むじな@金沢よろず批評ブログ

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「台湾の声」の怪論

2005-12-05 01:24:14 | 台湾政治
「台湾の声」の選挙分析は、ずれている
 最近は名前と実態が乖離して久しく単なる日本右翼の声になっている「台湾の声」で、今回の選挙結果について分析が流れていたが、これが台湾の実態とは大きくずれている。

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題名:「台湾の声」【主張】台湾民主の危機:統一地方選挙の敗因は独立への空手と不公正
送信日時:Sun 12/04/2005 02:24:22 JST
【主張】台湾民主の危機:統一地方選挙の敗因は独立への空手形と不公正
                  建国塾塾生頭 多田恵

今回の敗因は、汚職スキャンダルだけではなく、

1.陳水扁総統が何度も独立派を空手形で愚弄し、求心力を失ったこと、

2.中国資本のケーブルテレビTVBSの追及の手を緩め、その一方、
  自らを勝利させた「非常報導」への弾圧を許すなど、正義の公正な
  実施に消極的で、将来の希望をもてなくしたこと、

3.中国との関係が焦点になったのに独立を打ち出さず、目標を示さな
  かったためである。

台湾の民主は、危機に瀕している。
台湾人は覚醒し、2007,2008年に屈辱を晴らすためにあらゆる手段を取るべきである。

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まず、なんだか全体的に労働新聞か文革時代の人民日報と見まごうようなどぎつい表現とテンションの高さ。「空手形で愚弄」とか「目標」などは、北朝鮮が好む表現。

 1.についてだけはあたっている。ただし、そもそも「求心力」なるものが台湾人にあるのか疑問だが。台湾人を北朝鮮人みたいな集団主義の動物と混同しているのではないか?

 2.については、そもそもTVBSは香港TVBの子会社として開局したものだから、中国資本であることは周知の事実だった。それを今になって気づくほうもまぬけだが、それをいうなら、そもそもTVBSを認可したのは、李登輝総統時代なのだから、李登輝に最大の罪と責任がある。まして、李登輝は1995年ごろ「私は三局を見たくない。TVBSが最も面白くてよい」と「推薦」していた。それがその後のTVBSの巨大化を招いた要因になっているのだが、李登輝の責任は重大。馬英九を台北市長に当選させたことも同様。陳水扁ばかりが問題があるのではない。
 「自らを勝利させた「非常報導」への弾圧を許すなど」とあるが、今回の非常報導は、一昨年のそれとはコンセプトも制作グループは別もの。だから「自らを勝利させた」というのは間違い。
 それに、今回の桃園県長選挙は勝利していないし、結果を見れば、非常報導は、民進党陣営の足を引っ張る効果しかなかったことは明らか。しかも、弾圧というが、あの中で非難の対象になっている朱立倫の親戚姻戚には、民進党や台聯関係者が多い。あれ以上、攻撃が続いていたら、困るのは民進党や台聯のほうだった。朱立倫が検察を動かして取り締まったことは、むしろ民進党への火の粉を防ぐ効果があった。
 今回の非常報導は、前回南社などがかかわったのと違って、林一方という悪評高い人物の手になるもので、前回と違ってレベルも低かった。林一方は「台湾聯通網」というネットラジオ関連事業法人を運営していたが、人から金を巻き上げて、なんら有効に使うことなく、事業を低迷させた。いってみれば背任に近い行為を犯して、独立派を騙してきた人間。今回のやり方も外省人並みに卑劣で、取り締まられて当然である。
 結果的に緑陣営に打撃を与え逆効果になっていたという意味で、実は今回の「非常報導」は、一昨年のそれとは似て非なるもので、青陣営が仕組んだ謀略ではないかという説すらあるくらい。
 「正義の公正な実施に消極的で」:「正義の公正な実施」という表現は意味不明。しかも台湾には善悪二元論や正義を大上段に振りかざす議論など通用しない社会。正義を振りかざしたいなら、中国や北朝鮮やアル・カイダと同類。台湾の良さは、正義を振りかざして他人を追い詰めたりしない、むしろ「だらしなさ」にある。
 だらしなさがいかんというなら、そもそも台湾とかかわるべきではない。
 「将来の希望をもてなくしたこと」:台湾人は将来の希望など捨てていない。いやそもそも「将来」なんてほとんど考えておらず、目先のセックス、飯、人脈だけ考えて、楽しく動いているというのが正しい。もし、将来の希望をもてないとしたら、陳水扁の無責任と朝令暮改によるもの。

 3.については、「中国との関係が焦点になったのに」というが、それこそ日本のメディアに踊らされていて、台湾の自立性をわかっていない証拠。台湾では中国との関係など焦点になってなどいない。連宋訪中やパンダなど台湾人はもはや忘れている。中国なんて乱暴な隣国にはそんなに関心はない。「中国との関係が焦点」という「台湾の声」はむしろ中国の立場で台湾を見ているのではないか?
 「独立を打ち出さず」:民進党は今回も台湾意識を強調した結果、惨敗した。それは、台湾意識そのものが意味がないのではなくて、当たり前になったから、意味を失い、さらに与党として政策を打ち出すことを求められたからである。
 また、地方選挙ではそもそも独立か統一かは争点にならない。争点にしようとしたから失敗した。地方選挙ともなれば、「台湾」が前提。そこで「独立」をわざわざ強調することは、それこそ台湾を中国の一部だと誤ったイメージを植えつける原因となる。「中国との関係が焦点」という表現と同じく、「台湾の声」は「為匪宣伝」をしているのではないか?
 「目標を示さなかったためである。」:目標。それは日本人が大好きで、朝鮮人や中国人の共産主義者も愛用している単語であるが、台湾人に「目標」などという言葉があると思っているほうがおかしい。一度台湾社会で仕事をしてみたらいい。
 「台湾の民主は、危機に瀕している。」:今回、緑はもちろん、青も暴動を起こさなかった。それだけでも台湾の民主主義は進歩している。青の当選者もほとんどが本土派であり、外省人ですら台湾語を使い民進党への配慮を示した。そもそも「負けたから民主主義の危機」などというのは、それこそ昨年の連戦と同じ理屈で、成熟した民主主義者とはいえない。台湾の選挙民は民進党の傲慢を正しく判断した。民進党は今回の結果を教訓に反省して、07年、08年の勝利を目指せばいいだけのこと。
 「台湾人は覚醒し、2007,2008年に屈辱を晴らすためにあらゆる手段を取るべきである」:「覚醒」「屈辱を晴らす」などというトンガッタ表現は、労働新聞でよく見かける表現だが、台湾人はあまり使わない。

 今回はあくまでも地方選挙であって、国政選挙ではない。まして、民進党の敗北は台湾化の後退を意味しない。国民党の当選者もほとんどが本土派である。とくに苗栗県、嘉義県、花蓮県の県長については、国民党のほうが民進党よりも本土意識が強い人間だった(苗栗はタオカス族であることを強調、嘉義は「台湾の京都」建設を政見に提示、花蓮は李登輝系)。民進党が負けたことで「民主の危機」というのは、それこそ今回の選挙をむりやり中国統一に結び付けたい日本の一部親中派勢力や北京の策謀にはまっている利敵行為ともいわざるをえない。
 それでなくても、「台湾の声」は、大中国意識が強い法輪功やその系統の「大紀元」を賞賛、引用して、それに荷担したり、蒋介石を賛美し、いままた馬英九を非難しない日本の極右勢力と連携するなど、台湾人の立場と視線と声を無視した暴論が目立つ。台湾を助けるものとなっていない。


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