ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【インド大魔術】難波先生より

2014-03-31 18:36:55 | 難波紘二先生
【インド大魔術】
 この言葉をはじめて聞いたのは、「アルカ」の故角張淳一さんからで、「旧石器遺跡はインド大魔術だと、横山◯◯が行方不明になる前にいっていた」というコンテキストの中だった。
 「インド大魔術」という言葉をその時は、「大がかりなトリック」という意味にしか理解していなかった。
 最近、「インドのロープ魔術」神話の発生と消長について書いてある本を読んだ。
S.L.マクニック他「脳はすすんでだまされたがる:マジックが解き明かす錯覚の不思議」(角川書店、2012)という長いタイトルの本だ。
 それによると、1890年8月に「シカゴ・トリビューン」紙が大略以下のような記事を載せたのが、そもそもの始まりだそうだ。
 <イェール大学を卒業した画家と写真家が二人でインドを旅行中に、大道芸人の魔術を目撃した。魔術師が巻いたロープを取りだして、一端を口にくわえ、他端を空に放り投げると、ロープはほどけて空に上がった端が見えなくなった。
 6歳くらいの男の子が出て来て、ロープに上り始めたが、10メートルほど登ったところで姿が見えなくなった。日中の野外のことで、ロープや少年を吊すためのワイヤや、そういう機械を隠す場所はなかった。
 驚いた画家は一部始終を絵に描いた。写真家は写真を撮影した。ところが現像してみると写真にはロープも少年も写っておらず、ただ大道芸人が地面に座っているだけだった。>
 この話のミソは、人間の目は(画家の眼をふくめて)騙されたが、カメラとフィルムという科学の眼は騙されなかったというところにある。
 4ヶ月後に、英国の週刊誌編集者が問題のイェール大卒業生に会いたいと新聞社に申し入れたところから、記事は新聞記者の創作であることが明らかにされた。記事を書いた記者は後日、記事を撤回して釈明した。
 ところがその間に、この話は世界中に伝わり、尾ひれがついて、その後、各地でいろいろなヴァージョンが生まれたという。2005年には「インドのロープ魔術の出現と消滅」と題する、エジンバラ大研究者P. ラモントの本も出たという。

 19世紀の末は、X線が発見され、キュリー夫妻により放射能が発見され、新しい科学が急速に進み、同時に「催眠術」とか「心霊術」が人気をえていた時代だった。「フォトグラフィー(写真術)」なども、原理がよくわからないまま、「真実を写す」と理解されたので、このエピソードのように「人間の眼は騙されても、写真は騙されない」として、「インド大魔術」が写真には写らなかった、というオチが構成されたのであろう。
 逆にいうと、「写真に写れば本物」ということになるから、ボストンの詐欺師が「心霊写真」考案し、日本の「千里眼事件」の関係者が「念力で写真乾版に文字を書き込む」というトリックを考えたのであろう。

 人間はそもそも「信じたいことを信じる」という短所があるから、たとえデマやウソだという反証がそろっていても、またそれを言いふらし始めた当の本人が否定しても、それが真実であるという主張が何度も繰り返されると、信じてしまうものだとラモントはいう。
 こういう点では、今回のSTAP細胞事件も、「老化を防げる可能性がある、不老不死も実現するかもしれない」というキャッチコピー入りで大々的に報道されたから、信じたい人は多かろう。いくら科学的に否定されても、「いや、できるかも知れない」と思いたい人は思うだろう。罪なことをしてくれたものだ。
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