ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【献本お礼】難波先生より

2016-07-11 15:37:57 | 難波紘二先生
【献本お礼】
★何という偶然か、先週「アルカ研究論集第5号:角張淳一追悼号」が届いたばかりだ。
糖尿病なのに焼酎やワインを飲んで酔っぱらい、よく夜遅く電話をかけて来たが、その頃は自分の糖尿病が発見されていなかったので「糖質制限食」のアドバイスをすることができなかったのが残念だ。2012年5月25日早朝、寝床の中で心停止しているのが発見された。52歳だった。
 遺著は角張淳一「旧石器捏造事件の研究」(鳥影社, 2010/5)

2001/5に「日本考古学協会総会」で宮城県の馬場壇遺跡(地層的には20万年前)から発掘された旧石器にナウマン象の脂肪酸が付着していたという「脂肪酸分析による解体動物種の鑑定」には「まったく科学的根拠がない」という発表をする際に、岡安光彦氏の呼びかけに応じて演題抄録を見た角張淳一氏が共同発表者になってくれ、これで「非会員の場合は、会員2名の賛同が必要」という学会への演題応募資格が整い、無事東京の駒澤大学での学会で発表できた。この件については九州在住の考古学者、奥野正男「神々の汚れた手」(梓書院、2004/6、毎日出版文化賞受賞)に簡潔で要をえた記述(pp.189-193)がある。
 角張さんは「信濃の国御家人角張」の血をひくせいか、「石器の捏造と埋め込み」という不正が許せなかった。その行為により寿命が縮まってもやむをえない、と考えていたようだ。
 「角張淳一追悼号」を恵送された奥さまの憲子さんにあつくお礼申し上げます。
 その後別便で考古学研究所アルカの月報「アルカ通信」6ヶ月分が届いた。会社名の「株式会社アルカ(アルカは考古の意味)」から「考古学研究所アルカ」に変え、研究年報と在野の考古学研究者の意見・論評などを発表する「月報」を出すようにアドバイスしたのは私だが、角張さんの死後も現社長憲子さんより、その方針は受け継がれているのに安心した。

★ ★医療ジャーナリストの田辺功氏から新著「お医者さんも知らない治療法教えます・完結編:糖尿病からインフルエンザまで」(西村書店、2016/6)の献本を頂いた。お礼申し上げます。
 田辺さんは東大工学部航空学科を卒業後に朝日新聞社に入社、本社の編集委員(医療・医学担当)を永く勤めた。藤田恒夫先生の雑誌「ミクロスコピア」の編集委員でもあった。
 この「お医者さんも知らない治療法」シリーズはすべて西村書店から出ている。西村書店は発祥の地が新潟大学医学部前の地元医書販売店「西村書店」で、西村正徳現社長の時に東京へ「出版編集部」が進出した(千代田区富士見台)。
 ヨナス・ヨナソン「窓から逃げた100歳老人」(西村書店 , 2014/7)など
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1433378694
医書だけでなく一般書も手がけ、これはベストセラーにも入っている。
 私も2冊ほど翻訳の医学史関係の本をここから出してもらっている。

 田辺功さんは、今回の本で学会からは広く認知されていない「異端の治療法」を取り上げている。今回の本では「腎移植移植」(p.146-147)も取り上げられている。まだ全部を読み終わっていないが、どうもいま日本では医療におけるパラダイム・シフトが起こりつつあるように感じられる。
 「コペルニクス革命」が起こった1543年はグーテンベルグの印刷術の発明により、印刷本が安価に普及し新情報の拡散が起こった。ローマ法皇の影響がつよいイタリアではガリレイの地動説は弾圧されたが、プロシアで医業の傍ら天体観測をしたコペルニクスは弾圧されていない。
 17〜19世紀にかけて、中世ヨーロッパのカトリック教会と大学が金科玉条としていた「アリストテレス学説」が少しずつエビデンスにより覆されて行ったが、同じことが今、医学・医療においても起こりつつあるように思われる。
 この本で紹介されている「糖質制限食」の考案者釜池豊秋医師(元市立宇和島病院)、京都高雄病院の江部康二医師や放射線科医(東北大学名誉教授)から精神科医に転じた松沢大樹医師など、どちらかというと「異端」の医師が多く取り上げられている。これが福沢諭吉のいう「今日の異端は明日の常識」(「文明論之概略」)というものだろうと思う。
 私は「朝日」の読者でないので知らなかったが、田辺さんは「ドキュメント医療危機」という朝日新聞の連載シリーズで腎移植移植を画期的な治療法として紹介したらしい(p.146)。
<メディアは国や学会、大企業など大きい組織、権威ある組織の意見は安易に報じますが、それに反する個人や小団体の意見はなかなか報じません。新しい画期的な治療法が普及しない大きな理由です(p.147)>と書いている。
 それならガリレイを弾圧したイタリアの教会や大学と同じだな…
 この本は、とても分かりやすい文体で書かれており、お勧めです。
http://www.nishimurashoten.co.jp/book/archives/6616

★★★「医薬経済」7/1号(医薬経済社)のご恵送を頂いた。お礼申し上げます。
 今号の記事では「鳥集徹の口に苦い話No.17:日本人の薬信仰を打ち破れるか?<週刊現代>のショック療法」が相変わらず面白かった。
 週刊現代だけではない。参院選の最中だというのに「週刊ポスト」7/15号は「あなたの入れ歯、差し歯、ブリッジ、インプラントは<大失敗>かもしれない」「病院では絶対教えてくれない<こんなに安くなる>医療費のカラクリ:国から医療費を取り戻せ!」という2本の医療批判特集を、「週刊現代」7/16号は第6弾「もっと知りたい!医者がすすめてもやってはいけない<手術>飲んではいけない<薬>」というぶち抜き29ページの特集を掲載している。
 ここに危険な薬としてあげられている抗うつ薬パキシルについては自分にも経験がある。自己診断のうつ病で公的病院の内科で処方してもらい、「倍量くらいは平気」と思って飲んだら、いきなり「躁転化」(躁転)が起こって、結局精神病院に入院治療となったことがある。
 主治医が向精神薬の薬理作用に詳しい国立病院の精神科部長だったおかげで、躁転のメカニズムについて詳しい説明を受けることができ、納得した。
 躁うつ病はアメリカではBipolar Disease(双極性感情障害)と呼び、感情のレベルの問題であるとされ、炭酸リチウムがファースト・チョイスの薬とされている。今、私はリーマス(炭酸リチウム製剤)を毎日1錠(200mg)飲んでいる。これは初期の躁・欝の両方に効く薬である。
 即効性はないが、ゆっくりとうつ期の回復に向かっていると思っている。

〔7/8追記〕
 「週刊文春」7/14号が「保存版、五大がん後略ガイド」の第一回「肺がん編:がん名医が警告、こんな手術は断りなさい」という4ページ連載を始めた。
 新聞広告を見て、豊栄町のコンビニで現物を買ってきて驚いた。週刊文春取材班が取材しアンカーマンとして執筆しているのが、上記の鳥集徹氏だったからだ。
 執筆意図は「週刊現代」のがん治療特集が腹腔鏡手術の危険性を煽る内容であることに対するオブジェクションだと書いてある。
 <どんな治療にも<利益>と<害>がある。特定の治療の害をことさら強調するのではなく、どうすれば害を少なくして、最大の利益を得られるのか、それを伝える努力をすることが、メディアの責務ではないか>という指摘に、大きく共鳴した。
 こういう考え方だと、「腎移植移植」にもまず共鳴してもらえるのではないか、と思われる。
「週刊文春」にこのメルマガの読者がいるかどうか、私にはわからないが、何とか鳥集氏と連絡をとりたいものだ。鳥集氏が一般誌で大いに活躍されることを期待する。
 
 7/3「中国」一面下の書籍広告が、9冊のうち6冊が、「糖尿病」、「認知症」、「がん」、「透析患者の長生き法」、「頸椎症」、「前立腺肥大」を扱ったもので、他は福島原発の解体を扱った本と原爆慰霊碑を訪れた際にオバマ大統領からハグされた森重明の「原爆で死んだ米兵秘史」(潮書房光人社)であるのには驚いた。

 森重明「原爆で死んだ米兵秘史」(潮書房光人社)はAMAZONで品切れだったが、東広島市西条町内の啓文社に行ったら店頭に平積みされていて、さっそく買い求めた。
 森氏の手記「オバマは広島で私を抱きしめた」は「文藝春秋」7月号に掲載されているので、恐らくそれに加筆したものかと思ったが、本の執筆が先で、その英訳に基づいて製作されたドキュメンタリー映画「ペーパーランタン(灯籠流し)」も米国で公開されたという。1945年7/28に呉港沖の戦艦「榛名(はるな)」を攻撃中に被弾したB-24爆撃機が中国山地に墜落し、乗員12名と機長が捕虜になった。うち機長は東京送りとなり、被爆せずに米国に生還したが、残り12名の乗員は原爆ドーム直近の中国憲兵隊司令部で被爆し、8月13日までに全員が死亡したことを森氏は丹念な調査で明らかにした。
 森氏は「広島にはたくさん原爆慰霊碑があるが、米兵のためのものは一つもない」といい、私費で中国憲兵隊跡地ビルにB-24の元機長で唯一の生き残り、カートライト氏に依頼して慰霊の文面を書いてもらい、自費で慰霊のプレートを跡地ビルに設置したという。
 米側では広島の原爆で死んだ米兵捕虜がいたことは永く国家機密とされていたが、この森氏の調査・慰霊活動がオバマ広島訪問の最大の原動力であり、彼が被団協の代表を差し置いて、森氏をハグした理由だとやっとわかった。

 「医薬経済」7/1号の記事に戻る。日本人の薬信仰は根強い。幕末長﨑海軍伝習所にいたオランダ海軍のカッティンディーケは、長﨑の医師が、オランダ人の海軍軍属の鍛冶工により暴行を受けた日本人の男を治療したが、「薬療として3両」の請求を受けただけだったと驚いている。(「長﨑海軍伝習所の日々」東洋文庫)
 驚いたことに「一遍聖」の評伝には、念仏踊りを創始した一遍は13世紀に「尿療法」と「温泉療法(一種のサウナ)」をも医療として始めたとある(大橋俊雄「一遍聖」)。一遍の信者たちは彼の尿を飲んだり、眼病を治すのに眼を洗ったりするのに用いたという。これも一種の薬だったのだ。

 物理学では「3体問題」いって、独立した運動をする3つの物体がある場合、その相互影響は計算できないことになっている。薬でも2種の場合は、相互作用が計測可能だが、3剤以上になるとどういう副作用が生じるかわからない。「お薬手帳」があると飲み合わせの害が防げると薬局ではいうが、薬剤師は患者を診察できないし、血液検査データも知らない。よって「お薬手帳」が役に立つとは思われない。
 入手した情報によると鳥集氏はもと「週刊朝日」の編集部にいた人だそうだ。しかし、こういう過剰投薬による弊害問題を取り上げた記事を掲載する「医薬経済」は立派だと思う。
 日本老年医学会は「薬は5剤までに」と勧告しているそうだが、「薬を5剤以下に減らしたら認知症が改善した」と主張する医師による著書も出ているのが現状だ。

 これと関連してフロントライン「医薬品の<古くて未解決な>問題:残薬」も興味深かった。日本の残薬(飲み残し薬)の実態は2007年に日本薬剤師会が在宅患者約800人を対象におこなった調査しかデータがないという。それによると1人当たり月約3200円分の薬の飲み残しがあった。これを単純に全国の後期高齢者(75歳以上)の患者薬剤費に当てはめると、残薬の合計金額は年間約475億円に達するという。
 この根底には、医者の技術料・口頭指導の料金が低すぎて、「薬代」で儲けるしかない、という日本独特の医療システムの問題があるように思う。「情報は無料」と患者が思っている限り、カッティンディーケの観察は今も生きているといえるだろう。

 鍛冶孝雄「読む医療」はロバート・マリオン「ジェネティック・ラウンズ」(メディカル・サイエンス・インターナショナル)を取り上げて、「臨床遺伝学の<進歩>と<苦悩>」を論じている。遺伝性疾患の多くは出生前あるいは結婚前に診断がつくようになった。イスラエルのユダヤ人が彼らに多い常染色体性優性遺伝をする「ハンチントン舞踏病」を撲滅したことは良く知られている。R.マリオンは臨床遺伝医師で、エッセイを収録したものだそうだ。ラウンズは英語で「回診」という意味だ。
 遺伝性疾患の場合、予防>遺伝子治療>カウンセリング の順に重要だと思うが、予防は差別を助長する恐れがあり、日本ではほとんど普及していない。何しろ未だにABO式血液型による社会差別が存在するのがこの国だ。
 認定遺伝カウンセラーは日本には182人しかいない、という。遺伝学の正しい知識が一般に普及することが重要だろう。
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