むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

NHK当該番組、大きな問題は感じないが、あえて問題点を指摘すると

2009-04-19 17:32:46 | 台湾言語・族群
ただし細かいことをいえば、私も当該番組には問題点があると思う。

■問題点1 開国?
一つは大前提として、幕末の「開国」を「日本が世界に開かれたジャパンデビュー」と呼んでいるが、これはウェストファリアおよびウイーン体制を中心においた世界観であって、日本はそれ以前から清帝国を中心とする中華世界の一員として、清帝国とその従属諸国と関係を持ってきたのであり、さらに薩摩が間接支配した琉球を通じて、東南アジアとも関係を持っていた。
そういう意味では、この企画のそもそもの文明史の立脚点は、いまや高校程度の日本史ですら時代遅れの偏狭な見方とされている、江戸時代を「鎖国」と見る史観におっている。江戸時代は決して鎖国でなく、実は「海禁」と呼ぶべき中華世界共通の政策だったのだが、排斥の対象はキリスト教勢力であって、中華世界での交流は頻繁だった。
もちろんそれが急速に発展した西欧世界に対する「立ち遅れ」につながったのだが、1858年で世界に向けて開かれたというのは、単に西欧中心史観というべきだろう。

■問題点2 「中国語」?
事実関係の誤りといえば、総督府の役人だった人の発言で、台湾人どうしでは「平気で話す」の部分に「(中国語で)」を挿入したところだろう。
当時台湾人で北京語ができた人間は外国語として学習したごくわずかの人であって、台湾人が話していたのは台湾語や客家語や原住民諸語だ。「台湾語や客家語は中国語の一種」と強弁したとしても、番組ではパイワン族にかなり焦点を当てていたし、パイワン族の老人はパイワン語で話していたのだから、ここで台湾人どうしが「中国語の諸方言」を話していた、と強弁することもできない。
あえていえば「(台湾の言葉で)」とすべきだろう。
ただ、これは制作陣が素人のために、台湾社会で主流の台湾語を理解できないで、音だけで中国語の一種と判断したための誤りだろう。決して台湾の声一派が邪推するように中国統一工作wではなかろう。
なぜなら、素人が台湾語を音だけ聞いたら、中国語と区別できないだろうからだ。
インドネシア語を知らなければ、バリ人がインドネシア語を使っているのか、バリ語を使っているのか、音だけでは区別できないのと同じで、素人はバリ語もマレー系だからマレー語と書いてしまうだろうから。
というか、何にでも「中国の工作の影」を見てしまう台湾の声一派は、ひょっとして中国政府の能力を過大評価しているのではないかw。中国、私ですら3回も入国したことがあるように、あの政府にそんなにたいした能力はないよw。台湾の声こそ、中国を賛美しているようだw。

■問題点3 パイワン族も登場するのに「漢民族の島」とは?
これは矛盾というべきものだが、冒頭で台湾住民を「漢民族主体」と決め付けているにもかかわらず、番組のかなりの時間を何の説明もつけずにパイワン族の「人間博物館」に費やしていること。そもそもホーローと客家も漢民族かどうか怪しいが、パイワン族はどうみても漢民族ではないが、その説明が先住民の一言だけ。「漢民族」との関係や人口の説明が必要だろう。

■問題点4 「台湾は最初の植民地」としながら琉球にも言及
番組冒頭で台湾を最初の植民地と紹介しながら、番組半ばでは原敬時代に同化政策への変更の説明で、原自身の言葉として「琉球の同化は成功した」と、日本の植民地として琉球の先例があったことを何の説明もなく唐突に出しているところ。
また、当初差別政策だったのが同化政策になったというべきなのに、最初差別政策だったとの明言がなかったのも片手落ち。

■問題点5 インドの独立の指導者がガンジー?
これは細かいことだが、ウイルソンの民族自決主義で東欧が独立したことに刺激されて、世界の植民地で民族運動が高まったというくだりで、ガンジーを取り上げているが、本当の意味でインドの民族自決というなら、チャンドラ・ボースだろう。ボースは社会主義者でもあって、軍国日本やナチスやソ連とも連携した点が、戦後英米から嫌われ、英米にとってボースよりは都合がよかったガンジーを過大評価しただけで、ボースがいなければインド独立はありえなかった。

■問題点6 取材対象は台湾人エリートが主体で、庶民層が不在
取材対象として、日本語が通じることと、それなりに論理的なことを言えるから、エリート層を中心とした取材になったのは仕方がないが、それにしても庶民層の考えをもっと取材すべきだったと思う。日本統治時代の皇民化教育といっても、あの世代のすべてが日本語で教育されたわけでもなく、庶民の圧倒的多数は台湾語(その他の台湾土着言語)だけで生きていたのだから。そうした庶民層は、もっと素朴な親日感情も持っていると同時に、抗日ゲリラの話もしてくれるだろうから。エリート層だと何かと別の魂胆があったり、日本のウヨクとも交流があったりして、後でややこしいことになる場合もある(実際、今回そうなった)。

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