カジュアル・アミーガ         本ブログの動画、写真及び文章の無断転載と使用を禁じます。

ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

こちら、自由が丘ペット探偵局-22-

2008年08月08日 | 投稿連載
こちら、自由が丘ペット探偵局 作者 古海めぐみ
     22
 世の中、だいたい面倒なトラブルを起こす人は、
決して単純な一本の糸のモツレではなく性質の悪いゆがんだ
糸がいくつか絡んだ末に厄介を招いているケースが多い。
つまりわが子を虐待して死なしてしまった若い親が給食費
も国民保険料も滞納してしまっていたというように。
また寝不足で高速道路で衝突事故を起こした車のちょうど
車検に出す前の日だったり、しかも運悪く雨で道が濡れて
滑りやすくなっていたことなど、悪い条件に悪い糸が
絡んでいることの方が圧倒的に多いものだ。
 ハルさんも厄介をいくつも抱えていた。
まず何よりボケているのにまともに見えること。第二に
アルツハイマーの病気もちなのに足や身体が丈夫でどこ
でも一人でスイスイ行けてしまうこと。そして何より
他人の春には甘えていいお婆ちゃんでいるのに息子夫婦
とは、戦争状態であること。しかも言い出したらヒト
の意見を聞かず我を通してしまう癖があった。
3日も4日も行方不明でも野垂れ死にしそうになるの
ではなく、想像するにどこかちゃんとした旅館なり
ホテルに世間話をしてお金をキチンと払って上品な客
のように振る舞い、泊まる能力は充分にあるのだ。
だから春に電話で連絡を入れてきたことなどは、正常
とボケているときとが交差して、そういった複雑な糸が
絡まった行く末の出来事で、それ自体が何より厄介な
トラブルメイカーになっている証拠だったのだ。
そんなハルさんの正常な糸を見抜くことは、暗い森
にときどき木立の間からこぼれて来る星明りを頼り
に懐中電灯なしにけもの道を歩いているような
ものなのだ。
見抜けなくて当り前。
それでも春は、ハルさんに騙されたとは思い切れ
なかった。どんなにか細くてもハルおばちゃまの
美しい糸を信じたい気持ちの方がはるかに大きく
春のこころを占めていた。

 さて上田祐二の運転するサーブに健太と春が乗り込
んで日の沈む青梅街道を奥多摩へ進んでいた。
道は延々と林から森になり、緑の影がだんだん
濃くなってひんやりとした空気が一段と三人の距離
を縮めて寄り添うように夜道をガタゴト走っていた。
「本当にあの、婆さん、いるんだろうな。」
「あの声はウソじゃない。」
「だってボケてるんだろ。」
「でも迷って死にそうな声だったのよ。」
「わかんないぜ。それだって・・・」
「そんなことないー」
「まあまあ。とりあえず奥多摩湖まで行って見れば
わかることだから・・・」
と春と健太の言い争いに祐二が割って入った。
そのとき、春のケイタイの着信音が鳴った。
「はいー」
「わたしは、寒いよ。」
「おばちゃま!今どこ?」
「・・・・・・」
何か水の音らしきものが微かに受話器の向こうから
聞こえている。
「おばちゃま。聞こえる?」
遠くで鳴っている雷のように春の問いかけの閃光が
光ってからかなり間をおいてゴロゴロと時間差で
ハルおばちゃまの小さな声が届いて来る。
「神社。小河内神社って書いてある。」
健太と祐二が顔を見合わせた。
「どこ?それ。」
祐二が春に呟くと、健太がふんとため息をついた。
「奥多摩湖の真ん中だぜ。その神社。」
「湖にいるんだ。」
と祐二は、ナビ画面をタッチした。
ちょうど青梅から多摩川沿いに曲がりくねって和田橋
にさしかかるところだった。
「地図だともう直か、三十分ぐらいで奥多摩湖に
着くかな・・」
のん気にタッチパネルをいじっている祐二に
「まだまだかかるよ。ダムまで行ってもトンネルを
最低四つくぐらないと小河内神社には着かない。」
健太は、助手席の春に後ろの席から身を乗り出して
ちょっと貸してと云って、春のケイタイを手に取った。
「もしもし。お婆ちゃん!聞こえるか。」
「・・・・寒い・・・」
「そこから動かないで。社に入ってな。」
「もぐもぐ・・・・わからん・・ょ・・」
ケイタイの電源がなくなってきているのか途切れ
途切れに音声が波打った。
「婆さん!わかったか!動くな!」
「はい・・・わかっとる・・・」
「いいか。動くんじゃねえーぞ!」
ケイタイが切れた。
春は、すぐに健太からケイタイをとって耳に当てる
が音信がない。慌てて着信歴からかけ直すが、
電波の届かないところか電源が入っていないため
通話できません、のメッセージ。
「健太さんが怒ったから・切っちゃったんじやないの」
「電池切れだよ。この切れ方は。」
「そうならいいんだけど・・・」
「まあ、これで本当に奥多摩湖にいるということは
わかったんだから・・よかったんじゃないのかな。」
祐二は、青梅線を右手に平行して走りながらアクセル
を踏んでつづけて云った。
「でもケイタイを持っていたらなんで息子さんは
連絡してないのかな。」
「そういえば・・・」
と春が云おうとするのを健太がカラカラと笑って遮った。
「ケイタイを持ってることも内緒かもしれないぜ。
あのおばちゃま。」
「そんな?・・・」
「そんな関係も又家族ってワケさ。」
「そう云われるとあの、一緒に和風ランチを食べて
ワイン飲んでいたおばちゃまが寂しそうに見えてくるよ」
猛スピードで無理な追い越しをしていくミニワゴン
車からスピードを落として安全走行に切り替えた
祐二が前をどんどん走るそのミニワゴンに舌打ち
しながらぽつりと呟いた。
「かわいそうなハルおばちゃまー。」
春は、暗い神社の境内で何十年ももういいかいを
云い続けて蹲っている小さな女の子のハルを想像した。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

パンダミニクリームまん~シーちゃんのおやつ手帖58

2008年08月08日 | 味わい探訪
昨年の冬、ampmで売られていたパンダの形のクリームまん。
皮にもほのかな甘みがあり、美味しかったです☆
現在は販売されていないので、悪しからず。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする