ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【小保方余話 (2)】難波先生より

2016-07-11 15:57:48 | 難波紘二先生
【小保方余話 (2)】
 須田桃子「捏造の科学者:STAP細胞事件」(文藝春秋, 2014/12)は2015年の大宅壮一ノンフィクション賞と科学ジャーナリスト大賞を受賞した。
 「デジタル毎日」の「経済プレミア」というセクションに2015/6/18-21の4回にわたって、経済プレミア編集長による毎日科学環境部須田記者と元科学環境部記者で現デジタル毎日の編集委員をしている元村由希子記者へのインタビューが掲載されている。これは、
「捏造の科学者」著者の須田桃子記者に聞く(4)
http://mainichi.jp/auth/guide.php?url=%2Fpremier%2Fbusiness%2Farticles%2F20150617%2Fbiz%2F00m%2F010%2F021000c
で第1回から無料で読めるので、興味のある方はお読みになるとよいだろう。

 私は「捏造の科学者」の第1章「異例づくしの記者会見」に違和感がある。当時「毎日科学環境部」のSTAP細胞関連記事を連日詳しく読んでいたが、須田記者はウラ取りもせず、ひたすら翼賛記事を書いていた。2/7/2014鹿鳴荘便りの【独創?】という記事に書いたが、同年2/6「毎日」の「海越え連携 STAP細胞」という特集では、手放しの小保方礼賛がなされている。
 以下当時のメルマガ記事を再掲する。
<ヴァカンティ教授は2001年に「生体内には強い刺激に耐え、組織の再生に寄与する小さな(幹)細胞が存在する」という仮説を論文として発表したが、誰にも信用してもらえず、自分でも証明できなかった。
 http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11135375
 この「細胞生化学(J. Cell Biochem.)」雑誌に発表された論文では、「それぞれの組織には固有の直径5ミクロン以下の小さい<芽胞様細胞>が存在し、組織の再生の必要が生じるまでは休眠状態にある。…」とある。
 しかし「毎日」の記事では極細ガラス管の直径が「0.05ミリ」となっている。1ミリは1000ミクロンだから、これでは50ミクロンとなり、ヴァカンティ教授のいう「5ミクロンより小さい」に矛盾する。一体、ヒトの上皮細胞の直径が20ミクロンであり、赤血球の直径が8〜10ミクロンであるから、小保方さんが50ミクロンの細管をマウスのリンパ球にストレスを与えるのに使ったとすれば、それはデタラメである。他方で、「科学環境部」の記者が3人も名を連ねて、50ミクロンと5ミクロンの違いもわからないとは思いたくない。>
と記事の質への疑問を呈しておいた。

 小保方は早稻田理工学部で須田桃子記者の後輩に当たるが、1/28に神戸市の理研CDBの記者会見には永山悦子東京本社科学環境部デスクを説得して、大阪本社科学環境部根本毅キャップ、斎藤広子記者と共に参加している。両記者は須田記者の「興奮ぶりに苦笑していた」という。ネットでSTAP論文に対する疑惑が出ていると永山悦子デスクから、須田記者が情報を知らされ、問題を知ったのが2/24朝だという。あまりにもとろい。
 その後も、理研調査委が2/13に始まったことを知り、「STAP論文、理研調査」という記事を東京「毎日」は2/15朝刊で報じたが、その際にも永山デスクから「なんで小保方さんの名前が入っていないの?」と注意を受けている。
 3/6理研が発表したSTAP細胞幹細胞作製の「プロトコル」ではSTAP幹細胞8株に「TCR遺伝子の再構成がない」ことが明らかにされた。つまり「分化したT細胞からSTAP幹細胞を作製した」という根拠が崩れたのだ。これについても須田記者は青野由利専門編集委員から、「これが覆ると根本が覆る。今までの画像疑惑とはレベルが違うので、確認した方がよい」というメールをその日に受け取っている。つまり小保方論文のミソがまったく分かっていなかったのだ。

 青野由利は東大薬学科卒で、「毎日」入社後、フルブライト客員研究員としてMITに留学して生命倫理を研究している。以下の著書執筆時、毎日科学環境部編集委員だった。
青野由利「ノーベル賞科学者のアタマの中:物質・生命・意識研究まで」(築地書館, 1999/9)
 この本はフランシス・クリックや利根川進など分子生物学のノーベル賞受賞者が次々と、「脳科学の研究」に向かう理由を説明している。
 元村由希子は、<1966年生まれ。九大教育学部卒、89年毎日新聞に入社、福岡、山口での勤務を経て、2001年東京本社科学環境部に異動した。長期連載(64回)「理系白書」のキャップをつとめ、一連の記事は、毎日新聞科学環境部「理系白書:この国を静かに支える人たち」(講談社, 2003/6)として出版され、06年の科学ジャーナリスト賞を受賞した。>とある。
 ちなみにユニークな科学文化誌「ミクロスコピア」の藤田恒夫先生は、07年第2回の科学ジャーナリスト賞を受賞されている。
 その元村由希子「デジタル毎日」編集委員が、「須田記者のはしゃぎようにいささか当惑した」という意味の発言をしているのを読んで、少し「毎日」に対する信頼を回復した気になれた。

 須田桃子記者は早稻田理工学部(化学)の出身で、小保方晴子と同窓だから最後まで信じたかったのかもしれないが、結局、2014/3/10、NHK午後7時のトップニュースが「若山照彦山梨大教授がSTAP論文の撤回を共著者に呼びかけた」と報じるまで、根本的疑惑を理解できていなかった。このニュースに「東京科学環境部内は騒然となった」と第3章で書いている。
 須田記者が自分のおかした過ちを率直に謝罪していないから、たとえ大宅壮一賞を受賞し、科学ジャーナリスト賞を受賞しようとも、私は彼女の「捏造の科学者」を評価できない。

 その点、STAP事件の社会経済的背景まで解明している小畑峰太郎「STAP細胞に群がった悪いヤツら」(新潮社, 2014/11)の方が優れていると私は思う。
 この本には「STAP細胞論文捏造事件関連年表」が巻末に付いており、1998年に東京女子医大教授の岡野光夫(早稻田理工学部卒)が大和雅之(東大教養学部基礎工学科卒)を同大研究施設の助手として採用するところから、2001/5岡野がバイオのベンチャー企業「セルシード」社を設立し、2006年早稻田の修士1年の小保方がテーマを再生医療に変更し、女子医の大和の指導を受けることになることを示し、2014/8/5の笹井氏の自殺、同年10/7の早稲田大「小保方の博士号取り消し」の方針発表までの過程を詳細に掲載している。

 なおハーヴァード大がSTAP細胞の特許申請をしたという報道については、「新潮社フォーサイト誌」の「米誌で読む<STAP細胞>真相(上):小保方さんは<プリンセス晴子>と呼ばれた」という記事をボストン在住の血液内科医大西睦子氏による記事をBLOGOSが転載している。
http://blogos.com/article/182176/
 大西さんは「MRIC」という医療ガバナンス関係のメーリング・リストに「ボストン便り」と題して時々、論評を投稿している。「フォーサイト」記事の終りに、著者紹介がある。
 この記事によれば日本の一部のメディアが報じた「ハーヴァード大がSTAP細胞の特許申請を行った」というのが、まったくウソだと分かる。バカンティ教授はBWH(ブリガム&ウィメンズ病院)の麻酔科部長を辞任し、ハーヴァードを退職している。
 <確かに特許の申請は行われていますが、それはハーヴァード大学としてではなく、バカンティ氏が行ったものです。正確に言えば、まだ論文が発表される前の2013年5月25日にバカンティ氏と彼の兄弟、そしてもう1人の研究者(小保方氏ではありません)3名によって申請されています。そしてその申請の権利を、バカンティ氏は同年9月12日にBWHに譲渡しています。>
 <米特許商標庁のウェブサイトで確認すると、この申請については譲渡の記録があるだけで何も動きがありません。形式上は現在も審査が続いているということですが、担当者によると、1年から数年はかかるだろうということでした。しかも、バカンティ氏はすでにハーヴァードを去っていますし、論文も撤回されています。何より、世界中の著名な科学者が誰1人再現できていないものに特許が認められるなどあり得ないというのが、世界の科学界の認識です。なぜ日本でそのような報道がなされているのか不思議でなりません。>と大西さんは書いている。
 つまりSTAP細胞論文が「ネイチャー」に発表される前の特許申請だ。
 これを読むと、何とも一部の日本メディアの報道は<ためにする報道>としかいいようがない。
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356 コメント

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Unknown (Unknown)
2016-07-11 22:44:50
記者は付け焼き刃で予習はするが、直ぐに化けの皮が剥がれるもの。
仕方ないかと。教授も取材受けたことがあれば分かるかと。

ただし須田嬢は当初は後輩である小保方嬢を買いかぶっていたのは事実ですね。

ある意味反省して単行本を出したのかな(^^;;
ネット (Unknown)
2016-07-12 10:35:31
近頃のテレビの情報番組の中でも、ネットから拾ってきた話題や映像をろくに検証もしないで垂れ流していることや、須田の著書でも、ネットから情報得ている様子が書かれていますが、一律にネットと書かれているだけでソースが提示されていません。これでは視聴者や読者は情報の信頼性を判断できません。また報道機関の姿勢として大いに問題があると思います。また、このような報道をしながら、他者のコピペを批判する資格があるでしょうか?そんな理由で、私の須田氏の著書への評価は今一と言ったところです。だだ騒動の経過をきちんとまとめてくれたことは、私自身この騒動を考える上でとても役に立ちましたし、その大変な仕事をされたことには敬意を表します。
Unknown (Unknown)
2016-07-16 03:49:33
極細ガラス管の径だが、細胞の直径よりも大きい管であっても、通過時にずり応力がかかるので細胞はストレスを受けるよ。だから、管径50ミクロンが間違ってるとは必ずしもいえない。

むしろ、5ミクロンの細胞を5ミクロンの管に通すなんてことをしようとするならば、専用の流速安定化装置と流路を設計する必要がある。
Unknown (Mr.S)
2016-07-16 06:12:41
都知事選が面白くなってきましたね。

自民候補が分裂し、野党4党の推薦候補が決まって投票まで二週間。
その間の候補者やその周辺の動向によって獲得票がどのように動くのか、見どころは満載です。
特に元都知事の猪瀬氏が暴露した都議連の悪評は、増田候補には致命的なものです。
最初は私も小池候補を認めてはいなかったんですが、都議連と戦う姿勢に一気に小池応援気分となりました。
意外なところでは愛国者、桜井誠候補の支持が多い所です。この票が鳥越氏の登場によって動くと思います。
反左翼、桜井氏への投票が小池氏へ流れる可能性があるという事です。

得票予想

小池180万票
鳥越170万票
増田 70万票
桜井 30万票

本来なら桜井氏の得票は50万は行くでしょう。
20万が小池氏に上乗せされて鳥越氏を逆転するわけです。
ガラス管の径 (Unknown)
2016-07-16 10:08:41
確か、筆頭著者は、初め「直径5ミクロンの芽胞様細胞を選別していた」はずなので、刺激はともかく、50ミクロンのガラス管で5ミクロンの細胞を選別するのは可能?
少なくとも私は、きちんと選別できるとは思えないんだけど。
Unknown (Unknown)
2016-07-16 11:01:46
結局、菅に通してストレスをかけても、酸に浸しても、oct4のみ、万能細胞の必要条件を満たすのみで、それは死滅に向かう細胞であった
と言うことかと伺えます。
だって (Unknown)
2016-07-17 19:43:46
小保方氏が、幹細胞の研究を始めたのが、バカンティ氏の「Spore like stem cell」を証明するためだったのだから、50ミクロンのガラス管で5ミクロンの細胞を選り分ける作業をしていたことになるから、この研究は最初からつじつまが合わないのよね。小保方氏自身細胞を選り分けているうちに、ピペットを操作するほど光る細胞が増えていることに気づいた。刺激でできていると思ったと言っているのだから。
Unknown (Unknown)
2017-05-04 10:58:39
ワトソン君はあちらが忙しく、こちらには来ていないみたいだね。

しかし、若山さんは悪くないって言うのがお仕事とはいえ、シツコイね。
理研の人に責任持って行って若山さんの事忘れさせようって作戦、バレてるのにね。

其れと「和モガ」さんとこにもしつこいのがいるよね。
まあおんなじやり方だろうけど。
和モガさん= Doraさんだと思ってるから、Doraさんに仕事させないように絡んでるね。
Doraさんが今持っているエヴィデンスとやらは、奥さんには都合悪いものばかりだからね。
Unknown (Unknown)
2017-05-04 11:21:15
甲府演劇グループは実に面白い!
中身入れ替わり作戦。
HNは同じでも中身が変わる。
ひかり何某、mその他諸々。
Ooboeもクラリネットかピッコロか太陽か?
今は誰かと読むのは暇つぶしにはなる。
Unknown (Unknown)
2017-05-04 12:06:20
「そして有志は誰もいなくなった木星ブログ」は確かに面白いですね。
甲府演劇グループの面々が次々とやって来て。
今奥さんは旅行でも行ってるの?
中身変わりの人だよね。
学会シーズンだから、ちゃんと研究してるひとはそちらで忙しい。
偽物さんは偽装工作に忙しいか、旅行にでも行ってるかだよね。
あのねえも忙しいか。

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