世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

タモロ沼④

2018-07-09 04:12:46 | 風紋


アシメックは沼の周りを歩いた。南の方に回り、古い沼と新しい沼の境界を見に行った。そこらへんではもうすでに、沼に生えていた稲が新しい沼に進出し始めていた。人間が植える前からもうすでに、稲の方が何かを感じ始めているようだ。

いける。と彼は思った。すべては順調に行くだろう。稲刈りが終われば、みなに稲の植え方を教えなくてはなるまい。一切の計画は頭の中にあった。春になれば稲植えだ。

風が沼の稲を揺らした。それがさやさやと鳴る音を、彼はしばし静かに聞いていた。

月日は過ぎた。村の行事は例年通りに進んだ。稲刈りを終え、収穫祭をやり、山の採集がすめば、冬の仕事をやる。先祖から受け継いだ暮らしを、みなまじめに営んでいった。だが違うのは、時々アシメックが広場にみなを集め、新しい沼と、稲の植え方の話をするようになったことだ。

村のみんなも、アシメックが作った新しい沼は見ていた。こんなことができるのかと、みんな驚いた。美しい水面を見ながら、みんな心に、自分があそこに稲を植えていく姿を想像した。想像していくだけで、それはもう現実にあったことのようにさえ思えた。アシメックの心と言葉が、どんどん村人の心に染み込んでいくのだ。

「難しいことではない。やってみるんだ。苗の根を沼の底の土に差せばいいだけだ。それをみんなで協力してやり、新しい沼に稲を広げる。オロソ沼の稲が広がれば、米がとれる量が増える」

ヤルスベは未だに、カルバハのことを材料に、カシワナに米をせびりに来る。いい加減にしろと怒るやつもいたが、まだ反抗することはできなかった。オラブめ、と言いつつ、カシワナはヤルスベの要求に従い、米を分けていた。

だんだん食べられる米の量は減ってきている。それはみんな身に染みてわかっていた。だが、アシメックの言うとおりにすれば、必ずオロソ沼の米が増えるのだ。

夢というのはいい。苦しいことがあっても、人間の心を明るくする。我慢しにくいことでも、我慢ができるようになる。時にヤルスベ族の物に、嫌なことを言われても、みなはきっと口を結んで耐えられるようになった。屈辱というのは苦しいものだ。オラブひとりのことだけで、カシワナ族のことをみんな泥棒のように言われる。だが、オロソ沼が広がって米がとれる量が増えれば、カシワナにも何か大きな明日が広がるような気がするのだ。



ジャンル:
小説
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