また前回に追加。隆行くんの難聴・失語症が治ったので、長谷川家は丸く収まるでしょう。つまり、苦痛な状態を体験したおかげで、普通の家庭の状態がハッピーに感じられてしまうんですね。これもいろいろと示唆に富んでいます。当然後から関係してきます。
「ムジナ坂」でぐぐると実在するのね。野川沿いにある。意図があるのかもしれん。武蔵野婦人? 読めってか。近くに武蔵野公園がある。ぐぐる。公園の地図を探す。
http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/map056.html
4巻174ページ参照。聖地巡礼してこようかなw。googleマップだとこのへんね
武蔵野公園
こんな証拠はいくらでも残すのに、肝心の「読者に対して親切な内面描写」を、何故「同時には1人まで」と徹底的に隠蔽するんだ。
さて、吉村さんに溺れさせられるアキオの話。これまで芳乃さんとのひかえめなみかんだったが、吉村さんの意図で、肉欲を愛情と誤解させられる。前書いたように、女性が気を使って、男性のやりたい事をやりたいようにやらせてあげると、男性はやりたい事をやりたいために、その女性を愛していると誤解してしまうのである。アキオの場合と、河合くんの場合を参照。アキオが最終的に自己嫌悪に陥っているのは、吉村さんに口でしてもらって、欲望が消えうせた瞬間に、自分が吉村さんを全然愛してない事に気付かされたため、と分析する。わっかりやすいやり方、だと思う。あっさり説明できたな。
後輩ズの後始末も。考えてみると、女性をナンパして捨てて傷つけてきたであろう鳩山と、男にすっかり依存してきたであろう本田さんは、吉村さんに「壊された」と言ってはいるが、よくよく見ると「女を傷つけない」「男に依存しない」という「普通の状態」になっていると言える。さっきの長谷川さんの状態と同じく、元から振幅が大きかった状態が、平均の所で安定すると、以前の状態から強烈に変化したと誤解する、とは言えないか。長谷川さん、後輩ズ、アキオを見てそう思えないかね。俺はそう思うんだけどさ。「大好きっ」「本当っ」ってのも怖い言葉で、「本当」に愛してるなら「本当」ってわざわざ言う必要ねーじゃん、って事よ。問題なのは「本当」って意識的に言うか無意識で言うかなんだけどなぁ。無意識の場合でないと、この推論は当てはまらないんだけどね。
鳩山も肉欲と愛情を露骨に混同している。自覚っぷりはアキオより上だが、多少自覚したところでどうしようもないようだ。吉村さんへの唯一有効だった反論が「よく喋るな」だったわけだが、吉村さんの「本心や客観的事実の指摘に弱い」ってのが、なにを意味してるのかわからん。実際人間は誰でもそんなもんには弱いが、あの吉村さんが、単に「よく喋るな」と言われただけで、人並み以上に動揺するのは何故か、って事なんだけどさ。
以上の観点からすると、吉村さんのした事は本当に破壊だったのかという点と、吉村さんがどこまで状況を意図していたのか全くわからない点が、わからない。吉村さんが謎すぎるんで、もう考えるのはやめとこう。
さて、吉村さんのおかげで、めでたく河合くんと同一条件下に置かれたアキオです。つまり肉欲を愛情と勘違いしていた欺瞞のツケをきっちり払わされた状態ですな。芳乃さんの場合は、誤解を解くヒントすら河合くんに与えませんでしたが、吉村さんはきっちりヒントを残した点が優しい。28話で芳乃さんと電話するシーンで、アキオを一切描写していないのが、相変わらず木尾士目の意図を感じさせる。つーかそこまでわかりにくくすんな、と思う。なのに扉絵で一応描いているのが首尾一貫しとらん。まぁ顔を隠してるから一応セーフと考えておこう。その電話だけど、以上のアキオの真理を踏まえた上で、どういう気持ちで芳乃さんの質問に答えているかを考えてみよう。でもってアキオの「俺どうしようもなくダメな奴だから……」というのが、アキオの「決定的な目覚め」だったりするわけで、目覚めさせたのは当然吉村さんだと、この文中で何度も書いている。しかし以前の「人を寄せ付けない」アキオから、自己反省して(157ページ)、すっかり丸くなってしまっているアキオ(2回目の電話)に変化しているのが恐ろしい。ヒントはアキオの返事に対する芳乃さんの表情である(2本目の方ね)。
芳乃さんの髪を染めた件は、むしろ妹さんと佐久間さんが真似をしたがっている点が本意である。めんどくさいんで精神分析用語を使うが、人が人を真似するのは、相手の安定した自我を見て、その自我が羨ましくなり、自分にその自我をコピーして、自分の自我を安定させようとする試みである、と説明できる。これを日本語に翻訳すると「芳乃さんの茶髪が似合ってるので真似したい」となる。そのまんまやないかい。すいません。
しかし芳乃さん父の転勤はなんだありゃ。普通に考えて木尾士目の実体験か。だって「五年生」に全然関係ねーもんなぁ。芳乃さん母が振り向かない点を含めて「怖いよ」。教授との会話は特に見るべきものが無い気がするのでスルー。
「俺はもう落ち込んでいなかった」も単純に自己欺瞞。読者の誰から見ても落ち込んでるしねぇ。オギーがやおい好きがバレバレなのに、やおい原稿を笹に見せられないのと同じ心境です。アキオの場合は落ち込んでいる事を糊塗するために「落ち込んでいない」と欺瞞しています。んで、何故オギーが笹にやおい原稿を見せられないかとゆーと、笹斑を書いている自分を抑圧しているので(もちろん巻田くんの件はさらに深く抑圧されている)、笹に「普通のやおい原稿を見せる」事は、オギーにしてみれば「笹斑のやおい原稿を見せる」のと同じ事なわけです。そりゃ見せられんよねぇ。オギーの内心ではこのように整合性は取れていますが、そんなん誰にもわからないので、大野さんからすると全く理解できないんですね。
芳乃さんの心境の変化も凄いなぁ。
「木更津に行ってアキオと会う可能性があるって事?」「やだわそんなの」
↓
「アキオに電話してみようかしら」「どんな反応をするんだろうか」
↓
「ふふっ」「そんでね何かね」「木更津で教授の助手やったらどうかって」「ふふっ」(あの口元の笑顔から、アキオのどういう反応を期待しているかバレバレだ)
しかし芳乃さんの期待は裏切られる。確かに以前のダメだったアキオだったら餌に食いついただろうが(4巻145ページ)、ダメじゃなくなってしまったアキオには、その芳乃さんの歩みよりは苦痛でしか無いのであった。後輩ズの4人は表面の感情だけの交錯だった。長谷川さんの場合は表層の感情と内心を含んだ交錯だったが、今回のアキオと芳乃さんの交錯は、時間による変化を含んだ交錯である、と解釈できる。芳乃さんは以前のアキオに最適化した誘いを考えて、その脳内シミュレーションに自信を持ったので連絡したんだが、アキオはアキオで変わってしまっていたため、芳乃さんの脳内シミュレーションとは違った結果になってしまった、というのがこの回で説明されている事かと。
そーいやちょっと前から薄々考えてたんだけど、すっとこさんが男性なので、男性のアキオの立場に立って考えやすいから、アキオの状況がよく理解できるんだけど、芳乃さんの方はいまいちよくわかんないのよねぇ。これはすっとこさんが男性なせいだと思うんだけど、もう一回芳乃さんの立場で「五年生」を再解釈しないといかんのか。めんどー。
30~最終話に続く。まだ続くのかー。