トーキング・マイノリティ

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ハリー・ポッターと謎のプリンス

2006-11-26 20:11:20 | 読書/小説
 図書館に予約していたハリー・ポッターシリーズの最新刊を、やっと読めた。ファンの間ではシリーズ6作目で重要な登場人物が死ぬ、と噂されていたが、予測されていたハリーの親友ロンやハグリットではなかった。ハリーには最大の庇護者であり、ヴォルデモートに唯一対抗できる偉大な魔法使いであるホグワーツ校長ダンブルドアが亡くなるのは、全く予想外だった。

 第6巻でヴォルデモートの生い立ちが明かされる。彼の父はマグル(人間)だった。母はホグワーツ創立に関ったスリザリンの直系の子孫である家系の出だが、家の近くをよく通りかかるハンサムなマグルに恋したのだ。魔法使い、マグル問わず美男に弱いのは女の性だが、たとえ醜女の魔女でも人間と違い魔力を持っている。ヴォルデモートの母はのちに父になるマグルに魔法を使い、2人は駆け落ちする。

 だが、魔法で男を縛り付けるのに嫌気がさしたのか、魔法を解いた母は妊娠しているのに関らず男に棄てられる。男は2度と彼女の元に戻らず、貧困のうちに母はヴォルデモートを生んだ後、まもなく息絶える。
 死亡する前の母の願いどおり父親の名前と容貌を受け継いだヴォルデモートは魔法界の孤児院で育つ。孤児らしく自らのルーツを探り当てた彼だが、真相を知ったところで心が癒されるものでもない。自分たち母子を棄てた父を憎み、殺害する。

 日本語題では「謎のプリンス」となっているが、原題は「Halh-Blood Prince」、混血のプリンスだ。意訳となるが、翻訳者は著書J.K.ローリングの許可を得たそうだ。ハリーを何かと目の仇にしているスネイプ先生も、父はマグルであり混血だったのが6巻で明かされる。
 それにしてもハリーポッター・シリーズには「穢れた血」の言葉がよく使われる。純血の魔法使いから見ればマグルはもちろん、マグルとの混血も「穢れた血」呼ばわりされることもある。ハリーの敵役マルフォイばかりでなく、ヴォルデモートの母の一族も落ちぶれ果て極貧生活を送りながらも純血の魔法使いという血筋だけを誇りとしているのだ。

 ただ、実際は純血はむしろ少数派であり、大半が主人公のハリーも含めマグルの血を引く者なのだ。人間社会以上に魔法世界も血統や階級性が重んじられている設定は面白い。いかにファンタジーといえ、現実の英国社会を色濃く反映していると思われる。何かと英国を持ち上げる出羽の守も、中世の延長の如きあの国の階級性にはダンマリだ。ひょっとして階級性こそが文明社会の条件と思っているのかも。

 ロンの兄たちが経営する魔法グッズ専門店にある商品「特許・白昼夢呪文」は愉快だ。商品の箱には海賊船の甲板に立っているハンサムな若者とうっとり顔の若い娘の絵が描かれ、説明にはこうある。
「簡単な呪文で現実味のある最高級の夢の世界へ30分。平均的授業時間に楽々フィット。ほとんど気付かれません(副作用として、ボーっとした表情と軽いよだれあり)。16歳未満お断り」

 ハンサムな海賊とのひと時など、若くはなくとも女性には最高級の夢の世界だろう。大ヒットした映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」を何やら思い出したが、著者のローリングもあの映画を見ていたのだろうか。私が夏にあの映画を見に行った時、観客のほとんどは女性で、結構主婦層や中高年も多かった。当代きっての二枚目スターが2人も出ていたのだから、女性客はボーっとした表情で映画を見ていたに違いない。

 小説の冒頭、悩めるマグルの首相が登場する。立て続けで起きた事故や異常気象をあげつらい、全て政府が悪い、と彼の政敵は政府の責任を追及するが、その姿勢は我国の野党党首と同じではないか!何か起きてから政府が予測できたはずだ、政府の対応が悪い…など愚劣な非難を繰り返すだけで実行は伴わないのは英国も大差ないのか。英語に Leg Pulling という言葉があるが、ずばり足引っ張りで、人を担いでからかうことをさす。

 次巻の第7巻で完結となるらしいが、果たしてどのような最後となるのか楽しみだ。ハリーがヴォルデモートを倒し大団円になりそうだが、『指輪物語』のガンダルフのようにダンブルドアも案外復活したりして。

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