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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー幽霊屋敷16

2009年06月05日 | 投稿連載
幽霊屋敷 作者大隅 充
       16
 そして初雪が降った次の日だった。
僕とタツヤ兄ちゃんと肉屋の鶏がらの余りをバケ
ツに入れてシューパロの森に入ったときだった。
ブルドーザーの轍が林道の雪を掘り返しているの
を見つけた。そしてものすごい音が地響きととも
に森の梢の間を轟いて来た。
タツヤ兄ちゃんは、僕に鶏がら入りのバケツを持
たせると林の中へ入っていった。
僕は仕方ないので林道の入口の積まれた枕木の一
番上にひょいと飛び乗って座ってブルドーザーを
見ていた。
ちょうどそこから道幅を拡張しているブルドーザ
ーの先に間引かれたダテカンバの木の間からヤマ
モト洋館を囲った鉄板の柵が見えたが、その上に
見えていた筈の洋館の屋根がなかった。
そこには雪を被った木々があるだけだった。
バリバリバリと再び耳を劈く音がした。
まるで巨大なカマキリがその硬いハサミを空高く
振り上げて建物の壁を食べているように見えた。
それは建設用の機械だった。そしてその巨大カマ
キリの鉄のクレーン車は、前に行ったり後ろに下
がったりして鉄柵の開かれた出入り口の間からは
っきりとその全体像を見せた。
それはカニバサミのような鉄の爪を持った解体用
のクレーン重機だった。
僕はバケツを置くと立ち上がって背伸びをした。
ここから見るだけでも幽霊屋敷は、二階部分がな
くなっていた。あの惣介翁の屋敷が壊されている。
僕は、枕木を飛び降りて近づこうと泥濘に敷かれ
た枕木の道を進んだ。
「危ない。どこのガキだ。来るんじゃない。」
ブルドーザーに乗っているヘルメットの髭のオヤ
ジが僕に向かって怒鳴った。
僕は、立ち止まって髭オヤジを見上げた。
浅黒く皺だらけのそのオヤジの口から黄色い歯と
その隙間に挟まった白い飯粒がびっしりとこびり
ついているのが見えた。
「帰れ。学校に言うぞ。」
とエンジンを切って運転台から乗り出してシッシ
ッと野良犬を追い払うように油で真っ黒の手を
そのオヤジは振った。
僕は、しぶしぶ引き返して国道の方へ戻った。
ピーっ。
鋭い口笛が鳴ったので振るかえるとタツヤ兄ちゃ
んが林から走って出てきた。
「幽霊屋敷。ダメだ。解体されてる。」
と僕の肩に手を置いた。
「ラリーとチャータたち、いた?」
僕が聞くと兄ちゃんは、大きなため息をついて
首を横にふった。
「とにかく又明日学校が終わったらここに来て
くれ。一緒にラリーを探すべ。」
そう兄ちゃんは言うと僕を清水沢へ帰して一人
でその日はシューパロの森の中へ暗くなるまで
入っていった。
 次の日も洋館の裏の崖道を中心に森の中を兄
ちゃんとラリーを探した。2日目僕はタツヤ兄
ちゃんを説得して秀人をラリー捜索隊に加える
ことにした。
三人でシューパロ湖の周辺まで足を延ばしてみ
たが見つからなかった。
珍しくタツヤ兄ちゃんがその日の終わり暗くな
ったダムの坂道を下りながら涙目になっていた。
ラリーがどんな犬なのか知らせないまま秀人は、
捜索に付き合ったが三日目からは森の奥に入る
のを嫌がった。
ただ人懐っこい性格の秀人は、洋館解体の作業
員のイラン人親子に飼い犬を見失ったので何か
知らないかと芝居気たっぷりに聞いてひとつの
情報を手に入れて来た。
それは解体工事が始まった日に大きな犬がやっ
はり大きなヤマイヌと崖道の方で仲良く一緒に
いるのを見かけたというものだった。
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ル・モンドのショコラ~シーちゃんのおやつ手帖96

2009年06月05日 | 味わい探訪
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