【佐藤優の人生相談】仕事&勉強で夫がイライラ…どうすれば?

2012年10月02日 07時52分38秒 | Weblog
週刊SPA! 9月27日(木)14時0分配信

★インテリジェンス人生相談

 “外務省のラスプーチン”と呼ばれた諜報のプロが、その経験をもとに、読者の悩みに答える!

■相談者 あっくん(ペンネーム) 主婦 48歳 女性

 結婚して18年になる夫のことで相談します。夫は8歳年下で、結婚して3年目に子供ができました。5年前に夫は「会社はいずれ潰れるから資格を取って転職したい」と言い出し、勉強して現在あと少しで資格が取れるというところまできました。すでに、その資格を生かせる会社に転職し、間もなく希望が叶うところまできているのですが、勉強とハードな仕事のせいか、「もうしんどい」と言い出し、イライラしながら過ごすことが多くなってしまいました。先日は、「あんなに早く(24歳で)結婚したくなかった」と言われました。夫は趣味もなく、お酒飲まないので発散がうまくいってないのでしょうか?妻としてどうやって支えていったらいいかわかりません。弱音を吐いたときに、うまくやる気を出してもらういい方法はないでしょうか?

■作家・元外務省主任分析官 佐藤優

 あなたのご主人は、働き者で努力家だと思います。しかも、自分の実力を客観的に認識したうえで、今よりも2割くらい生活水準を上げようとする現実的な上昇志向を持っているように見受けられます。人間が上昇志向を持つこと自体は悪いことではないのですが、同時に危険性もはらんでいます。それは、上昇志向を含む人間の欲望には、際限がないからです。

 哲学的に深い研究をしている曹洞宗のお坊さん、南直哉師は、このように述べています。

 〈--(前略)名医は正確に病状を観察し、正しく病因を判定し、間違いなく病気にふさわしい治療法で、完治させねばならない。

 同じように、我々もまず、自らの現状を見極め、問題をハッキリさせなくてはならない。つまり、自己存在の問題性を分析する必要がある、ここに仏教の哲学的、思想的側面がある。

 --なんだか、いきなり大変だな。

 そうでもない。たとえば、ぼくらは何かの折りに、我が身を省みて人の欲には際限がないなあ、と嘆息することがある。ぼくは、企業家として成功した人から、この際限がないということの苦痛をしみじみ聞かされた経験がある。〉(『自分をみつめる禅問答』252頁)

 ご主人は、転職に成功し、資格が取れそうになり、新しい人生の可能性が開けることへの期待が強くなっていると思います。しかし、同時に資格が取れずにうまくいかなくなるのではないかという不安も抱えています。それから、40歳くらいになると、この先の人生の可能性が見えてくるようになるので、「ああすればよかった」「こうしなければよかった」ということについてもいろいろ考えてしまいます。その過程で、あまり深く考えずに「あんなに早く結婚したくなかった」と言ってしまったのだと思います。

 また、体力的にも心理的にも、40歳を超えたくらいのところで、男性には変化があります。数えで42歳(満年齢だと、40~41歳)を男の「本厄」といいますが、この頃に確かに男はさまざまな試練と向き合うようなことがあるようです。

 私の場合には、満42歳(数えで43歳)のときに、鈴木宗男前衆議院議員を陥れる事件で東京地方検察庁特別捜査部に逮捕され、東京拘置所の独房で512日間暮らすことを余儀なくされましたが、これも後厄だったことが影響したのだと思います(本厄はその前年に小泉政権が成立し、田中真紀子氏が外務大臣に就任することで、それまで順調に進んでいた北方領土交渉が中断したことです)。

 ご主人の言うことは、少し勘に障っても、とりあえず受け流しておけばいいと思います。同時に、「これ面白いわよ」と言って、ご主人に南直哉師の『自分をみつめる禅問答』を勧めるとよいでしょう。

▼今週の教訓 ご主人の年齢で私は特捜に逮捕されました

▼今週の参考文献 『自分をみつめる禅問答』南 直哉 角川ソフィア文庫

カリスマ禅僧が根源的な問いに禅問答スタイルで回答する。「生きる意味はあらかじめ存在しない。生きる中からつくられる。そう気づかせてくれる良書。’11年刊

■佐藤優(さとうまさる) ’60年生まれ。’85年に外務省入省。在英、在ロシア連邦大使館、国際情報局分析第一課で活躍。’02年に背任の容疑で逮捕。『インテリジェンス人生相談』個人・社会編に続く第3弾、新刊『インテリジェンス人生相談〈復興編〉』が発売中!
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120927-00000503-sspa-soci