まんがパウチ (レビュー・ネタバレ)

漫画の絵とストーリーを、真空パウチするように書きとめました。
【ファイアパンチ】【カラダ探し】など

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

ファイアパンチ 59話 「ルナを守る為」

2016年02月29日 | ファイアパンチ

アグニは夜の雪道を、松明を手に難民の男達の元へと向かっていた。
ルナが、ここにいたいと言うから・・・、ルナの安全と平和を守る為には、男達の脅威は排除せねばならなかった。


アグニが来ている事など露とも知らない難民の男達は、”神”と亡くなった仲間達の墓標に向かって熱心に祈っていた。
手に入れた女「イア」は、手足を縛ったまま十字架の向こうの部屋に監禁している。
男達は、神のご加護と恵に感謝した。
何がが始まろうとする異様な雰囲気に、イアは怯えた。







アグニは、男達の拠点とする家の前まで来ると足を止め、持っていた松明の火を自分の顔に押し付けた。
それは狂気に近かった。皮膚が燃える激しい痛みを伴う頭の中で声が聞こえた気がする。
「ファイアパンチになって」







アグニの皮膚が焼け、眼球が燃え、筋肉が引き裂かれていく中、アグニの失った右腕が再生していた。
強い再生を必要とし、全身の再生を促した為だ。




アグニの肉体から火が消え、燃えただれた皮膚や筋肉、眼球などの全てが再生されて辺りを見渡すと、そこは惨状だった。その家に居た難民の男達は、破壊の限りにその肉体をへし折られ、命の尊厳など完全に無視した無残な姿となっていた。そこに”神”のご加護はなかった。




「塩工場」の仲間であるはずのイアも、すでに息絶えていた。
アグニはイアの遺体に「助けに来たぞ」と言いかけて、言葉を変えた。
「いや・・・・違うか。ルナを守る為に来たんだ。」




アグニは顔色一つ変えずに、この家の倉庫に入ると自分の再生した右腕を、ノコギリで切り落としだした。
ルナを守る。
ルナと自分が「塩工場」の女達に信用されたままで居続けるには、右腕が再生していてはダメだ、疑われてしまう。
完璧な嘘をつく為には、コレは邪魔であった。




アグニにとって、ルナを守る事以外の事は、取るに足りない事だった。

コメント

ファイアパンチ 58話 「ここにいたい」

2016年02月28日 | ファイアパンチ

アグニは、殺した鹿を無造作に、まるで材木でも運ぶかのように引き摺って持ち返ると、リアンに鹿が崖から落ちて死んでいたとすんなりと嘘をついて、食肉として渡した。



ルナは、思わず鹿から目を逸らせた。
ニーサンと見た鹿は生きていた。ニーサンが狩って殺した事はルナはわかっていた。



翌日の夜になって、ドマ先生や先生と共に暮らす仲間達の様子を見に行っていた「ラヌー」が飛び込むようにして帰ってきた。
一緒に行ったはずの双子の「イア」はいない。

放心状態のようなラヌーは、ドマ先生の様子を聞かれて「焦げカスになっていた・・・、家も人も全部みんな・・・」とだけ言ってまた黙った。

リアンもテナも、事態を呑み込むのに必死なのか、誰もそれ以上しゃべらなかった。
傍に居合わせたアグニも黙っていた。
全てを燃やして殺したのは、自分だとは言わなかった。


放心したようなラヌーは、ようやく言葉を続けた。
「そんで・・・帰る途中で一昨日ぼこった難民共に後をつけられて、イアは足を撃たれて連れて行かれた・・・。」




話はそれで終わった。女達はその夜、何事もなかったかのように各自のベッドについて眠ろうとしていた。
アグニは女達に聞いた。
「仲間が捕まったんだろう、助けに行かないのか?」


やはり女達は眠ってはおらず、テナが答えた。
「助けに行っても殺されるか捕まるだけだよ。男が20人とかいたはずだから。私達も襲われて数が減って、こんな少ない数になったんだ。中途半端にしか再生できないアンタには今回はどうしようもないよ」

アグニは知らなかったが、ここは何度も繰り返し男達に襲われていたのだ。
アグニの「ここは危ないのか?」という問いに女達は「ああ、危ないよ、出ていくなら妹も連れて行け」と返した。


ルナを守りたい。
やっと見つけた寒さを凌げる場所、眠れる場所を離れて寒さがぶり返してきた外に出ても行く宛などない。
どうすればいいか、アグニは一人廊下で考えこんでいると、そっとルナがアグニに寄り添ってきた。
寝ていたのだろう、ルナは寄り添いながら半ば眠っていた。




「寒くないか」と聞くと、ルナは答えるかわりにアグニに寄り添ってほほ笑んだ。
その顔を見て、アグニも思わず微笑みが漏れていた。



ルナを守りたい。この笑顔をいつまでも守っていてやりたい・・・。
だけどここも、ルナが安心して暮らせる場所ではなかったのだ・・・・、どうすればいい・・?

アグニは眠たそうなルナに話しかけた。
「ルナはここにいたいか?」

ルナは目を閉じたまま「ルナは、ここにいたい」と答えた。


それで決まった。
アグニの取るべき行動が決まった。
アグニは、一人雪道を松明片手に歩き出した。

コメント

ファイアパンチ 57話 「俺がいないと駄目なんだ」

2016年02月27日 | ファイアパンチ


リアンは、アグニとルナを仲間として迎え、部屋を与え、服を着せ、仕事を与えて、仲間達を紹介してくれた。
アグニは、リアンに差し出された服を着た。15歳でドマに燃やされて以降の、久しぶりの着衣だった。

今いる仲間は、先程ルナに服を与えて逃がそうとしてくれた少女で「テナ」と言った。
テナは炎を出す祝福があるが、火力調整できないうえ、すぐに疲れるので役にはたたない祝福だと言った。




そして「私はリアン。あんたを助けた命の恩人だ、一生覚えといて」と本気か冗談かわからない口調で自己紹介する。




「今はいない黒髪の双子がイアンとラヌーで、ドマ先生が本当にくたばっているのか見に行った」と言ってから「ドマ先生はしぶとく生きてるに決まってるよ」と言葉を直した。
ドマ先生を慕うテナに気を遣ったのだろう。
リアンがアグニ達を連れて部屋を出た後、テナは涙を流して悲しみに沈んだ。



リアンは、アグニを水辺まで連れてくると、薪になる木を集める仕事を命じた。
「昨日なんかわかんないけど、いきなり木がぶわーと生えてきて、暖かくなって、そんでいきなり崩れてさ」と木が付近に大量に落ちている理由を教えてくれた。
ルナはリアンの横で無邪気に「ぶわー」と言葉の一部を切り取って繰り返していたが、そのルナこそが、いや、ユダこそがその「木」であったことは覚えていないようたった。


アグニがリアンと話している隙に、ルナが湖の氷を舐めていたので、アグニは「ルナ、汚いかに食べちゃダメだよ」と兄さんらしくやさしく教えた。
アグニは、ルナがどこまで自分の言葉が理解できているのかわからなかったが、そう言うと素直に食べるをやめたルナを見て、ほっとして嬉しくなった。
言葉が通じる。以前の素直でかわいいルナのままだ。


だが、今のルナは幼い子供のようにわかっていない事が多い。
湖の水を楽しいと思ったルナは、そのまま深みまで走っていくと、溺れた。
湖がだんだん深くなる事、水は溺れて危険なこと、冷たい水に体を浸せば体が冷えて病気になることがわからないのだ。
アグニは、どうしてもルナを失う事を本能的に恐れていた。それはアグニが本当のアグニであった頃、ファイアパンチであった頃から変わらない。




慌てて水の中からルナを助け出したアグニは、家に連れ戻って、ベッドで大人しく寝ているように言いつけると、再び仕事に戻る。
誰の監視があるわけでもなく、リアンのいいつけを守らねばならないわけでもなかったが、アグニはよく働いた。
自分の顔を切ってわけてやる献身的な気質が残っていたのかもしれないし、ルナと共にここで生きる為なのかもしれないが、「仕事」という振り分けられた役割にアグニは没頭するようによく働いた。


アグニが薪採取の為に、何度目か湖に戻ると、ルナがまた湖の沖を歩いていた。
アグニは「またか!」と叫ぶと全速力で助けに入ったが、ルナはアグニの目の前で深みにはまって溺れていった。
必死の思いで助け出したルナは、驚いたようでアグニにすがって泣き出した。それは幼い子供そのものだった。

アグニは元気に大泣きするルナをその胸に抱いて「よかった」とつぶやいた。




・・・・よかった。
ルナは俺がいないと駄目なんだ、よかった。それならルナは妹で、俺は兄さんだ。


反射的にルナを助けに飛び出したこと、ルナを失いたくないこと、ルナを守ってやりたいと思う気持ちが湧き出ることを認めたアグニは、ルナはユダではなくルナであって、自分の妹なのだと正面から認めることにした。
それならば、自分は妹を守る兄でならねばならない。自分は妹にとって必要な人間なのだ。
もう、抗わない。




アグニはルナにげんこつとげんこつをコツンとあわせて『約束』する方法を教えた。
自分をずっと縛り続けて、気が狂わんばかりに苦しめた『約束』だ。
「これは約束を忘れないって意味だ。手と手をごんとすると痛いだろ?痛みの記憶は忘れることが出来ないんだ。だからこれをやった時のことはずっと覚えておける。ルナ・・・一人でいたらダメだよ。」




”約束”をかわした二人は、帰路で鹿を見つけた。
アグニは、ルナには先に家に戻るよう言いつけて、一人で鹿を狩った。

いいつけ通り家に帰ったルナは、テナの隣のベッドでニーサンを待って、微笑んだ。
殺そうとして、殺してと頼んだアグニを、愛する兄さんとして笑顔で待った。



アグニの方は、鹿の首を素手で締め上げて殺していた。
ドマが狩った鹿を丁寧に扱っていたのとは対象的に、かつてのアグニが鹿の命にも真摯に向き合っていたのとは違い、今のアグニに鹿はただの肉で食糧でしかなかった。
そこに命の重みはなかった。
鹿を殺しながら「ルナは俺がいないと駄目なんだ・・・」と不気味に笑っていた。




絶望のアグニに、”生きる糧”が出来たのだ。役割が出来、纏うものが出来ていた。
正気のままで死ねなかったアグニの、次の”生きる糧”は危うい。






コメント

ファイアパンチ 56話 「兄さんと呼んでくれ」

2016年02月26日 | ファイアパンチ
暗闇の中、アグニは誰かに手を握られている感触だけを感じていた。


だんだんと意識が戻ってくると、誰かが自分を助けようとして、体の中の銃弾を取り出す手術をしていることがわかってきた。




アグニは願う。
どうか助けないでくれ。
俺はここで死んだ方がいい、俺はたくさん人を殺した。俺のせいでたくさんの人が死んだ。
俺は・・・ためらいも罪悪感もなく、自然に嘘をつけるようになってしまった。
ここで死ねなきゃ俺は、もっとおかしくなってしまう。
ここで生きてしまえば、何かが俺を覆ってしまう。
少しでもまともなまま、死なせてくれ。
ここで俺が死んだ方が、俺も皆も幸せになれるんだ。





朦朧とする意識で、アグニは「俺を・・死な・・・せ・・・くれ」とつぶやいていた。
死にたかった。でも出来なかった。ファイアパンチとして自分を騙す事で生きてきた、それはアグニの悲願だった。

だが、アグニの手を握り続けていたユダ・・・ルナがつぶやく。
「生きて・・・」





その瞬間、アグニはカッと目を見開き、体を起こすと、体内の銃弾を弾き飛ばした。
流血は止まり、傷口はみるみるうちに塞がれていく、【再生の祝福】が消えきってはいなかったのだ。
アグニの目は、正気のそれではなかった。




「生きて」
死にたいと願い、死ねそうになると囁かれるその呪文のような残酷で優しい言葉が、またもアグニに投げかけられた。
アグニは「ああああああああ!!」と叫ぶと、体中をバキバキと音をたてて暴れ、そしてまた気を失った。
次は、一体自分が何として生きていけばいいのか、もうアグニ本人にもわからかった。生きていくのではなく、死ねない
だけなのかもしれない。




ルナと、手術をしていたそばかすの女は、驚いてその様子を見ていたが、ルナはその間も決してアグニの手を離さなかった。




アグニはまた暗闇の中にいて、「生きて」という声を聞いた気がして目を覚ますと、今度は清潔なベッドに寝かされていた。
ベッドの中に温かいものを感じて見てみると、同じ布団の中のアグニの傍らにはルナがすやすやと眠っており、そばかすの女が2人の傍で編み物をしながら看病してくれていた。

アグニが目を覚ましたのに気づいた女は「あんたの言うことを聞いて・・・あのまま死なせてやればよかった。再生の祝福者は嫌いだ。どいつもこいつも年寄りで威張ってて、私の国の一番偉いヤツも再生のだった、顔も見たことないけど・・」と勝手に喋っていた。

ベヘムドルグの一番偉い奴は、その女の目の前ですやすやと眠っている、今はルナと呼ばれるその女であることを知る由もない。


女はアグニに名前を聞いたが、アグニは自分の名前が思い出せないでいた。
名前意外は覚えているが、自分の名前は浮かんでこない。
妹の名前をきかれると「ルナ」と、すんなり出た。

その女、リアンは「なぜ男共を逃がした?私達は3人殺され、1人が奴隷にされてる。あいつらの仲間なのか?」と聞いてきたが、アグニは「人が目の前で死ぬのは見たくない・・・もういい、もうたくさんだ、殺すとか殺されるとか、もう。俺はもう・・ルナの為だけに生きる」と答えた。

質問と違った答えにリアンは少し考えてから「そんなに妹が大事なの?」と聞くと、アグニは視線を天井にむけて「当たり前だ。俺の妹は妹だ」と答えた。
アグニの記憶がどこまで戻り、どこまで混濁しているのかはわからない。


リアンは、編み物を置いて今後のことをアグニに伝えた。
「みんなで話し合って、あんた達が私達とここに住みたきゃ住めばいい。そのかわり全部の力仕事をしてもらう。私達のいう事を聞かなかったり、襲ったら妹を殺す」と言ってから、リアンは左手を出して、アグニにも手を出すように言った。

そして出されたアグニの手をパシッと掴むと「知らない奴でも手を握れば自分も相手も体温は伝わる。そうすればもうそいつは知ってるヤツだ」と言う。




アグニはそれがドマの教えであることがわかった。
ドマが弟子に教えた思想で、今の自分は生かされているのは皮肉だった。

アグニの手を握ったリアンは、アグニを仲間だと認識できたのか、少し明るく「あんたを何てよべばいい?」と聞いた。
一緒に暮らすには必要なことだ。
名前の思いだせないアグニは「そうだな・・・・兄さんと呼んでくれ」と言ったが、リアンは正直それは呼びたくないと思った。





今度の役は”兄さん”。
それがアグニの生きる理由である。
コメント

ファイアパンチ 55話 「今なら死ねる」

2016年02月25日 | ファイアパンチ
ルナが、女達に引きずられるようにして連れて行かれた。
『氷の魔女』は、木となったユダは再生も祝福も消すと言っていて、実際にドマの炎も、再生も消えて止まっている。
ということは、今なら死ぬ事が出来るのだ。




このまま、ただ黙って撃たれればいい。それだけで全てが終わり、楽になれる。
死ぬことが恐くないアグニは、男達の前で銃を突きつけられても平然と黙ったまま突っ立っていた。


だがアグニの耳に、ルナが「ニーサン、ニーサン!」と呼んで助けを求める声が聞こえる。
自分が死ねば、男達はルナも一緒に攫っていくのだろう・・・。
アグニはチラリと、ユダであったルナを見た。


男の中の一人、車を運転していた黒髪の男はテナの名前を呼ぶと、一緒にくるよう説得を始めた。
「テナ!こっちには食糧が山盛りあるぞ!!俺達の子供を産んで、女の役割を果たせ!!」




だがそんな身勝手極まりない説得に応じる女がいるはずもなく、テナと呼ばれた女は「男なんて全ッ員死ねー!!」と叫ぶとその掌から炎を噴出させた。
それはまるで、ドマの炎のようであったが、火力は圧倒的に少ない。



アグニはこの事態の中、ずっとルナを見ていた。ルナだけが気がかりで、他はどうでもよかった。
連れて行かれるルナの嫌がる顔を見て、アグニの腹が決まった。


男共にどっちにつくのかを聞かれたアグニは「あいつらを仲間と犯そうとした。アイツが祝福者だと知らずに仲間は殺された。俺は逃げたが服を燃やされた。俺の仲間と服の仇を討ちたい」と即席の嘘を言いつつ、真剣な目でまっすぐに男を見て訴えた。

男達はその話にくいついて「俺達と来い!こっちなら女をヤリたい放題だぜ!」と歓迎したので、アグニは笑顔を見せて「おう、いいなぁ最高だ!入れてくれ」と言って、口角を挙げ笑顔らしき顔を作ってみせたが、その目はちっとも笑ってはいない。




男共が油断したのを見て、アグニは男達を素手で殴り、至近距離の銃を気にせず頭突きをくらわせた。
戦いながら、(撃て!!俺を撃て)とアグニは念じていた。
この近距離で、複数の銃に撃たれて死ねばそれでいい。この場の男達を倒せば、女達はルナを連れて逃げることも出来るだろう。


銃を乱射されることには慣れていたので、全身を蜂の巣状に撃たれたまま、アグニは男達を1人を残して全員を倒した。
再生が全て消えてはいないのか、これほどまでに撃たれてもアグニはまだ立っていて、最後の一人に「俺の祝福で銃弾は効かない。銃を捨てて返れ。次に俺と会ったらお前を殺す」と言い渡して、男達を全員連れて帰らせた。








ベヘムドルグの男達が帰ったのほ見届けたアグニは、その場に倒れた。
全身から血を流し、意識を失い、倒れたアグニは再生していなかった。



とうとう、とうとう、長く長く渇望した死がアグニに訪れたのだ。
コメント (1)

ファイアパンチ 54話 「俺達は悪者じゃない」

2016年02月24日 | ファイアパンチ
無人の建物で、アグニがルナにファッションショーをさせているところを、建物の住人らしき人に銃をつきつけられた。
「動くな、変態2人組、祝福を使おうとしても殺す」

アグニは「俺達は悪者じゃない」と説明するも、他人の家に侵入して真っ裸で歩き回っている男に言われても説得力はない。




服は・・・・と言い訳を考えた。今までは燃えているから服は必要なかったし、着れなかったが、今の自分は燃えていない。
アグニは「体温を感じない・・・寒さを何も感じないんだ」と説明しているうちに、何も感じないという感覚の不思議を実感していった。「右腕も再生しない、炎もない、何も感じない、何も・・・。」

そうして考えた末のアグニが服を着ない理由は「寒くないから服を着ないんだ」という結論に達した。

銃を持った人は「今日は生まれて初めてってくらい暖かいから、そういう事だからじゃない?変態」とその言葉を一部肯定した。
事実、その変態男だけではなく、気温が突然”暖かく”なり、寒さをあまり感じないのだ。
突然に初めての”暖かい”を体感するのだから、わけがわからなくなって自分の感覚がおかしいと思う人がでても不思議ではなかった。


その人テナは、ルナに暖かそうな服とコートと靴を分け与えてやると、アグニを裸のままで追い出した。
出て行きさえすれば殺さないと言うその人に、アグニは兄として礼を言った。
「ルナに服と靴をくれてありがとう。じゃあな」

だが、ふりかえるとそこには別の銃を持った3人組の女がいて、アグニに銃をつきつけていた。
リーダー格のそばかすの女は、アグニ達を敵とみなし、また肉・・食糧とみなしてここで殺して食べると言う。
さんざん人肉を数百人の人々に切り与えていたアグニにとっては、衝撃的な言葉ではなかった。



だがテナは反対する。
「人肉を食べたら地獄に落ちるって先生が言ってた。人を食べれば人でなくなる。」



そばかす女も持論を曲げない。
「海で魚が獲れなくなった。毎日ベヘムドルグの難民が私達を攫いに来る、食べなきゃ動けなくて攫われる!神の目を気にしている場合じゃない、人の肉も豚や牛と同じ!私達でこいつらを殺して・・・食べる!先生の教えには歪んでたモノもあったから、私達は先生から離れたんでしょ」




アグニの首には、無垢で無知なルナがぶらさがるように抱きついて、事態の全てをアグニに任せていた。
アグニは、彼女達の会話からおおよその状況を掴むと、演技に入った。

「先生ってドマ先生のことか?俺も先生の教え子だよ。先生の家が襲撃にあったのを知っているか?」
それを聞いた少女達の顔に動揺が広がり、気はドマの話題へと移っているのを確認したアグニは、涙をその目に滲ませて嘘を続けた。
「ベヘムドルグの難民が家を燃やして・・・先生が・・・先生もみんなも・・・!」




気の強そうなそばかすの女が「みんなを見捨てて逃げたの?」と正義感を奮ってつっこんでくるのでアグニは、サラリと嘘で答えた。
「俺も戦ったけど、こうなった。気づいたらルナを連れて走って、どうにかここまで逃げてきたんだ」そう言いながら、哀しそうな顔をして、そっとルナを愛おしげに抱き寄せてみせた。

関係のないルナは、自由に雪を拾い上げて「おいしい」と食べていたので、アグニは「ルナは恐ろしい目に逢ってバカになった」と説明した。

これで信じるだろう。難を逃れたと思っていたアグニに、テナが銃を突きつけたので、アグニの顔色が変わった。通用しないのか・・!



だがちがった。テナはアグニではなく、その先にいるベヘムドルグの難民の男達に銃を向けていたのだ。
毎日女を攫いに来ると言っていたヤツラが、今来たのだ。

そばかすの女が、ルナだけを助けてアグニにはここに残るよう命じて、ルナを連れて建物に方に後退しだした。
アグニは、後方を女達から銃を向けられ、前方にはベヘムドルグの難民達に迫られ、進退両難の窮地に立たされた。




コメント

ファイアパンチ 53話 「夢を見ているみたいだ」

2016年02月23日 | ファイアパンチ
誰?と聞かれて口から思わず出た言葉が、二人を兄妹にしたてあげていく。

無邪気なルナは、雪や星の名前を連呼していたように、自分を「ルナ!」と確認し、アグニを「ニーサン!」と言って確認した。
ルナの口からでる「ニーサン」の言葉の響きに、アグニは改めて驚いた。
兄さんと呼ばれるのは、一体何年ぶりで、どれだけ望んだことだったのか。




女は、二人の名前を確認すると、楽しそうに「うふふふふ!」と笑い出す。
笑っている女を見ていると、アグニもつられて笑い出し、アグニが笑うので女も笑った。
二人で笑いあいながら、アグニは(何を言ってんだ俺は)と心は冷めていた。
(コイツはルナじゃない。この女はルナが死んだ元凶のくせに、ルナに顔と声が似ていて・・・死んだ方がいい人間だ。だから殺せ、殺せ、殺せ、殺せ)




アグニは、女を殴り殺そうと再びその拳を握って奮いあげた。右手はなくなっているので、左腕だけを宙に浮き上がらせたが、そのまま止まってしまって、どうしても振り下ろせない。

すると、女がアグニの胸に飛び込んで抱きつき、胸に頬をすりよせて「あたたかい・・・!」と気持ちよさそうにつぶやくと、にこりと可愛い笑顔でアグニを見上げた。



その笑顔はルナ。
アグニは振り上げた腕を、そっとルナの頭にまわして優しくその髪をなでた。柔らかな髪がアグニの手に触れる。

アグニはそこでやっと気づいた。 「燃えていない・・・、どこも痛くない・・・」
ルナはまだアグニの胸に顔をうずめて「あたたかい!あたたかい!」と感触を言葉に出して繰り返していた。

それから「ない!」とアグニのなくなった右腕を指差したので、アグニも自分の右腕をみやった。
(再生もしていない・・・)


それから二人は、近くにあった無人の建物の中に入って服を探して歩き回った。
目新しい建物に、施設に、ルナは楽しそうに弾むようにして先を歩く。アグニはその姿を穏やかな目で見ながら、脳内では(殺せ、殺せ、殺せ・・)と自分に命じ続けていた。

(殺せ、殺せ)と思いながら、実際の行動は優しい兄である。
女物の服を見つけると、ルナ・・・女に服を着せてやり、パンツを履かせ、寒いだろうからと防寒になる服を探してやっていた。女の為の暖かそうな服を探してやりながらも、(殺せ、殺せ、殺せ)と唱え続けることは止めなかった。

だが、それも長くは続かなかった。
服を着てきゃっきゃとはしゃぐ女の姿を見たアグニは、思わず尻もちをつくように膝が崩れて座り込んだ。
シンプルな服を着てはしゃぐルナが、かわいかったのだ。
かわいいと思う本能は、もう止められなかった。ベヘムドルグの事、ドマのこと、炎の憎しみのこと・・・そうした”思い”は、かわいいという本能に勝つことは出来ない。



アグニは涙が止められなかった。
自分が望んでいたことは、これじゃなかったのか。奇跡を起したくて、ルナに会いたくて、ルナに兄さんと呼んでほしくて、ルナの幸せそうな顔を見たくて、だからずっと死なずに耐えて生きてきたんじゃなかったのか。復讐をしたいわけではなかった、ルナに会いたかったんだ。

ルナは、泣き崩れるアグニの傍によってきて「なみだ!あたたかい」とまたアグニの頬を優しく撫でる。ルナがそうしていたように。

アグニは「夢を見ているみたいだ・・・、もうよくわかんねぇ、全部もうわかんねぇ。俺のおかしくなった頭じゃよくわかんなくなってきた。考えられねぇ・・・」




そしてアグニは深く考える事を放棄して、この夢に身を預けることにし、ずっと呼びたかった名前を口にした。
「ルナ」

すると、ルナのその声で、すこし弾んだ声で「はい」と返事が返ってくる。
アグニはもう一度呼ぶ、またルナの返事が返ってくる。



アグニは残った左手で顔を覆いながら、もう一度聞いた。
「ルナは・・・ルナなのか?」
返事は「はい!」だ。

左手をのけたアグニは笑っていた。苦笑いのような、笑い方を忘れてしまったかのような、そんな笑い方だった。





それからのアグニはふっきれたように、ルナをかわいがった。
たくさんある服を片っ端から着せて、はしゃぎまわるルナのかわいさ、愛らしさを存分に堪能した。
もう、このかわいいルナを殺そうだなんて思ってもいなかった。ただ、ただ、かわいいのだから。





だが、二人だけの小さなパーティは銃の音で終わりを告げた。
「動くな、変態二人組」とアグニは銃をその生身の体につきつけられていた。


コメント

ファイアパンチ 52話 「俺は、兄さん」

2016年02月22日 | ファイアパンチ
「木」は、突如爆発したかのように枝を天にも届かんばかりに縦横無尽に伸ばした。
木の頂点にいたアグニも、その枝に体を貫かれて右腕がちぎれ落ち、体が宙に浮き上がった。




四方八方に伸びに伸びた枝枝は、ひび割れを起して粉砕するように壊れ、その巨大な枝も幹も木っ端微塵に舞い飛んで世界に降り注ぎ続けた。
幹の真下では、崩れ落ちる大木の破片が落下しては、うず高く積もっていった。
アグニの千切れた燃える腕も落下して、木片の下に消えていった。









どのくらいの時間がたったのか、木片は次から次へと留まることなく、まるで雪が降るように世界に降っていた。

そんな中で、アグニは目覚めた。
まだ死ねてはいないたようだ。



体を起したアグニは、しばし呆然とした。
ここでどこで、何がどうなっているのか理解しきれないのだ。海岸のような場所に打ち上げられているようで、暑さ寒さは感じなかったし、痛い、辛いなどの感覚もなくなっていて、右腕は無くなっているのだが、アグニはそれどころでなく状況が掴みきれない。

ふと傍らを見ると、ユダが眠っている。
アグニは再びユダに馬乗りになって殴り続けようとしたが、その寝顔はやはりルナなのである。
アグニは振り上げた拳を止めたまま、涙が流れてくるのを止められないでいた。




すると、眠っていたはずのルナ・・ではなくユダがその指で、そっとアグニの頬をつたう涙をぬぐって「きもちいい・・・」とつぶやいた。
女は「なみだ、あたたかい」とアグニの頬を触ったまま言う。
アグニは驚いて動きを止めたまま、じっと女の顔を見た。



これは・・・この女はユダなのか、ルナなのか。奇跡は本当に起きたのか・・・。

アグニの驚きをよそに女は体を起すと「なみ。うみ。ゆき。つめたい。気持ちいい!」とまるで言葉を覚えたての幼児のように、単語を並べ、無邪気に波や雪を触ってその感触を楽しんでいる。

アグニは黙ったまま、呆然と女の様子を見ていた。
女は次第に動きを大きくし、立ち上がって「つき!ゆき!ゆきゆきゆきゆきゆき!よる!ほし!ほしほしほし、ゆきゆき!」と目に映る物の名前を連呼して、楽しそうに駆け回った。楽しそうに、笑顔ではしゃいでいる。



アグニはずっと願っていた。ルナの笑顔が見れたなら、ずっと炎のままだっていい。ルナが戻ってきたなら・・ルナが・・・。

女はしばしはしゃいだ後、アグニを見つけると指をさして「だれ?」と聞いた。
アグニは呆然としつつ「何も・・・覚えてないのか?」と反射的に聞くと、女は「ナニモオボエテナイノカ」とアグニの言葉をたどたどしく繰り返した。
どうやら、覚えていないらしい。

女は次に自分を指差して「だれ?」と聞く。
アグニは放心したまま聞かれたままに「ルナ・・」と答えてすぐに、「あっ!ちがうっ」と訂正したが遅かった。
女はきょとんとした無垢な少女の顔で、アグニの言葉を繰り返した。 「ルナ?」
アグニの目に、その幼い少女のような瞳、言葉、行動がルナに映っていた。
もうアグニの理性は抗えなかった。 「そう・・・、ルナ・・」とアグニは妹の名前を告げた。




ルナがまたアグニを指差して聞いてきた。 「だれ?」
自分は・・・自分は・・・誰なのか。アグニは戸惑ったように「俺は・・・兄さん・・」と答えていた。

コメント

ファイアパンチ 51話 「本当の俺ってどれだっけ」

2016年02月21日 | ファイアパンチ
「木」の頂点まで登りつめたアグニは、そこにユダを見つけた。
ユダは、パジャマ姿で「木」の中に横たわり、アグニを見やると穏やかで少し幸せそうな顔で目を瞑っていた。
自分を殺してくれる存在がいたことが嬉しかったのだろうか。




「殺してやる・・・」その思いでここまで来たのだが、その寝顔を見て躊躇した。
「本当に・・・ルナじゃないんだな?本当に。」
そのルナと同じ顔をした女は「本当にルナじゃない」と答えるが、アグニの目には懐かしいルナの寝顔にしか見えないのだ。




アグニはまた「嘘なんじゃないか?嘘ついてんだろ、俺に嘘を・・・」と独り言のように繰り返した。
ユダは「嘘じゃない」と言いながら、ゆっくりと目を開いてアグニを見た。

アグニは、ユダと目があった瞬間、その顔面を思いっきり殴りつけた。
それからは堰を切ったように、ユダの顔面を殴って殴って殴り続けた。
殴りながらアグニは思った。

(奇跡よ、奇跡よ起これ。ユダが死ぬとその体はルナになるんだ。ルナは元気に起き上がって俺に話しかける。
『兄さん、助けてくれてありがとう、やっとルナに戻れたよ。今まで体を祝福でのっとられていたの、本当にありがとう』って。
そして俺に笑いかける。そうなってくれたら、俺は一生燃え続けてもいい、だから奇跡よ起これ、奇跡よ起これ、奇跡よ・・・・)




アグニはルナを思いながら殴り続ける手を止めなかった。アグニの手元には、肉と血と骨がぐちゃぐちゃに潰れたユダがいたが、アグニは奇跡が起こるまでその手を止めるつもりはなかった。手元の肉片が形を留めていなくても、殴り続けていたであろう。




だが、アグニはその手を止めた。
どこからどう飛んできたのか、アグニの頬に一枚の写真が張り付いたのだ。

アグニはそれを燃える手で摘んで見ると・・・それは幼い頃の、まだ燃えてない頃の自分とルナの2人の写真だった。
そこに映る自分は・・・・苦笑いをして、無理に笑顔を作ってかしこまっている自分の姿だった。



アグニは、写真が燃え尽きるまでじっとそれを見て・・・・うなだれたが、写真がなくなるとまたユダだった肉を殴った。
(本当の俺ってどれだっけ?)



アグニは、自分がいつから演技をして、いつから何を偽って生きてきたのか、自分の正体が、自分の本心がもうわからなくなっていた。
アグニの拳がユダを壊滅させた時、「木」が大きな音をたてて、突如一斉にその枝を周囲に伸ばして巨大化した。


コメント

ファイアパンチ 50話 「私を殺して」

2016年02月20日 | ファイアパンチ
アグニは死を望んでいた。ずっと長い間、ドマに焼かれたその時から死を望んでいた。
なのに、「生きて」の約束に縛られたように生き続け、その炎で人を殺し、人を助け、トガタをも焼失した。
死にたいと望んでも望んでも、死ぬことが叶わなかった。


そして今、憎き世界の敵である『氷の魔女』に、「悪役は死ね」と要求された。


『氷の魔女』が指を指し示すと、それに反応して大木の枝が動き、無数の枝がアグニの体を背後から貫いた。



能力を吸い取り、消し去る「木」に貫かれて、アグニは地面に手をついたが死なない。いや、死ねない。
倒れた先に、トガタだったものの黒こげの頭部が転がっているが、それはもう、アグニに何も教えてはくれなかった。
アグニは「なんで・・・もう、生きる糧なんてないのに・・・どうやって・・・」とつぶやいたきり、動こうとしなかった。



『氷の魔女』は、なぜ大木の枝を用いても炎が消えないのか、死なないのかわからなかった。
アグニは、自身の体を貫く「枝」になぜ炎が燃え移らないのか、わからなかった。

枝を体に刺したまま、力なく地面に這いつくばるアグニの頭に、直接呼びかける者がいた。
「アグニ」


アグニは、その声に反応して顔をあげ、声がする方である大木を見た。その声はルナだった。いやユダなのかもしれない。

声は「アグニ、私を殺して」と呼びかける。
「なんで?」と聞き返すと「もう死にたいの、でも自分では死ねない。私は木の上にいる」と言う。

つづけて「ベヘムドルグを作ったのは私。ドマを作ったのは私。貴方の妹を殺したのは私。だから私を殺して」と呼びかける。

アグニは「そっか・・・そっか、そっか!」と納得したように立ち上がると、木を見上げて叫んだ。
「ぶっ殺してやる・・・。じゃあぶっ殺してやるよ!!」




『氷の魔女』は椅子から立ち上がると「ユダ!アグニを殺して!」と命令なのか訴えなのか叫ぶと、その声に反応して「木」は前よりも勢いよく枝をアグニに突き刺し、凄い勢いで大木の幹にアグニを叩きつけた。普通の人間なら肉が木端微塵になっていたはずだが、アグニの体の肉片はそのまま「木」に張り付いていた。

暫くして再生したアグニは、「ぶ、ぶ、ぶっ殺してやる!」と憑りつかれたように、「木」を登り出した。
「木」は硬すぎて、その幹に手足を突き刺して登ろうとするアグニの骨を簡単にへし折った。
だがアグニは気にする事なく、剥き出しの骨を使って「木」をよじ登っていく。
「殺すッ殺してやる!ぶっ殺してやる、殺す、殺す・・・殺してやるからな」と言い続けながら延々と登っていく。




触れたもの全てを焼き尽くす炎は、「木」には燃え移らない。ならば「木」の上の本体を殺すだけだ。
「木」を登る間中、アグニの頭にはルナ・・・いやユダの声が聞こえ続けていた。
「殺して。殺して。殺して」
アグニは「殺してやる、殺してやる、殺してやる」と登っていく。
木をよじ登るアグニを見ながら『氷の魔女』は、ユダに「殺せ、殺せ、早く殺せ」と念じ続けた。

3者の「殺し」の念が交差する。


アグニは、憑りつかれたように「木」を登り続け、とうとうその頂点にユダを見つける。
コメント