まんがパウチ (レビュー・ネタバレ)

漫画の絵とストーリーを、真空パウチするように書きとめました。
【ファイアパンチ】【カラダ探し】など

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四月は君の嘘 目次

2016年12月01日 | 四月は君の嘘
1巻

1話、「モノトーン」

2話、「ヴァイオリストの恋」

3話、「黒猫」

4話、「カラフル」

5話、「暗い海」

6話、「後ろ姿」

7話、「曇天模様」
コメント

四月は君の嘘 7話「曇天模様」

2016年12月01日 | 四月は君の嘘


公生、椿、渡の3人は、コンクール後に倒れたかをりの入院する「都津原大学付属病院」へお見舞いに行った。


念の為の検査入院だとかをりは言ったが、「検査入院」の言葉に母を病気で亡くしている公生は一抹の不安を覚えた。
だが、かをりはコンクール前に、僕が逃げ回るからだと笑った。

あのコンクールで、演奏を止めたために審査対象外として僕達は本戦へは進めなかった。
前代未聞、ハプニング満載、最悪の事態・・・全部僕のせいなのに、君は恨み言一つ言わない。
責められる方がずっとマシなのに。


帰り際に呼び止められて、君は僕に聞く。 「ねぇ、ピアノは弾いてる?」
弾いていないと答える僕に、君は「どうして?」と聞いて来る。
「なんか僕にはピアノしかないみたい・・・」と絞り出した答えに、君は僕を逃さない。
「それではいけないの?君は忘れられるの?」




病院を出ると、空は今にも雨が降り出しそうな”曇天模様”だった。




--------------
椿はあの日以来、どこかぼーとして野球にも力が入らず、調子がおかしかった。
親友の柏木に「有馬君と何かあった?目が曇ってる」と指摘されたけど、否定できないでいた。

そんな時、中学の時に憧れて好きだった斎藤先輩にばったり出会った。彼は野球部の元キャプテンで、かっこよくて、頼りがいがあって、女子の憧れの人だ。



それに比べて誰かさんはかっこ悪くて、頼りがいがなくて、誰の憧れでもなくて・・・なのにあの日の公生は・・・。




あの日の公生は輝いていて、皆の憧れで、その公生の輝きを取り戻したのはかをりちゃんで、公生がかをりちゃんを見る目は・・・。
大丈夫、大丈夫、私は公生のピアノ以外のいいところをいっぱい知っているもの・・・、なのになんで不安なんだろう。
私の心の中も、今にも振り出しそうなネズミ色の雲がどんより溜まって曇天模様だ・・。




斎藤先輩に「つきあおう」と言われた。嬉しいはずなのに、気持ちが曇天模様であることは変わらなかった。



-------------
渡は、あの日以来、今までにも増してサッカーに打ち込み、全国大会を目指して頑張っていた。公生を見つけた渡は、「俺のかをりちゃんと公生の演奏、あんなもん見せられて燃えないわけにはいかねーよ。あん時のお前らは目に焼き付いて忘れらんねーよ」と笑う。






公生は、あの以来、ピアノに触れてもコンクールでの失態を思い出して手が止まっていた。
でも、渡の言葉に突き動かされるように、自宅の、ピアノ部屋へと駆けだしていた。
君の言葉が頭の中に響いている。

「君は忘れられるの?ピアノは君のほんの一部、でもあの瞬間、確かにピアノは君の全てだった。
それや無理矢理引きはがそうとしてる、手足をもぐように、だから痛くて痛くて仕方ない
苦しくって苦しくって仕方ないって顔してる」



君は忘れられるの?の答えは「ううん、絶対に無理!!」
演奏を終えた後の大歓声、拍手、自分達の音が届いた実感、高揚、人々の笑顔・・・それらを僕は忘れることはできない。

そして、あの時の君の顔も、君の声も、君の言葉も忘れることはできない。
「私達はあの瞬間の為に生きている、君は私と同じ演奏家だもの」





「ここにいる人達は、私達のことを忘れないでくれる。私、きっと忘れない、死んでも忘れない」




「ありがとう、君のおかげ。君が伴奏してくれたから、君がピアノを弾いてくれたから。ありがとう、有馬公生君」


僕は君は容赦のない人だと思った。
そのまっすぐな目も、その後ろ姿でさえも、僕に諦めることを許してくれない、
支えられていたのは、僕だ。ありがとう、ありがとう・・・・・



舞台の袖で、君は倒れた。






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四月は君の嘘 6話「後ろ姿」

2016年12月01日 | 四月は君の嘘
公生は、あの11歳の時のコンクールと同じような・・・暗い海の底にいるように、何も聞こえない、誰もいない世界に引きずり込まれた気がした。暗い・・・僕は暗い海の底で・・・ひとりぼっちになる


鍵盤を叩く音も、ヴァイオリンの音も、観客のざわめきさえも聴こえるのに、僕のピアノの音だけが聴こえない・・・!!!
こんな時に・・・!!!公生のピアノが、演奏を台無しにしていた。



審査員だけでなく、観客達もピアノ伴奏の異変にざわめきだした。
「ピアノ下手くそ」「邪魔すんなよ」「最初から弾かなきゃいいのに」
ピアノが、ヴァイオリンの演奏をぶち壊している事は、誰の耳にも、音楽は素人の椿でさえも明白にわかった。

僕は、ピアノを弾く手を止めた。
このまま弾き続ければヴァイオリニストの経歴に傷がつく・・・。
このままヴァイオリンの演奏だけでコンクールをのりきった方がマシだ、君の為、僕が演奏を止めるのは君の為・・・。



だが、かをりも演奏の手を止めてしまう。
ヴァイオリンのコンクールなので、伴奏のピアノが演奏を止めるのと、ヴァイオリンが辞めるのでは意味が違う。
彼女のコンクールはここで終わる。
観客は、この前代未聞の事態に驚き、ピアノにつられて止めてしまった事に大ブーイングとなった。
かをりの演奏に寄せられた期待が、不満へと一気に傾いた。

僕は驚いてかをりの方を見たが、かをりはまっすぐに前を向いて佇んでいる。
でも、僕には彼女のその背中から声が聴こえた気がした。
(大丈夫、私達ならできる。私は全力で弾く、聴いてくれた人が私を忘れないように、私は演奏家だもの)



彼女はヴァイオリンを構えると、公生を向いて「アゲイン」とだけ言った。
その目は、まっすぐに強い意志を公生に向けていた。



この先は暗い、夜道だけかもしれない。それでも信じて進むんだ。星がその道を少しでも照らしてくれるのを。



かをりの目には覚悟があった。ならその目に映った僕には?僕には・・・

その時、また君の声が聴こえた気がした。
(私がいるじゃん、顔をあげて、私を見て)


声に導かれるように、顔をあげて君を見る。君の背中を




僕は再びピアノを弾きだした。覚悟を決めろ!!!
音も楽譜もいつも譜面は目に入る所にあった。ずっと昼休みに聴いていた。
僕の中にあるものを引っ張りだせ、集中、集中、集中・・!

ヒステリックに鍵盤を叩く僕に、母さんが話しかける。
(公生、ピアノはあなたなのよ、優しく触れれば笑ってくれる、さぁもう一度)

音が聴こえないならイメージしろ!!体中で鳴らせ、母さんが僕に残してくれたものを引っ張り出せ



集中した公生は、2年のブランクがあったとは思えない、驚異のピアノを奏でだした。
審査員の男は(マジかよ・・!とんでもないな、なるで殴り合いだ、彼は彼女と同じ”独奏者(ソリスト)”だ!!)


その殴り合いに会場が呑み込まれてゆく







力強く、鼓動のように、僕を突き動かす、君の音が聴こえる・・・君がいる



僕は思い出していた。
昼休み、学校に流れるサン・サーンスの音に、僕の指は自然に動き、心地よく、幸せな気持ちであったことを。
もう僕は、新しい一歩を踏み出していたことを、暗い海だけでなく、明るい春の空の下に出ていたことを。



演奏が終わった時、観客は二人に惜しみない拍手を、大歓声を、賞賛を浴びせるように沸きあがった。
まるでライブ会場のように、その感動を体中で表現してみせた。



大嫌いだった乾いた冷房、ほこりの匂いが、聴衆の渦で埋まる
僕は旅に出る





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四月は君の嘘 5話「暗い海」

2016年11月28日 | 四月は君の嘘
公生は椿が漕ぐ自転車の後ろに乗っている最中も、楽譜に集中していた。
これほど楽譜に集中したのは、何年ぶりだろう。
楽譜に集中すると、母さんの声が聞こえる気がした。
「繰り返し繰り返し楽譜を読み込んで、何度も何度も弾きこむのよ。そうやって完璧にするのる譜面の指示通り、作曲家の意図通り完璧に、正確に。全ては譜面に書いてあるのよ」

その母のピアノに対するストイックな指導法に、世間は好き勝手な事を言っていた。
誰に何を言われても、僕がただ一人、母さんの味方なんだと思って下を向いてやり過ごしていた。



そうこうしているうちに、汗だくの椿と渡の自転車は無事、時間前に会場に到着した。
「ありがとう、行ってくるよ」

世間はもう桜が散る4月も末だけど、公生を見送った椿は「もうすぐ春が来るよ」と言った。
きっと公生にとって、時間が動き出し、うまれかわる春となるはず。





いつも時間をかけて練習を積み上げて、完璧に仕上げることを徹底されていた公生にとって、この練習なしのぶっつけ本番、しかも・・・あんな・・・ムチャクチャなヴァイオリストに合わさなきゃならないなんて・・・。
辞退した方がいい・・・これじゃ恥をかくだけだと公生は焦っていた。



一心不乱に必死に譜面に向かう公生に、かをるはいきなり頭突きをかまし、それから、顔を極限まで公生の顔に近付けて言った。 「私を見て。」




「顔をあげて私を見て。下ばかり向いるから五線譜の檻に閉じこめられちゃうんだ。
大丈夫、君なら出来るよ。ずっと昼休み聴いてたでしょ、譜面はいつも目に入る所にあったでしょ。
私達なら出来る。モーツァルトが言ってるよ、「旅に出ろ」って。おもいっきり恥かこうよ、二人で」





14番の名前が呼ばれた時、公生はビクッと体を硬直させたが、その公生の手を、かをるが取って引っ張った。
「行こ」



厳格で譜面に忠実な母とは正反対の・・・天真爛漫、奇想天外、ジェットコースターみたいに僕は君に振り回されてばかり、この人自身が、行き先のわからない旅の様だと思った。



その背中に「君は自由そのものだ」とつぶやくと、君は振り向いてかろやかに言った。
「違うよ、音楽が自由なんだよ」
僕は・・・、厳格な音楽しか知らなかった僕は驚いた。



僕はまた舞台に立っている。



僕達の為の静寂、ここにいる全ての人が、僕らが音を鳴らすのを待っている・・・・。
公生の心臓は、ドクンドクンと大きな音で脈打ち、嫌な汗が流れてきた。

会場がざわめく。「有馬だよ、ピアノの有馬君、有馬公生だ」
かをりの演奏を期待していたあの審査員は、かをりの連れてきた伴奏者に驚いた。
(彼がなぜ伴奏者を?人工と天然、随分ミスマッチなカップルだ。どんな演奏をするつもりだ)と二人を見つめた。

かをりは、いつもそうしているように「エロイムエッサイム エロイムエッサイム我は求め訴えたり」と言って伴奏者を見て、クスッと笑った。伴奏者がガチガチに強張っていたから。

宮園かをりのコンクールが始まった。
公生は、出だしをうまく入り音もちゃんと聴こえ、この曲でよかったと少し安堵した。
会場では、椿が公生がまたピアノを弾く姿に感動して見守っていた。


コンクールらしい譜面に忠実な演奏が続いたと思った矢先、かをりが公生に目配せをした。



きた!!!



かをりの個性丸出しのオリジナルな演奏に、公生はくらいついていく!
審査員の男はそのピアノの技術に驚愕した。この無茶苦茶なヴァイオリンに事もなげに合わせ、かつ1音も漏らさずに正確に弾いてくるとは!!


だが、公生はふと観客席に母の視線を感じた。いる!母が会場にいて、演奏を聴いている!
それに気づいた瞬間、楽譜から音符がはがれて消えていき・・・音が聴こえなくなっていった。



焦れば焦る程に、ピアノの音は聴こえず、深くて暗い海の中に沈み込んだようになっていった。









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四月は君の嘘 4話「カラフル」

2016年11月28日 | 四月は君の嘘
あの日から、僕は常に追われていた。
学校にいても、音楽室も、教科書にも、自分ちにも、隣の椿ちにも、僕のめが届く全ての場所に「サン・サーンス」の楽譜が
貼られ、女の子二人から「バンソウやれー!!」と追いかけまわされた。




かをりから伴奏の話を聞いた椿が、加勢したのだ。
あの日から一週間ずっと、昼休みの校内放送は「サン・サーンス」の「序奏とロンド・カプリチョーザ」が延々とリピートし続けた。




そうやって公生に洗脳し続け、とうとう明日、平日だけどコンクール本番だ。
かをりと椿は、下校のバスの中で、公生のことを話し合っていた。
「・・・でも本当によかったのかな・・・、無理矢理伴奏なんて・・・」と弱気になるかをりに、椿は「いいの、いいの!公生にはこれぐらい強引にやらないと!」と励ました。

かをりは「椿ちゃんは有馬君が好きなんだね」と言ってほほ笑んだ。



椿は、公生の言葉を借りる形で「ちょっと違うな、ダメダメな弟って感じ」と答えてから、話しだした。
「正直言うとね、私は公生がピアノをやろうがやるまいとどーでもいいんだ。ただね、やめるなら納得して辞めて欲しい。見てて辛いの、今の公生は中途半端だもん。”あの日”から、公生はどこにも行けずにいる・・・。
時間って止まるのね。・・・だからピアノを弾いてほしい、きっと何かが変わるはずだから」




かをりはその話を黙って聞いていた。
かをりは椿と別れてから、それから、「都津原大学病院」でバスを降りた。




-------------
コンクール当日、コンクールが始まったというのに公生の姿はホールにはなかった。
かをりと椿と渡は手分けして、必死で校内を公生を探し回り、屋上にいた公生をかをりが発見する。



でも、誰が何と言おうとも僕は伴奏をする気にはなれなかった。
「伴奏なんてやらないってずっと言ってるだろ!ちゃんと勉強してる人がいるのに、それに今から行っても・・・僕はピアノが弾けないんだ」

言い訳する僕を、かをりは、怒りのこもった目でまっすぐに見て言うんだ。
「だから何だって言うの、君は弾けないんじゃない、弾かないんだ。ピアノの音が聴こえないを言い訳に逃げ込んでいるだけじゃない」


その目は僕を責める。僕は彼女から逃げられないことを悟り、白状した。
「僕は怖いんだ・・・。コンクールでは音が全て、そこで僕はピアノと二人きり、その全てがなくなった。あの日、僕は暗い海の底にいるように、何も聴こえない、誰もいない、暗い暗い海の底でまたひりぼっちになる・・・」



僕の中の黒猫が僕を責める。
「ほっとしただろ、音が聴こえなくなった時、君は理由が出来た、もう舞台に立たなくていい理由が。君はベートーヴェンじゃないものな」

僕の悲鳴が聞こえる。
誰か・・・助けて・・・誰か・・・お母さん・・・




記憶の中の真っ黒な海に溺れていきそうになった時、明るい声が聴こえた。
「私がいるじゃん!」


僕は、ハッとして顔をあげた。


「君が音が聴こえないのは知ってる、ピアノを弾いてないのも知ってる、でも君がいいの。
君の言う通り、満足のいく演奏はできないかもしれない、でも弾くの。
弾ける機会と、聴いてくれる人がいるなら、私は全力で弾く。聴いてくれた人が私を------
忘れないように、その人の心にずっと住めるように、それが私のあるべき理由。



私は演奏家だもの、君と同じ。
・・・だからお願いします。私の伴奏をしてください。私をちょっぴり支えてください。くじけそうになる私を-----
支えてください」
そう言って彼女は大粒の涙をポロポロと惜しみなく流して泣いて、頼んだ。









僕は驚いて、そして立ち上がった。
そうか、渡の言う通りだ。
(無理かどうかは女の子が教えてくれるさ)



「やるよ、君の伴奏。どーなっても知らないからな」



彼女は顔を涙でぐちゃぐちゃにして笑った。




それからは戦争のようだった。
学校からホールまでダッシュで20分!!!ダッシュなんかしたら僕は演奏できそうもない。
渡が「我に策あり!」と叫んで、自転車で街を滑走した。



僕の目に写った街は、世界は、カラフルに色づいている。

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四月は君の嘘 3話「黒猫」

2016年11月28日 | 四月は君の嘘
僕、有馬公生は雑念を払っていた。



払っても払っても、頭に浮かんでくるのは、先日見た「宮園かをり」のバァイオリン演奏の映像と音と観衆の喝采。
追い払うために奇声をあげたところを、友人の「渡」に見られて驚かせてしまった。

渡は、最近ぼーとしている僕を見て「さてはお前、好きなコの事を考えてたろ。タイムリーなかをりちゃんかぁ?わかるよ、かわいかったもんなあ」と一人で納得したので、僕は慌てて否定した。
「んなワケないだろ、だって・・・渡を好きなんだよ、僕を好きになるハズないよ」と。


でも渡は「そんなのカンケーないじゃん、心惹かれるコに好きな人がいるのは当然、恋をしているそのコは輝くんだもん。だから人は、理不尽に恋に落ちるんだ」と言う。



僕は感心して渡を見た。そのポジティブな考え方に、渡がモテる理由がわかった気がした。
でも、僕は渡のようにはなれない。 「でも、僕には無理だ。きっと」

渡は前を閉ざす僕に「無理かどうかは女の子が教えてくれるさ」と言うので、僕は「渡は良いことを言う」と感心した。渡の言う通りだと思った。





気がつけば、茜色の雲のスクリーンに・・・瞼の裏の暗幕にリフレインする。
何度も何度も何度も・・・その度に僕の心は・・・・
母さんが僕に残したものが散っていくような気分になって・・・
もう一度聴きたいけど聴きたくない。
もう一度会いたいけど会いたくない。

そんな自分でもコントロールできない裏表な感情にさいなまれていた時、校門の桜の木の下に立つ彼女を見た。


僕を見つけた彼女の頬が少し紅潮したことは、桜の薄桃に紛れてわからない。

こういう感情を何て呼んだかな
こういう気持ちを何て言ったかな


彼女は僕を見るなり「友人A」と僕を呼んだ。僕が友人Aで、主役は渡。


君は春の中にいる。


彼女が校門で待っていたのは渡で、でも渡は今日はケイコちゃんと一緒に帰宅したのをあたふたとごまかしていたら、僕は彼女に代役を任命された。渡と一緒に行きたかったカフェに、一緒に行く役の代役。エキストラの次は代役だった。


彼女は、僕の目の前で、美味しそうに楽しそうにワッフルを頬張っている。
あんなに凄い演奏家なのに、こうしていると普通の女の子にしか見えないや、そんな事を考えながら彼女を見ていると、店の片隅に置いてあるピアノから音色が聞こえてきた。



店に来ていた子供達が、習いたての「キラキラ星」を弾いて遊んでいた。
彼女は、店の片隅に置かれたピアノを「幸せなピアノ」と言ったけど、僕は可哀想なピアノだと思った。
ピアノに水や湿気は厳禁だと母さんに叩き込まれていた僕には、生花に囲まれたピアノは管理、保存状態が良くないと思った。


彼女は立ち上がって子供達に話しかけに行くと「あのお兄ちゃん超上手だから教えてもらおっか」と子供達に吹き込んでいた。

僕はもうピアノは弾かない・・・と断ったけど、子供達はキラキラした目で待っていて、断り切れなかった。
少しだけ・・・のはずが指が、手が、体がピアノを覚えていた。



店にいた人達がその音色に驚き、そして聞き惚れる素敵な「キラキラ星」が店内を流れる。
宮園かをりは(ほら、やっぱり、幸せなピアノじゃない)とその光景を見ていた。




でも、中盤で僕はハッとしてその手を止めた。
やっぱり僕はダメなんだ・・・・。





店を出ると黒猫がいて、僕は以前飼っていた黒猫を思い出して猫を眺めていたら、いつの間にか彼女が横に来ていた。
「ピアノはもう弾かないの?」と彼女がポツリと僕に聞いた。
「やっぱり・・・・君は僕を知ってるの?」と聞き返した。

森脇学生コンクールビアノ部門優勝、ウリエ国際コンクール2年連続入賞、彩木コンクール最年少優勝、などなど
その演奏は正確かつ厳格、”ヒューマンメトロノーム”
8歳でオーケストラと、モーツァルトの協奏曲を協演した神童
「君の事を知っているのは私達の常識。君は私達の憧れだもの」



「どうしてやめちゃったの」
その質問は鋭く僕に突き刺さり、目の前の黒猫の瞳が、僕を責めるあの目にダプる。



どうしてって・・・・「ピアノの音が聴こえないんだ。初めは聞こえるんだけど、途中から集中する程、その演奏にのめり込む程・・・奏でた音は春風に攫われた花のように、もつれながら遠ざかって、消えてしまう。
聴こえないのは、僕の演奏するピアノの音だけ、自分の音だけが聴こえない」





僕は思う。これはきっと罰なんだと。



でも、そんな話に宮園かをりが同情するはずもなく「甘ったれんな!!弾けなくても弾け!!手が動かないなら足で弾け!!悲しくてもボロボロでもドン底にいても、弾かなきゃダメなの。そうやって私達は生きてゆく人種なの」と前を向いていた。




”私達”・・・ちがう、僕は彼女とはちがう。
「うん、君はそうかもしれない」
君といると渡の言っていたことが、なんとなくわかる気がする。
(恋をしているからそのコは輝くんだ)
君は食べ物に恋をして、日常のささいなことに恋をして、ヴァイオリンに恋をして、音楽に恋をして、渡に・・・・。
だから君は輝いているのかな。

こういう気持ちを何て言ったかな、これはたぶん、こういう気持ちは”憧れ”って言うんだ、きっと。




そんな僕の気持ちにおかまいなしに、彼女はある決意をした。
「よし決めた。私の伴奏者に任命します!!」

彼女は僕の意見も返事も聞かず、聴衆推薦で残ったコンクールの二次予選の伴奏者だと決めた。

君は、春の中にいる。かけがえのない春の中にいる。





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四月は君の嘘 2話「ヴァイオリストの恋」

2016年11月28日 | 四月は君の嘘
引っ張られるままに藤和ホールに足を踏み入れると、たくさんの人達が行きかっていた。
今から出演する人、その関係者の緊張感がロビー全体に漂っていたが、宮園かをりは緊張感を感じさせることなく、飄々と会場へと吸い込まれていった。

僕達は観客席に。だけど、僕の足はホールの中に入ることを拒み、手が小さく震える。
母の声が聞こえた気がした。 「あなたの職場よ」


ホールの観客席へと足を踏み入れると、乾いた冷房、ほこりの匂い・・・この独特の空間のことを体が覚えていた。
僕を見つけた観客達がざわめき、口々に僕の名前を口にするのが聞こえた。



僕は、椿がわざと黙っていて、初めからここに連れてくる気だったことに気づいて気分を悪くした。
椿は少し真面目な顔で「だって知ってたら公生、来なかったでしょ。だから一生懸命黙ってた。やっぱりピアノはイヤな感じしかしない?」と聞くので、僕はそれ以上何も言えなかった。


藤和音楽コンクール、ヴァイオリンの課題曲は、ベートーヴェン、ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」
このコンクールは全国規模の大きいやつで、少し普通のコンクールとは違っていて、全てにピアノの伴奏が付く珍しいスタイルだ。

生の音楽を聴くのは久しぶりで、なんだかやけにソワソワした。
コンクールで失敗する伴奏者に、僕は心の中でエールを送る。(がんばって、がんばって)
いつの間にか曲に合わせて動く僕の指を見て、椿がニコリとした事に、僕は気付くことはなかった。




4番目の演奏者は宮園かをり、彼女の演奏だ。



かをりは「私の音楽届くかな・・・エロイムエッサイム我は求め訴えたり」と小さくつぶやくと演奏を始めた。




それは衝撃だった。
先ほどまでの課題曲と同じ曲とは到底思えない音に、観客席は静まり返り、息を飲んで彼女の音楽に呑み込まれいった。
これは確かに「クロイツェル」だけど、もうベートーヴェンのものではなく、まぎれもなく彼女のものになっていた。



暴力上等、性格最低、印象最悪・・・でも、彼女は美しい








演奏が終わった時、コンクールだというのに会場は総立ちで彼女を称え、彼女は堂々とそれに応えた。
僕は・・・彼女がなんであんなに楽しそうに演奏できるのがわからずにいた。




コンクールが終わった後、観衆達の話題は「宮園かをり」でもちきりだった。
だけどこれはコンクールで、楽譜に忠実に弾くことが重要視される中、テンポも強弱もデタラメな彼女は予選に残ることはないだろう。審査員達は彼女の無茶苦茶ぷりに怒る中、一人だけ、彼女の別格の才能に気づいた審査員がいた。
その審査員は、なぜこれほどまでの子が無名なのかに首をひねった。



その本人は入賞や順位に「興味がない」と言い放つと、審査結果を見もせずに帰ろうとした。
演奏を終えたヴァイオリニストが、人だかりをすり抜け、花を抱え、わき目もふらずに好きな人の元へ駆け寄る、それはまるで映画のワンシーンのようだった。



好きな人と一通り言葉を交わした後、彼女は僕に気づいて話しかけてきた。
「君はどーだった?すごかったでしょ?私。どう・・・だった?」笑ってみせる彼女の手が震えているのに気付いて、僕は言葉を選んだ。



「君の演奏を訊いてあわてて花を買って渡したあの子達にとって、今日の事は忘れられないよ。たぶんそういう演奏だった」



彼女は「どんなもんだい」と笑って、また好きな人の元へと駆けて行った。
まるで映画のワンシーンのようだ。僕は・・・僕は友人A役だったけど。



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四月は君の嘘 1話「モノトーン1」

2016年11月28日 | 四月は君の嘘





僕、有馬公生は、11歳の秋、ピアノが弾けなくなった。
それまでの最年少優勝の記録や、数々のピアノコンクールでの優勝はそこでついえた。




僕の母の夢は、母の成し得なかった”世界を飛び回るピアニスト”に僕を育てること。
音楽教室を営んでいた母のレッスンは、毎日毎日何時間も叩かれながら、怒鳴られながら、泣いても許してはくれなかった。


僕は、母さんが喜んでくれるなら、母さんの病気がよくなって元気になるならと頑張った。
そしていよいよ、ヨーロッパのコンクールを視野に入れた3年前・・・母が死んだ。
それからだ、僕がピアノが弾けなくなったのは。









あれから3年、14歳中学生になった僕は幼馴染の椿と、友人の渡と中学生として暮している。
椿はソフトボール部の主砲で、渡はサッカー部のキャプテンで、僕はピアノを辞めていた。











ただ、頼まれてカラオケ用に、新曲を耳コピして譜面におこすバイトをしていた。



椿には小さい頃から、死ぬかと思うような無茶苦茶な事をたくさんされたが、生まれた時からずっと一緒で、一人っ子の僕にとっては世話の焼ける姉がいるようなもので、すっかり慣れたものだった。

二人はいつも明るくて、生き生きとしていて、瞳が輝いている。
きっと椿の目には風景がカラフルに見えてるんだろう。
椿は、友人の美和の話を僕に聞かせた。
「彼と出会った瞬間、私の人生が変わったの。見るもの聞くもの感じるもの、私の風景全部がカラフルに色づき始めたの」と。

僕は違う。
僕には全てがモノトーンに見える。譜面の様に、鍵盤の様に。



椿は、僕が必死でピアノにしがみついているように見えると言った。
ピアノは嫌いだ。それでもしがみついているのは、きっと僕には何もないから。
ピアノを除けば僕はからっぽで、不細工な余韻しか残らない。


ある日、椿は渡に女の子を紹介するので、一緒について来るように、と言った。
待ち合わせ場所の公園に椿は来ておらず、僕はどこかで鳴るピアニカの音に誘われるように歩いていった。
そこで見たのは・・・・ピアニカを吹く一人の女の子で-------

彼女を見た瞬間、僕は、いつか椿に聞いた言葉を思い出していた
(彼と出会った瞬間、私の人生が変わったの。見るもの聞くもの感じるもの、私の風景全部がカラフルに色づき始めたの)


彼女は泣いていて、でも涙を拭うと、彼女は公園の子供達と楽しそうに音楽を奏でて笑っていて・・・・







僕が思わず撮ったシャメに、スカートを風に煽られた彼女が写ってしまった事で、僕たちの初めての会話はケンカだった。
彼女の名は「宮園かをり」で、意外と凶暴で、でも好きな男子、渡の前ではかわいい女の子に豹変した。
その彼女はヴァイオリニストで、公園の横の藤和ホールで今から演奏があるのだと言う。


藤和ホール・・・音楽・・・コンクール・・・
僕は行くのを拒んだ。
だけど彼女は僕の手をとって「行こ」と走り出してしまった。






14歳の春、僕は自分の足で走り始める。
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