トーキング・マイノリティ

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イスタンブルで朝食を その①

2017-01-08 21:43:14 | 読書/ノンフィクション

 昨年末、『イスタンブルで朝食を』(サラーム海上(うなかみ)著、双葉文庫)を読了した。「オリエントグルメ旅」のサブタイトルどおり、著者の中東紀行エッセイ。河北新報の新刊案内でこの本を知ったが、コピーにはこうあった。
トルコ、レバノン、モロッコ、イスラエルなど中東各地の旅で出会った絶品グルメと家庭料理を紹介。オリエント・グルメレシピ36品収録!

 トップ画像は表紙からだが、このカラフルな色彩の食品だけでも美味しそうだ。さらにカラーの口絵には「美味しい中東料理」の写真が満載、食材や料理の他にスーク(市場)、満面の笑顔を浮かべた中東の料理人まで載っており、美しい写真ばかり。写真は全て作者による。裏表紙ではサラーム海上さんの経歴をこう紹介している。
「1967年生まれ、群馬県高崎市出身。音楽評論家、DJ、講師、料理研究家、明治大学政経学部卒業。中東やインドを定期的に旅し、現地の音楽シーンや周辺カルチャーのフィールドワークをし続けている…」

 この紀行エッセイで最も面白いと思ったのがトルコ編とイスラエル編。特に「はじめに」で描かれている、イスタンブルから来日した作者のトルコ人の友人たちの話は興味深かった。トルコ人一行は日本の観光名所を訪れ、2週間に亘り観光を楽しんだそうだが、彼等のお気に入りは実は居酒屋。夜になると、「今日は何処のイザカヤに行くんだ?」と目を輝かせたとか。
 食べ物で人気だったのは、意外なことに味噌汁と焼き鳥。その背景を作者は、トルコのレンズ豆のスープや「カウック・シシュ」(トルコ語で鶏串の意)と重なるのだろう、と言っている。

 逆に評判が悪かったのが、たっぷりの刺身の盛り合わせ。トルコもまた国土を海に囲まれているが、作者によれば、トルコ人の持つ中央アジア起源の騎馬民族というメンタリティーが、どうしても生の魚を受け付けないようだ。また、日本酒よりも芋焼酎や泡盛を好んでいたという。あとは氷と水さえ渡しておけば、暫くは粛々と飲み続けていたとか。癖のある蒸留酒という点で、トルコの地酒ラクと似ているためだろうか、と作者は見ている。
 イスラム教国にも拘らず、トルコは飲酒に寛容なことで知られる。生まれ故郷イスタンブルを舞台とする作品を発表し続けているオルハン・パムクの小説には、男はもちろん女までもがラクを飲む場面が描かれている。飲酒が認められているユダヤ教の国イスラエルで、日本や欧米の大都市と同じくナイトライフがあるのは当然にせよ、その点ではイスタンブルも全く引けを取らない。

 刺身は不評だったにせよ、トルコ人が魚を好まない訳ではなく、沿岸部では魚介類もよく食べられているそうだ。作者には鯛やスズキ、イワシに太刀魚、ヒラメやカタクチイワシが目についたとか。海老やムール貝、イカやタコも様々な料理に用いられるという。イカやタコのような“ウロコの無い魚”はイスラムでもタブーのはずだが、これも飲酒と同じく黙認されているのやら。
 本には様々なトルコ料理のレシピが載っており、特に美味しそうだと感じたのがカタクチイワシの炊き込みご飯「ハムシリ・ピラウ」。黒海地方の冬の名物料理というが、カタクチイワシはイスタンブルを代表する庶民の魚でもあるそうだ。作者はハムシリ・ピラウをイスタンブルで食べ、その美味しさに太鼓判を押している。

 ハムシリ・ピラウのレシピは94頁に載っているが、使うカタクチイワシは4人分で何と2㎏とある!ここではフライパンを使っていたが、トルコでは直径24㎝ほどの厚い鍋で作っていた。鍋の内側にたっぷりバターを塗り、カタクチイワシを皮を下にして、隙間なく放射状に敷き詰める。その上に炒めた長粒米の半量を載せ、さらにバターを散らす。
 半量の米の上にまたカタクチイワシを放射状に敷き詰め、その上に残りの米をかぶせる。残ったカタクチイワシを、今度は皮を上にして放射状に敷き詰める。最後に水を加え、ダメ押しのバターをたっぷり散らし、アルミホイルで蓋をしてオーブンで30分焼いて完成する。バターをたっぷり使うのが美味しさの秘訣らしいが、「これじゃ、デブまっしぐら」なのは確実だ。
その②に続く

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