トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

重力ピエロ 08/日/森淳一 監督

2009-06-06 20:54:14 | 映画
 原作は仙台在住の作家・伊坂幸太郎氏、舞台は仙台、ロケ地も仙台及び宮城県、一家の母親に扮した鈴木京香は仙台出身の女優…殆ど仙台尽くしのような作品で、この町在住の私は、それだけの理由で見に行った。当然宮城県は、全国に先駆け公開となる。2年前の映画『アヒルと鴨のコインロッカー』も舞台やロケが全編仙台だったが、この作品の原作もまた伊坂氏だった。私は原作未読だが、友人に言わせると伊坂氏は抜群のストーリー・テラーだとか。

 遺伝子を研究する大学院生・泉水(いずみ)と、2つ年下で美術的才能を持つ弟・春は仲のよい兄弟。地味で真面目な兄と型に囚われない自由奔放な弟と、対照的な兄弟には優しい父と暮らしている。兄弟の母は数年前、事故で他界していた。平穏な生活を送る一家だが、この家族には春の出生を巡る忌まわしい過去があった。
 折りしも仙台市内では不審な連続放火事件が起き、事件現場には奇妙な落書きが残されていた。この落書きを放火犯からのメッセージと考えた春は、兄を張り込みに誘う。はじめ半信半疑だった泉水だが、落書きにあった言葉が遺伝子の文字列とリンクすることを発見、そのことが家族に関る過去と繋がっていく…

 24年前、仙台市内では高校生による連続婦女暴行事件が発生していた。この高校生は逮捕されるも、未成年犯罪ゆえ数年程度の服役で釈放され、暫らく余所で暮らしていたがまた仙台に戻ってきた。過去の暴行事件を反省するどころか、自慢げに周囲に語り、家出少女の売春斡旋をしている人物。この男こそが春の実の父親であり、兄弟の母は暴行事件被害者の1人だった。妻が暴行され、妊娠した夫は苦悩しつつも、子供をそのまま産み育てることを決めた。父は公務員で仙台市職員をしており、狭い地方の町ゆえ噂は広まる。それでも夫妻は住所を変えて、兄弟を慈しみ育てた。

 泉水は素性を隠し、春の実の父に会いに行く。この男は過去の事件の際、被害者の写真を撮っており、それを売るという。内心の怒りを抑えつつ話を聞く泉水だが、暴行犯が漏らした言葉は彼に殺意を抱かせる。「犯すなら処女が最高、最悪なのは子供を産んだ女、まるで抵抗しないからな」。母が被害に遭った時、まだ泉水は赤ん坊で玄関先で泣いていた。幼い子供のいる母親なら、死んでいられないので抵抗も少ないだろうけど。まだ小学生だった泉水は弟から、「レイプって、どういう意味?」と尋ねられたこともあった。

 母を苦しめたうえ貶した男に激怒した泉水は、ネットで殺害方を検索(Yahooだった)、実行を決意する。もちろん弟には一切知らせなかったが、弟も既に実の父が仙台にいることを突き止めており、ある計画を練っていた…

 映画に映された仙台の町並みはやはり見覚えのあるものが多かった。あの通り、あそこの公園や蕎麦屋か…などと見ていて思わず顔がほころんでしまう。数年ほど前だったか、仙台で連続婦女暴行犯の裁判があり、当時犯人は26歳だったと記憶している。ならば、実行したのはもっと前で、幼い少女を主に狙っていた。無期懲役刑が下されたが、20年もしない内に出所したら恐ろしいことだ。また、少し前仙台市北部で連続放火が相次ぎ、私の住む所と隣の町区だったため、本当に怖かった。幸い犯人は逮捕された。まさか、伊坂氏はこの事件を元に小説を書き上げたのか?

 父は「俺たちは最強の家族だ」と家族に言い聞かせるように語っている。夫婦には内面の葛藤がかなりあったはずだが、映画時間の制約からか、端折った感は否めず、ケリをつけるため取った春の行動も腑に落ちない。兄弟そして家族の強い絆を描いた作品のはずだが、内面を映像化するのは難しい。
 本作は仙台で昨年4月から約2ヶ月かけて撮影されたそうだ。物語は満開の桜の場面で始まり、いつも見慣れているはずの春の風景も映像を通すと異なって見えてくるのは面白い。

よろしかったら、クリックお願いします
   にほんブログ村 歴史ブログへ


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
原作もいいですよ (madi)
2009-06-08 00:37:29
読んだ証拠に誤変換指摘 3行目の伊坂となるべき箇所で井坂になっているところがあります。

映画はまだですが、原作もいいですよ。

返信する
Re:原作もいいですよ (mugi)
2009-06-08 22:05:10
>madiさん

 誤変換のご指摘、有難うございました!早速訂正いたしましたが、指摘されなければ気付かないままだったでしょう。

 原作を読んだ友人によると、映画とはやはり異なるシーンがあったにせよ、こちらもよかったとか。
返信する