旅路(ON A JOURNEY)

風に吹かれて此処彼処。
好奇心の赴く儘、
気の向く儘。
男はやとよ、
何処へ行く。

ヒラメ

2008年09月09日 00時52分57秒 | Weblog





アジを釣るために電動リールをさびいて(オキアミの入った籠を激しく上げ下げすること)から間もなくかかったアジがゆする竿先の様子がおかしい。竿がぐいぐいと海面下に引き込まれてゆくのである。その引き込みに竿はしなり、なお海面下に引き込まれてゆくというありさまである。

「みんな竿をあげて!邪魔になるよ!」と叫びながら、船長が飛んで来てわたしのリールを巻き始める。ところが、電動リールでは巻き上げることができない。ハリスは右に左に海面を走る。船長はリールを手動に切り替えて巻きあげ始めた。まるで獲物と船長の綱引きのようなやり取りが続く。

やがて青い海面の奥の方に褐色の大きな魚影が浮かんで、2、3度底に向けて潜り込もうとするが、船長の太い腕はそれを許さない。「タモ!」と船長が叫ぶ。白い腹を上に向けたヒラメがあがった。釣針は腹部にかかっていたのだ。53センチの大物である。

餌がオキアミであるから、てっきりアジ釣りかと思っていた。ところが、船長はなぜかさびいたあと、明らかにアジが数匹かかっているというのに竿をあげてはいけないという。逆に底に落とせという。妙な釣りだなあと思いながらにしてこのヒラメである。

操縦席の直ん前がわたしの釣り席であった。まことにうるさい船長である。やれ「電動リールの使い方も知らんのか。よお船釣りに来ちゃったね。」「電動リールでさびくというのはこういうことです。何度言えばわかるんかいの、アホ。」「また、重りを底まで沈めるから根がかりするでしょ。何度言うたらわかるんですかいの、バッカじゃないんですかお宅。」と悪態の付き放題である。

ところが罵声を浴びながら6時間ほどかけて習得した技術は並みならないことを自負している。「アホとかバッカじゃないの」は言いすぎにしても、原則、船長は不要な罵声は飛ばさない。今回、船長が言う通りに素直に従った結果、餌になるアジの食わせ方とヒラメの釣り方について十二分に体得できた。

船長はすべての釣り人にうるさく口をたたく。殆どの釣り客はプライドを傷つけられてふくれるか無視して言うことをきかないかのいずれかである。終盤でヒラメがあがらない人たちに対して「わたしも、釣ってもらおうと必死なんですから、皆さんも必死で釣ってくださいよお。」と言った船長。わたしは今回が3度目である。

わたしはもう1尾のヒラメを釣り逃がした。13名の釣り客のうち老獪な釣り師が73センチのヒラメをあげた。全体の釣果は、大物のヒラメが2尾に、小ぶりの鯛が6尾、アジが500尾ほどであった。下船前に船長曰く。「今日はアジやタイは外道で、ヒラメを釣ってもらいたかった。」とのことである。この船長、業界ではかなり著名な方であるという。