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蛋白結合型肺炎球菌ワクチン(小児用肺炎球菌ワクチン) [ Pneumococcal Conjugate Vaccine (PCV)]

2010-04-06 | Vaccine 各論

[疫学]
毎年世界で70~100万人の5歳未満の小児が肺炎球菌感染症で死亡すると推定される[WHO position paper. Wkly. Epidemiol. Rec, 82:93,2007]

世界の低~中等所得国において、年間推定1450万人の5歳未満の乳幼児が侵襲性肺炎球菌感染し約50万人が死亡。[WER 2013;88(17): 173-180]

肺炎球菌の血性型は91種類、侵襲性肺炎球菌性疾患の約80%は7種類の血性型に起因[Chiba N, Epidemiol. Infect. 138(1):61,2010]

我が国の乳幼児における細菌性髄膜炎の60.3%はインフルエンザ桿菌b型(Hib)、31.1%は肺炎球菌が起因菌であり、この二つの細菌が約9割を占めると推計されている(重症例や死亡例は肺炎球菌性髄膜炎に多い)。
また菌血症に関しては、16%はインフルエンザ桿菌b型(Hib)、72%は肺炎球菌が起因菌とされる

キャリア蛋白と結合させていない肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(ニューモバックス®)は、T細胞に依存しない抗体産生による感染防御効果を示す[Ada G, NEJM 345(14):1042,2001]
一方で、免疫系の発達が未熟な2歳未満の乳幼児に対する十分な免疫原性の確保は困難[Pabst H J Pediatr, 97(4):519,1980]

これまでの経緯 [WER 2013;88(17): 173-180]
2000年に肺炎球菌ワクチンは7価のコンジュゲートワクチンとして承認取得
2006年にWHOが、特に5歳未満の死亡者の10%以上、もしくは1,000出生当たり50人以上が肺炎により死亡する肺炎球菌疾患の高蔓延国に対して、定期接種として推奨)
2009年10月16日に日本で7価のコンジュゲートワクチンが承認取得
2010年2月24日に日本で7価のコンジュゲートワクチンが発売
2010年11月26日に日本でワクチン接種緊急促進基金事業の予算成立(2012年度末まで)
2010年に10価、13価のコンジュゲートワクチンが承認取得
2012年12月までに86/194のWHO加盟国がPCVの定期接種を実施
2011年12月30日にPCV13の50歳以上での使用がFDAに承認された
23のWHO加盟国がGAVIの援助を受けて、PCVを導入
2000年に1%だった定期接種実施率は2012年12月までに31%まで上昇
2013年4月1日から、「侵襲性肺炎球菌感染症」が5類全数把握疾患に追加される。
2013年6月18日に日本で13価のコンジュゲートワクチンが製造販売承認を取得
2014年6月20日に日本で13価のコンジュゲートワクチンが65歳以上に適応拡大の承認を取得 

地域ごとの接種状況
アメリカ地域21/35か国
地中海東岸地域 11/22か国
欧州地域 26/53か国
アフリカ地域 19/46か国
西太平洋地域 9/27か国
東南アジア地域 0/11か国

低所得国 13/36か国(37%)
低~中所得国 18/52か国(35%)
中~高所得国 18/53か国(34%)


国内:Prevenar®
乳幼児用の肺炎球菌ワクチン。血清型の莢膜(肺炎球菌を覆う糖の膜)それぞれに無毒化したジフテリアトキソイドを結合。結合型ワクチンは、T細胞依存性の免疫反応を惹起することができるため、2歳未満の乳幼児でも十分な免疫をつけることができる[Selman S:Manag. Care,9(9):49,2000]
さらに、追加免疫を行うことにより、ブースター効果を誘導することが確認されている
米国では特に19Aの疾病負担が大きく、抗菌薬に耐性のある菌株が見られることからPCV13導入のメリットが大きかった。
日本国内においては沖縄と九州の一部で抗菌薬耐性の血清型19Aを認めるものの、全体の割合は高くない
7価(血清型4, 6B, 9V, 14, 18C, 19F, 23F)、13価(7価+1, 3, 5, 6A, 7F, 19A)
用法及び用量:
初回免疫:通常、1回0.5mLずつを3回、いずれも27日間以上の間隔で皮下に注射する。
追加免疫:通常、1回0.5mLを1回、皮下に注射する。ただし、3回目接種から60日間以上の間隔をおく。
接種対象者・接種時期:本剤の接種は2カ月齢以上9歳以下の間にある者に行う。
標準として2カ月齢以上7カ月齢未満で接種を開始すること。ただし、3回目接種については、12カ月齢未満までに完了し、追加免疫は、標準として12~15カ月齢の間に行うこと。
また、接種もれ者に対しては下記の接種間隔及び回数による接種とすることができる。
7カ月齢以上12カ月齢未満(接種もれ者)
・初回免疫:1回0.5mLずつを2回、27日間以上の間隔で皮下に注射する。
・追加免疫:1回0.5mLを1回、2回目の接種後60日間以上の間隔で、12カ月齢後、皮下に注射する。
12カ月齢以上24カ月齢未満(接種もれ者)
・1回0.5mLずつを2回、60日間以上の間隔で皮下に注射する。
24カ月齢以上9歳以下(接種もれ者)
・1回0.5mLを皮下に注射する。
7つの血清型による日本での血清型カバー率: 7つの血清型で侵襲性肺炎球菌感染症の70~80%を、急性中耳炎の約60%をカバー。耐性株による感染症に関してはカバー率がさらに高く、侵襲性肺炎球菌感染症の約90%、急性中耳炎の約80%をカバー。
23価との違い:23価肺炎球菌多糖体ワクチンは23個の血清型の莢膜(肺炎球菌を覆う糖の膜)多糖体を含むワクチンで、おもに高齢者を対象とした接種が推奨されている。23価肺炎球菌多糖体ワクチンは多糖体ワクチンでありB細胞に働きかけて抗体を産生する。B細胞系の免疫が発達していない2歳未満の小児ではこのワクチンを接種しても十分な抗体価が得られない。

予防効果の指標
予防効果は液性免疫GMT(IgG)で測定される他、オプソニン活性(OPA)が臨床的な指標となる
小児では両者に大きな違いがないとされ、WHOは指標としてGMT(>0.35μg/mL)を用いているが
政治においてはOPAがより臨床予防効果を評価するのに適しているとされる
(PCV7接種による19Aの交差反応では抗体上昇と予防効果がパラレルではないとされる)


・髄膜炎における年齢別 肺炎球菌の占める割合
4カ月未満:5-10%
4ヶ月~5歳:20-25%
5歳~49歳:60-65%
50歳以上:80%

[細菌性髄膜炎の診療ガイドライン]
http://www.neuroinfection.jp/pdf/guideline101.pdf


細菌性髄膜炎は感染症法5類の定点届出疾患

・PCV13とPSSV23を成人に接種した場合の費用対効果の比較 [PMID: 22357831]
現行推奨基準(65歳時のワクチン接種 or 共存症がある場合はそれより低年齢での接種)PPSV23接種に代わってPCV13を接種した場合のQALY獲得にかかる費用は、全く接種しない場合との比較で、2万8,900ドルで、PPSV23接種戦略(同3万4,600ドル)よりも費用対効果に優れていた。
費用対効果の絶対基準はないが、一般的にQALY獲得の介入コストが2万ドル未満なら採用エビデンスは強いとみなされ、2万~10万ドルなら中等度、10万ドル以上なら弱いとみなされる

今後、13価に22Fと33Fを足した15価のPCVが臨床治験の前段階[PMID: 21964055]

免疫不全のある小児に対するACIPの推奨(6-18歳)
MMWR. Vol.62/No.25, 2013
PCV13の接種歴がなければ1回接種(6歳未満ならroutine)
病態によって、PCV13接種8週間以上の間隔でPPSV23の接種及び5年間隔で再接種を推奨


脾摘後のリスクについて
重症化する感染症の病原体として肺炎球菌が最多90% (他に髄膜炎菌、インフルエンザ桿菌)
脾摘患者では免疫グロブリンの産生低下(液性免疫低下)によりオプソニン化できない→マクロファージが貪食能低下→莢膜を持つ細菌に対して重症化(肺炎球菌、髄膜炎菌、インフルエンザ桿菌)
その他、液性免疫低下→Salmonellaや腸内細菌科、Bacteroides、イヌとの接触があればCapnocytophaga canimorsusというGNRのリスクが上昇。ウイルスではエンテロウイルス、原虫ではGiardiaの他、leishmania、trypanosomaの頻度も上昇する。
マラリア罹患との関連性ははっきりしない。

ovewhelming postsplenectomy sepsis (OPSS)は致死率50%以上で小児に多く、致死率も高い
脾摘後最初の1年にリスクが高い

脾症等の液性免疫低下者では免疫原性は、T細胞を介して免疫を誘導するコンジュゲートワクチン(プレベナー7 or 13)の方が高いとされる
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed?term=15747240

各国のPCV定期接種導入状況と所得の内訳  [WER 2013;88(17): 173-180]


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