その一の続き
『The 911 Faker』にはタニア・ヘッドへの証言者が何人か登場、全員が9・11テロの標的となったニューヨーク世界貿易センターで働いていた人々並びに犠牲者の遺族だった。特にセンターで働いていた男性の証言は興味深かった。9・11犠牲者は注目されても、生存者ははじめ運の良かった人、として殆ど顧みられなかったという。大した負傷もせず九死に一生を得た男性には、「神様のおかげだ」という言葉もかけられたそうだ。
男性はこれには反発を覚えたという。自分より上階で働いていた人には何人も立派な人がいたのだし、神は関係ないと言う。この男性は助かったが職場の同僚3人を亡くしており、その想いは察するに余りある。先の東日本大震災でも、私の同僚には幸い犠牲者はいなかったが、いれば半年経ても複雑な想いは続いているだろう。
他に同僚を亡くした女性も、その場に待機するようにという指示を無視、脱出したため助かったという。郵便配達をしていて、ビルの外にいたため助かった黒人女性は建物から飛び降りてきた人を何人も見たそうだ。その光景は忘れられない、と。
この黒人女性の婚約者はセンターで働いており、還らぬ人となったという。彼女は同じ境遇にあるタニアがあれほど前向きで、仕事の他にも生存者のために精力的に活動しているのが不思議だったそうだ。タニアは生存者ネットワークの開設に尽力、これにかなり寄付もしたと言われる。心的外傷ストレスを抱えた生存者のため、専門カウンセラーを招いたのも彼女の功績だったそうだ。
タニアと会った心理学者も彼女の体験談を露疑わなかったという。彼女には腕に酷い傷があり、証言通り火傷の跡に見えたそうだ。タニアが政治家たちと会見した際、緊張していたのも無理もないと思ったとか。
だが、タニアが生存者たちに語る話には所々に矛盾があったという。ある人には婚約者、別の人には夫を亡くしたと語り、彼女の話に不審を抱いた者もいたが、深く追求はしなかったそうだ。タニアに会ったある人は、大変明るく陽気な女性と証言しており、いくら気丈に振る舞っても心の傷は癒えないのだろうと解釈するのは無理もない。
タニアの正体を暴いたのがニューヨーク・タイムズ紙。タイムズ紙記者は生存者の素性をすべて調査していたそうで、生存者の元にも取材のため電話をかける。その結果、タニアは事件当時故郷のバルセロナにいたこと、アメリカ国籍でもなかったことが発覚。彼女の本名はアリシア・エステベヘッド、スペインの有力者に連なる家系の出で、上流階級用のスイスの女学校にも入学していたという。
ただ、タニアの学生時代、父と兄が2,400万ユーロの詐欺罪で逮捕されており、そのトラウマが続いていたのではないか…とバルセロナの地元紙記者は憶測していた。この記者によれば彼女の腕の傷も、自動車事故の他にある人には落馬でできたと話していたが、乗馬クラブに通った記録はなかったそうだ。ニューヨークの政治家たちと会見している様を見たこの記者は、大した女優だ、と述べている。
虚言を並べ立て、一躍時の人となったタニアだが、生存者ネットワークの開設に貢献したことは確かだし、不当な詐欺行為を働いたわけではなかったため、結局起訴はされなかった。タニアが姿を消した後、生存者ネットワークにはスペインからのアカウントで、タニアは自殺したというメールがあったという。しかし、これも匿名故に事実確認は出来ない。かくして偽りのヒロインは消滅した。
何故タニアがこのような大それた嘘を付いたのか?彼女はセンター78階で出会ったという男性の両親とも会っており、この両親は事件で息子を亡くしている。番組の証言者として登場した父親は、彼女は容貌から自分に自信がなく、自己評価も低い人ではなかったか?と語っていた。映像からもチビ、デブ、ブス(失礼)の三拍子そろった女だったし、これでは恋愛対象になりえないのでは…とも言っている。妻は人は外見ではない、とたしなめていたし、容姿に恵まれずとも恋多き人はいる。
ハーバード大卒、メリルリンチ勤務、外交官の父、素敵な婚約者…見事に女の夢を満たす経歴ばかりだし、周囲にはエリートと思わせたかったのだろうか。父兄の犯罪といい、元から彼女は何としてでも人の注目を浴びたい性質があった可能性もある。
ネット世界でも詐称しているとしか思えぬ人物がいる。ここにも医師や元高校教師と称する女ブロガーからコメントが何度かあったし、浅はかにも私ははじめ自称を鵜呑みにしてしまった。特に後者は働きながら3人の子供を育て上げたのは見事だとさえ感じていた。しかし、後に両者とも書込み時間からタダのネットジャンキーだったことが分かった。今は彼女らの自称の殆どは願望と虚言、誇大妄想の産物と見ている。ネットでも“タニア・ヘッド”がいるからご用心。
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この話は、不思議な感じで読みました。まず、米国人ではなく、スペイン人であったこと。日本で、どこかの外国人が、出自をごまかして、これほどの活躍を出来るだろうか?と考えると、米国がやはり全ての外国人にも開かれた、特殊な国家だと言うことが分かる。
東北に出現した偽医師も、日本人男性であったように、日本の中では、外国人が日本人になりすまして、これほどは活躍できない。もっとも、米国では、1世か、2世か、3世か、は別として、皆が外国に母国を持つから、それほど誰かを「異邦人」扱いして、警戒するという、そういう文化そのものがないからでしょう。
もうひとつは、この女性の動機。金銭的詐欺のためではなかったと言うから、要するに「偉い人になりたかった、尊敬されたかった」と言うくらいの動機に見える。日本の偽医師が金銭目的だったことは明白だけど、このスペイン人女性は、エネルギッシュに活動して、皆を引っ張り、良いことをしていた。その意味では、不思議なこと。
もちろん、ウソが長持ちしていたら、そのうちには金銭的詐欺にまで走った可能性はある。結局ウソの中に生きる人間は、リアリティーとは無関係だから、夢想的に、色々なことにも欲を膨らませていくだろうから、結局どこかでは、怪しげな詐欺にも繋がるのかも。
善意のウソ、と言うモノは、やはり存在しないのでしょう。
ネット寄生者を含めて、偽のアイデンティティーを名乗ったり、ウソをつきまくっても、やはり心は空虚なはず。小生も、ネットの弊害を考え、本名、その他詳しい素性は出さない決意だけど、それでも、余りウソはつきたくはない。一度ウソをつくと、どこまでもウソが広がり、リアリティーもなくなり、空虚な感覚となって、本当に詐欺師になっていくような気がする。
だけど、Facebookのように、自分の本名を出すというやり方も、危ない気がする。ネット社会は、礼儀をわきまえない、言いたい放題の側面があり、危険が多い気がする。
まさにこの事件は貴方のタイトル通り、実にスケールの大きなウソでした。事件現場にいなかった外国人が米国人に成り済まし、ヒロインになっていく…外貌は不美人でも、明るくて人のよさそうな印象を受けました。本当に人は見かけによらないものです。
米国は移民の国ですから、外国なまりの英語を話す人は珍しくないし、おそらくタニアの話す英語にもスペイン訛はあったはずですが、ヒスパニックも多い米国だから、気にも留めなかったと思います。同じアングロサクソンの国でも英国では事情が異なり、相手のアクセントやイントネーションを注意深く聞くと聞いたことがあります。それにより出身地や階級も確認できるし、相手の話し言葉に注意を払うのかも。
在日韓国・朝鮮人のように日本でも、外国人が日本人になりすまして活躍することもありますよ。本国の韓国人でも海外で都合が悪くなるやザパニーズ、つまり日本人を詐称することも多々あるとか。通称名を使っているだけで、いかに成り済ましを好むかお分かりでしょう。
対照的に同じ反日国家でも、中国人はあまり日本人に成り済ますケースは聞いたことがない。はっきり××省出身とまで言っている。この差は興味深いです。
私もタニアの動機は「ええかっこしい」に尽きると思います。女の見栄丸出しで、その気持ちは分からなくもありませんが、所詮はウソにウソを積み重ねた虚構の世界だったのです。テロの遺族や生存者を大いに力づけたのは確かですが、美談が真っ赤なウソと知った後はどのような想いだったのでしょうね。
ネット寄生者の心が空虚なのも当然でしょう。家に籠ってネットばかりしているだけで、負け犬と公言していると同じ。それゆえにますます粋がり罵詈雑言を吐く。そんな生活を続けていれば健常人でもおかしくなるし、リアルとバーチャルの区別ができなくなる。彼らには同情など感じませんが、家族は気の毒ですね。自分の母や姉妹、妻、娘がネット中毒だったら、家族の心痛はいかばかりでしょう。
ネット批判者の言い分は決まって匿名性です。しかし批判者の多くは著名人で、逆に本名を公開した方が得なのが大半。著名人ならそれも結構ですが、Facebookも悪用される危険性もあり、むやみに本名を出すのは問題と私も思います。マスコミもネットの匿名性を散々非難していますが、河北新報など未だに社説には記者名も載せていない。匿名ネットと何処が違うのやら。
このお話、恥ずかしながら記事を読むまで知りませんでした。
単純に驚愕。
この彼女、あまりにもスケールの大きな虚構を独演していて、一般人の想像を超えてしまっていますね。
ストーリー自体に素直に圧倒されました。
虚言癖のある人は多々あれど、たいていこの種の病気の人は、強烈なリアリティのある場や時、人、モノとの関係性をあえて持たない、見えないところで、「遊ぶ」と思うのですね。
だからネットに生息するのはよくわかる(私のつまんないブログにもよく訪問してくださいますし)。
タニアの場合、9.11.という動かざる事実のなかで偽りの人格をリアルに演じ続けていたのがホント印象的ですね。
あの事件は圧倒的なリアリティを持つけれど、当事者間でも、テレビ画面の向こうから傍観していた者達の間でも、あまりに劇的に「事件後」が展開したがために、現実感覚をスポイルされてしまったんでしょうか。どこか9.11を取り巻く米国社会に彼女の虚構性が生まれる余地があったような気がしました。
ああいうマスメディア自体に妙な権力がある社会だと、「戦争」や「飛行機事故」からの生還者がどこか英雄視され、世間の注目を集めてしまいがちだし。
何となく、タニアのような事件は今の米国ゆえに起きたのかなと考えた次第です。
ただ貴女が言及されているように、タニアが「女性」であることはこの事件を普遍的に考える要素ですよね。
男性だったらここまでするかな~。
ごくごくフツーに職をもつ男性ならすぐ仮面は暴かれてしまうでしょうし。
女性だと、現実の社会においてもいくらでも仮面はかぶれますからね。
無職でも怪しまれないし、不幸な境遇の女性ならなおさらプライバシーの詮索はされない。
彼女が本来もっていた社会のなかで埋没されがちな個性(容貌や出身の不利?)が、9.11と関わることで、薄幸な女の自己犠牲としてリアリティを持つのも皮肉としかいいようがない。
確かに彼女のように虚構の世界で自己主張したがる女はネットにも生息すると思う。でも、タニアはああも堂々と実社会に姿を晒して演じていたのだから、どこか違う気もする。
本人の声がぜひ聞きたいですね。
興味深く、考えさせられる記事でした。
私自身、今回のТV特集で初めてこの女性のことを知りました。いくら女の見栄で嘘を重ねたにせよ、ここまでスケールの大きな嘘も珍しいと思います。ネット世界で「遊ぶ」のとは次元が違いすぎる。本物の生存者の前に何度も姿を見せ嘘の体験談を語り、被災者を励ます。こうなれば、女優顔負けですね。
貴女のブログにも、虚言癖のありそうなコメンターがよく訪問してくるのでしょうか??暇で誰かに構ってほしい気持ちは分からなくもありませんが、構ってくれないとキレて喚き散らし、民主主義精神を理解していない…とまで言っていた者もいた。リアルで人付き合いの出来ない者は、ネットでもトラブルメーカーのようです。
メディアを通じた9.11のインパクトは凄まじかったですね。やはりハリウッド映画の国らしく、映像を通じたプロパガンダに長けていることを改めて知らされました。あの事件では多くのヒーローやヒロインが誕生したそうで、中でも今回記事にしたタニアやジェシカ・リンチが突出していたようです。後者は政府とマスコミの美談に利用されたかたちでしたが、このタイプのヒロインが大々的に取り上げられるのは、それを求める大衆の心理もあるのは確かでしょう。
仰る通り、ごくごくフツーに職をもつ男性ならタニアのような嘘は不可能。無職の男が詐称できるのもネットならでは。平日午前中からネットしている自称「会社員」もいます。そんな男が昨年秋この駄ブログにも湧いて出ました。試にHNを検索してみたら、その者も方々でアラシをしていた典型的なネットウヨだったことが分かりました。アル中で、中年独身の。
女にも同じタイプがいます。医者や教師などと専門職のエリートを詐称するだけで、その人物の空虚な人生が知れます。嘘を書いてもボロが出るし、つじつま合わせにさらに嘘を重ね、リアリティがますます無くなってくる。映画『アラビアのロレンス』の中で、ドライデンの台詞に面白いものがありました。
「嘘は真実を隠すためにつくものだが、中途半端な嘘つきは嘘をついていることも忘れる」
タニアのその後はどうなったのか、私も知りたいです。正体を暴かれた後は一切「ノーコメント」だそうで、自殺したのならば遺体が発見されないはずはない。虚構に生きていた人なので、また新たな虚構の世界を作り上げるかも。
>>本文とコメント蘭で二度も二つの話を繋げているのは、せっかく読んだ読み物がお尻で二度、日記に堕した感じ
ブログ副題を見たのか?「読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想」で、記事は“随想”、つまりエッセイに過ぎない。読み手といえ貴方個人の感想であり、他も同じとは限らず、読み手全員を満足させるブログはない。
そもそも個人のブログはエッセイや日記が大半で、研究者や作家もその形式は同じ。名無しコメはショボ杉。貴方の最後の一文は句点が省かれており、お尻で取り急ぎのイチャモンに堕した印象。
端からイチャモンが目的だったのだろう。他人のブログに寄生するだけで、色々注文を付ける図々しいネットユーザーがいるが、貴方も同類らしい。
本文とコメント蘭で2度もネット中毒者を挙げたのは、私が女ということもある。女(BBA)は執念深く、それは虚言症のネット中毒の女ブロガーも同じ。彼女らは方々でアラシを繰り返していて、拙ブログから締め出した。締め出されてもここを監視しているのは確かなので、当てこすった。
尤も執拗なブログ寄生者の男もいるし、少し前まで長文コメントを繰り返していた自称研究者がそうだった。過去におびただしい数の精神疾患者とお付き合いしてきたと言っており、心と人間関係が伺えたが(笑)。