【佐藤優の人生相談】弟が医学部を目指し10浪中!どうすれば…

2012年07月16日 07時40分40秒 | Weblog
週刊SPA! 7月16日(月)9時48分配信

 “外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える!

■相談者 Baggio(ペンネーム) 公務員 男性 38歳

 私には弟がいます。高校3年以降、大学受験を続けており、現在10浪目を超えています。医学部を目指しており、ほかの道を考えることすらしません。しかし、今後が心配です。現在、弟は母の年金で生活しています。弟とは遠く離れて生活していますが、私はここで何をしたらよいかわかりません。何かいい方法があるのでしょうか。

■作家・元外務省主任分析官 佐藤優

 重要なのは、空想を排除し、事態を現実的に考察することです。Baggioさんの弟さんが、医学部に合格する可能性はゼロです。学部を変更し、定員割れしている、事実上全員が入学できる私立大学ならば、可能性が出てくるかもしれません。しかし、そういう大学でも面接や身体検査があると、そこで弟さんは引っかかって、不合格になる可能性があります。なぜなら、弟さんが心身のバランスを崩しているからです。

 人間には、さまざまな可能性があります。その可能性には、矛盾する要素もあります。しかし、人間はその矛盾のバランスを上手にとって生きているのです。京都大学名誉教授の木村敏先生は、〈われわれ文明社会に住む人間は、すでにこの楽園から追放されたアダムとイヴの子孫である。原罪とともに時間が流れはじめ、人は個我としての自己を意識しなくてはならなくなる。自己自身の死が自己の存在の終結を限定し、他者の存在が自己の世界の外部境界を限定する。自己はあるがままのありかたでおのずから自己自身ではなくなる。自己が自己自身でありうるためには、自己はそのつどみずから自己自身にならねばならなくなる。自己は、自己自身となりうる可能性を、そのつどの未来から、そのつど出会う他者とのあいだから獲得しなくてはならなくなる。〉(『時間と自己』183頁)と述べます。

 弟さんの場合、時間に関する感覚がズレてしまっていると思います。それだから、10年以上も大学受験という環境に自らを置いておくことができるのです。受験勉強は、教科書に書いている内容を理解し、筆記試験で復元する訓練をすれば、一定の水準に達します。東京芸術大学や日本体育大学などは、特別の才能を必要とされるので、学力試験だけで合格することはできません。また、東京大学の理科III類、東京医科歯科大学、京都大学医学部、慶應義塾大学医学部などは、極端に記憶力のよい人しか合格できませんが、国公立大学の医学部ということならば、正しい手続きにしたがって勉強していれば、ゼロから始めても3~4年で合格できます。それで合格できないということは、受験とは別の原因があります。弟さんは、勉強をさぼっているのではなくて、勉強をやりたくてもできない要因があるのだと思います。

 また、10年以上も親の世話になり、しかも近年はお母さんの年金に依存して生活しているという時点で、弟さんは他者との関係で境界線を引くことができなくなっていると思います。このままの状態が続くと、弟さんだけでなく、お母さんの生活も成り立たなくなってしまいます。そして、そう遠くない未来にBaggioさんの生活にも影響を与えます。できるだけ早く、弟さんを説得して、精神科医の診察を受けることをお勧めします。精神医学専門家のアドバイスに基づいて、今後の生活設計を行う必要があります。

▼今週の教訓 弟さんが合格する可能性はゼロです

▼今週の参考文献 『時間と自己』木村 敏 中公新書

精神科医であり、京都大学名誉教授である著者が、人間の心理的時間感覚を分析。時間という現象と自己(自分であること)は厳密に一致すると説く。’82年刊

■佐藤優(さとうまさる) ’60年生まれ。’85年に外務省入省。在英、在ロシア連邦大使館、国際情報局分析第一課で活躍。’02年に背任の容疑で逮捕。『インテリジェンス人生相談』個人・社会編に続く第3弾、新刊『インテリジェンス人生相談〈復興編〉』が発売中!
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120716-00000500-sspa-soci

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