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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロ-39-

2007年12月14日 | 投稿連載
愛するココロ 作者 大隅 充
        39
乾燥室は、何のことはないボイラー室の天井配管に紐を張り
巡らして洗濯物を内干しする六畳ほどの地下室のことで他に、
掃除道具置き場でもあり、ホテルのシーツやタオル類を洗う
洗濯機が三台置かれた洗濯室でもあった。
 学は、ここが大嫌いだった。いつもここに来るときは何が
しかの折檻が待ち構えていた。
そこは、学の母親・歩美の職場だった。
歩美は、このビジネスホテルの深夜当番フロントが
仕事で午前三時と明け方の早番が出勤してくる九時頃
にこの乾燥室に来ては煙草を吸う。
まだ学が幼稚園のときは、この乾燥室のソファで寝か
しつけられていた時もあった。
掃除の小母さんに朝方遊んでもらったこともあったが、
学がお漏らしをした日は、裸で犬の首輪をつけられて
夜通し閉じ込められたこともあった。
学が小学校五年になったときには、できるだけ母親から
遠く離れたくて野球を口実に裕福な祐樹の家に出入り
することが多くなった。
しかし二年前から歩美と付き合うようになった物流
倉庫の白髪の中年男がアパートに同居することに
なってから、学の居場所がなくなった。
酔って白髪男が暴れると朝はこの母のホテルで朝飯を
食べることになっていた。
「朝飯なんてある思うてんの。」
歩美はいきなり中指の間接を尖らせた拳骨で学の頭を叩いた。
一瞬学の視界が白く光った。
「またあの人から電話でクソガキが逃げたとぶつぶつ
言われて、あたしの立場どないなるん?なんでもっと
素直に言うこと聞く子になれへんの。」
今度は歩美の右手が学の頬をビンタしようと思い切り
振り回された。
しかし学は、野球で鍛えた俊敏さでうまく体をそらして避けた。
風を切った歩美の右手が床に着きそうに彷徨って、
歩美自身がふらりと前のめりによろけた。
「反抗するねんね。あんた。」
「・・・・・」
「これ以上母ちゃんの人生邪魔するの、やめてんか。又あの
人が来てくれんようなるわ。」
「ウッサイ!・・」
「何だと!」
「バカあ・・・」
歩美は、車盗難でキーホルダーの配線で直結
してエンジンをかけるみたいに何の猶予もなくまっすぐに
学の首を両手でしめた。
歩美にのしかかれる形で学の頭が洗濯籠の中の汚れた
シーツの山に沈みこんだ。
倒れながら鉄の棒のようになった歩美の紺の長袖の両腕
を剥がそうと必死に力をこめて、学は押し戻そうとしたが、
びくとも動かない。
「おまえなんか、いんでまえ。」
「うっぅぅぅぅ・・・」
学の白目に血管が浮いて、低いコンクリの天井に
架かった蛍光管が黒々とした表情のない母親の白い顔
を際立たせていた。
学の喉は歩美の赤い爪が食い込んで血が流れてシーツ
に滲んでいた。
なんとかしなきゃ。
早く学君を助けなきゃ。
死んじゃうよ。
開け放されていた階段下の防火扉から様子を見ていた
トオルが中へ入ろうとするのをエノケン一号が腕でとめた。
???
遅れて階段を降り来た由香にエノケン一号はさらに
そのまま止まるように手を挙げて、階段下に移動した。
「どうしたの?」
由香がステップの途中でそうっと呟くと、今度はトオル
もエノケン一号といっしょになってシーっ、静かにと、
ふたりして唇に人差し指を当てて由香を黙らせた。
「ぅぅぅもう、イヤだ!」
学は、母親を力の限り撥ね退けた。
歩美は防水塗料を塗った青く冷たい床に仰向けに転った。
はじめて学が親の力に勝った瞬間だった。
ジィィィと蛍光灯の鳴る音と絆を絶った母子の肩で
息する乾いた呼吸音が地下室に響いた。
母親は、下水溝までこだまする大きな舌打ちをひとつ
して両眼を剥きながら天井へ向かって叫んだ。
「悪いやつ、ばっかりや。悪いやつは、殺すんや・・」
再び飛び掛ろうと歩美が、どこから出てくるのか
低い地を這うような声を発して起き上がった、
その胸を学が泣きながら蹴った。
「スカン。スカン。スカン・・・」
ボイラーにがつんと頭をぶつけて歩美は動かなくなった。
「みんな母ちゃんが悪いんや・・・・・
みんなうちが悪いんやねん・・・・・・」
トオルも由香もエノケン一号も防火扉の入口の中へ入って、
前のめりに母子の修羅を見つめていた。
学は、振り返って防火扉へ走った。
それは、逃げたというより置き去りにしたと言った方
が正しいだろう。
そして走った先には、エノケン一号がいた。
学は、キラキラと三色に輝くエノケン一号の胸にしが
みついて泣くのを強い自分の意志でやめて洟をすすった。
「コレカラハ、ジブンデイキル。」
「・・・・」
「モウ、マナブハデキル。ダイジョウブ」
由香は、学の擦り剥けた手を握った。
そして顔を上げた学の額にキスをした。
学は、ふぅっと頬を赤らめた。
大人の男の顔をしていた。



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HongKongSweets果香~シーちゃんのおやつ手帖27

2007年12月14日 | 味わい探訪
自由が丘スウィーツは、定着してきた感があります。
Hong Kong sweets果香のホームページはこちら。




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