ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【TPP】難波先生より

2013-02-25 12:15:46 | 難波紘二先生
【TPP】<聖域なき関税撤廃を条件とするかぎり、TPPに参加しない>と言っていた安倍首相が、オバマ大統領と会談するとコロッと発言が変わった。なに、選挙で農家の票を減らさないために、ああいっていただけで、腹の内ははじめから「参加」に決まっていたのだろう。政権発足後、財界から攻め立てられて、やっと口に出したようだ。


 こんな国際会議ははじめから参加し、どうしても決定的重要問題で妥協がえられない場合には脱退するというのが、イロハだ。「国際連盟」は結成国のひとつだから発言力があったが、途中で脱退した。「国際連合」にははじめ入れてもらえなかったから、いまでも安保理の常任理事国になれていない。


 『ペリーの白旗』で有名になった松本健一『日本の近代1:開国・明治維新』(中央公論社)で、「日米修好通商条約」における輸出および輸入関税率がどう規定されているかを調べようとしたが、これは「政治史」の本で経済とか医療の話はぜんぜん書いてない。桜田門外の変に参加した浪士の名前やその運命など、吉村昭の小説で読めばすむことだ。
 索引もきわめて不完全である。


 久米邦武『米欧回覧実記』(全5冊、岩波文庫)から文章を引用しているが、引用箇所の明示がない。文献引用の作法も知らないのだ。この「実記」の校注者田中彰は『岩倉使節団』(講談社現代新書)、『明治維新と西洋文明:岩倉使節団は何を見たか』(岩波新書)と、同じような内容の本を2冊書いているが、「不平等条約改正」の内容が書いてないというお粗末。
 司馬遼太郎『峠』でさえ、不平等条約を利用して金銀の両替、貿易によりいかに外国商人が巨額の利益をあげたかが、書き込まれているのに。文学部系学者・評論家の本が売れなくなるのは当たり前だ。こんなに低レベルなのだから。


 (午後を全部使って『米欧回覧実記』5冊を全部繰って、松本健一の引用箇所を見つけた。数時間かかった。こういう手合いの本を相手にすると、「知的生産性」が著しく落ちる。『実記』第2分冊のp.66「産業革命の結果、ヨーロッパがこのように豊かになったのはわずか40年前からだ」という箇所である。久米は「彼我の差は40年だ」とも言っている。実際には30年で追いついた。
 科学哲学者K.ポパーは「反証可能性の有無」を科学とエセ科学の区別点とした。科学論文ではすべての言明が引用文献リストにより支えられている。この松本の本のように引用箇所を明示していない本は、「点検可能性」を排除しているわけで、エセ学問といえる。「うさん臭いな」と思い、引用文と原文を比較したら、案の定、引用に手が加えてあった。)
 また最初の言及箇所やその他に、田中彰の本からの剽窃がいくつかあった。まあ、文科系の学者などこの程度のものだ。


 久米邦武によるこの報告書は、欧米各国の政治経済システムの実状だけでなく、鉄道、造船、製造工場(織物、染め物、鉱山)、農業、図書館、博物館、電信所、郵便局、動物園、大学など多岐にわたっており、それらが詳細に書いてある。従って理学、工学の基礎的知識なくしては注釈がつけられない。よって田中の注釈はきわめて不完全である。まあ、「ダメであることがわかった」のが作業の収穫か…


 ところで、この不平等条約により治外法権、関税の不平等、銀本位制の通貨交換が規定されいたから、明治政府は必死に条約改正を求めて、「富国強兵」につとめ、日清戦争に勝って「近代国家日本」を欧米列強に認知させ、条約改正に持ち込んだのではないか。明治国家の原動力が書いてない歴史書など無価値である。


 結局、WIKIの記載がもっとも役にたった。
http://ja.wikipedia.org/wiki/日米修好通商条約#.E9.96.A2.E7.A8.8E.E7.8E.87
 2/23から「産経」が「情報の未来:第4部<メディアの行方?」の連載を始めたが、「無料メディア」は記事の脇の広告で収入があがるから、記事は無料でも配信できるのだそうだ。
 無料で書いている執筆者がいい加減で、給料をもらって書いている新聞記者が良心的で、きちんと取材しているかというと、そういうことはない。いづれも人によりけりである。「新聞通信調査会」による2012年の調査では、信頼度は100点満点で68点だそうで「優、良、可、不可」の4段階評価では「可」である。過去最低だそうだ。安倍内閣の支持率と同じだ。


 さて関税だが、「通商条約」(1858)の時は、輸入関税率10~5%、輸出関税率5%(日本側の)だったが、「下関戦争」の賠償金がらみで米英仏オランダの圧力を受け、「改税約書」(1866)という関税協定を呑まされ、輸入品の関税は一律5%に下げさせられた。これが1894(明治27)年まで約30年間続いたのだから、大変である。


 TPPは「改税約書」よりはるかにフェアーで、相互主義の原則で関税を撤廃しようというものだ。国内生産物が安ければ輸出できるし、高ければ輸出できず代わりに外国産に圧倒されるということだ。これでいちばん被害を被るのは、これまで保護措置で生き延びてきた農産物であり、それを一手に扱ってきたJAである。JAの害はすでに立花隆『農協』(朝日文庫, 1984)、山下和仁『農協』(宝島新書, 2011)などで指摘されている。日本の食料自給率は30%にまで低下している。「食糧安保論」など、石油がなければ成り立たない今の農業にとってナンセンスだ。先進国で食料が輸出できない国は日本だけだ。いかに国が農協と農家を甘やかしてきたかがわかろうというものだ。
 私はTPP加盟に関しては安倍内閣の政策を支持したい。
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