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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
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ベルグフェルドのねずみケーキ~シーちゃんのおやつ手帖140

2010年06月18日 | 味わい探訪
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さすらいー若葉のころ21

2010年06月18日 | 投稿連載
若葉のころ 作者大隅 充
     21

 大嵐は、三日目でやっと快晴の空が現われると河川
や山肌にその爪痕を残して去って行った。
 私も二戸の病院で目覚めてその日の夕方家に帰るこ
とができた。嵐から三日目多少擦り傷や包帯が目立つ
が朝青空をペンションの窓から見上げると仕事に行き
たくて、まだぐっすり二階の寝室で寝ているカズマと
ハルカの朝食をつくって私は、バイクで金田一温泉駅
まで出て電車で八戸へ出勤する。
電車の運行は通常の半分の本数でのろのろ運転だった。
 八戸駅に着いてマリエントまでバスを待っていると
港の被害が深刻で救急車や消防車の他に港で大破した
ヨットや桟橋の廃材を積んだトラックが行き交って、
街自体が喧騒に包まれている。当然バスも時間通りに
来ないのでマリエントの事務所の食堂部へ電話を入れ
てみるとコック以外はみんなまだ来ていないし、ラン
チの始まる十一時に間に合えばいいと支配人は言って
くれる。
 休館にしてもよかったがレストランだけでも近隣に
食堂がほとんどないのでやることになったと着いて早
々支配人が言う。
 その通り館は静まり返って誰もお客さんがいない。
ランチには陸奥湊の被害が激しく、その復旧に臨時で
来た港湾労働者が四五名大盛りの定食を頼んだきり、
午後はさっぱり客足が途絶える。
私は、やることがなくなってレストランの展望窓か
ら海を眺めていると、真下の堤防に海草やゴミが打ち
上げられていて水嵩も波のうねりもいつもより増して
いるのがわかる。漁協の帽子を被った男たちが波止場
で横倒しになった軽トラを五人がかりで起こしている。
よいしょ・よいしょ、と掛け声が聞こえてきそうだ。
 とそのときケイタイが鳴った。
見るとオマツからだった。メールやケイタイ番号を教
えてもまずかかってこない不精なオマツからの着信。
先生の病状のことかなと少し不安になって通話ボタン
を押す。
「すみれ。今仕事中。いいかな・・」
かなり声が強張っている。
「先生の病状に何か変化が・・・・」
「ええ?ナリキヨ先生。先生のことじゃなくてえ・・」
ならどうしたの?と言おうとするがオマツは、お構い
なくしゃべり出す。
「トミーが、行方不明らしいの・・」
「トミーが・・」
私は、一瞬嵐の日にトミーから私のケイタイに着信が
あったのを思い出す。
「昨日この大嵐と津波の各地の被害ニュースをやって
いるのをテレビで見ていたら、陸中海岸の弁天崎で女
性が乗っていたポルシェが車だけ岩場に打ち上げられ
ているのが発見されて、中の30代と思われる女性が
まだ行方不明と言っていたの。わたしね。あの日の朝
これから弁天崎へ行くってトミーから電話もらってい
たの。」
窓辺に立ったまま私は寒気がする。
「私もあの日の夕方トミーから着信があったの・・・」
そう震えながら言う私の声と同じ寒気さを共有して今
度は、一言一言区切りながら話し出す。
「ポルシェってそうそうあるものじゃないし・・・そ
れで、心配になって、トミーの盛岡のマンションへ電
話してみたの、そしたらお母さんが出られて、あの嵐
の日に車で出て行って未だに帰って、ない、って」
「トミーのケイタイは?」
「それが全く通じない・・・」
「どうしてあんなたいへんな嵐の日にドライブなんか」
「もう三日になるものね・・・・」
「なんで一人で弁天崎まで・・」
「どうもお母さんの話だとひとりじゃなくて男が一緒
だったって。」
「男ーーー」
私は、すぐにステーキハウスの若いコックのオス然と
した髭面が思い浮かぶ。
「何か知ってる?すみれ。」
「うーん・・・」
あのコックのとこを言おうかどうしようか悩んでいると、
「離婚してからポルシェを毎日乗り回して男は何人もい
るみたいなこと最近言っていけど・・・ともかく一人
だろうが男と二人だろうが行方不明だとね・・何もわ
からない。」
「すみれ。何か知っているかと思ったけどトミーから
連絡はこの三日ないのよね。」
うんと力なく答えるしかない。
「わかった」とオマツは電話を切ろうとして「ああ。
そうそう」と慌てて付け加えてトミーの母親の口真似
で言う。それはトミーの母親の言葉が耳に残って離れ
ない呪文のような響きに聞こえた。
「わたしゃ、あの髭の若い男には近づくなっていつも
言っていたのよ。いやな男だからと忠告したのに・・
たぶんあいつとあんな嵐の海に行くだなんて・・・」
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