トーキング・マイノリティ

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ワグネル 影のロシア傭兵部隊

2022-06-05 21:30:04 | 音楽、TV、観劇

 録画していたBS世界のドキュメンタリー、「ワグネル 影のロシア傭兵部隊」を見た。軍事に詳しい方ならワグネルというロシア傭兵部隊は既知だったかもしれないが、ロシアのウクライナ侵攻以降、私はこの部隊名を初めて知った。以下は番組HPから。

ウクライナを含む各地に傭兵を送り込んでいると言われ、「プーチンの影の軍隊」とも呼ばれる民間軍事会社「ワグネル」。その活動の実態と黒幕とされる人物に迫る調査報道。

 ナチスに傾倒する元軍人が設立し、プーチン大統領と深い関係を持つ新興財閥が出資しているとされるワグネル社。ロシアが軍事介入を進めてきた中東やアフリカで暗躍してきたと言われている。専門家が事実上国の機関と指摘するこの組織の実態を関係者や専門家の証言、様々なルートから入手した映像や内部文書などを通じて、浮かび上がらせる。原題:Wagner:Putin‘s Shadow Army(フランス 2022年)

 番組制作は今年でも、スタッフは1年以上前からワグネルについて取材を続けてきたという。番組冒頭にはワグネル元隊員マラト・ガビドゥリンが登場、番組では多くのインタビューに応じている。トップ画像の男こそマラト。
 顔と名前を出して大丈夫?と思ったが、映画デスペラードに出ていた敵役のナイフ男(ダニー・トレホ)に似ているので、風貌はロシア人というよりメキシコ人のようだった。出身はウラル東だそうで、試しにマラトで検索したら、タタール語起源の男性名とあったので納得した。

 マラトは元兵士で、ソ連邦崩壊後にはギャング団にいたこともあるという。敵対ギャングのボスを暗殺したため、兵員に復帰する資格をはく奪されたとか。彼がワグネル隊員になったのは、ズバリ金のためと言っていた。ひと月あたり国内では960ユーロ(約13万4千円強)、国外では1,500~1,800ユーロの収入になるとか。ロシアの他の職種に比べ、悪くはないと語るマラトだが、ハイリスクな職業なのは確か。
 私には軍人気質は分からないが、単に金のためだけで非公式な傭兵になったとは思えない。元から戦うこと自体に生きがいを感じている男たちの行きつくところが傭兵部隊だったのやら。尤も私の傭兵のイメージは、F.フォーサイスの小説『戦争の犬たち』くらいだが。

 ロシア人部隊が中東で残虐行為を重ねているのは聞いたことがある。番組でもシリアでの映像が映され、ワグネルの男たちは犠牲者の首をはねる前、笑いながら被害者の手足を大きなハンマーで打ち砕いていた。冷酷無情の代名詞となっているナチスだが、ナチスの方がまだ温いと感じた視聴者もいたかもしれない。

 私的に衝撃的だったのは、ワグネルが中央アフリカを事実上支配していること。フランス植民地だった中央アフリカは内戦が絶えず政情不安定な国であり、治安維持を目的としてロシアにも軍隊派遣を求めたそうだ。そしてやってきたのは正規のロシア軍ではなくワグネル。
 彼らは中央アフリカの至る所におり、政府の公式行事にもボディガードとして姿を見せるが、常に顔は黒い布で隠している。それでも黒人ではないことだけは分かる。ワグネルは街で乱暴狼藉を働いたり、現地女性に暴行したりするが、現地警察は何もできず、住民はロシア人をとても恐れている。

 中央アフリカにおけるワグネルの実態を暴こうとして、現地に向かったロシア人ジャーナリスト3人は謎の死をとげた。「「許されざる取材」の記者3人、ロシアに消されたか」(2018.8.6)という記事を今回初めて見たが、番組で取り上げられていたのは別の記者だった。取材に応じたのはその記者の父で、息子が中央アフリカに行くことには反対だったようだ。
 それでも「同じロシア人なので」、息子が中央アフリカに取材することに同意する。この父はプーチンが同じロシア人でも、敵対者には容赦なく暗殺していたことを知らなかったのだろうか。歩いは外国人の取材にはそのことに言及したくなかったのか。

 失敗国家と見られる中央アフリカだが、金やダイヤモンドなどの鉱物資源は豊富らしい。この国と同じく旧フランス領の国々をロシアは狙っているそうだが、フランス植民地時代と現代では、果たしてどちらが良かったのやら。
 番組の後半でスタッフは元隊員マラトに、「ワグネルは政府の承認なしに行動できますか?」と質問するが、想像通りの回答だった。
「できない。入隊者の多くが軍の予備兵。機材や装備は、すべて政府から与えられる。後方支援も国防省が支援する。ワグネルはロシア国家の一部門だ

 ニューズウィーク日本版に、「プーチンが動かす傭兵集団「ワグネル」の汚い役割」(2022年4月6日)という記事がある。記事にはワグネル創設者は「ヒトラーが好んだ作曲家「ワーグナー(ワグネル)」を自らのコールサインに選び、ナチス関連のタトゥーを複数入れているらしい」という一文があり、番組でも同じことを言っていた。
 創設者ばかりかワグネル隊員たちも、ワーグナーの音楽やナチス関連のタトゥーを好んでいた。ロシアには偉大な作曲家が幾人もいるのに、ワーグナーの方がお気に入りらしい。まさに真正のネオナチだが、やはり民族性が表れるのか、秀麗さすら感じられるナチス将校に対し、ワグネルは野卑なならず者にしか見えない。

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8 コメント

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ワグネル (スポンジ頭)
2022-06-05 23:01:19
 プーチンはウクライナをネオナチ呼ばわりしてますが、ワグネルはネオナチなのにロシアが取り締まらないのは奇妙ですね。アゾフ連隊は最初はかなり酷かったのが、こちらはかなり路線を修正したといいますが。

 シリアで首を落として逆さまに吊り下げた人間の遺体と共に、ワグネルの人間が記念撮影をしているのをツイッターで見ましたが、家畜を吊り下げているのと同じ感覚です。

 中央アフリカを支配しているのは驚きましたが、ロシアに降伏しても良いことはないと言う例ですね。かの馬権の人物はここでも批判されていますが、中央アフリカの件もこちらの方がよいというのでしょうか。
ttps://twitter.com/AtsukoHigashino/status/1530465544415358976

>秀麗さすら感じられるナチス将校に対し、ワグネルは野卑なならず者にしか見えない。

「金髪の野獣」ハイドリヒのエピソードです。逆パワハラが笑えます。ハイドリヒの容姿に関してはそこまでとは思わないのですが、悪のカリスマ性は感じます。
ttps://twitter.com/SpringSnow226/status/1532614305610227712?cxt=HHwWgICj-eel-MQqAAAA

 こちらは暗殺の寸劇です。80周年だからかと思いましたが、どうも毎年行っているようです。ナチス高官、それも非常な切れ者の暗殺ですから、記念の寸劇が毎年行われても不思議ではありません。しかし、こんな無防備では暗殺されても驚くべきことでもなく、慢心していたのですね。
https://www.youtube.com/watch?v=O90MmLsoIGo
https://www.youtube.com/watch?v=-FvyQxuowfM
Re:ワグネル (mugi)
2022-06-06 21:53:00
 日本にもいますが、気に喰わぬ人物をネオナチ呼ばわりする類に限り、ナチスへの憧憬が極めて強い傾向があります。自己投影としか見えませんが、プーチンはスターリンよりヒトラーに近いような。いったんは経済を立て直し、国力増強に成功しましたが、戦争で破滅する独裁者のパターン。

 シリアでワグネルが、首を落として逆さまに吊り下げた人間の遺体と共に記念撮影したエピソードは知りませんでした。番組に登場したマラトのようにタタール系出身の兵士もいるので、家畜を扱う遊牧民感覚でやっているのでしょう。

 私もロシアが中央アフリカを支配してことには驚きましたが、冷戦中でもソ連はアフリカ諸国に介入していたし、現代でも混乱に付け入る手段に長けていたのです。

 肥和野 佳子なる者は本当に馬を愛しているよりも、口実に使っているように思えます。実は動物を愛していない環境保護団体と似ているような。
 この女は「この番組もやはり米国には逆らえない日本の卑屈さが見て取れるなあ、トホホ」とほざいていますが、88年から米国在住というのは笑えます。私生活では本人も米国には逆らえない。
 またインドの例を持ち出していますが、インドや中東のテレビ局も欧米とは違う視点ながらロシア軍の虐殺は報じています。そしてインドの知識人の中には、ロシアを制裁するべきと言う人もいます。本当に中立で客観的立場に立てるインドの報道機関が羨ましい。

 ハイドリヒのエピソードは興味深いですね。逆パワハラでもヒムラーをユダヤ人呼ばわりした話もありましたか。これでは暗殺はヒムラーが裏でからんでた説が出てくるかも。
 ハイドリヒ暗殺記念の寸劇は毎年行っていましたか。沿道には人垣で溢れ、スマホ撮影している人も結構見られます。日本の原爆式典を独り善がり、日本の侵略の報いと言ったイスラエル高官がいましたが、他国も同じだった。

 非常な切れ者だったはずのハイドリヒですが、あの無防備は不可解です。やはり切れ者でも慢心と油断とは無縁ではなかった。
カネの問題 (牛蒡剣)
2022-06-06 23:11:26
まあ日本人傭兵をやっていて何冊か本を書いてい居る
高部正樹さんという方がいますが(今は引退)高部氏はカネの為どころか、傭兵としての給料がゴミくずみたいなもので(まともな正規軍がないような国だから傭兵を雇うわけだから当然経済、通貨も酷い)ので
逆にアルバイトで金をためて傭兵業を継続していたくらいなんでワグネルの兵士もカネの為だけで傭兵をやっているわけではないでしょう。

 ただ一方でカネ目当ての物も多いようで、ロシア軍の士官候補生は歩兵志望ばかりのようです。そして中隊長ぐらいで退役して傭兵に転職して、給料アップを狙うそうです。近代戦の要諦は火力の発揮ですから、砲兵や戦車兵も重要度は極めて高いのですが、傭兵は歩兵中心なので、皆転職を念頭にしてるから優秀な士官が偏ってしまってる問題が起きて居ると。しかもロシア軍、鳳山さんの所で何度か記事になっていたように「大隊戦術グループ」という
大隊長クラスに権限移譲が大幅にされた組織改革をしているのに、中堅士官がみな傭兵に転職してまい、指揮がハチャメチャ。そんなんだから将軍閣下が前線まで管理監督に来るしかなく、そこを狙い撃ちされて将軍が死にまくり、軍に残ったボンクラ士官は戦車兵や砲兵になって無様な運用をしてウクライナ兵の餌食になる始末。色々副作用が出ているようです。
Re:カネの問題 (mugi)
2022-06-07 22:48:26
>牛蒡剣さん、

 高部正樹という日本人傭兵の名は初めて知りました。wikiで見たらスゴイ経歴ですね。世界の紛争地域で戦っていた。本当に戦うことに生きがいを感じる人々がいる。

 そして傭兵は歩兵中心だったのですか。何となく現代は航空戦隊が重要なイメージがありましたが(トップガンの影響?)、やはり歩兵が重要でしたか。
 ネットニュースではロシアの将官がかなり戦死していると報じていました。将軍と言えば後方で構えているというイメージがあるのに、なぜ前線に?と不思議でしたが、中堅士官がいないのではどうしようもありません。
国際調査 (スポンジ頭)
2022-06-18 12:58:14
 既にご存知かもしれませんが、国際調査でどこの国にウクライナ戦争の責任があるか調査したものです。インドは確かにロシアに責任という割合は他国より低いのですが、それでも40%です。ほぼ同率でNATO。ウクライナに第一の責任と言う国はありません。

 また、中国の場合は、アメリカに責任と言う割合が非常に多く、ロシアを責任の第一位に挙げないのはここだけです。中国は国際紛争に対する被害者意識があり、これがこの調査に反映しているのではないかと思われます。https://twitter.com/BrandFinance/status/1503429103336280068/photo/1

ttps://twitter.com/YSD0118/status/1537049105847193600?cxt=HHwWgMDUxZSB2dQqAAAA

 ロシアに責任ありと考える点で日本が一位なのですが、これは満州やシベリア抑留の話、更に、隣国が道理の通らない異常な国と認識した点が大きいのでしょう。憲法9条で語られていた話は、一国を滅ぼして自国領土に繰り入れる国家は存在しない、と言う前提がありますから。

 かの伯母はサハリンが北方領土に含まれると思っていましたし、なぜ中国が常任理事国なのかも理解していませんでしたが(第二次世界大戦の戦勝国、中華民国の継承国と言う認識がない)、昔からソ連を嫌っていて近頃は「露助」と言っています。何故なら、満州からの引揚者が身近にいて、昔からその手の話を聞いていたからです。日本人の抑圧されていた感情が、ロシアの侵略を切っ掛けに出てきたのですね。
 
Re:国際調査 (mugi)
2022-06-19 21:18:38
>スポンジ頭さん、

 リンク先の国際調査では日本がダントツでしたね。日本ほどロシアにやられていない英国が二位だったのは意外でした。戦争よりもキム・フィルビーのようなスパイ事件に煮え湯を飲まされたから?そして米国はブラジルより低かったのは驚きました。
 中国の結果はさもありなん……でしたね。国際紛争に対する被害者意識が異様に強いのも興味深いです。

 最も日本がロシアに責任ありと考えるのは、やはり満州やシベリア抑留への積年の恨みの発露でしょう。実は私の老母も昔からソ連嫌い、常に「露助」と呼んでいます。尤も母はそれを蔑称とは思っておらず、周囲の人たちがそう呼んでいたためだと見ています。
 シベリア抑留こそ免れましたが、遠縁から満洲引き上げの話を母は聞いており、その苦労話を私にも何度も言っています。こうして草の根嫌露感情は継続していくのです。
ロシアの架空戦記 (スポンジ頭)
2022-06-19 22:37:05
>日本ほどロシアにやられていない英国が二位だったのは意外でした。戦争よりもキム・フィルビーのようなスパイ事件に煮え湯を飲まされたから?

 中央アジアで「グレート・ゲーム」と言う覇権争いをしていたのも大きいのでしょうか。これに関しては帝国主義国家同士のトラブルとしか思えませんが。

 ロシアも架空戦記があるのですが、スターリンのソ連がナチスと手を組んで英米に勝利するとか、アメリカ独立戦争に現代の(?)ロシア人がタイムスリップ(?)して英国のネイティブ・アメリカン虐殺を止めさせ英国を敗北させるとか、アメリカに戦争で勝利すると言うものがあるそうです。アメリカ独立戦争は分かりますが、ナチス・ドイツと手を組んで、と言う架空戦記は仰天しました。日本の架空戦記どころではありませんね。ウクライナの非ナチ化って何ですか。

>そして米国はブラジルより低かったのは驚きました。

 自国が覇権国と言う認識があるでしょうから、影響力を考えた結果かも知れません。実際、自国の責任と言う人間がそれなりにいます。

>こうして草の根嫌露感情は継続していくのです。

 伯母はバルト三国やフィンランドも観光したのですが、そこの国民がソ連(ロシア)を異常に恐れていたと言っていました。それほど予備知識のない観光客にさえ分かるって通常あり得ないですよ。日本の立場はロシアの周辺諸国と同じなのですね。
Re:ロシアの架空戦記 (mugi)
2022-06-20 21:49:51
>スポンジ頭さん、

 そういえば「グレート・ゲーム」がありましたね!「グレート・ゲーム」に巻き込まれた中央アジア諸国は厄難でした。

 ロシアの架空戦記でアメリカに戦争で勝利するストーリーがあるのは理解できます。ロシア人がタイムスリップ、英国のネイティブ・アメリカン虐殺を止めさせる設定も理解できますが、ナチスと手を組むという発想は私も仰天しました。ロシア人って本当にナチに憧れていますね。

 米国の政治学者ミアシャイマーは米国にも責任があると言って話題になりました。彼は最終的にプーチンが勝利者となり、敗者となるウクライナは米国の手によって花で飾られた棺に誘導されるとYouTubeで語っていたとか。この戦争の最大の勝者は中国だ、とも。

 伯母様はバルト三国やフィンランドも観光されましたか。一観光客にも“恐露病”が感じられるとは言葉もありません。第二次世界大戦時、中立国だったはずのスウェーデンも末期の1944年2月22日夜、首都ストックホルムなどがソ連の爆撃機に急襲されています。これで“恐露病”にならない方がおかしい。
https://synodos.jp/opinion/international/9119/

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