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気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

精神看護 2019.11 琵琶湖病院で始まっているオープンダイアローグ 医学書院

2020-10-19 22:30:26 | エッセイ
 特集名を省略なしで言えば「琵琶湖病院で始まっているオープンダイアローグを取り入れた日常診療」、昨年の11月号、バックナンバーである。
 琵琶湖病院の院長補佐で精神科医の村上純一氏を中心とした取り組みの紹介である。
 まずは、第1節、村上氏による「琵琶湖病院がオープンダイアローグに開かれるまで」の報告。

「かつて私は、精神医療には「強制的な処遇」「隔離」「長期入院」が不可欠だと認識していました。当事者の話す内容は理解ができないものであり、保護する役割は精神科病院の社会的必要悪のようなものだと信じていました。一時的に強制的に介入せざるを得ないことがあっても、やがて薬物療法と環境によって自分を取り戻し、多くの人は感謝して退院していく、そう考えていました。」(531ページ)

 ところが、どうもそううまくは運んでいなかったようである。感謝されることは少なかったのだろう。

「ここで正直に申し上げると、オープンダイアローグに出会う前の私は、年々精神科病院で働くことへの葛藤が強まり、怒りや悲しみを感じていました。」(534ページ)

 ところが、オープンダイアローグを取り入れてからは、ずいぶんと様子が変わったらしい。

「しかしオープンダイアローグの取り組みが始まってから、随分とやりがいや働きやすさが増しました。」(534ページ)

「それまでは専門職として、安全や保護のために強制力を発揮しなければいけないと思っており、責任を背負いこんでいたのかもしれません。…
 でもオープンダイアローグに取り組むようになって、そのような専門職としての期待や役割を果たさなければいけないというプレッシャーが減り、困ったことは「困っている」とミーティングの中で話せるようになりました。…当事者やご家族も嫌がらずに、それをその場で扱ってもらえるという安心と信頼があります。」(535ページ)

 これは、もちろん、医者の側のやりやすさ、生きがい、安心、というだけの話ではない。オープンダイアローグによって、家族を含む当事者側に良き結果がもたらされ、安心が生まれ、医療側への信頼が醸成されるからこそ、その結果として、専門家サイドにも安心、信頼感がもたらされるというメカニズムである。

「さらに言えば、人とのつながりがあることを素直に嬉しいと思えるようになったのが大きな変化かも知れません。」(535ページ)

「うまくいっていると感じるミーティングでは、「場」と「時間」は皆で一緒に持つものという感覚が生まれることが多いように思います。病の重さ、クライシスの程度、心配の強さ、ネットワークに生じた傷口の深さを問わず、ミーティングには時に「居心地の良さ」が生まれます。」(536ページ)

 医療の専門家には、義務感や使命感が求められるのは当然のことではあるが、それに頼り過ぎるというのは、やはり、どこか倒錯した話になる。治療に喜びがあってはいけないなどということはないはずである。良き治療的効果がもたらされ、良き感情も生まれる、喜びも生まれる、というふうでなければならないに違いない。

 2は、ケーススタディ、3は現場スタッフからのQ&A、それぞれに興味深い貴重な報告である。
 その次に、琵琶湖病院のスタッフ、精神科ソーシャルワーカー山中一紗さんからの報告、「オープンダイアローグをやってみてどうでしたか?」。編集部からの聞き取りである。

「山中さんが最初に戸惑ったのは、長期入院の方との対話でした。話をするニーズがないように見える人に、「話したいことが何かありますか?」と問うことにすごく違和感があったんです。だけどそれは間違いでした。その人は語りたいことがあるのに諦めてしまっていたり、うまくこちらから引き出せていなかっただけだった。」(550ページ)

 編集部は、さらに問いかけていく。

「(問い)ミーティングの最中に、何を話したらいいのかわからない、どうしよう、困ったと感じることはないのですか。
 (答え)話をしていけばとっかかりがどうしてもできてくるので、そこに対して自分が集中して聞いていると、何かが出てくる。頭の上のほうで考えるんじゃなくて、もうちょっと内面的に攪拌が起こる感じがするんです。そこには自分の人としての考えとか、勉強してきた専門性もも入っているのだと思うんですが、わりと深いところから言葉がぽろっと出てくるということがあって。
(問い)攪拌、ですか。
(答え)集中して聞いていると、話に入る感じになる。そうしたら、退院に向けて小手先でこれしなくちゃあれしなくちゃというのは、ちょっと脇に置いといて、その場にいるいろいろな人から、枠をはずした柔軟な、意外な考えが出てくる。だから場が動くのかなと思うんですが。」(551ページ)

 話すということを続けていくうちに、患者の側にも変化が生まれてくる。解決方法を自ら語り出す、という。

「…けっこう患者さんも、話しているうちに自分で解決方法を言ってくるんですよね。じつは解決策を持っているのに、こちらが聞くということをしてこなかったんだなと気づかされます。」(553ページ)

 と、この号では、地域の病院における実際の取り組みのなかで、大きな成果が表れつつあるという実況報告が行われたと言える。オープンダイアローグに関心を持つ者にとっては、勇気づけられる、貴重な報告である。
 そのほかの連載や特集、伊藤亜紗さんの巻頭コラム「間の間」、村上康彦さんの当事者研究に関わる「医療観察法病棟で幻聴妄想を効く」、金井聡さんの「LGBTハウジングファースト」、「自立援助ホーム」を運営する関茂樹さんの「更生施設へ向けて少年と旅をする」など、どの記事をとっても読みごたえがあり、面白い。定期購読した方がいいのだろうか?

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