詩を書くことはとりあえずひとりでもできる
建築は
ひとりではできない
詩を書くことはひとりでもできる
詩集はとりあえずひとりでも作ることができる
同人誌は
ひとりではできない
詩を書くことはひとりでもできる
建築の構想は
とりあえずひとりでも書けそうだが
だれかとだれかが協働して
さらにはもっとだれかとだれかが協働して
はじめて
構想が描ける
描かれた構想は
さらにだれかが引き継いで
それが既定事実になった後にはじめて
実現する
引き継がれない前には
構想はまだ単に構想で
あやふやで
やわで
いつでも後戻り可能で
だから
夢物語でしかない
未だ生存中の一個の人間のように
誰かが始めたことを
別の誰かが引き継いではじめて
堅固な計画に変身する
細部が変更されることがあっても
その骨格はあたかも削り取ることも曲げることも加えることもできないダイアモンドの造形のように輝き始める
建築は
その謎めいた魔法の後に
はじめて実現する
描き始めた人間の支配できない迷宮の先に
現実の建築は完成する
別の人間に
引き継がれない構想は妄想の類いでしかない
だって人間は神ではない
ひとりで完結することはできない
ああそうだ構想も
だれかの記憶を引き継ぎ
だれかの行動を引き継ぐことなしに
構想として成立することがない
ひとりで描きあげた構想などない
だれかから引き継いで
だれかに引き継ぐこと
その連綿とした網の目の中にしか
建築は成り立つことがない
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