まんがパウチ (レビュー・ネタバレ)

漫画の絵とストーリーを、真空パウチするように書きとめました。
【ファイアパンチ】【カラダ探し】など

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ファイアパンチ 68話「鉄仮面との戦い」

2016年03月08日 | ファイアパンチ

鉄仮面の男は、起き上がろうとするアグニを何度も何度も、執拗に鉄剣で突き刺し続け、アグニの体には無数の鉄剣が突き刺さっていた。




暫くは起き上がらないとみると男はルナの元へ行き、一瞬の躊躇もなくルナの首を斬り飛ばして、ルナの生首を持って仲間の元へと戻って行った。




テナは、あまりの事にイアに「見ちゃだめ」と目を塞いだが、間に合うものではなく、10歳のイアはこの人間技とは思えぬ事態をつぶさにその幼い無垢な瞳に映していた。




ルナの首を持っていかれたアグニは、亡霊のようによろよろと立ち上がると、自分の背に突き刺さる鉄剣を1本抜き、そして、それで自分の顔面を削ぎ始めた。「ファイアパンチに・・・」
アグニの顔から、目と鼻と口が削ぎ落され、顔のない血まみれの男がそこに立っていた。








ファイアパンチが来る・・・!!鉄仮面の男は全身に頑丈な鉄の鎧を身に着けて戦闘準備を整えていた。






アグニの顔が再生され、新しく出来た目で周りを見渡すと、燃えていた建物はすっかり鎮火して瓦礫となり、村から来た復讐者達は戦いに巻き込まれて死に絶えていた。

アグニの頭蓋骨は鉄剣で真っ二つに裂かれ、腕も下半身も斬られてそこにはなかった。
鉄仮面の男は裸で、心臓に鉄剣を突き刺して座り込んでいた。




どれぐらいの間戦っていたのかは、わからない、アグニと鉄仮面の男は同時に地面に倒れ込んだ。
戦闘能力は鉄仮面の男がアグニを上回っているが、アグニは殺しても死なないのだ。
倒れた時、止まりかけていたアグニの心臓は、少ししてドクン!!と大きく脈打って再生を開始し、アグニは再び立ち上がってきた。




鉄仮面の男は「・・・つか・・れた・・殺し・・てくれ」と息絶え絶えに訴えた。
アグニの脳裏にルナの声が聞こえる。
「ファイアパンチにもう殺さないでって言う」


だが、本物のファイアパンチは止まらなかった。
アグニは血に染まった右手の拳をふりあげた。最後の一撃が振り下ろされるその時、テナが二人の間にわって入った。




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ファイアパンチ 67話「塩工場爆破」

2016年03月07日 | ファイアパンチ
ユダをルナだ、妹だと思い込みつつ自分を騙してきたアグニは、ルナの告白の後、愛し合った。
ルナを大切に思うのは妹だから、という曖昧で真実ではない理由から、そこにいる一人の女性を愛しているからという理由に昇華したのかもしれない。
アグニとルナは、兄妹ではなく、男女として頬を寄せ合っていた。




しかし、ドアの向こうにはその関係に不信感を強く抱く仲間が銃を構えていた。
テナ達は、イアから「兄さん」が「アグニ」と呼ばれていた事を聞いて、悟ったのだ。

自分達の全てを破壊した憎き敵「ファイアパンチ」は、仲間達から「アグニ」と呼ばれていた。
ルナとは本物の兄妹ではないこと。
自分達が騙されていたこと・・・・。

テナはドアの向う側から聞いた。
「アンタがファイアパンチなの?」




アグニもテナ達も知らなかったが、塩工場の外には、ネネトと村の復讐者達が銃を持って突撃のタイミングを見計らっていた。ネネトは「明日の夜、ユダを引き渡して」と言っていたが、明日を待たずに襲撃決行するつもりで、すでに建物に爆薬も仕掛けられてあった。
ネネトはアグニの性格をよくわかっていた。
「昼にユダを渡さなかったのなら、もう渡す気はない・・・。あの人は顔が自分の妹に似てればそれでいい人なの。」と連れてきた復讐者達に説明した。
その後、「まぁみんなそんなモンだと思うけど」とつぶやいたのは、誰も聞いていなかったが。ネネトは、決行の合図を出した。




アグニが、テナの質問に答えられずに沈黙が続いていた時、その沈黙を破る大爆発が起きて、塩工場は吹き飛んで、燃えた。





爆発が落ち着いて、アグニの目に入ってきたのは、左手と左足が千切れて横たわるルナだった。
アグニは、その姿に慌て、「あああ・・あ!・・・あ・・・あ・・・」と言葉にならないうめき声を出しながらルナを心配した。




そんなアグニにリアンとラヌーが悲痛に叫ぶ。
「アグッ・・アグニっ!!これお前がやったのか!!アグニ!!私の母さんもっ!お父さんもお前が殺したの!?アグニィ!!」

その声にルナは薄く目を開けると、ルナの千切れた体はみるみる再生しだした。アグニはルナの心音を確認すると、心臓は動いていたので、アグニはホッとして「よかった・・・」とつぶやいた。
やはり、アグニにとって何より大事なのは、ルナなのだ。
再生を完了したルナは、また目を閉じていた。




だが、ホッとしたのも束の間、隠れていた”復讐者”達が銃を乱射しながら突入してきた。
ラヌーは銃撃で即死、リアンは負傷し、アグニは蜂の巣になって流血したが、死にはしない。



襲撃者を認識したアグニは、ルナを守る為に男達の方へ歩いてくると、右手の拳を思いっきり振り上げた。
襲撃者達は身を引いて、アグニとの戦いを「彼」に任せた。

「彼」は、振り出したアグニの腕をみじん切りに切り刻むと、アグニの心臓を鉄製の刃で一突きにした。



倒れこんだアグニの横に立つのは、すっ裸にブリーフパンツ、頭に鉄製のマスク、手の一部を鉄刀に変化させた男であった。
復讐者達の誰かがネネトに、アイツは何者なのか、と聞いた。
ネネトは「彼はユダの部下に顔と家族を焼かれた・・・頭のおかしくなった復讐者」と答えた。




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ファイアパンチ 66話「兄さんを愛しているから」

2016年03月06日 | ファイアパンチ

ネネトが来た日の夜、ルナは就寝前に満月に手を合わせて、日々の平穏を祈っていた。



アグニは、そんなルナの姿を黙ってじっと見ていた。
これはルナではない・・・、ユダを差し出すと世界は10年前の奇跡のように暖かくなる・・・、イア達が殺されなくて済む・・・・だけど・・・。




自分で答えを出せないアグニは、ルナに問いかけた。
「もしもルナが暖炉で暖かくなった家に一人でいて、外を見ると寒くて凍えそうな人がたくさんいるんだ。その中にはテナもいるし、俺もいる。ルナが家に入れられるのは、俺以外の人達全員か、俺一人だけ。そうなったら、ルナはどっちを家に入れる?」と。
それはそのまま、アグニの抱える問題だ。

ルナは、「なんで全員一緒に家に入れれないの?」と素朴な疑問を返した。

アグニは「それは・・皆が俺を恐れているから。その俺は簡単に人を殺してしまうから。殺しても何の罪悪感もない。それにその俺はルナと兄妹ではなく、アカの他人なんだ。どっちを家に入れる?」ともう一度聞いた。

ルナは、「家に入れなかった人は、凍え死んでしまうの?・・・多分、兄さんを選ぶ。」と答え、アグニは驚いた。
「どうして・・・その俺はルナの兄さんじゃないんだよ?テナ達も死んでしまうんだ、イアなんてまだ10歳なのに・・」

ルナの答えに戸惑うアグニを、ルナはまっすぐに見て言った。
「でもきっと、兄さんを選んでしまいます。」

アグニは声を荒げて「どうして・・・!?」とルナに詰め寄るように聞いた、その目に僅かに涙が溢れていた。

ルナはどうしてに答えるかわりに、立ち上がってアグニに近付くと、キスをした。
驚いて言葉を失うアグニに、「私、兄さんを愛しているから」と答えた。



ルナはアグニの首に腕を回したまま、「私達・・本当に兄妹じゃないんでしょう?なんとなくわかっていました。こんなに兄さんの事好きなのに、思いだせないはずないもの。」とささやくように言う。

戸惑ったアグニは「俺は嘘をついて・・・、俺の事怖くないのか?」と聞くが、ルナは「恐いですけど、愛しています」と言い切ると、アグニは「でも・・俺達は他人だよ」と聞き返した。
アグニはルナの言う「愛している」とは兄妹としての、家族としての愛情の事だと思ったのだ。

ルナは、アグニの大きな体を両手で抱きしめてその肩に顔をうずめると、「じゃあ家族になりましょう。私と兄さんで子供を作ればいいんです」と言った。




その言葉は・・・本当の妹だった本物のルナも言ったセリフだった。
それでもアグニは「でも、俺とルナは・・・」と煮え切らない。
アグニの中で、ルナは他人でもあり、妹でもありその見境いはついていないのだ。

この期に及んで自分で判断しようとしないアグニに、ルナは思い切ってもう一度キスをすると、そのままベッドに倒れ込んだ。その後は・・・・もう二人とも理性がどうのという事ではなかった。





兄妹としての一線を超えてしまった二人の部屋の外では、テナ達を銃を持って息を殺して中の様子を伺っていた。
アグニ達の命を狙っているのは、、テナ達だった。



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ファイアパンチ 65話 「命の選択肢」

2016年03月05日 | ファイアパンチ

世界は加速度的に寒さを増してきていたが、アグニ達の生活は相変らず閉塞的で平和だった。
海は凍りついたが、そこに小さな穴を開けて魚釣りが出来たし、10歳になったイアは無邪気に可愛かった。
世界からポツンと切り離されたような、ケンカや争いのないこの「塩工場」の自給自足の穏やかな生活の中に、アグニはいた。









だが、或る日、アグニ達の近くでバイクの音がして、止まった。
外の世界から"誰か"が来たのだ。アグニは警戒した。

侵入者は一人の女で、両手を挙げて戦闘の意志がない事を告げながら近付くと、「アグニさんと話しにしに来た!」と叫んだ。
アグニは、一目見てそれがネネトだとわかったが、ネネトの方は炎を纏わないその着衣の男がアグニである事に、暫くしてから気づいた。

ネネトは久しぶりの再会を懐かしむ暇もなく、真剣な顔で「もしかして・・・貴方がアグニさんでしょ!?すごく大事な話しがあるの!」と言う。
小さなイアは、ニーサンが「アグニ」と呼ばれている事に少し驚いていたが、アグニはルナとイアに家に入っているよう指示して、ネネトと二人になって話しを聞いた。




ネネトは「炎・・・本当に消えたんだ。なんで消えたかわかる?」と聞いた。
アグニはサラリと「ルナの祝福のせいだろ?」と答えたが、ネネトはその答えに大きくひっかかった。

「・・・ルナ?・・・まさか記憶がないユダの事をルナって事にしているの?」とネネトは相変らず鋭かった。とはいえ、アグニが敵であるユダを、どうしてもルナと混同してしまう姿はずっと見ていた。
「私達が家を建て直してる間・・・ずっと家族ごっこをしていたの?」と責めるように言うネネトに、アグニは「ごっこじゃない」と言うのが精一杯だった。

ネネトは、昔と変わらずぼーとしたようなアグニにきっぱりと言った。
「ユダはアグニさんの妹が死んだきっかけでもあるんだよ。それをわかってんの?」




だがアグニは、それには答えず、ただ黙って下を向くだけだった。頭で理解している部分もあるが、気持ちがついていかないし、10年一緒に暮らしたルナは、もうルナなのだ。

相変らず自分で考えて行動していなさそうなアグニに、ネネトは本題を伝えた。
「明日の夜・・・ユダを奪いに私達の兵がここに来る。ユダ以外は全員殺していいって事になっている。他の家族ごっこしている奴らも死んでほしくないでしょ。私にユダを渡して皆で何処かへ逃げて。今日はそれを言いに来たの。」

久しぶりに会ったネネトのぶっそうな宣言に、アグニの答えは詰まった。
「な・・・・はっ・・・いや・・・・・・」

ネネトは構わず話しを続けた。
「このままじゃもうすぐ世界は氷で覆われる。こっちはユダを使って世界を暖かくする準備は出来ている
アグニさん・・・、ユダの他に4人、女と子供をかくまっているでしょ。その人達が凍え死んでもいいの?」


アグニはその質問にも答えず、下を向いて「なんで俺達の事を・・・」とつぶやくように言っただけだった。

ネネトはそのつぶやきに答えた。
「サンが一度ここを見つけて貴方達を見ている。サンは知っていてここにいる事を見過ごしていたんだよ。
サンは、アグニさんの幸せを一番に願ってる。私達よりも・・・・、一番にね・・・・・。
サンは貴方の演技を本気で信じて・・・信仰している。だから・・・ユダを渡して期待に応えてあげて」





アグニは黙ったままだった。
サンも生きている・・・。自分を慕って雪道の中を着いて歩いた幼かったサン、ベヘムドルグの奴隷となり、助けたい、守りたいと思ったサン。トガタに言われるままに、後先考えずに「神」を演じていた事が、サンに大きな影響を与えていた・・・。
自分は大事な人達にも、多くの嘘をついてきていた・・・。

ぼうっと黙って考えこむようなアグニに、ネネトはもう一度言った。
「明日の夜、もう一度私は来るから、その時に選んで。全人類を助けるのか、妹に似ている奴を助けるのか。」
考えるべき事を2択にして、ネネトはその場を立ち去った。





一人になったアグニは、凍った地面に倒れこむようにうっ伏した。
どうすればいいと言うんだ。
10年共に暮らしてきたリアン、テナ、ラヌーにイア、そしてルナ・・・。
彼女達の命を失くしたくはない。
だが、今世界が暖かいのは『氷の女王』がユダを使って暖かくした事は事実で、そうでないとまたあの辛く、食糧を奪い合って殺しあう極寒の世界に戻ることもわかっている。

自分の選択で、世界が決まるというのか。
自分は何も選択できないのか。
アグニは、目の前に突きつけられた残酷な選択にもがき苦しみ、右手の拳で地面を殴った。何度も何度も殴った。
それでも答えは出ない。命の選択の期限は、迫っている。


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ファイアパンチ 64話 「教祖サン」

2016年03月04日 | ファイアパンチ

10年の歳月は、アグニ達が昔暮らしていた集落にも訪れていた。
変わったのは、集落の支配者だった。
突然出て行ったアグニとトガタの変わりに、後から入ってきたのはベヘムドルグの幹部だった「ジョン」とユダを木にする事に失敗した「スーリャ」、そしてアグニを慕っていた「サン」だった。
アグニとトガタに命を救われ、サンの救出に協力した、サンの奴隷仲間である「ネネト」は少し立場が違っていたが、中枢に誓い幹部層であることには違いなかった。


特に、人民の前に出て「アグニ教」の教祖様の"役"を引き継いでいたのは、敬虔なアグニ様の信者だった少年サンだった。
その昔、生きながらえて人々を照らす太陽であれ、という兄や故郷の人々の想いを託して、たった一人で村を出された少年は、今、立派な教祖として、集落の人々を照らし、まとめる存在となっていた。

サンの"教祖様役"の指南役は、昔、サンとネネトを奴隷として愛犬に獣姦させようとした「ジョン」だった。
ジョンは、べヘムドルクの教祖「ユダ様」の指南役として得た経験と知識を、サンに与えていた。

「教祖様に一つアドバイス。キミが思うファイアパンチを演じてごらん。そうすれば、皆はキミを通して理想のファイアパンチを見てくれるよ。人は信じたいものを、信じたいように信じるんだ」




サンは、「ファイアパンチコール」の鳴り響く集落の真ん中で、"裏切り者"を前に堂々と立ちはだかっていた。
今、人々はサンの中にかつてのアグニ様、英雄ファンアパンチの姿を見ていた。

サンは、"裏切り者"に発言を許した。
「頼むみんな!聞いてくれ!!ファイアパンチは、ベヘムドルグり家と家族を燃やした男だろ!なんでそんな奴が今になって"神様扱い"されてるのか、おかしく思わないのか!?」

サンは、その正論を逆手にとって演説を始めた。
「かつてベヘムドルグはユダに支配され!存在しない神を作り、善良なる市民を嘲笑っていた!!
そこにアグニ様が空から降りてきて!ユダの汚い嘘と演技から我々を解放したのだ!!」


男は冷静に事実を言った。 「解放じゃない、殺しただけだ!」

だが事実は信仰の前に無力である。
サンは両手を大きく広げ、声を高らかに張り上げて、男の説を覆してみせた。
「アグニ様に燃やされ、死んだ命は太陽に近き安らかな世界へと行く!そこには雪も飢餓も狂気もない!!あるのは安寧の日々とアグニ様の慈悲だけだ!!」




男は、そのありもしない願望的理想を語っているだけのサンの言葉を「嘘だ!」と非難したが、サンは堂々と言い放った。
「嘘かどうか、お前はわかる事はないだろう!なぜなら、お前は今からアグニ様の雷で死に!雪に埋もれた地獄へと落ちていくのだから!!」

この頃、人々はサンの演説に心酔し、「ファイアパンチ!!」のコールはより一層熱を帯びてきていた。
男は、この洗脳されきった人々に何を訴えてもムダな事を悟って、武器を捨てて教祖サンに手をあわせた。
「私に慈悲をください・・・教祖様に一生を尽くします・・・!」

しかし、サンは無慈悲に叫んだ。
「炎書にはこう書かれてある!二十五章十七節!偽りなき顔を持つ者は、偽りの顔を持つ者の嘘と芝居によって行き手を拒まれる!!
愛と善意の名に於いて、吹雪の谷で弱き者を導く者は幸せなり!
なぜなら!彼こそは真に兄弟を守り!迷い子を救い照らす炎なり!!
よって我は怒りに満ちた懲罰と大いなる復讐をもって、わが兄弟を毒し滅ぼそうとする汝に、制裁を下すのだ!
そして我が汝に復讐する時!!汝は我が主である事を知るだろう!!」


直後、ズドン!!!という音と光が炸裂し、男の頭が人々の前で突如吹き飛んだ。
皮肉にも、偽りなき顔を持つ男は、偽りの顔を持つサンやジョン達の嘘と芝居によって殺されたのである。

サンは、この10年の間に、微弱だった電気の祝福を強力なものへと進化させていた。
サンの祝福こそが、今は「アグニ様の天からの制裁」の象徴であった。
だが、サンの全てが嘘と芝居ではなく、サンはアグニを信じていた。サンにとってアグニは出逢った頃から変わらず、紛れもなく神だった。





夜、人々から離れた集落の中の「教会」に、サン、ジョン、スーリャの3人の姿があり、3人はタバコをふかせていた。
その姿は、ベヘムドルグでユダ、ジョンらでタバコを吸っていた時と何も変わってやしない。ただ、俳優が変わっただけの事だった。









3人は集落の今後について話しあっていた。
「今日の制裁で、ベヘムドルグの難民でアグニ教に不満を持つ者はいなくなるだろう。皆死にたくないし、ここの生活はそれなりにいい。」とジョンが言うと、スーリャが「今の問題は雪だね。ユダが木になった時にアグニにユダを壊されて失敗した。失敗しても10年もの間、それなりにこの世界を暖かく出来た。上手くいけば、もう寒さに苦しむ事はなくなる。」と言う。

スーリャはまだ諦めていなかったのだ。ユダを使って、この世界を暖かくする構想を。


ジョンはサンに「ユダを奪いに行こう」と持ちかけたが、サンは乗り気ではないようで、12章16節を唱えた。「己の利己を振りかざし、安寧を壊すなかれ・・・」

だがジョンがそれを遮って「サン!それは俺達が考えたデタラメだろう?ユダが死ぬ事はアグニ教の皆が望んでいる事だろう?」と少し呆れたように念を押したが、サンはうんとは言わなかった。
「アグニ様はユダと住んでいるんだろう?ユダを攫ったらアグニ様が悲しむかもしれない・・・」

アグニに心酔するサンを説得するのは、難しいことではなかった。
ジョンとスーリャは目配せをすると、"利己的でない最もな理由"を口にした。
「このままじゃ世界は雪に覆われ、全人類が死ぬんだぞ、サン」

サンは「アグニ様は死なない、聖なる炎で覆われているから」と反論したが、スーリャが半笑いで「アグニ君はキミが思っている程の人物じゃないかもしれないよ」と被せた。

サンはそれ以上何も言わず、立ち上がると部屋を出て行った。
立ち去るサンにスーリャは「アグニ教にはアグニからユダを奪うくらいの戦力はある。悪いけど私は人類の為にアグニ君を悲しませるね」と念を押した。


サンは無言で部屋を出ると、廊下にネネトがいて、話を聞いていたらしい。
ネネトは「あんた偉くなったね」と皮肉を言ったが、サンは「偉くなったフリだよ・・・」と答えた。
実権はあの二人が握っている。

ネネトは「何をやってもいいけど、ここにいる人達の生活を壊す事だけはしないでね」とサンに念を押した。ネネトはいつも"現実の生活"を見ていた。宗教でもなんでもいい。人々が死なずに暮らしていけるのであれば。
サンは暗い顔で「そんな事・・・・」と言って言葉をつぐんだ。





サンが居なくなった室内では、ジョンとスーリャが次の作戦について打ち合わせしていた。
二人は、アグニが「塩工場」で生活していること、ドマの炎はもう除去されてない事を知っていた。

ジョンが言う。
「行くのはアグニとユダに家族を殺された復讐者達さ」

日中、アグニ様に反感を持つ者を制裁しておきながら、裏でそのアグニに反感を持つ者をアグニ征伐に利用していた。
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ファイアパンチ 63話 「覚えてる」

2016年03月03日 | ファイアパンチ

テナが産んだ女の子は、亡くなった「イア」の名を受け継ぎ、母親からは「炎」の祝福を受け継いでいた。
イアは生まれた時から一緒に暮らすアグニによく懐いていて、アグニの仕事である薪集めに着いて行くとわがままを言ったが、アグニは森は危ないからとイアを置いていった。
イアは、危ない仕事に出かけるアグニに、無邪気に「ニーサン!死なないでね~!!」と言って笑顔で手を振って見送った。




「塩工場」の平和で安定した生活に、力仕事をする男手であるアグニは必要不可欠な存在であり、大切な仲間の一員であった。薪集めはアグニの大切な仕事の一つだ。
イアが生まれた10年前頃は、ユダの木が世界を暖かくしたが、その効果も10年の歳月で薄れ、元の極寒の世界に戻りつつあった。薪の量も増やしていかねば、皆が凍えてしまう。

アグニは一人、チェーンソーを持って森の奥深くに入ると、いつもそうしているようにチェーンソーで自分の首を切った。大動脈が切れて大量の血が辺りの雪を真っ赤に染めたが、いつもように意識が薄れてくると、「いきて」という言葉が聞こえて傷口は塞がっていく。




アグニは、いつものように起き上がると、またいつものように服を着て、いつものようにチェーンソーで木を一本切って、塩工場に持ち帰った。それが、アグニの日常だった。


塩工場の暖炉には、アグニが切り出してきた薪に火が灯り、皆を暖めた。
暖炉の火にあたっていたテナが、ある日、アグニに言った。
「手、なんか違和感あるね、アンタに右腕が生えてると。まだ覚えてる?ファイアパンチの事。」

アグニは虚無の表情のまま「・・・・覚えてる」と答えた。忘れたことなど一度もない。忘れられるはずもない。

そんな事を知らないテナは、「私は24歳になった。年とって子供産まれれば忘れられると思ったよ。でも今もずっと・・・あの時より強く思う。お願い、ファイアパンチを殺して」とアグニに頼んだ。

その気もちはわかる。年月は憎しみを増しても薄れさせやしない事は、この身を持って知っている。
そしてファイアパンチを殺すのは、実は毎日やっている。だけど、成功した試しがなく、この体は生きようとする。
アグニは、何も答えなかった。アグニの心が日々死んでいくだけだった。




その頃、アグニとルナは皆とは別の部屋で、1つのベッドで二人で寝るようになっていた。
寒さを凌ぐ暖がない分、二人は体を寄せ合って互いの体を温めるようにして眠っていた。
と言っても、アグニはもう何年も眠ることなど出来なくて、夜はただ目を閉じて朝を待つだけだった。

その日、ルナはテナとの会話を聞いていたらしく、「ファイアパンチって誰?」とベッドの中で聞いてきた。何も答えないでいると、「兄さんは・・・ファイアパンチを殺すの?」とまた聞いてきた。

アグニは他人事のように説明した。
「ファイアパンチは・・・すごく悪い人なんだよ。体が全身炎に覆われていて、子供も大人も全員燃やしてしまうんだ。
テナもリアンもラヌーも家族をみんなファイアパンチに殺されたんだよ。だから俺が・・・・ファイアパンチを殺さなくちゃいけないんだ・・・。俺にしか殺せないんだ。」


だがルナは「殺しちゃダメ」と言った。「兄さんに炎が燃え移っちゃうかもしれない。だから絶対にダメ。兄さんの事を考えるとね、心がポカポカします。でも兄さんが死んだら、兄さんを考えると・・・悲しくて私は生きられなくなります・・・」とアグニの耳元で囁いた。

アグニは無表情なまま「それはいけないな・・・」と言ってから、逆にルナに聞いた。
「もし俺がファイアパンチだったら、ルナはどうする?」

ルナはアグニを抱きしめたまま「もう誰も殺さないでって・・・言う。もう誰も・・・」




アグニは虚無の漂う目をそっと閉じた。
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ファイアパンチ 62話 「10年の歳月」

2016年03月02日 | ファイアパンチ

アグニは、その死ぬ事の出来ない体を海に沈めようとした。
肺の中の空気を全部吐き出し、もう息が止まった頃だった。




アグニの後を追ってきたルナが海に飛び込んで、海中からアグニの体を無理矢理海面まで引き上げたのは。
ルナに海面まで引き上げられたアグニは、苦しそうに息を吹き返した。
また失敗だ・・・。
アグニは、自分の体に抱きつくルナに「離れろっ!どっか行ってくれ・・・」と突き放したが、ルナは逆にアグニにしっかと抱きつき、アグニの拒絶を無視して言った。
「いきて!」




まただ。
死にたくて死にたくて、死んで楽になろうと思う度に、この声が、この言葉が呪縛のように投げかけられる・・・。
どうすれば、この呪縛から逃れて死ぬ事が出来るのか、もうアグニにはわからなかった。
「なんでだよ・・・・!んで・・・。ずっと聞きたかった!なんで!なんで生きろって・・・!!生きろって・・・どうしてだよ・・・・・」




15歳のあの日、体を燃やされ、妹や村の人達と一緒に死んで、暖かな父と母の元へルナと一緒に行こうと思ったあの瞬間からずっと聞きたかった。
アグニの背にいるのはルナではない・・・だけどもうどうでもよかった。

ユダであったルナは「いきて、ほしい、から・・・」と言う。
それは答えにならない。どうして自分だけ、こんな思いでルナのいない世界を生きなければならないのかがわからない。
アグニは泣いた。
どうしようもなくて、やるせなくて、辛くて、死ねなくて、生きる事もできなくて、もう頑張れなくて、、、泣いた。

「どうやって生きろっていうんだ・・・!」

ルナの答えは簡潔だった。
「ごはんたべる、ねる、おきる。わたし・・・と一緒に!」

それは試みたことだった。だけどアグニは自覚してしまったのだ。もう自分を騙し続けることは出来なかった。
「・・・・無理だ」

だけど、ルナは許してはくれなかった。
「ためしにあしただけ・・・いきて」




そこから先生きる事は、想像を絶する痛みだった。






襲ってくる脅威もなくなり、「塩工場」の女達との平和な日常生活が続いた。
アグニの胃が食べ物を受けつけるようになっていたが、味覚がなくなった。右腕が少しだけ伸びた。

笑うフリが上手くなって、感情が顔に出なくなった。右腕がまた少しだけ伸びていた。

テナの腹の中の、テナを犯した男の子供が、大きく順調に成長していた。
皆が信用してくれる様になり、眠ることが出来なくなった。右腕がまた少し伸びていた。

テナに赤ちゃんが生まれた。女の子だった。また寒さが厳しくなり、海が凍り始めた。右腕で手首まで伸びていた。

テナの子が10歳になり、よく懐いていた。皆が自分を「兄さん」と呼んでいる。右腕が全部治っていた。





あれから、10年も生きてしまった。

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ファイアパンチ 61話 「そんな目で見るのはやめてくれ」

2016年03月01日 | ファイアパンチ

テナから「ファイアパンチを殺して」と頼まれたアグニはその夜、一人で森の奥深くに入り、自分の手首を自分で切って自殺を図った。手首の血管が切れて生暖かい血がドクドクと流れ出る。
アグニはその血を見ながら強く願った。 「死ね、死ね、死ね、死ね!」




だが、脳裏の片隅でルナが言う。
 「生きて」
その声が聞こえた瞬間に傷口はみるみる塞がり、血は止まり、自分の体は生きようとする。
失敗だ・・・。
ふと見上げると少年のアグニが今のアグニを、嫌悪に満ちた顔で忌々しく見ている。
生きようとするアグニを、汚らわしいものを見るような、責めるような目で睨みつけて軽蔑する。

アグニは「ち、違う・・俺っ死ぬから!ちゃんと死ぬから・・・!!だから・・・そんな目で見るのはやめてくれ・・」と自分の亡霊へと謝った。




もう、あの頃の純粋で、人の命の重みを知り、殺される側の辛さを知るアグニに顔向けの出来ない自分になっていた。
死んで償う他ない自分になっていた。
だけど・・・自分でどう死のうとしても死ねないのだ。
死のうとするとルナの声が、ルナとの約束が思い出されて、どうやっても死ねないのだ。
今までもそうだった、そしてこれからも・・・・。



結局、アグニは何度か自殺を繰り返すも死ねないまま、何事もなかったように「塩工場」に薪を持ち帰り、何事もなかったのように皆と朝食のテーブルに着いた。
だけど、アグニの内面は昨日までとは違っていた。自分の罪を自覚してしまったのだ。

アグニは、自分の置かれている現状に疑問を抱いた。「塩工場」の朝は、相変らずのいつもの朝食風景だった。
(こいつら、昨日仲間が死んだのに笑ってる。テナの家族も、リアンの家族も、ラヌーの家族も俺が殺した。なのに俺の目の前で笑ってる・・・)




嘘に塗り固められた現実に、アグニは激しい吐き気に襲われて、床に倒れこんだ。
"正気"を取り戻したアグニに、この世界は辛かった。

自分を心配そうに覗きこむ女は、妹じゃないヤツで、そいつが妹になっている、という事実。
俺の嘘を信じているリアンという女は、俺の殺した鹿を食べている、という事実。
俺が殺したヤツの子供が、俺に俺を殺せと言ってくる事実。
俺のせいで死んだ双子の片割れが、俺を見て笑っている、という事実。

世界がこうなったのも、彼女達がこうなったのも、自分が今苦しいのも、全部俺のせいなのだ・・・・。
こんな事なら、怒りと痛みと狂気と嘘に覆われていた頃の方がよかった・・・・。
アグニは涙を流しながら、苦しさの中で気を失っていった。




目が覚めると、床に倒れたまま毛布がかけられてあった。
いくら気絶しても、目を覚ませばこの現実を生きねばならないだけだった。
起き上がったアグニは、いつものようにテナの洗濯の手伝いをした。
テナは「ゆっくりでいいからその右手を治して。そしてファイアパンチを殺して。居場所はだいたい掴んであるから」と言う。
憎き敵の居場所はテナの目の前で、洗濯物を手渡しているその男、自分である・・・。

そのテナの腹の中では、少しずつだが確実に新しい命・・・自分のせいで犯され、無理矢理身ごもった子供が大きくなってきていて、アグニを責めているような気がした。

俺のせいだ・・・・。
ふと視線を感じて窓の外を見ると、少年のアグニが険しい顔で自分を見て、言った。
 「全部お前のせいだ、死ね!!」
 



「死ね」という言葉は、アグニの脳裏から消えることなく反復しそして増殖し続けた。
自分自身への"殺意"が自分の中で渦巻く。
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね・・・ファイアパンチを殺して。

俺はファイアパンチを殺さねばならないのだ。
アグニは無意識に海へと足を進めていた。

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ファイアパンチ 60話 「ファイアパンチを殺して」

2016年03月01日 | ファイアパンチ
翌朝アグニは返り血で真っ赤に染まった服で、イアの亡骸と共に「塩工場」へと帰ってきた。
その体は、以前とかわりなく右腕はないままだ。



塩工場の女達は、イアの死を悲しみながらも、静かにその死を受け入れていた。
そんな中、テナだけはアグニの様子をじっと見ていて、そして聞いた。
「・・・・難民共は?」
アグニは表情一つ変えず、イアの死体に目をやったまま「全員殺した」と答える。

その答えにテナの目は険しくなり、もう一つ質問した。
「アンタは簡単に人を殺させるの?」
この問いに、アグニはまっすぐにテナを見て「俺はルナを守る為なら何でもする」と答えた。その答えに嘘はなかった。その時のアグニには。


その日、塩工場近くの海岸に、4つ目の墓標が立った。




アグニはその夜、ルナの寝顔をそっと覗き込んで微笑んだ。
これでルナの平和を脅かす存在はなくなった。ルナが望んだ通りここに居て、問題なくこの暮らしを続けていけるのだ。




すやすやと眠るルナの寝顔に安心して、そっと寝室を出ようとした時、アグニに「待って」と声をかけたのはテナだった。
テナは思いつめたような顔で、言いにくそうに、でも決意したように言葉を絞り出した。
「ドマ先生は私のっ・・・!お父さんなの!」

その告白にアグニの顔は歪んだ。今まで嘘で塗り固めてきた顔が崩れた。
テナの告白は続いた。
「父さんも・・・私の三人の兄貴も四人の妹も、全員燃やされて死んだ・・・!ベヘムドルグを燃やした・・・ファンアパンチに殺されたの!!
ファイアパンチのせいでベヘムドルグから逃げた人達はご飯を奪い合って殺しあった。
ファイアパンチのせいで私は犯されて・・・、今お腹に子供がいて・・・!
ファイアパンチのせいで・・・、今日イアが死んだ・・・!
アンタ強いんでしょ・・・、お願い!ファイアパンチを殺して・・!!」










ここでアグニは、自分の目が醒めたことを自覚した。
あんなに憎んでいたドマに、自分がなっていた事を自覚した。
故郷を焼き、そこに住む罪なき人々を焼き殺し、唯一無二の大切な家族を焼き殺した憎しみの対象に、自分がなりかわっていたのである。あの激しい憎しみは、今、自分に向けられている。


封印していた過去の記憶が、ありありと事実と共に蘇ってきた。
俺のせいでトガタが死んだ。
俺のせいで大勢の人々が死んだ。
ルナだと思い込んで大切に守っているこの女は、ルナではないし、俺は兄さんなんかじゃない。
もう、優しくて純粋だったアグニでもないし、トガタの言う主人公でもなければ、神様でもない。
俺が誰なのかは、いつも他人が決めていた。

ならば・・・今の俺は『ファイアパンチ』だ。







アグニは流れ落ちる脂汗を拭うことなく、じっと自分の左手の拳を見ていた。
この手で何人の人々を殺して苦しめてきたのだろう・・・・。

アグニは、左手の拳をぎゅっと握り締めて答えた。
「わかった・・・・。俺がファイアパンチを殺す・・・」
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