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星亨-明治の巨悪 その②

2010-06-10 21:17:31 | 読書/日本史

その①の続き
 星亨には収賄の噂が付きまとい、実際に政治資金をふんだんに使って政党員を動かした。これは明治でも非難されたが、政治家も人間だからカネがいる。西欧の貴族のように生活基盤がしっかりしていれば、カネに目がくらむことは減るだろうが、日本の議員は第一回帝国議会の時(1890年)から、その構成が世界で最も庶民的だった。議員中、地主の占める比率がその頃の他国と比べ圧倒的に多い。彼らは決して貧乏ではないが、西欧の貴族ほどの財産はない。

 星の凄味は政治資金の出所が完全には分からないことにある。星を研究した学者によれば、主要ルートは彼が支配力を持っていた京浜銀行ホノルル支店に、日本の移民たちが強制的にさせられていた預金であったことはほぼ確実らしい。この制度は移民たちの賃金の一部を強制的に預金させ、それにより契約満期の際に無一文という状況を防ぐためのもので、政府公認だった。これが星の政治資金源だということは噂となっており、京浜銀行はハワイではひどく不人気だった。だが、この制度からどのように政治資金が生みだされたのか、それが違法なものだったのかは判明していない。
 ただ、彼はカネを集め使ったが、私生活は質素で資産活用をしなかった。星が最盛期中に暗殺された後、借財が2万円(1万円説もあり) あったことが明らかになった。1万円でも当時は相当なカネだったが。権力者が妾を囲うのが当たり前だった時代、女性関係も潔癖だったという。

 収賄やカネをばらまいただけならいつの時代にもいる汚職政治家に過ぎないが、星が巨悪と呼ばれるようになったのは、ふたつの大きな “裏切り”行為があったからだ。まず、彼は予算案を通すことで藩閥政治と妥協した。それは政党人としての裏切りで、自由民権運動から政党へと動いた人々の基本的な動機は、藩閥政府に反対し、苦しめ、出来ればこれを打倒することだったからだ。つまり、それまで掲げてきた政治理念への背信である。
 さらに星は、自由党進歩党が合同し議会での圧倒的多数派となった憲政党を分裂させ、その半分で与党を作り、勢力を伸ばした。それが立憲政友会となり、明治の後半から大正にかけての十数年間、日本の政治の主導勢力となったのだ。主導勢力になったのは星の暗殺後だが、これらふたつの背信行為は、多くの人々に彼を巨悪と言わせるだけの憤慨を与えたのであった。

 何故、星亨はこうした行為をとったのだろうか?もちろん強い権力意思はあった。だが、欧州外交史の専門でもあった故・高坂正堯教授は それが最も重要な理由ではない、と書いており、星の強い信念が思い切った行動に駆り立てたと見ている。よほどのニヒリストでもない限り、権力意思だけでは強い行動はとれないものである、とも高坂氏はいっている。

 星は憲法が作られ議会が開設された後では、政党はそのあり方を変えなければならないと確信していた。彼は第四議会が開かれていた明治26(1893)年1月、自由党員に対し一大演説をぶち、自由党が藩閥政治の弾圧にも屈せず自由民権運動を行ったことへの功績を述べた後、自由党は「専制の時代にあってはそれに相応の行動をし、立憲の時代には立憲時代に相応しい行動をとるものである」と宣言した。
 続けて、「政府案といえども自由党の意趣と合う時にはあくまでもそれを助け、その意趣に合わない時は反対するのが当然ではあるが、従来の如く、政府案であれば何でもかんでも反対するというのは、はなはだ大人げないこと」という。

 だが、具体的な争点に絡んでくると事は簡単ではない。明治政府は日本の安全確保のため、ある程度の軍備増強は必要と考えていた。そのため地租を上げることを提案したが、民党(※民権派政党の総称)の主な主張は地租を軽減、“民力休養”を行うことだったからだ。第四議会で政府が軍艦建造費の増額を提案したことは、この対立に火を付けた。そして星も窮地に立つが、政府との協調という方針を堅持、結局、大筋において政府案を通した。

 現代からみれば、それは妥当な行動だったようだ。当時の日本は決して過剰な軍事費を使っておらず、明治20年代半ばまではGNPの2%くらいと推計され、同時代の西欧諸国より少ない。それには民党の反対の貢献もあるが、日本の産業化のためにはよかった。ただ、国際的緊張の高まりはそれを多少修正せざるを得なくなりつつあったのだ。さらに明治の中期になると、農家の収入増大のため地租の負担は実質的に軽くなっていた。
その③に続く

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