MSX研究所長の日常

80年代を駆け抜けたオールドパソコンMSXの研究の日々を綴ります。

ソフトの整理とは

2005年06月09日 19時41分53秒 | MSX
ソフトの整理、というとどこか部屋の整理のようなものを思い浮かべるかもしれませんが、ここでいう整理とは「検索できる資料を作る」という意味であります。先日書いた「同人ソフト調査」でやらねばならないこととは、単にデータを保存するというだけの意味ではありません。マニュアルや周辺状況などを調べて資料にまとめる、という作業がどうしても必要になってきます。

デジタルデータは不変である、と思っている方は今でも多くおられるかと思いますが、実際のところいろんな意味で不変ではありません。デジタルデータは目に見えない以上、メディアの損傷と共に失われてしまいます。デジタルはコピー時に劣化がないことから、正しくは「コピーをし続ける限り不変」という言い方をしなくてはなりません。

また、デジタルデータはその性質上手を入れられた場合に痕跡が残りません。紙であれば「切り抜いた」「上から紙を貼った」「修正液を塗った」等の痕跡はどうしても残ります。残るが故に「変更を加えた」ということが後々まで分かります。世に流通している非合法コピーデータの多くは何らかの変更が加えられているか、あるいは破損していることが多いのですが、どれがオリジナルなのか分からないといった事態が容易に起きてしまいます。このことはMSXAでも長年の課題の一つですが、対処法は「周辺状況からオリジナルであると推測する」という極めてアナログ的な手法が取られています。「周辺状況」と書くと抽象的なので、具体的には「フロッピーに印刷されたラベルが貼ってある」「パッケージに入っている」といったオリジナルであろうと思われる事柄を確認する、ということを指します。バカバカしいように見えますが、メーカーにもゲームが、あるいはメーカーそのものが残っていないような場合は箱ごと中古屋で買ってきます。場合によってはオークションを使うこともありますが、予算が厳しいのと状態が不明確なのであまり使わない傾向にあります。

という面倒を経た上で、データを取り出します。この時点でいわゆる「ROMイメージ」「ディスクイメージ」と言われる形になります。誤解を招きかねない表現ですが、フォーマットとしては非合法とされる形式と一緒です。この後、例えばMSXマガジンではMSXPLAYerに組み込まれてCD-ROMに収められ、合法的に遊べるものとして皆さんのお手元に届けられるわけです(なぜか社会科見学風)。当然ですが、許可が取れてもソフトが入手できないような場合、逆にソフトはあるのに許可が取れない場合、いずれも収録されません。飲んだ涙の量はもう忘れました。

何を言いたいのかというと、デジタルデータに対して「オリジナルであることの証明」をしないといけない、ということです。それも信用できる人、あるいは機関が行わなくてはならず、それをしていないものは実はなんの価値もない、ということに理解のある方はほとんどいません(もっとも、オリジナルであると分かっていても磁気が弱っていてデータが化けている、あるいはオリジナルのディスクが書き換えられている、といった問題もありますが今回は触れません)。

というわけで資料の話に戻りますと、周辺状況を確認しつつ作業しなくてはならず、これがたいへん骨の折れる作業なのです。ただ単に確認するのではなく、記録しつつ資料を作るというのはアタシャもうやってらんないヨという気分にもなろうというものです。これが市販ソフトでも大変なのに、同人ソフトとなると元々パッケージが存在しなかったり、中にはディスクラベルすらないものが多く、忍耐と想像力の要求されるうっとおしい作業です。まずディスクにナンバーを振って、マニュアルがあるものは関連を確認した上でファイルに保存してナンバーを振って・・・てなことを繰り返します。はぁ。

同人ソフトに興味のない方は「なんでそんなもん残す必要があるの?」とお思いでしょう。分かっています、実はMSXの世界においても同人ソフトというのはさほどの商業的価値を持っていません。しかし、私には同人ソフトの作者として知り合った多くの友人がおりますし、何より工夫やヒラメキの詰まったMSXの同人ソフトというのが好きなのです。一般に同人ソフトと言うと「エロ」「キャラクターのパクリ」といったダーティな認識がなされがちですが、MSXに関してはそのスペックの低さ故にアイディアと努力のエッセンスとも言える特徴的な作品が多くあります。特に規模的に個人制作でも割となんとかなったので、「僕にもできそう」なソフトがいろいろあるのです。そういう点で、MSXの価値ある財産、と言えるわけです(お金にはなりませんけど)。それはいずれホームページでご紹介するつもりでいますし、いくつかは既にMSXマガジンに収録をお願いすることができました。

と、話がズレましたがそのためにもオリジナルのソフトは残しておく必要があるんですね。それも「他人の使える形の資料と共に」という条件つきで。ソフトを寄付というのは一見気前よく見えるかもしれませんが、どこにあるのか分からない物は無いのと一緒という言葉の通り、限りなくゴミに近い存在です。まして場所を取って倉庫代を食うような場合は貰った時点でマイナスなわけです。というわけで、下手すればゴミの塊であるこれらディスクの一部を引き取ってコツコツと調査しているわけです。まあ、寄付をするような場合はせめてホントのゴミくらいより分けておいて下さいね、というイヤミが本稿の趣旨なわけです。

中には写真のようにラベルが接着剤のせいか悲しいくらい変色してほとんど剥がれかかっているものもあり、このままではドライブに入れることができないためラベルの処置も同時に考えなくてはなりません・・・。

左のものは制作元も発表時期も不明です。2HDを使っているのでそもそもMSX用かどうかも分かりません。右は年号からすると11年前のディスクですが、今頃になって悩ましいことになっているなんてきっと作った人も知らぬがホトケのお富さん(ヤケクソ)作者の方がこのblogを見ていたことが判明しました。それにしてもこの接着剤はハケかなんかで塗ったんでしょうか。この茶色はペーパーセメントが経年変化したものだそうです。


(2005/06/11追記)
まさか作者の方がこの記事の以前から見ておられたとは夢にも思いませんでした。知らぬとは言え失礼すぎる書き方をしてしまいました。ゴメンナサイ(見つかったらいいな、位の気持ちはなかったわけではないのですが・・・)。

先日の「mixiとMSX」でも書きましたが、不思議なくらい一気に尋ね人が見つかる時というのがあります。今はそういう時期なんでしょうか。気をつけます。