まんがパウチ (レビュー・ネタバレ)

漫画の絵とストーリーを、真空パウチするように書きとめました。
【ファイアパンチ】【カラダ探し】など

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ファイアパンチ 30話「ハダカみたいな女の人」

2016年01月30日 | ファイアパンチ
トラックを囲んで撃ち乱れる拳銃や、何かが壊れるような音に、トラックの荷台に詰め込まれた奴隷達は不安に駆られた。
べヘムドルグの奴らは、侵入者を殺して再び自分達を奴隷や薪として捕まえ、連れ戻すだろう。
その時の待遇の酷さは、今までと比ではないはず・・・。

人々は口々に「アグニ様・・・アグニ様慈悲の炎を・・・」「アグニ様・・」と手を合わせて祈った。そうすることで、少し不安が紛れる気がした。




その時、外を見ていたサンが「いま、ハダカのような女の人が飛んでた!!」と叫んだ。
サンの見たハダカのような女は、トラックの上にいた野球男の元へと降りた。野球男は突然現れた祝福者に驚いたが、彼女の心を読んだのか「・・そうか、味方か!」と安堵した。
だが女は、男とは言語が異なることがわかると、移動して先頭車両であるトガタの車に乗り込んできた。







女はトガタに「Do you speak English?」と聞くと、トガタは「Are you a bitch?」と聞き返した。女は、トガタが少し変わってはいるが言葉が通じるので、自分の事情を話しだした。



「私はずっと遠くから来たの。住んでいた所が住めなくなってしまってね、ここに来れば炎の神様がいて、温かいって聞いたから。アグニっていう神様を知っている?」
トガタは「はぁーなるほど・・・。もちろん知ってる、私はアグニ信者だし!」と面白そうに答えた。

女は「ここから離れた場所に、銃も祝福もないけど私の大切な家族が160人いるの。貴方達の宗教に入れてくれたら、私が力を貸す」と言うと、トガタは「宗教?・・・いいねー!面白い!戦ってくれたらアグニ教に入れてあげる。それにしても、その恰好で寒くないの?」と言いつつ、女を撮影することを怠らなかった。


女は「私は新陳代謝がいいの」と言うと、槍を宙に飛ばし、早速べヘムドルグの兵達をその槍でドスドスと突いては殺し出した。
どうも女は、槍を遠隔操作できるようだ。



女はトラックの上に出て、野球男と合流して二人でべヘムドルグ兵の駆除を続けた。







祝福者2人の圧倒的な強さに、見かねたべヘムドルグのニット帽のリーダーはバイクをすててトラックの上によじ登った。
「私の名前はウロイ!!祝福者を殺す時は名乗ることにしている!!お前達も名乗れ!!」と怒鳴ったが、トラックの音や氷雪の風にその声はかき消された。



ウロイは「もういい!お前らが死ぬ時に聞いてやる!!」と言って、その手から炎を出した。
ウロイもまた祝福者である。








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ファイアパンチ 29話「死にたくねぇ」

2016年01月29日 | ファイアパンチ
見渡す限り氷雪の雪原を、奴隷を積んだトラックが何台もひた走っていた。
全ての奴隷は、アグニ様が命がけで、いや命がけなんて言葉で言い表せない苦痛と強い意思で助け出された人間達だった。


トラックの荷台の上では、野球男が、思い出にふけっていた。

愛する息子の最期の時、息子は自分の手を握ってアグニ様に感謝を伝えたがっていた。
「アグニ様・・・アグニ様に助けて・・もらったのに・・・お礼を言えなかった・・、お礼を・・・」



父は息子の遺志を受け取った。
「ははは・・・安心しろ。お父ちゃんがちゃ~んと言っておくぜ」



それを聞くと安心したのか、息子は静かに、穏やかに息を引き取った。
息子は暗く寂しく冷たい世界に行ったのではなく、アグニ様の炎に照らされた暖かい世界へ旅立ったのだ。

息子が奴隷から解放され、親に看取られて穏やかに眠れたように、この奴隷達にもそうする権利がある。男は、アグニ信者のリーダーとしてアグニの言葉を承り、奴隷達を守るべくトラックの上にいた。




先頭付近を走るトラックの助手席では、トガタが周囲の景色を撮影していた。
撮影しているのは、たくさんのトラックと、それを追うべヘムドルグの生き残りの兵達。
トガタはセルフナレーションを入れていた。
「生まれながら奇跡を使える人間を、祝福者と呼んだ。氷の女王と呼ばれる祝福者によって、世界は雪と飢餓と、狂気に覆われた。
凍えた民は炎を求めた。
凍えた民・・・凍えた民?凍えた我々は・・・凍えたもうた我々は・・?」




トガタのナレーションが暗礁に乗り上げた頃、別のトラックの運転手が声をかけた。
「もうすぐ雪が硬くなる!!通れる道が狭い一本道になる!!ここから一列になれ!!」トガタを乗せた運転者は、この追われる状況に不安を感じて「糞!糞!」と毒づいた。


トラックが一列となり速度を落としたなら、追う方にとっては絶交のチャンスだ。取り囲んで横から銃で運転者を狙えばいい。
べヘムドルグのバイク隊は、一斉にトラックに向けて雨あられのように撃ってきた。
その攻撃に対抗するのは、トラックの上に乗る野球男で、撃ち込まれた銃弾を一つ一つバットで打ち返してはべへムドルクの兵を殺していたが、多勢に無勢で難儀した。




野球男は、先頭を走るトガタの乗る車に「俺は後ろを助けてくる!お前らが止まったら全員死ぬぜ!死んでもハンドル離すな!」と言い残して行ってしまった。



「死にたくねぇ!」と運転手が言った直後に頭を撃ち抜かれてあっけなく死んだ。

他の運転手達も「死にたくねぇ」と言いつつ、降り注ぐ大量の銃撃に成すすべのなく、身を伏せて運転を続けるしかなく、口々に「アグニ様ぁ!!」と助けを呼んだがアグニは来ない。



アグニは来ないが、野球男の目の前にビキニのセクシーな女が立っていた。
女が立つのは、宙に浮かんだ槍の上で、どこから来た誰で、敵なのか味方なのかもわからなかった。






















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ファイアパンチ 28話 「氷の女王」

2016年01月28日 | ファイアパンチ
ユダから、すでにベヘムドルグもドマも焼失したと聞かされたアグニは、膝から崩れ落ちて呆然とした。



そのショックを受けた様子に、ユダは「妹の仇を取れたのに、嬉しくないの?」と聞いた。
黙っているアグニに対して、ユダは次々と質問を浴びせた。
「もっと派手に殺したかった?」 
「ちがっ・・」
「ドマが謝りながら死ぬと思った?」
「違うっ・・」
「殺したなら妹が蘇るとでも思った?」
「違う!!」とそこでアグニに立ち上がって強く否定した。


ユダは、質問に答えるアグニの反応を見て結論づけた。
「なぜ貴方が私を殺せないかを理解した。ドマが死んで、私も死んだら貴方には生きていく”糧”がなくなるから」



それでも「ちがっ・・」と小さく否定するアグニに、自分の内心について考えさせた。
ユダは、もう100年以上も世界を相手に嘘をつき、言葉で人々の心理をコントロールしてきた”支配者”である。
アグニ1人ごとき、難なく落としていく。

「なんで私が目の前で死ぬのが嫌?」
アグニはしどろもどろで答えたが、答えになってはいなかった。
「妹が・・妹がっお前に似ていて・・!おっ俺の妹は俺の目の前で死んだから・・・」


ユダは間髪いれずにその答えを否定した。
「嘘。貴方は私に死んでほしくないの。私が貴方の知らない所で死んでも、貴方は私が死んだとは絶対に思わない。私が生きていれば、ルナを殺した原因は私だと憎み続けるか・・・、私がやはりルナかもしれないと希望を持ち続けることができるから。
・・・貴方は嘘が上手。だからその炎にも耐えることが出来た。
でも、もう、正直になったほうがいい・・、この世界はもうすぐ氷に覆われ、全ての生物が死に包まれる。最後に生き残るのは炎に包まれた貴方だけ。」





自分が深い奥底に封印していた気持ちを、しっかりとそしてゆっくりと確信的に説明するユダの言葉に、アグニは聞き入っていた。それは自分の本心。炎に包まれた”ファイアマン”ではなく、アグニという一人の人間の本心だった。
アグニは、自分が今炎に包まれていることを忘れた。
どうやっても逃れられない炎の苦痛から、その瞬間は完全に開放され、元の自分に戻っていた。
ルナを失ったあの時の自分に。


素に戻ったアグニに、ユダ・・・ルナ・・・が手を差し伸べた。
「きて。辛かったでしょう?一緒にもう終わろう・・・」



その言葉はアグニにとって衝撃的だった。
深い暗い闇の奥底に孤独に佇んでいた自分に、やっと手が差し伸べられたのだから。
ずっと、ずっと欲しかった言葉を、言って欲しかった人からかけられたのだから。
呪縛のように自分を縛っていた言葉が、解かれていく。
こんな事は、どう願っても叶わないと思っていたら。



アグニは泣いた。
ボロボロとこぼれる涙はとめどなく、虚勢を張っていた鎧がボロボロと崩れてむきだしの弱い心をさらけた。
「ずっと・・そう言って欲しかったんだ・・・、なんで俺に生きて・・・なんて・・・酷いことを言ったんだよ・・・」
それは明らかにルナに対しての言葉であり、ルナであるはずのその手は、優しくアグニの頬をなでた。





だけど現実は残酷だった。
ハッとアグニが我に返ると、そこは極寒の地で、足元には焼き尽くされた廃墟の瓦礫と遺体の山で、目の前の女はルナではなくユダで、自分は炎に包まれたファイアマンだった。



ユダは、まんまとアグニの炎に触れた以上、もうアグニに声をかける必要はなかった。
自分の手についた”死”をもたらせてくれる炎を冷めた目で見つめてから、目を閉じて抵抗することなくその炎に自分の身を焼かせた。




アグニは、再び妹・・・らしき女が消えない炎に包まれて焼き死んでいく様子を目の当たりにする。
しかも今度は、自分の炎で焼け死んでいく。
それは残酷な絶望の押し付けだった。
でも、死ぬ事を許されない”再生祝福者”が死を選び、全てを終わらせたいという気持ちもわからぬでもなかった。



だが、終わらなかった。
気付くと目の前の瓦礫と氷雪の大地に自分以外の誰かが立ち、ユダの頭部を燃えた身体から切り離して、その手に持っていた。
ユダはまだ死んでいない。死ぬことを許されなかった。



「悪いけどまだ終わらないよ。
・・・アグニ君、キミは好きだから絶対に私の邪魔はしないでね。邪魔したら死んでもらうことになるからさ」




アグニの鋭い目には絶望とはかけ離れた光が宿っていた。
「お前は・・・誰だ・・・・」

そいつは答えた。
「氷の魔女さ」


氷の魔女・・・・その言葉にアグニはある会話を思い出した。
ルナはよく言っていた。
どんな辛いことがあっても、悪いのは人ではなく、人々を狂気に陥れる『氷の魔女』なのだと。
ルナは願っていた。
氷の魔女のいない、暖かい世界が訪れることを。
ルナと約束した。
いつか外が暖かくなったら、一緒に世界を見てまわろうと。

自分は約束した。
いつか暖かくなったら、一緒に世界を見て回ることを。

ルナと約束したのだ。








この話の中心核となる『生きる糧』について、アグニの本心についての説明的な回だった気がします。
無口で、あまり自分の事を語らない主人公の心理を、ユダが代弁していく、という形で説明されています。
とはいえ、アグニの本心は1話、2話からあまり変わりなく、ルナへの執着という一貫性があると思いますが。

ドマが死に、ベヘムドルグが消滅し、奴隷達が解放され、ルナが死んでユダが死んだ。
もうこれで思い残すことなく、アグニも死ねる、死んでいいような気がしました。
ユダを見送った後、生きる気力を消滅させることで、自分も炎で焼け死ぬことが出来るのではと。

でも、それでは『氷の女王』のフラグを回収できませんから、ここで『氷の魔女』を名乗る新キャラ登場!
氷の魔女は、邪魔すると死ぬよ、と警告しますが、強固な再生祝福者死なないし、死ぬ事が恐怖ではないアグニにそれは通用しない気がします。

・氷の女王
・トガタの知る世界の秘密
・ネネトとサンのその後
・獣姦趣味ぐらいしか出てきていないジャン
・ドマが死んだかどうかはわかっていない
・野球のおっさんと、アグニ信者の活躍
・ニット帽の兵長とベヘムドルグの残兵達
の回収がまだまだありそうです。












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ファイアパンチ 27話 「アグニ信者」

2016年01月27日 | ファイアパンチ
ベヘムドルグを出た奴隷や薪達は、奴隷運搬車にぎゅうぎゅう詰めに詰められ、座ることなど出来るスペースはなかった。
皆がそうであるように、ネネトもサンをおぶりっぱなしで疲れれてきて「はぁ、座りたい」とこぼした。

その声にサンは「重くてごめんなさい」と謝り、思い出した。
 「そうだ、ボク・・・まだアグニ様にありがとうって言ってない・・」



ネネトが「私にもまだ言ってない!」と言うと、サンは慌てて「あっ!ありがとうネネト!」とお礼を言った。
ネネトは「どういたしまして」と言いながら、ほっとしている自分に気付いた。
感謝してほしかったわけじゃない、お礼なんてどうでもいい、助けたかったんだ。自分がサンを助けたいと思ったんだと自覚した。サンをおぶりっぱなしなのは確かに疲れるけど、ちっとも嫌じゃない。こうしたかったんだ。



「私、ずっとサンが気がかりだったみたい・・・。自分でも知らなかったけど、私以外の人間はどうでもいいって、自分が生きていれば他人はどうでもいいって、自分で自分を騙してたんだ。
でも・・・アグニから、サンを助けようって言われて、なんかスッとした。私っていい人なのかも!」
と喋りながら自分の気持ちに気付いていった。


その頃、トガタはちゃっかり奴隷運搬車の助手席に乗りこんで、悠々と座って退屈していた。
運転手の男が、話を切り出した。 「俺はウテイ。お前は?」
トガタは「トッガーター」とまた冗談なのか本気なのかわからぬ口調で答えると、ウテイと名乗る男に聞いた。
「あんたら何者?」



男は自分を「アグニ信者」だと言う。
彼は『アグニという名前の炎に覆われた神様が天から降りてきて、悪い行いをする人を燃やして、善い行いをする人を助ける』という伝説を聞いて、アグニ様の味方になりたいと望む奴らと集まって、遠くからアグニ様を探してやって来たのだと言う。

話が不思議なので”伝説”ではあるが、仲間の信者の中には実際にアグニ様に助けられた経験を持つ者もいる。
経験した人間がいるのだから実話なのだろうとは思うし、信者であるからには信じてはいるつもりだったが、それでもその目で本当に見るまでは、どこかおとぎ話のように思っていた。

車の上に乗るアグニ信者の”お頭”も、この事件を目にしてかなり興奮しているようだった。
ウテイは「お頭は祝福者で、他人の心を見れるんだ。キレやすいけどアグニ様を一番尊敬している」と説明した。




トガタは、自分の筋書きやヤラセを越える事態になっている事に「へー面白い!は~・・・」と感心し、アグニの映画はまた
終わってない事を悟ってカメラを取り出した。
だけど、肝心の主人公をベヘムドルグに置いてきてしまったことに気付いたが、車窓からピラミッドが見えたので、とりあえずピラミッドをカメラに収めておいた。



遥彼方昔の遺物を見つめながら、トガタはつぶやいた。
「ま・・・アグニがいくら頑張っても、オチは絶対バッドエンドだよな~~・・・」
トガタは、世界の何をどこまで知っているのだろう。




その頃、伝説の男アグニは、目の前の一人の女に戸惑っていた。
その女は、先ほどまで神の声を聞く人間としてベヘムドルグに君臨していたが、今は、瓦礫の山となったベヘムドルグの鉄クズの上で、アグニの炎に触れようとアグニを追いかけていた。

穏やかな顔で「殺して、お兄さん」とアグニに語りかけたのは、ユダなのかルナなのか・・・。

アグニはそのセリフに驚いて、目の前の女の顔を凝視し、それからゆっくりと「やっぱり・・・!そうか・・・お前ルナじゃないだろう・・」と女に言った。






女は何も答えない。答えがない、という答えをアグニは受け止めるしかなかった。
それまで、ほんの少しアグニの口元にあったかすかな微笑が消えた。
「ルナは俺の事を”お兄さん”なんて呼ばないんだ。すごくどうでもいい事だけど、絶対にそんな風には呼ばないんだ・・・・、ルナは死んだんだな・・・・」

目の前の女はユダである。
自分の炎を使って死のうとするユダを、アグニは拒絶した。
「くんな。元を辿ればルナを死なせた原因はお前だ。死にたいなら死ねばいい・・・、でも俺の目の前だけでは死なせない。」



ユダはその素直な少年の心のままの言葉に笑った。
自分の笑い声にユダは自分で驚いた。 「・・・!笑った、久しぶりに・・・・」




そしてユダとしてアグニに言った。
「私もあなたと同じ。私は貴方の炎でしか死ぬことが出来ない。ドマはベヘムドルグの牢屋に閉じ込めていたから、もうとっくに死んでいる。だから私は、貴方の炎で死ぬことしかできないの」
アグニは「嘘だっ」と否定してみてが、見渡す限り何もない、生きている人間など一人もいないベヘムドルグだった場所の光景を見るとそれは認めざるを得ない事実であった。










ユダのセリフが「私はあなたの炎でしか、死ぬことが出来ない」ではなく、
「私はあなたの炎で、死ぬことしかできない」であることに、ユダの行動原理があるのかなと思いました。
彼女が守り続けてきた全ては消滅し、彼女のすべき事、彼女を束縛してきたものは「終わった」。
ならば、後はもう死ぬことしか出来ない。

トガタが、再生祝福者は100歳を越えたあたりで皆総じて自殺する、と言っていましたが、ユダも本質的にはそこに漏れずに居るのだと思います。ただ「約束」させられたことがあり、自分で終えることが出来ずに生き続けるしかなかっただけで。

アグニが必死で生きてきたのに比べて、ユダの生への執着は元々薄く、死んだような目の描写がそれを語っていた気がします。

ユダを否定するアグニですが、ルナが死んだことを自覚して、復讐するはずのドマがあっけなく死んだらしい、サン達奴隷は解放された・・・他に彼を必死に生かせる原動力となる”糧”がなくなった後、彼はどうするでしょうか?

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ファイアパンチ 26話 「殺して、お兄さん」

2016年01月26日 | ファイアパンチ
ユダがまだ幼い子どもだった頃、ある日父から言われたこと。
「ユダは今日から、神の声が聞こえるフリをするんだ」

「お父さん・・・なんでそんな事するの?」と聞き返すと、お父さんは真剣な目で優しく言った。
「この世界の人々をまとめる為に必要なんだ」
「・・・いつまで?いつまでするの?」と聞くと「終わるまでだよ」とお父さんは優しく言った。





その父も年をとり、死を目前として娘にかけた最後の言葉は「ユダ・・・神は私になんと言ってるんだ?」だった。
ユダはすらすらと「祝福に満ちた暖かい世界に導かれると・・・」と言うと、父は安心したように、安らかに永眠した。



父が作った嘘の神のお告げを、最期の瞬間に父は求めた・・・。
父からの「終わるまでだよ」の約束は、もう決して覆されることはない。

そうやって100年以上いいつけを守り、維持してきたベヘムドルグの街は人は、今、ユダの目の前で灰の瓦礫と化していた。
「終わるまで」続けたお父さんとの約束は、今、終わった。




アグニと戦える戦士がいなくなり、しばしの停滞状態となった時、やっとトガタが口を開いたがやはり映画の事だった。
「いやー、アレッすね。これは私が出しゃばらない方が面白いっすね。でもファイアパンチはダサいよね」
ネネトが「・・・ここから私達はどなるんですか?」と聞いても、素知らぬ顔である。



それを打ち破ったのは、ニット帽の兵長だった。
銃を薪達に向けると「燃え男!!動いたらこいつらを殺すぞ!!」と脅すも、アグニは「お前らはそればっかりだな」と呆れた。



その時、こちらに向かってべヘムドルグの奴隷運搬車が隊列を組んでやってきた。
兵達は、てっきり外に出ていた仲間が助けに来てくれたのだと思ったが、その車の隊列の先頭を歩いて来たのは、兵ではなく、野球スタイルのおやじだった。




おやじは、口に半笑いを浮かべながら、手にしたバッドを構えると銃弾を打ち返し、つづいて兵達をそのバッドで殴り殺し出した。
「悪!!、悪めっ!!」と言いつつ、次々と人を殴り殺していく。




一見、凶行に見えた男の行為は、兵に銃をつきつけられた薪達からすると、願ってもない味方の登場であり、歓喜に沸いた。


男は、アグニを見つけると動きを止めた。
「はっ・・!!!燃えている・・!!!本物のアグニ様だ!!
アグニ様!!俺は貴方の信者です!べヘムドルグが燃えていたので、貴方の御業だと・・・。どうか俺に信託を!!」




と言われても、信者に信託・・・。アグニにとっては何のことやらわからなかった。


さらに、先ほどまで放心したようにうずくまっていたユダが手を伸ばして、自分の体に触れようとしだした。
そんな事をすると危ないので、アグニはユダを交わすも、ユダは何度も何度もアグニに触れようと迫ってくる。
アグニは「おいっ!近付くんじやねぇ!!!何考えてんだっ!」と叱りつけるも、ユダは諦めようとしない。




事態がややこしくなってきたアグニは、先ほどの男に「頼む!俺はいいから、奴隷達を逃がしてくれ!!」と頼むと、男は信託を受けたと思ったのか上機嫌で、アグニの命令を遂行した。
「アグニ様がこの俺にしゃべったぞ!!皆の衆!!俺の車に乗れ!!そこらへんに逃げるぞ!!」

ネネトとサンを含めた、アグニが助けた薪や奴隷達は、自分達が運搬されてきたのと同じ、奴隷運搬車に乗ってベヘムドルグを後にした。








この時点で、べヘムドルグのどの兵にも、戦う気など残っていなかった。
薪が逃げれば生活が成り立たない事はわかっているが、それよりファイアパンチの罰の方が恐ろしかったから。

ニット帽の兵長はこの雰囲気を打開すべく、自分の掌から炎を噴き出して見せた。
「見ろ!私は炎を出す事が出来る!!神である王が与えた力だ!!その王が薪を取り戻せと言っている!!
神も祝福も我々にあるのだ!私についてこい!!」







兵達には、信じるものが必要だった。気持ちの拠り所となり、恐怖をぬぐい、行動の指針となる神が必要だった。
神の声を聞いたこられたユダ様がいない今、このニット帽の兵長がその役を務めた。



ユダはというと、憑りつかれたようにアグニの後を追っていた。
アグニは「ついてくんな!」と、ユダから離れようとしたが、本気で走り去るわけでもなく、一定の距離を保っているかのようでもあった。
ユダが倒れ込んだ時、アグニは咄嗟にユダを心配して「フラフラじゃねぇか、正気に戻れよ、ルナ」と声をかけて、ハッとした。



正気に戻らねばならないのは、自分だ・・・。
自分はまだこの女を、ルナだと思い込んでしまっている・・・。
「違う・・ルナ・・・じゃない・・・じゃなかった・・」と自分に言い聞かせるように一人ごちる男を見て、ユダは不気味に笑った。演じるのは得意だ。
「そう・・だった。私はルナ。だからお願い、殺して、お兄さん」










どうしようもなく残酷で理不尽な世界、その世界に疑問を持たずに生きる人々と、そんな世界に怒りをもって反発する主人公。
異質で強い特殊能力を持つ主人公の開けた小さな風穴が、世界の体制そのものを覆していく・・・というところは、『進撃の巨人』を彷彿とさせるものがある、と思いました。

”特別な家柄”に生まれた女性が、その立場ゆえ、自分を偽って、演技をして生きていかねばならなかったのも、『進撃の巨人』のクリスタ(ヒストリア)と、ユダに共通したところなのかなと。

日本にいると、どうしてもこれからやってくる避けられそうもない南海トラフ地震、東京直下型地震など、末期思想というか、日本は崩壊せざるを得ないのではないかという不安を拭い去る事は出来ないと思います。身近に数万人、数十万人単位の死を現実として考えねばならない環境にある。
そんな地震活動期の今、どうしようもない環境と、末期的な環境の中でも力強く生きる主人公達の姿は不安を一時的にでも拭ってくれるような気もします。

期待の新キャラ、野球おじさんがあっさり退場してしまいました。
野球おじさんの再登場と、トガタさんとのやりとりに期待したいと思います。







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ファイアパンチ 25話 「天から降りてきた男」

2016年01月25日 | ファイアパンチ
ダイダを殺したアグニに対し、息つく暇なく、次の刺客フガイダイが攻撃を開始した。

突然、背後から鉄骨の破片が飛んできて、アグニの背から胸へと貫通した。
不意打ちだっただけに、アグニは思わず「つ!!」と声を漏らした。



そして、その鉄を中心としてアグニの体が宙へ持ち上がる。自分の体の重みで、鉄が体に食い込んでいく・・!
アグニは苦痛に顔を歪ませた。



だが見守る者達は、アグニが宙に浮いた理由なんてわからない。サンは「神の力だ・・・!!」と目をキラキラさせて無邪気に興奮した。


だが、鉄を自在に操る祝福を持つフガイダイは「神などいない・・・がヤツは厄介だ」と鉄骨の破片を集めては、その全てをアグニの体に突き刺していった。








鉄を大量に突き刺したアグニの体は、前より強力にぐんぐんと猛スピードで空へと持ち上げられていく。
フガイダイは「大気圏外で塵にする」と言うと、アグニを雲の上まで持ち上げてしまった。












その間、地上では変化が起こっていた。
今まで決して反抗する事などなかった"薪"が「俺達は薪じゃない!人だ!開放しろ!このまま死んでたまるか!!」と兵士に詰め寄りだしたのだ。
今までの兵士なら、躊躇なく撃ち殺していたが、今は「やめろっ、やめろ!」と言うだけで撃とうとはしなくなっていた。

横からニット帽の兵長が、反乱した薪を撃ち殺し「なぜさっさと撃たない!?反抗的な態度を見ればすぐ撃て!こいつらは薪だ!!」と命じたが、兵士達の顔には困惑の表情が広がっていた。
「殺して・・・殺していいんでしょうか!?あの・・・炎の悪魔の・・ファイアパンチの罰が当たるんじゃ・・・・」


ニット帽の兵長は、アグニを神だとも悪魔だとも思ってはいない。
あの男は、ドマの炎を纏った再生祝福能力を持つ敵である。兵士達に広まるこの宗教心にも似た心理に戸惑った。

しかも、風を操る祝福を持つモヒカンの死刑囚、カルーが逃走したとの報告が入る。
ニット帽の兵長一人では、いかんともしがたい状況になってきていた。



アグニは、フガイダイの言葉通り、大気圏までその体を持ち上げられていた。
このままでは息ができない・・・!!アグニは自分の手で、自分の頭を千切ると、頭を地上へ向けて落とした。









落下した頭からは、落下中にぐんぐんと体が生えてきて、地面に叩きつけられる頃には、一個の人間が完成していた。
大気圏からの落下の衝撃で、アグニの体からはまた血が噴出し、肉が飛び散ったが、アグニは立ち上がり、フガイダイに向かって走った。




立ち向かってくるアグニに対し、フガイダイは大量の鉄を投げつけた。
アグニは走りながら、自分の左手を千切って、その腕をフガイダイに投げつけた。



アグニの全身に、大量の鉄骨の破片が突き刺さる。
ぺん・・・という音とともに、アグニの腕がフガイダイの顔に当たった。そこで勝負はついた。



見守る人々の目にアグニは、天へと昇り、また再び天から舞い降りし者であった。
これを神といわずして、何と言う。
人々は、フガイダイを殺したアグニに対して、再び手を合わせて拝んだ。







空を飛ぶのはアグニだけではなかった。
フガイダイが戦っている隙をついて、風を操る死刑囚・カルーは、空を飛んで逃げていた。
「あんな悪魔と戦うなんざ、俺はごめんだ!起爆装置の電波の届かないトコまで飛べば逃げれるだろう、神様よぉ!」
と風を切って飛んでいると、目の前にベヘムドルグの奴隷運搬車の隊列が見えてきた。




「車!助かった!!」とカルーが奴隷運搬車に近付いた瞬間、いきなり見事なバッティングフォームの強烈な力で殴り殺された。
車の荷台の上に立つ男がいたのだ。




車の中から驚いた声がした。
「何殺したんですか、お頭!」
お頭と呼ばれた男が返事する。
 「悪だ!俺の祝福でアイツの心を見た!子どもを酷い目に合わせた存在価値のない男だった!」

それからお頭は、大声で叫んだ。
「弱者を救い、悪を倒すのがアグニ様だ!!違うか!?話通りベヘムドルグの方角から煙が出ている・・・!
アレはベヘムドルグから虐げられてきた我々の・・・・反撃の狼煙だ!!!」












ベヘムドルグの刺客、最悪最凶の死刑囚は3人。
二人目は、過去に兵士数百人を殺したほどの人物フガイダイでしたが、「ぺち」の一言で片付いてしまいました。
アグニの再生能力と、戦闘能力がここにきて、格段に上がったからかもしれません。
必要に迫られて自分で首をもぎ取る事をしたアグニは、その後、自分の体の一部を武器として使うことが出来るようになったようです。

恐らく、単に力で引き千切ったのではなく、自分の意志でその部分の再生を止めよう考えると、その部分が炭化するという特製を利用したのではないかな、と思いました。この特性は2話あたりで出ていました。
と、いう事はやはり、アグニ自身が死を強く望めば、全身を炭化させて死に至ることも可能だという事なのだと思います。

最後の死刑囚・カルーに至っては、新キャラ登場のインパクトの為だけの存在だったのかな?と思わせるあっけない登場と死亡でした。

最近大人しく脇役の1人に納まってしまったトガタに変わって、この新キャラ「お頭」が今後、一暴れしてくれそうな予感です。
彼らが何者で、誰から何の情報を聞きつけてきたのかも、気になります。
今までは物理的な祝福が多かったですが、テレパシー的な能力を持つようで、幅が広がる気配がします。

また、アグニがどうしても勝つことの出来ない、「本家消えない炎の男、ドマ」が呼びに行かれたまま、まだ登場していません。
強くなったアグニがドマに勝てるのか、ドマとの決戦も楽しみです。

あと、死んだ記載も、その祝福の説明もない、ただ獣姦の趣味があるぐらいしかわからない「ジャン」の存在はどこに行ったのでしょう?後から重要人物になる・・のかも?


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ファイアパンチ 24話 「コマンド:ファイアパンチ」

2016年01月24日 | ファイアパンチ
兵士達は、燃える男の体に向けて一斉に銃口を向け、撃ち続けた。
兵士達も必死だった。どれ程の時間、どれ程の量の銃弾が男の体内に入ったことかわからない。



だが、男は体中から血を噴出させながらも立ち上がり、ファイティングポーズを取ってみせた。

兵士達は、銃を撃つ手を止めてその姿を呆然と見ていた。
ニット帽の兵長が「どうした!!何故撃つのをやめる!?」と叫ぶも、銃などこの男に効果がない事は、誰の目にもあきらかだった。
「銃なんて効いてない・・、首を海に捨てに行っても戻ってきた・・、俺達を焼き殺すまで死なない・・・!悪魔だ・・!!!」と兵達は口々に言い出した。




一方、薪と奴隷達は口々に「神様・・・!サンの言った通り消えない炎に覆われても、銃に撃たれても生きている・・神様・・!!」との声が漏れ出していた。

アグニにとってはそんな事は関係なかったし、そんな悠長なものではなかった。
撃たれ続けた痛みに耐え、体中から血を吹き出し、血反吐を吐いて地面に倒れこんだ。
だが、死んではいない。横たわって、また再生するのを待つだけ。

奴隷の少年が聞いた。
「なんで生きていられるの・・・・?」



それは、何を生きる糧として生きているのか、という問いではなかったのかもしれない。
ただ、普通は死ぬであろう大怪我なのに、どうして生きているのか、と聞いただけなのかもしれない。

けれど、その問いに対して、アグニは自問自答した。どうして、自分はこんな思いをしてまで、生きているのだろう・・・・。どうして。
目を閉じて思い浮かぶのは、二人で暮らしていた頃のルナの健やかな寝顔。
あの頃は、あの寝顔を守りたくて、ルナの為なら何でも我慢して生きていけると思っていた・・・だけど今はルナはいない。
(なんで僕は生きているんだ・・・・?生きてても痛いだけだ。死んだらドマへの憎しみだって、炎の痛みだって消える・・・、死んだらルナと会えるのに、なんで俺は死なないんだ・・・?)



どうして生きているのか。なぜ死なないのか。


アグニは、何か大事な何かを忘れているような気がした。
それが何だったのか・・・。

今・・・・俺はなんで今、生きているんだ・・・・?




開けた目に映るのは、自分に銃を向ける兵士達、虐げられ続ける力を持たない者達、そして瓦礫と化した無残な街。
その向こうには凍えた大地と、飢えた人々、次々と餓死する人・・・。

アグニはゆっくりと、喋りながら起き上がった。
「あいつらは・・・・悪気もなく・・人を物みたいに扱う・・。
俺達が生きている事を忘れて・・・薪のように燃やす・・・、それが当たり前みたいに・・!
全部『氷の魔女』のせいにして・・!俺達を薪と呼ぶ世界を作った・・・!負けてたまるか・・!ただで死んでやるか・・!
そうだ、俺は嫌いだったんだ・・・!!雪も、飢餓も、狂気も・・・ずっと!!!許せなかったんだ!!!!」











その言葉に人々は衝撃を受けた。
この世界がこうなのは仕方のない事で、それが世界の常識だとしか思わなかった人々は、黙ってその言葉を聞いた。



立ち上がったアグニに、ダイダが向かっていった。 「ぶっ殺してやる」
何度も何度もダイダには、ぐちゃぐちゃにされ続けてきた。だが、アグニは諦めない。
「負けてたまるか・・・」




ふと、アグニは思い出した。このパワースーツを着る時にトガタから説明を受けたことがあった。
「ファイアマン、君の右腕は耐火性のパワードアームになっている。肩の部分で音声認識をして、パワードアームを炎で覆うこともできるけど、1回で壊れちゃう必殺技だから。音声認識の言葉はキミが適当に決めといて」と言われていた事。

アグニは、パワードアームのコマンドを口にした。「ファイアパンチ」



その言葉に反応して、今まで決して燃えなかった右手が勢いよく燃え上がった。



先にパンチを出したのはダイダで、アグニは左上半身を粉砕させながらも、右手に渾身の力を込めてダイダのアゴを打ち砕いた。
今まで何度も何度も殺されながら、何度も何度も諦めずに、そのアゴにパンチを入れ続けてきた。
僅かに入った小さなヒビがきっかけとなって、顔面を覆う鎧のような仮面は粉々に砕けた。



ガードを失ったダイダの顔面に、アグニの炎が燃え移り、瞬く間にダイダは全身を燃やした。
その炎は彼を守っていたはずのパワースーツに引火して、彼は大爆発を起して死んだ。
それはまるで、彼がアグニにした酷い行いに対する罰のように。







ダイダの大爆発は、周囲に消えない炎を纏った破片を振りまき、その破片に触れた兵や薪達も燃え死んでいった。
兵達は、恐れおののいた。
いつか自分にも、この"罰"がくだるのではないか、と逃げられない恐怖に立ちすくんだ。


薪と奴隷達は、この禍々しくも神々しい炎を纏う神を、一斉に拝んだ。













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ファイアパンチ 23話 「この世界の常識」

2016年01月23日 | ファイアパンチ
国の終わりの始まり・・・。
ベヘムドルグの兵達は、アグニとダイダの戦いと、巻き込まれて今まさに消失していく国を見ながら、指示を待っていた。
さらに薪が逃げれば、この国からエネルギーや食糧は消滅し、瞬く間にこの国も氷雪と飢餓に襲われる。
兵は自我を失ったかのようなユダではなく、ニット帽の兵長に報告と指示を仰いだ。
兵長は、せわしなくタバコを吸いながら、どうにかしてこの窮地を脱する方法を考えていた。

兵長の出した答えは、ユダの後任者となり、王の声を聞く者となることだった。
薪達を前に「お前たちは人ではない!!人の形をした薪だ!!ベヘムドルグの外で生まれ、人でないのに人の様に生活し、私達に使われるために生きてきた薪に過ぎない!!神である王に使われ、我々人間の糧になる使命から逃げようとした!!見せしめに三人殺せと王の声が聞こえる・・・」




適当に前に連れ出された3人の薪の1人は、ネネトだった。
兵に近い者から順に射殺されていく為、ネネトは最後に殺される役だった。


私が13歳の頃、人は二つに分けられていました。使う人と、使われる人。暖をとる人と凍える人。人と薪。それがこの世界の常識で、誰もその世界に抗おうとしませんでした。ただ一人・・炎に覆われた男を除いて。








ネネトが撃たれる順番の時、兵士はその手を止めて振り返った。あの男が歩いてくるのだ。
何度も殺された、炎に包まれた男が、死なずにこっちに向かって歩いてくるのだ。
人々が絶句しながらその燃える男を目で追っている中、ネネトだけが動いた。
サンに持たせていたトガタの映画撮影用のビデオを手に取り、自分の意志でアグニを撮影しだした。


カメラの前でアグニは、ロボットのようなダイダにその内臓を突き破られ、紙風船のように両手で挟んでぐちゃぐちゃに潰された。その肉が潰れる時の痛々しい断末魔が空気を切り裂いた。こんなむごい殺され方があるだろうか。







しかし、その男は肉片がちらばって、ただの血と肉の塊となってもまだ、再生を続けていた。
サンが言っていた。薪がどんな辛くとも、もっと辛い思いをしている人がいるんだと。




再生しても再生しても、またひきちぎられ、殴り潰され、踏みにじられ、肉片を木っ端微塵に潰される。
それでも、アグニは再生をやめず、起き上がる度に、ダイダにその小さなパンチを繰り出すことをやめなかった。

小さなパンチは、何度目かにダイダの頑丈な戦闘用スーツに小さなヒビを入れた。
その代わりに顔面を殴り潰されてしまう。




殺戮が楽しいと言っていたダゴダもさすがに困惑していた。 「おいっ!どうすりゃ死ぬんだコイツ!!!首も体も千切ったけど、すぐ生えてくるぞ!!」だが、ダイダにアドバイスできる者など、その場にいなかった。



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ファイアパンチ 22話 「これで終われる」

2016年01月22日 | ファイアパンチ
ダイダにぶっ飛ばされたアグニは、その炎を振りまきながら建物を貫いていった。
炎は、次々と周りの物を燃料として瞬く間に燃え広がっていく。



建物の中には、一体何人の人達が生活していたのだろう。
熱い、助けて、水を!と叫ぶ無数の断末魔と、炎が燃え盛る音は煙、焦げ付く臭いが辺りに充満し、景色は地獄絵図となった。

ユダを初めとする兵士達は、手も足も出せずにただ、ただ、その光景を呆然と見ているだけだった。
ユダが130年間守り続けていた物が、今、轟音と共に崩れ墜ちていく。最も恐れていた事が、現実となっている・・・。




困惑する人々は、ユダにすがり、ユダの指示を待ったが、ユダが発した言葉はその期待には応えなかった。
「・・・・・・よかった。よかった・・・・疲れた。これで終われる」




そしてユダは、すがすがしい程に愛飲していたタバコを炎の中に投げ入れた。もうタバコに逃げることもないというのか。





そのユダの様子を見て、ニット帽の兵士は気付いた。「ユダ様・・まさか・・・ドマ様の言っていた通り、神様の声が聞こえるっていうのは・・嘘ですか?」

だがユダはもう何も答えなかったし、身動き一つとらなかった。ニット帽の兵士はその瞬間に指示者に回って指示を出した。
「兵士達!住民達を避難させろ!それからドマ様を助けに行け!死刑囚共、変な事をすると私の祝福で殺す!」
役を降りても、誰かがすぐにその役に就く。




しかし、指示が通らない者もいた。
ダイダは、アグニをぶっ飛ばす前に一発アグニからパンチを受けたことに激しく憤っていたのだ。
薪の分際で自分に手を挙げたことが、屈辱的で腹立たしくて滅多刺しに殺しておかねば気がすまなかったのだ。


建物がガラガラと瓦礫となって燃え崩れる中、ぐちゃぐちゃに潰れて鉄骨が突き刺さったアグニは再生していた。銃で撃たれることとは非にならない衝撃と激痛の中、アグニは独り言を何度もつぶやいていた。
「い・・・きっ・・・・てっ。いきっ・・て・・、いきっ・・て、いきて・・・」それは何度も何度も反芻してきた、愛おしいルナとの最後の約束。たった一つの生きる糧。
立ち上がったアグニは、逃げることなくまっすぐに、ダイダに向かって右手のパンチを繰り出した。



だが、アグニをダゴダは再び圧倒的な力でぶっ飛ばし、再びその体は建物の中へとめりこみ、被害は倍の勢いで拡大していく。
そしてその瓦礫の中から、またもや再生し燃え上がるアグニが立ち上がってくる。




ダゴダがつぶやいた。 「コイツ、どうやったら死ぬんだ・・・」





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ファイアパンチ 21話 「彼は神様だ」

2016年01月21日 | ファイアパンチ
アグニとネネトは、地下の薪とされた祝福者達も救い出し、歩けない者は歩ける者がおぶって逃げることとなった。



その薪の中に、サンがいた。
サンは、痛みからの解放と暖かなぬくもりに「やっぱりアグニ様が助けに来てくれたんだ」と思った。
おんぶされた者の中に、トガタもいた。
トガタは奴隷の少女におぶさりながら「私の脚本が台無しだ・・・私の映画が・・・」とグズグズと泣いていた。





薪や奴隷達の先頭には戦闘用スーツに身を包んだアグニが立ち、待ち受ける兵士達の銃撃の楯となり、攻撃の矛となって突き進んだ。周りの目には、完全なる不死身の男に見えていたに違いない。




サンは、夢にまで描いたアグニ様の救出に、その無敵な戦いぶりに「銃なんて効くハズがない!アグニ様っ・・彼は神様だ!!」と目を輝かせて叫んだ。




だが、アグニは強力な祝福者であれど神様ではない。
銃で撃たれれば、当然のように痛かった。顔面に銃を受けると衝撃と痛みで意識が飛びそうになるのを必死でこらえていた。
ここで自分が倒れれば、全てが、全員がダメになる。
トガタを裏切った今、トガタがこの救出劇に協力するとは絶対に思えず、ただ一人でべヘムドルグと対峙する決意と使命感で痛みや辛さをこらえて戦っていたのだ。


そうやって奴隷を監禁していた暗い通路を大勢を引き連れて進んだが、出口が近くなった時に、アグニは不意に強力な力で外に引きずり出された。
出た先には、ベヘムドルグの全兵力と、ロボットのようなバカでかい戦士らしきものが待ち構えていた。
その光景を見た者の多くは、絶望の2文字を思ったのではないだろうか。この戦力の相手はたった1人の燃える男・・・と大勢の薪と奴隷、力の差は誰の目にも圧倒的だった。








そして、その先頭で指揮をとっていたのが、ユダだった。
ユダはベヘムドルグの皆に聞こえるように叫んだ。
「ベヘムドルグの民よ!!見ろ!!我々を脅かす炎の男が今、死ぬ!!この処刑は我々に安寧をもたらす!!」


それからユダは、死刑囚達の中でも最も見栄えのするダイダに、アグニと戦うように命じた。ユダは、決して建物にアグニを近づけてはならないと念を押したが、ダイダには関係のない事だった。ただ殺戮が気持ちがいいから殺す、それ以上もそれ以下もなかった。


気の遠くなるような敵の集団を前にして、アグニは諦めなかった。
ドマ一人への復讐のはずだった・・・だけど自分で選んで自分で決めたことに後悔はなかった。
(全部やってやる!!このデカイのを殺して、兵士達も殺して、ドマも殺して・・・全員を助ける!!)
それが本気だったのか、引き返せないやけくそだったのかはわからない。ただ、その時のアグニには強い意志にみなぎっていた。




だがトガタが用意したダイダの戦闘用スーツは頑丈で炎は効かず、男の力は強く、念力のような祝福はアグニの体の自由を奪い、
ダイダはたった1発のパンチで、アグニの体をスーツごと木っ端微塵に粉砕しながら、軽々とぶっ飛ばした。



数百メートルは飛んだだろうか、アグニの体はベヘムドルグの密集した集合住宅の中にめりこんでいった。
「あ!そっちは!!」ユダの悲痛な声だけが残った。




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