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「覇権」で読み解けば世界史がわかる その二

2022-10-23 21:30:13 | 読書/中東史

その一の続き
 中東の超大国だったオスマン帝国も衰退していくが、その理由を著者はこう述べる。
長い平和と繁栄が、政治・社会を腐敗させ、制度を硬直化させ、軍隊を弱体化させたため」(171頁)

 以下は理由の前の説明文。
「歴史を紐解けば、平和というものは半世紀続くことすら稀です。しかし、オスマン帝国はスレイマン大帝のころから100年という長期にわたって平和を甘受しました。
 この「あまりにも長すぎる平和」こそがオスマン帝国の政治・経済・軍事・社会の隅々まで腐敗させてしまったのでした。したがって、いざ「改革」を迫られる事態に陥っても、当にそれを実現する力を失っていたのです。」(同上)

「あまりにも長すぎる平和」には、何とも耳の痛い注釈がついている。
日本も太平洋戦争終結後から70年間にわたって平和を享受してきました。すでに人類史上稀な“異常事態”です。日本はこれから本格的な混迷時代へ入るでしょう。」(同上)

 さらに第3章の見出し「平和と繁栄が腐敗と衰退を招く」に続く文章は、不気味な予言に感じたのは私だけではなかっただろう。
人は繁栄と平和の中にあるとき、それが永遠につづくことを希求しますし、また実際そうなると思うものです。
――平和が大切! 平和を護ろう! 平和万歳! 口を開けば平和! 平和! 平和!
 しかしながら、社会を腐敗させ混乱と戦乱を誘発させている最大の原因が「平和」であることを理解している人は少ない。いつの時代もどこの国も、社会の腐敗は平和の中で醸成されますから、平和が長くつづけばつづくほど、腐敗は社会の隅々まで行き渡り、いったん平和が破れたとき、つぎにやってくる混乱の時代は長く悲惨なものになります。
 混乱・停滞・混迷はいやだからといって、それを避け、平和にしがみつけば、それだけシッペ返しも大きくなるのです。」(169-170頁)

 これを以って著者は、「したがって平和も「ほどほど」が一番よい。そうすれば、次の混迷も「ほどほど」でつぎの平和がやってきます。」という。永遠に続く戦争もないが、永遠の平和もありえない。ただ、「ほどほど」の平和の維持も難しい。

 オスマン帝国に限らず、18~19世紀にイスラム諸国が近代化を試みるが、その尽くが失敗しているのは、世界史に関心のある方なら既知のはず。イスラム諸国の近代化を阻む根深く深刻な理由こそ、「イスラームという宗教そのもの」と本書は断言する。
 大半が護教的解釈をとる日本のイスラム研究者にはこのような断定は出来ないが、異教徒から観れば当然の結果だろう。「イスラームの現在」を著者はこう述べている。
イスラームという宗教にすがって大発展してきたイスラーム世界は、イスラームそのものが足枷となって衰退していった。」(184頁)

 原理主義者に止まらず、21世紀でもムスリムは、「イスラームの教えが絶対正しく、これを忠実に守っていれば必ず救われる」と信じて疑わない。不完全なユダヤ教やキリスト教と違い、完成された唯一無二の宗教こそがイスラームというのだ。
 しかし、どんな素晴らしい教えも必ず生まれた時代の社会規範に縛られているものなのだ。従って時が経ち、その基盤となっていた社会規範そのものが移り変わってしまえば、古い時代に生まれた教えとの間に価値観の大きな隔たりが生じることは避けられない。
■歴史法則31■
どんなすばらしい思想・教え・理念・制度もかならず古くなる。

 対照的なのはキリスト教徒。時代に合わなくなった教えに対しては、こじつけ・詭弁・屁理屈の限りを尽くして曲解、歪曲、或いは黙殺という荒技で自分たちの価値観に当てはまるよう、きれいに整形してしまう、“要領の良さ”がある。聖書にはハッキリとこんな言葉があるのに。
「我(神)が汝らに命じるこの言葉(聖書の聖句)を、全て言葉通り忠実に守りて行うべし。これに何ひとつ加えるべからず。減らすべからず。」(申命記12:32)

 神の厳命があるにも関わらず、聖書の聖句を言葉通り忠実に守って行う信者は至って稀だろう。ユダヤ教徒も“要領の良さ”を発揮する者が多数ではないか?申命記を引用してキリスト教を批判した棄教者ブロガーがいたが、「申命記なんて古い」とレスした信者がいた。
 このレスを見て、日本人信者は神との契約や神の言葉の重要性が分かっていないのではないか、と唖然となったものだった。しかし、欧州人信者も同様らしい。
その三に続く

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異端審問に熱狂した西欧、そうでなかったイスラム

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