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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー幽霊屋敷20

2009年07月03日 | 投稿連載
幽霊屋敷 作者大隅 充
       20
それが証拠に秀人は、あれだけあかりさん、あかりさん
と熱を上げていたくせに二学期から同級生の植物係の松
本ユカリの巻き毛が可愛いと国語の教科書の裏表紙に鉛
筆で似顔絵入りで書いているし、タツヤ兄ちゃんは、岩
見沢のカラオケボックスに通い詰めて、バイトの女子高
生をナンパしたという噂があり、熊谷のおじさんや父ち
ゃんのタクシー仲間からの情報でもあかりさんの行方は、
依然として途絶えたままで僕は、ひたすら釣りに精を出
すようになった。
そして日曜日。僕は、シューパロの幽霊屋敷へ久しぶ
りに行ってみた。
あの、何日もつづいた解体工事は終わって更地になって
いた。高い金属の柵は取り除かれて森の中にまるで大き
な円盤が着地して木や草を焼き払って再び宇宙のかなた
へ飛んで行った痕みたいにぽっかりとそこだけデコボコ
の広場になっていた。
 僕は、玄関ポーチの登り階段が三段だけ残ったレンガ
をのぼって元玄関ドアのあった場所に立ってみた。
更地にしたとは言ってもブルドーザーでならしただけで
所々に排水管や水道管がぶった切られたまま土筆みたい
に飛び出ていた。そして完全に壊しきれなかった浴室の
青いタイルの土台などが残っていて、なんだかこの光景
はどこかで見たことがあると思っていたら図書館で見た
別冊図鑑の「月の世界」という本にあった月面クレータ
ーのイラストとそっくりだということに気付いた。
僕はひとりぼっちで広大な宇宙に置き去りにされた地球
人の気分でゴロゴロした瓦礫と土くれの月面を歩いた。
一番高台の浴室のタイル高原からぐるりと全体を見渡せ
ば温室のあった庭やプールや彫像のあったテラスがどの
辺だったのかさっぱりわからないで森の中のこんな広い
敷地にヤマモト洋館はあったのかと不思議な感じだった。
僕はゆっくりと深呼吸して体育の準備体操のように両手
を空へ大きく伸ばして屈伸をしてみた。冷たい空気と鳥
のさえずりと微かな風とをとてもリアルに感じた。
すると突然大人になった。
どう言っていいのか本当に深呼吸をしたその瞬間、急に
僕は大人の気分ではなく、大人になった実感がしたのだ。
ほんの今まで見えていたこの森も更地になったクレータ
ーもまるで違って見えた。
明らかに僕の中の子供が消えてしまった。
今ここにあるのは、鳥の声と破壊された建物の残骸だけ
の極めて明快な現実だった。僕は何回も目をこすって消
えた子供を盗り返そうとしたが無理だった。
 そして次の瞬間聞こえてきたのは、犬の鳴声だった。
それも子犬の甲高い声だった。

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山田家の人形焼き~シーちゃんのおやつ手帖99

2009年07月03日 | 味わい探訪
本所七不思議は「置いてけ堀」「消えずの行灯」「送り提灯」
「馬鹿囃子」など、興味深いお話ばかりです。

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