掛かっていた。
エルヴィンは、どうやって草原にいる『獣の巨人』に近付けばいいのかと疑問に思っていると、エルヴィンは平原には都合よく立体物が立ち並んでいる、巨人達を伝って行けと指示した。
この男は、いつも人並み外れた視点で全体と未来を見ている。


巨人を殺しつつ進むリヴァイは、無残にも石礫の犠牲になっていく兵士達に「すまない・・・」とつぶやいた。


彼等にかける言葉などどこにもない。
ただ、実行してみせる事が、リヴァイに出来ることだ。







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