むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

統一左派の重鎮・陳映真が脳卒中で重体か?

2006-10-17 00:32:08 | 台湾その他の話題
最近消息を聞かなくなった統一=大中国派共産主義者の作家・陳映真はどうやら北京で脳卒中にかかって重体になっている模様。統一派に近い中国時報が16日伝えた。
陳映真といえば、70年代には統一左派の党外雑誌「夏潮」を舞台にして、台湾民衆をリアリズムで描く「郷土文学」運動を始め、80年代の統一左派のグラフ雑誌「人間」にいたるまで、マルクス主義の立場から反国民党運動を行ってきた。そういう意味では80年代までの足跡は、評価できるものであり、私もそれなりに「郷愁」を感じる人物である。80年代には何度か会ったことはある(「会った」というだけで、深く議論をしたわけではないが)。
しかし、民主化が定着し、民主化勢力の主流が本土・独立派であることが明確になった90年代には、陳映真は急速に大中国主義に特化し、中国に長く滞在するようになり、さらには中国で商売も始めるようになった。つまり、マルクス主義などどこへやら、単なる大中国主義者として、野蛮な資本主義路線に邁進する中国共産党を賛美し、自らも中国資本主義の環境破壊や搾取行為の共犯となり、台湾の民主化の成果を罵倒してばかりの状態となった。
そういう意味では同じく夏潮出身の統一左派ながら、2年前になくなった蘇慶黎が少なくとも純粋に「マルクス主義」信仰に忠実で、「統一」にそれほど力点はなく、昨今の中国共産党の走資路線に批判的だったのと比べて、対照的な生き方であった(蘇慶黎については、拙稿「論説 蘇慶黎の死と統一論の破綻- 左派こそ台湾アイデンティティを支持すべき」http://sv3.inacs.jp/bn/?2004110060301305013708.3407 台湾の声2004年11月を参照のこと)。いや、陳映真の生き方は台湾の「統一左派」には珍しいことではない。もともと「夏潮」グループのメンバーで、社会主義なり共産主義の信仰を愚直に守った人は、おそらく蘇慶黎を除いてはいないだろう。私がかつて「夏潮」系統と接触して議論したときに、彼らが民主集中制を強調し、中華民族であることを強調していたことに対して抱いていた不安が、的中したのだ。要するに「民族」なるものを強調し、それに固執するものは、ほかにどのような理想を掲げていても、最終的にはショービニストに転落するしかない。社会正義の理念はいとも簡単に捨てられる。その点では、陳映真は統一左派の典型的な生き方であり、あらゆる社会主義、リベラルな人間はもって反面教師とすべき存在であるといえる。
実際、2000年冬だかに、統一左派月刊誌「海峡評論」の創刊10周年記念シンポの時だかに覗いたところ、陳映真もパネラーで登場していて、なんと許歴農ら国民党反動派の大物と仲良く肩を並べ、陳水扁政権を批判していた。これは蘇慶黎なら徹底して回避したところであろう。かつて党外運動を弾圧したその元凶たちと肩を並べ、民主化運動の結果生まれた政権を非難する。時代の皮肉というか、あいた口がふさがらないとはこのことだった。

とはいえ、陳映真が70年代に書いた小説、80年代までの社会主義的観点からの評論は、その後の台湾の民主化運動に影響を与えたという点で、功績は否定できない。
そういう意味では、一時代を築いたこともあるこの作家、思想家が重体となったという報には、一抹の寂しさを感じざるを得ない。


最新の画像もっと見る